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Oh!  Noh?

Cat's 観能記  観能復習 2003

2001  2002 2003 2004  2005 2006  2007  最新    


2003 一覧  50音順     
翁 2.16  安達原 白頭 10.25  敦盛 9.27+2.16  海人 5.17  一石仙人 11.07
善知鳥 組落シ 10.31  雲林院 5.17  杜若 恋之舞 6.11 2.16
杜若 日蔭之糸 増減拍子 8.10  葛城 10.05  加茂 替装束 7.05  熊坂 2.16
舎利10.25  源氏供養 舞入 3.15  猩々乱 9.27  是我意 3.15  高砂 2.16
土蜘蛛 千筋之伝 4.18  天鼓 9.20  野宮 9.20  羽衣 5.25+6.01  羽衣 盤渉 5.17
羽衣 和合之舞 10.25  船弁慶 重前後之替 1.18  松浦佐用姫 9.10  三輪 9.27
山姥 11.07  山姥 白頭 10.13  籠太鼓 2.16
狂言
因幡堂 5.17  隠狸 8.10  蟹山伏 6.11  木六駄 1.18  柑子 10.13  栗焼 9.27
子盗人 2.16  薩摩守 3.15  止動方角 12.07  清水 12.07  末広 2.16
酢はじかみ 9.20  萩大名 10.05  腹不立 2.16  二人大名 12.07  骨皮 2.16
寝音曲 10.25+4.18  箕被 9.10  




  <発表会見聞録>
2003 ねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
12月7日
(土)
1:00〜
第6回 万酔会    
野村万之介さんのお弟子さんの会    
青山 銕仙会能舞台
    
狂言
[清水]
3:10〜
太郎冠者…三遊亭竜樂  主…前田誠司
恐い鬼の注文が妙に現実的でささやかなところに、おかしみと哀愁がある。お酒はともかく、 「今期分の(?)お給金(?)を払うように」では、土下座している主人に、 「えらそうにしていて、払ってなかったの?」と皆の視線が集まる感じ。 「見ると、ガリガリじゃぞ。」に、もっと笑いたかった。
太郎冠者が、うっかり鬼の声を出してしまったり、わざとらしく、軽い言い方をしたりする変化に、 疑問を感じた主人の駆け引きが山場。
(鬼が太郎冠者のことを)「ひいきしておった」というところと、清水に桶を拾いに行こう、 というところの主人の声音が可笑しかった。何気ない独り言に、面白さが出る感じ。 鬼のお面を取られても、しばし鬼を演じている太郎が滑稽で可哀想。 でも、お給料払ってあげてね、ご主人さま。
狂言
[二人大名]
大名…池田篤彦  大名…大島英司  男…濱田義孝
シテの大名が大変実感がこもっていて、かっこよくてよかった。 自分で太刀を持つのが恥ずかしいからと、通りがかりの者を家来に扱ってしまうのは、すごい。 しかし、かなり手ごわい通行人で、今日は見るからに恐そう。何でも賛成してしまうのんびり屋の お友達大名に、「その男は、やめておいたほうが…」とやきもき。
やがて、“太刀持ち”に太刀を奪われ、着ているものも進呈させられる。素襖を小袖と重ねて脱ぐ ことに初めて気がついた。下着姿は小さくて愛嬌がある。このスタイルで二人そろって、 イヌや鶏の真似をするのが、なかなか絵になっていて、注文主の期待以上の芸のように思われる。 だんだん興に乗って表現に磨きをかける二人を残し、男は、結局全部持っていってしまう。 被害者なのか、加害者なのか、天誅組か…。
狂言
[止動方角]
(しどうほうがく)
太郎冠者…小原宏章  主…宮崎亮一
叔父…眞鍋廣志  馬…山崎宏之

■馬…面 「賢徳」
“感じ”を表現したもの。実物には似ていないが、それらしく見える。
真ん丸い目玉、斜め上を向いた瞳、むき出した前歯。 人間以外のものの特徴をとらえたユーモラスな表情で、牛・犬・蟹・茸の化け物、或いは、 間狂言の魚の精や小天狗にも使用される。(狂言ハンドブック 三省堂)
「止動方角」とは、暴れる馬を鎮めるおまじないのしめくくりでした。お馬ちゃんは面白いし、 太郎冠者は活き活きしているし、馬に跳ね飛ばしてもらいたいくらいに自分勝手な主人に、 妙に気前のよいその叔父、と、設定自体がすでに盛り上がっている感じ。
過激な、主従関係のあつれき解消法で、落馬させっこの体当たり演技。 それを、太郎はずっと笑顔で、主人はふくれ面で通すのが、これぞ狂言というところ。 お馬は、黒いふさふさのタテガミの間から、奇妙な愛嬌のある顔をのぞかせ、 右手と左足というように対角線のセットで、ずっと足踏みをしていて、 ぱかぱかと、のどかに歩む様子がよかった。主人も太郎も、御し方が上手でした。 で、二人がトラブっている間に、飄々とひとり(一頭)で帰っていく姿が可愛くて、拍手喝采!


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
11月7日
(金)
第11回   
飛天双○能   
ひてんふたわのう   
大倉正之助プロデュース……時空の響   
新木場 スタジオコースト 5:30〜
  
大鼓独奏
大倉正之助
おもしろかった。カーンという音色と、声の変化を十分鑑賞できた。 舞台に近い所からは、実物と、音との方向に関連性がなくなってしまうスピーカーが残念だ。

喜多流
[山姥]
シテ…松井 彬  ツレ…大島衣恵  ワキ…安田 登
大/大倉栄太郎  小/柳原冨司忠  太/三島元太郎  笛/槻宅 聡
後見…長田 驍  木村公一
地謡…大島政充  木村 定  梅津忠弘  松井俊介
真中をあけ、お囃子は向かって左、地謡は向かって右の配置。 橋掛りが無い中で、ツレとワキが正面から登場し、山姥がお囃子の後ろ、黒い幕の前に現れるのが なかなかよかった。百万山姥は、ほんのひと言だったが女性の声で、画期的混合ダブルス。
アイがないと、「チリが固まって」山姥となる“定説”が事実になってしまい、ああかな、こうかな、 という不思議さが減る感じがするが、すっきりした面もあって、お囃子の音でつなぐのもおもしろい。
背後の大スクリーンに、モノトーンで森の大木を見上げる視線の映像が動いて、 能舞台のサイズを越えたダイナミックさが面白かったが、インパクトも長時間になると、 結局、松の鏡板と同じ。 でも、意識を映像に移し、舞台の音をBGMとして広がる大枝を仰ぎ眺めるのも心地よかった。
大鼓独奏の音と、あまり違う大鼓にがっくり。笛に気合が入っていた感じ。地謡4人は、少し厚みに欠けた。 喜多流の装束や面は、見慣れないので珍しい。格子柄が多いのでしょうか。
新作能
観世流
[一石仙人]
シテ…津村禮次郎  ツレ…鈴木啓吾
ワキ…安田 登  アイ…遠藤博義
大/大倉正之助  小/幸 清次郎  太/大川典良  笛/槻宅 聡
後見…長沼範夫  佐久間二郎
地謡…清水寛二  西村高夫  中所宣夫
     古川 充  小島英明  桑田貴志
終わったとき、こちらのアゴも疲れたような感じで少々笑ってしまった。 金色の目をして、むかーっとあけた口の上下に、金歯がずらり。立体的で、照らしても曇っても、 横顔も、それぞれに表情のある影ができて、おもしろい面。
「絶対温度」とか「カオスの海にコスモス生じ」など、地謡の言葉に吹き出しそうになった。 アイの、生き別れた双子に流れる時の経過の違い、のお話が、アインシュタインらしい。
一石仙人は、長い杖をばっちり決めて、かっこよかったが、どうも、舞台全体に、宇宙の壮大なスケールとか、 ブラックホールに吸い込まれるときの想像するようなすごさ、のようなものが期待したようではなかった。 ハスの露を含んだ葉や花の映像が象徴的すぎて、砂漠で遭遇する大自然、降るような天、 のイメージとずれてしまったのかもしれない。蓮の場面がもっと少なく、雲や風や雨や天体の映像が 多かったら、共感できたかな…?? 利休と秀吉の朝顔の葛藤の如し。
プログラムに載っている詞章の註が、いろいろおもしろかった。
柿本人麻呂、天(あめ)を詠む
 「天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」 (万葉集)
なかなか素敵。
全体を一つの映像として、映画のように楽しむ感じ。
演者の前襟につけたマイクの音が、どれも同じに入るのが、実在感がない。 話す人の方向も不明で、動いても、移動しても、後ろを向いても、全部同じ音。 能舞台としてみるなら、むしろ、全然ライブではない。 目の前ではあっても、目の前の音ではないから。
しかし、ちょっとやそっとでは修得できない特殊技術を持った人々の パフォーマンスとして、大変面白かった。迫力をもって、“その確かなもの”が伝わった。 あとは、好みとチケット代との兼ね合わせの選択問題。


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
10月25日
(土)
杉並   
大宮八幡宮の杜 薪能   
4:00開場  5:00開演   

観世流
[羽衣]
和合之舞
シテ…谷村一郎  ワキ…殿田謙吉  ワキツレ…梅村昌功
大/安福建雄  小/鵜澤洋太郎  太/小寺佐七  笛/松田弘之
後見…野村昌司  浅見真州
地謡…武田文志  坂井音雅  武田友志  古川 充
     奥川恒治  小川博久  武田志房  五木田三郎
天冠の瓔珞がきらきら赤い衣に映えて、とてもきれいでした。 暗い周囲と、白い背景と、ライトの中に浮かび出るのが、こちらから遠く松原を眺めている感じ。 お囃子は建物の中で聴く残響のようなものがなくて、いわば、楽器から離れたときのままの音。 ピュアな感じの薪能でした。始め、地謡が少しぱらついて、マイクが壊れているのかと思った。 舞台の回りのフットライトの蛍光管は、白昼の演出なのでしょうか。
狂言
[寝音曲]
シテ…山本則直  アド…山本則孝
主人が若いと、いまいちお話しの雰囲気に欠けるが、面白かった。 太郎冠者というのは、どうして、そこそこ知識人で、芸達者で、頓知ものなのだろうか? 自分のへりくつに、自分で失敗するのが笑える。

観世流
[安達原]
 白頭
シテ…野村四郎
ワキ…殿田謙吉  ワキツレ…御厨誠吾  アイ…山本……
大/柿原光博  小/鵜澤洋太郎  太/小寺佐七  笛/松田弘之
後見…五木田三郎  武田志房
地謡…坂井音隆  武田友志  野村昌司  古川 充
     奥川恒治  鵜澤郁雄  浅見真州  小川博久
フットライトも消され、くらーいあばら屋に、くらーい年配女性が、ひっそりと住んでいた。 消え入るような声で、糸尽しのところの、桜川に似た、少し華やかなところも、地味でした。 アイの強力と、僧のやりとりがおもしろかった。
薪を背負って出てきた鬼女は、前場より垢抜けていて、暗い中に、ひとり、白いふさふさの髪と 白い装束で闘うのが、鬼の力と孤独を映し出しているようで、とてもよかった。 お囃子と地謡、よかった。
素敵な環境でした。見所の斜め後ろに本殿の灯りがともり、 舞台や橋掛りには、蝋燭の入った竹筒の先がぼうっと薄オレンジ色になって並んで、 厳かな夜の火の祭典。火種を起こすところからの火入れの儀式で、 「この奉納能のための神聖な火」の意味が、語らずとも伝わってくる、主催者の心入れ。 熱意ですね。
音響は、自然の音に近く、よくある盆踊り的大音響でないのが、雰囲気よかった。 その分、小さくて聴こえにくいところがあり、野外のお能は音がむずかしい。
残念なのは、砂利の上を歩く音。ちょっとの人の動きでも、大きな音がします。 また、まだワキの後姿の頃門の開く音がして、余韻0になってしまったのは、 いかがなものか。


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
10月31日
(金)
第5回   
今井清隆 能の会   
6:30〜  国立能楽堂   
平成15年度文化庁芸術祭参加    
狂言
[仏師]
シテ…大蔵彌太郎  アド…大蔵基誠  後見…吉田伸海
    

金剛流
[善知鳥]
  組落シ
シテ…今井清隆  ツレ…今井克紀  子方…片山隆志
ワキ…工藤和哉  アイ…大蔵基誠
大/安福建雄  小/曽和正博  笛/一噌幸弘
後見…金剛永謹  廣田幸稔  片山峯秀  見越文夫
地謡…田村 修  宮川正義  松野洋樹  元吉正巳
     廣田泰能  宇高通成  松野恭憲  種田道一
いい地謡でした。厚みのあるどっしりとした響き。
本当に袖を取るのに納得。笠の鵜を、棒でトトトンと音をさせて打つのは初めて。 また、笠に回転をつけて投げて、ブーメランのように戻ったのに、おーと感嘆。
ずっと前、喜多六平太さんの舞台では、猟師(女形的だった)と妻子がすぐ近くにいながら、 別の次元にいる、という感じがしたが、今日は、同じ所にいるように見えた。 あまり、ものすごい悲惨さというものは、避けているような感じがした。


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
10月13日
(月)

(体育の日)
第1回 三輪清浄   
宇高通成研能会   
国立能楽堂  1:30〜  
解説
岡山大学教授  小野芳朗

紋付袴で登場。「山姥」は、鬼とか被征服民族というものではなく、妖精、小人の範疇である。 向こう側に住んでいて、あるとき、こちらに現れ、いつの間にか機織をはかどらせたり、いたずらをする。 山が境目になっていて、ヤマトは山戸、ヤマシロは山背。山の妖精が、「物事は表裏一体であり、 善悪不二、邪正一如、迷語帰一、阿弥陀?あれば衆生あり、衆生あれば山姥あり、それが存在の哲理である」 と説く。
狂言
[柑子]
太郎冠者…善竹十郎  主…善竹富太郎
平家物語は、「六ハラ」のオチで、「柑子」でした。妙にあっけなかった。 蜜柑を食べてしまった言い訳に、悲愴な俊寛か登場するおおげさ加減がおかしいが、 どうも主人の感受性とか、ユーモアとか、決断とかいうものがうやむやだった。

金剛流
[山姥]
 白頭
シテ…宇高通成  ツレ…種田道一
ワキ…和泉昭太郎  ワキツレ…藤野藤作  荒木吉治
アイ…善竹十郎
大/柿原崇志  小/幸 清次郎  太/金春國和  笛/藤田六郎兵衛
後見…豊嶋訓三  熊谷伸一  田村 修
地謡…漆垣譲次  宇高竜成  片山峯秀  小野芳朗
     山田純夫  廣田幸稔  今井清隆  坂本立津朗

■≪能との出会い '97 能楽リレー・エッセー 「山姥考」≫ より
場所…新潟県西頚城郡青海町大字「上路」(あげろ)
 直江津から北陸本線で富山方向へ。県境を越えて泊の駅からタクシーで、 海沿いの道を通って、少し山の方に入り、しばらく行くと、視界が開けて小さな集落にたどり着く。
 何十年も前、ある能楽師がこの地をおとずれて山の頂まで上り、 そして感極まって「山姥」のサシを謡われたという(それを記念した石碑が村にあった)。 その景色はまさに山姥のサシの謡のとおりだったという。
  『殊に我が住む山河の景色 山高うして海近く 谷深うして水近し』

村の古老談。
 「わしらが子供の頃は、毎年山姥の祭りをやっとった。 祭りになると、みんなで山姥の旗を立てた。すると、山姥が山から下りてきて、菓子をくれたり、 灯火をつけてくれたりして、山へ帰っていったもんじゃ。」
 ★『 山姥はやはり 「人間に遊ぶ事」 もあったのだ。 』 by 山川智彦

■山姥の杖
日本の伝承では、ニレ科の榎(えのき)が卜占の樹として活躍する。榎は神秘の樹である。 榎の根からは泉が湧き、山姥の杖として奇蹟を生ず。
               (梅原猛「海人と天皇」下の注より)
何か、いまいちピンとこなかった。 朗々とした声なのに、歯切れがちょっと…。 地謡の鮮やかな響きとは対照的。 “名月の笛”の音を浴びて、“杖の儀式”をしているように見えた。 山姥パワーを、勝手に期待し過ぎてしまったのかも。
プログラムの表紙の画像がなかなかいい。遠方に彩づいた連山、ぐっと前に白いふさふさ髪の山姥。 杖にのせたその手に山鳥が留まり、膝前には白い班を残す賢そうな小鹿。 背中に木の実を頬張る可愛いリスを乗せている。周りは黄葉。 「姥」の字にはクモが下がり、縁取りの白い線に赤トンボが…。ピントを合わせたり、ぼかしたり、 おもしろい合成写真です。
それが、能[山姥]の絵解きの説明というわけなのか、開くと横浜能楽堂館長による“通成君への檄”のみ。 こうなると、解説の方がどのようなお話しを聞かせて下さるのか、期待が高まります。

今日の国立能楽堂展示室は、江戸、前・中・後期の絵巻物などにある、能の風景でした。 江戸前期の裕福な商家での演能では、着付はゆったりしていて、絵の線も丸みがあっておおらか。 江戸中期以降になると、着付は、ぴったりして、絵の描き方も直線的。 立派なカラーの資料が無料というのがすごい。


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10月5日
(日)
金春定期能   
国立能楽堂  12:30〜   

[清経]
シテ…桜間眞理  ツレ…山中一馬
ワキ…工藤和哉
大/安福光雄  小/幸 信吾  笛/田中義和
後見…本田光洋  大塚龍一郎
駐車場の空車待ちに終わった。大変残念。
狂言
[萩大名]
シテ(大名)…善竹十郎
アド(太郎冠者)…善竹大二郎  アド(風流者?)…大蔵吉次郎
今日は、年配の“懲りない”大名のようだった。それにしても、 太郎冠者とは、いかなる経歴の持主なのか。で、善竹十郎さんのスネが現れたら どうしようかと思ったが、流派の違いか演出の違いか、無事に過ぎた。 ご機嫌で低姿勢の萩の庭の主が、だんだん怒ってくるのが、けっこう恐かった。

[葛城]
シテ…金春欣三  ワキ…野口敦弘  アイ…高橋 明
大/柿原光博  小/宮増純三  太/三島元太郎  笛/内潟慶三
後見…守屋泰利  飯田芳伸
地謡…瀧澤孝一  桑原 朗  志賀朝男  政木哲司
     山中一馬  櫻間眞理  石原昌和  鈴木源侍
感動しました。曲趣なのか個性なのか、とにかくよかった。 のそのその、出だし嗄れ声のおじーちゃまでしたが、きれい。 言い方と声になんともいえない情緒があって、地謡の自然の祈りを音にしたような響きと相まって、 切々と訴えかける。扇に言葉があるような、手の先のオーラのような感じの舞に、無心に見入ってしまった。 やがて、左の袖を巻き、右手の扇で天の岩戸を押し開き、それから、右手を高く振り上げて紅葉の冠に袖を載せ、 扇を持った左の袖ではにかむように、醜いという顔を隠したまま、ずーと奥へ消えて行きました。 本当に『詩情あふれる』(パンフレット)舞台でした。
最後の“トン”の無い珍しい情景に、なるほどと感心。お能って、なかなか論理的ではありませんか。 地謡、いつもと違う方々でした。

[舎利]
シテ(里人・足疾鬼)…山井綱雄  ツレ(韋駄天)…本田芳樹
ワキ(旅僧)…高井松男  アイ(堂守)…善竹富太郎
大/大倉正之助  小/住駒匡彦  太/小寺佐七  笛/一噌庸二
後見…高橋 汎  横山紳一  台後見…大塚龍一郎
地謡…本田布由樹  井上貴覚  中村昌弘
     高橋 忍  金春安明  吉場広明  辻井八郎
以前のTVより、跳び上がったり、飛び降りたり、シテが若いだけあって足疾鬼らしかった。 しかし、こころなしか、いつもの持ち味がなく、韋駄天の言葉も小さめで大人しかったので、 全体に迫力いまいちの感じ。最後の台上のツーショットも何か曖昧。 今日の「葛城」の後では、何がきても、存在感軽くなってしまうのかもしれない。
足疾鬼はdemon…英語のニュアンスはよくわからないが、何か、可哀想。


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9月27日
(土)
第18回 喜多流 青年能  
喜多六平太記念能楽堂  12:00〜 
仕舞
[大江山]
[雷電]

高林呻二
粟谷浩之
    

[敦盛]
シテ(草刈男・平敦盛の霊)…塩津圭介
  ツレ(草刈男)…佐藤寛泰  松井俊介
ワキ(蓮生法師)…則久英志  アイ(須磨の浦人)…山本泰太郎
大/柿原光博  小/古賀裕己  笛/田中義和
後見…高林白牛口ニ  大島輝久
地謡…粟谷浩之  内田成信  狩野了一  井上信也
     佐藤章雄  大村 定  香川靖嗣  中村邦生
若い公達の感じがよかった。“武士の能”は、あまり、刀で切りつけたりしない?  シテと地謡が音響的に、どうも、しっくりしなかった。
(高林白牛口ニ 師、何とお読みするのでしょう?)
狂言
[栗焼]
太郎冠者…山本則孝  主…遠藤博義
さるかに合戦でクリがはじけるのは、かなりの威力であることがわかるような、 炭火の灰で栗を焼く描写が面白い。つい、つまんで、虫食いぺっ、お口直し、 の流れが楽しい。カマドの神様ご夫妻と34人?のお子様?の出現は、毎回笑える。 栗の残りの数に関して冷静な主人が可笑しくて、40個の理由づけは、なかなか大変です。

[三輪]
シテ(里女・三輪明神)…佐々木多門
ワキ(玄賓僧都)…殿田謙吉  アイ(三輪の里人)…遠藤博義
大/安福光雄  小/観世新九郎  太/桜井 均  笛/一噌幸弘
後見…粟谷辰三  高林呻二
地謡…粟谷充雄  友枝雄人  金子敬一郎  佐藤寛泰
     長島 茂  谷 大作  粟谷能夫  粟谷明生
面白かった。白い水衣の里女は、白い房のついたものを右手に持っていて、 数珠なのか、それが水なのか、よくわからなかった。僧がおとなの貫録。
三輪明神の金色の風折烏帽子に、現世風でない雰囲気があった。 「糸をつけて」と裾に手を伸ばすと、突然“わかる”世界に突入して、 なんというか、こそばゆく可笑しかった。 端正な舞で、白い長絹の袖に品格がちょっと漂った感じ。最後に、杉に掛かる しめ縄の向こうから、ふわっと広がって姿を現し、すっと遠のくところが、 もうすべて!というほど、「よかったー!!」。今まで見たことは、 この一瞬の間にあったことなのだ、という気持になった。
舞台から、地謡に重なって1オクターブ高い声が聴こえてきて、 お囃子の声なのか、何かに共鳴しているのか、地謡なのかわからない。 明神の霊験かも?
後見のお一人が、幕のほうから出るの初めて目撃。喜多流の後見は、あっさりしていて、 直前に出し、すぐ引き、丁寧に確かめていますという態度を見せずに、さっと退場する。 地謡よかった。
仕舞
[天鼓]
粟谷能夫
  地謡…高林呻二  粟谷明生  中村邦生  長島 茂
すごみのある天鼓だった。視線の矢を飛ばされた感じ。地謡よかった。

[猩々乱]
シテ(猩々)…大島輝久  ワキ(高風)…宝生欣哉
大/佃 良勝  小/飯田清一  太/助川 治  笛/槻宅 聡
後見…塩津哲生  金子敬一郎
地謡…井上真也  粟谷充雄  内田成信  塩津圭介
     狩野了一  佐々木宗生  大島政允  出雲康雅
とてもよかった。広々とした入江で、さざなみと大河の風をバックに、 赤い無邪気な、しかし、人の力の及ばない不思議な生きものが水面で戯れ遊ぶ、 幻想的で楽しいひとときだった。あちらに魚の影を追い、こちらに揺れる柳の影を踏み、 月に流れる雲を払い、つま先で軽々と飛びかう。燃えるような赤い髪の中から、 貫録ある声が響いてびっくり。緊張感が心地よい舞台でした。
シテの公演の前に、後見としての番組があって、喜多流って、すごい。


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
9月20日
(土)
平成15年度 第3回    
東京金剛会例会能    
国立能楽堂  研修能 11:30〜  例会能 1:30〜  
研修能
[玉葛]
シテ…蓮元早苗  ワキ…森 常好  アイ…山下浩一郎
大/大倉正之助  小/森澤勇司  笛/八反田智子
後見…豊嶋訓三 山田純夫 見越文夫
地謡…榎本健  大川隆雄  田村修  荒川進
     熊谷伸一  坂本立津朗  元吉正巳  遠藤勝實
    
連吟
[鉄輪]

田島 弘?  雄島道夫
    
仕舞
[敦盛]クセ
[班女]アト
[鵜飼] 



榎本 健
元吉正巳
熊谷伸一
   地謡…遠藤勝實  山田純夫  豊嶋訓三  見越文夫
熊谷さんの声とお仕舞よかった。

[野宮]
シテ…金剛永謹  ワキ…和泉昭太郎  アイ…野村 萬
大/柿原崇志  小/曽和正博  笛/藤田大五郎
後見…廣田陛一  片山峰秀
地謡…大川隆雄  熊谷伸一  見越文夫  荒川 進
    田島 弘  宇高通成  松野恭憲  山田純夫
アンビリーバボーに長かった。もしや、おみ足お怪我でも。 面と、前シテの段の唐織の、何となく黒みがかった色合と、しっくり しなかった。黒木の門から出ようとして思いとどまるところがよかった。
お囃子が、珍しいとりあわせで、楽しめた。
狂言
[ 酢
はじかみ]
野村 萬  野村与十郎
面白かった。明日も一緒に連れ立って売ろう、というのが、ほのぼのいい感じ。 「す」の字尽しが、のっけから音便の反則ワザで、笑えた。ところで、膝が抜けて、白っぽくなった 袴も貴重なものなのだろうか。
仕舞
[実盛]クセ
[藤戸]



松野恭憲
廣田陛一
   地謡…田村 修  坂本立津朗  宇高通成  熊谷伸一
廣田陛一さんのお仕舞初めて。ずっと前の、能「隅田川」以来。気合が入っていた。 「実盛」はお仕舞も首をぶら下げるのだ、気持いいものではない。 地謡、少々独演会の観。

[天鼓]
シテ…工藤 寛  ワキ…安田 登  アイ…野村与十郎
大/安福光雄  小/野中正和  太/大江照夫  笛/寺井久八郎
後見…豊嶋訓三  山田純夫  田村 修
地謡…榎本 健  遠藤勝實  雄島道夫  酒井鴻風
    城石隆輔? 片山峯秀  坂本立津朗  元吉正巳
トントントンという床の響きがとてもよかった。天鼓が、無心に鼓を鳴らして、 皇帝も父親も、物質的な鼓の存在もなく、音の精という感じ。もともと、浮世離れした音の世界に生き、 あの世から、老父のあまりの歎きの言葉を聴いて、「そうなの?もう気にしないでね」 と現れる物語のように思う。
勅使も官人もよかった。地謡は、しんみりしたところに雰囲気があったが、ボリュームいまいち。 笛のぶびぶびに、きょとーん。あとは、まあよかった。
ゆっくりの「野宮」のあと、天鼓の老父がゆっくりだったので、観客もちょっと耐える感じだったが、 後シテの天鼓にほっとした。
今日の国立能楽堂展示室は「作物」で、道成寺の紺の鐘や、夕顔の実の下がる半蔀など数点あり、 天鼓の鼓の台のところが「使用中」の空間になっているのがおもしろかった。


2003 最新へ ねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
9月10日
(水)
東京能楽囃子科協議会定式能  
国立能楽堂  5:30〜  
舞囃子
[江野島]

[柏崎]

[三輪]

[善知鳥]
組落シ




観世流 観世芳伸
      大:安福光雄 小:神保通世 太:桜井 均 笛:寺井宏明
金春流 本田光洋
      大:     小:住駒匡彦  笛:関川順一郎
金春流 金春安明
      大:柿原光博 小:野中正和 太:徳田宗久 笛:一噌幸弘
金剛流 豊嶋訓三
      大:柿原弘和 小:幸 信吾 笛:中谷 明

■[江野島]…江ノ島の縁起を謡ったもの。弁財天、龍口明神が登場して、 国土の守護を誓って消える。江島神社辺津宮、中津宮、奥津宮、の三宮の神社がある。
何れも珍しくて見応えがあってよかった。 金春安明さんの肩が四角いのも見慣れてきたし。
狂言
[箕被]
シテ・夫…野村万作  妻…石田幸雄
妻の価値を見直すところが、随分、説明的だった。近頃、往年の狂言の方々のお声がしゃがれてきて、 舞台の音の心地よさに欠ける。渋い声の活きる狂言とは、どんなふうなものだろうか。

観世流
[松浦  
佐用姫]
まつらさよひめ
シテ…観世清和  ワキ…森 常好  アイ…野村萬斎
大:安福建雄  小:宮増純三  笛:内潟慶三

■松浦…佐賀県唐津 松浦潟
■佐用姫
宣化天皇二年(537)、大伴狭手彦は朝廷の命を受けて、隣国の新羅に侵略されていた、 朝鮮半島の任那、百済を救援するための兵を率いて、松浦へとやってきた。しばらくの間滞在した 篠原長者には、佐用姫と言うとても美しい娘がいて、二人は引かれ合い恋仲となり、夫婦の契りを結んだ。 やがて軍船は出来上がり、いよいよ狭手彦の船出の日となった。
■鏡の渡し
別れのとき、狭手彦は佐用姫に 「これを私と思って待っていてくれ」 と言って立派な銅の鏡を手渡し、 松浦の港を出航した。佐用姫は鏡山に駆け登り、頂上から沖の船に向かって狭手彦の名を声のかぎり呼び、 領巾(ひれ)を振った。(この山は領巾振山と呼ばれるようになった) 次第に船が遠ざかるにつれ、 佐用姫は狂ったように船を追って鏡山を駆け下り、栗川を一気に飛び渡った。 そのとき、大切に持っていた銅の鏡を落としてしまった。(この川は鏡川と呼ばれるようになった)
■石化伝説
…栗川を渡って、海沿いに北へと船を追い、加部島の天童岳に駆け登ると、 はるか遠くへ走り去る船を声の限りに呼んだ。やがて、地平線に船影が消えてしまうと、 佐用姫は恋しさ、苦しさのあまり七日七晩泣き続け、力尽きてとうとう石と化してしまった。 (肥前風土記、万葉集など)

・海原や 沖ゆく舟をかへれとか ひれふらしけん 松浦佐代姫(萬葉集)
・沈めけん 鏡の影やこれならん 松浦川の 秋の夜の月(紫式部)
・蝉の羽の 衣に風を松浦潟 ひれふり山の 夕べ涼しも(細川幽斎)
まあ面白かった。前シテが笠をかぶり、釣竿を持った女性というのが珍しい。 笠を取ると、きれいに装った感じの若い面が意外だった。領巾(ヒレ)を振るという言葉が聞こえたので、 万葉のファッションが浮かんだ。船弁慶の時の声と全然違って、今日は金剛永謹さん的で驚いた。 僧と問答が続き、舞が無くて説明的な前場。
里人が大袈裟。僧とかみ合わない。
後場の佐用姫は、前場の水衣と似たグレーの長絹に、緞子か繻子のようなツヤのある赤い半切で鏡を持ち、劇的な風情。 夫が船出して去ってゆくと、長絹を脱ぎ、白い綾絹?になって、丘を駆け上り呼びかける。 その時の、舞台を望む向きがとてもよかった。 それから、三の松のところから、遥かに身を乗り出す感じで、ヒレを欄干から宙に泳がす。 ヒレを引いて橋掛りを走り、柱に投げたり、松に掛けたり、無我夢中の狂乱の体。演劇的だった。
佐用姫の姿がよかったので、見ていて面白かった。 最後は悲しみで石になってしまったのか、どこかのサイトにあったように、入水したのか、忘れた。 復元能であったらしい。
宮増純三さんが、少し落ち着いた感じ。


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8月10日
(日)
財団能    
金剛永謹能の会    
国立能楽堂  2:00〜   
解説
山中玲子(法政大学能楽研究所教授)
<伊勢物語>
「昔男」=「むかしおとこ」=業平のこと 「昔、男ありけり」ではない。
業平は、東山の山荘に蟄居していた。もし、東の方へ行けば、こいうことがあるだろうな…というお話である。
仕舞
[ 養老 ]
[ 鉄輪 ]



豊嶋訓三
松野恭憲
 地謡…田村 修  種田道一  宇高道成  雄島道夫
鉄輪の所作が具体的で、すごかった。
狂言
[ 隠狸 ]
シテ…三宅右近?  アド…三宅右矩?
「かくしだぬき」という読み方がわかって、お話の筋が理解できた。 テディベアのようなぬいぐるみ。

金剛流
[ 杜若 ]
日蔭之糸
増減拍子
シテ…金剛永謹  ワキ…宝生 閑
笛…一噌仙幸 小鼓…曽和正博 大鼓…柿原崇志 太鼓…小寺左七
後見…豊嶋訓三  山田純夫  宇高竜成
地謡…工藤 寛  元吉正巳  片山峯秀  遠藤勝實
     坂本立津朗  宇高通成  松野恭憲  種田道一

<東下り 第九段>
   らごろも つつ馴れにし ましあれば
             るばる来ぬる びをしぞ思う
東下り=業平の人生
三河の国の八橋 = 男が契った8人の女性(井筒の女など)
眺める杜若の花 = 二条の后高子
業平 = 舞の菩薩の化身   (パンフレットより)

法華経では、女性は自分では成仏できず、龍女に変身したり、 菩薩の化身と契ったり、他にすがることにより成仏できる。

初冠…元服して初めて冠を被ること。成年式。
◆卷纓糸委(糸偏に委)冠 けんえいおいかんむり (武官)
 …纓(後ろの垂)が巻いていて、糸委(耳の前のいがいが)がついている
◆日蔭蔓 ひかげのかづら (の付いた冠)
 …纓は垂れていて、正面に梅が枝、糸委はなく、
   結びの紐(日蔭蔓(糸))が左右に2本ずつ下がっている。
                     (新国語図録 共文社)
可愛くて、魅力的な面でした。
解説は、雰囲気つくりにも留意していただきたいものです。
演能中、何かのグループの方々の、プリントを返す音にしらけた。 紙のサイズを小さく扱いやすくすれば緩和されるかも。


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7月5日
(土)
第一回 金剛流普及能   
金剛能楽堂  5:00〜7:00  

[加茂]
替装束
シテ…(里女 後に雷神) 金剛永謹
  ツレ…(里女) 種田道一  (天女) 金剛龍謹
ワキ…(室明神の神職) 高安勝久
  ワキツレ…(神職の従者) 辻本喜代次  小林 努
  間…(末社の神) 茂山正邦
大鼓…河村 大  小鼓…吉阪一郎  太鼓…前川光長  笛…杉 市和
後見…松野恭憲  嶋崎暢久  廣田幸稔  重本昌也
地謡…宇高竜成  吉村輝一  塚本嘉樹  今井克紀
     廣田泰能  ?  宇高道成  松野洋樹

■雷神…“はたたがみ”とも読む。雨をもたらす、農耕に大切な神。
 別雷の神…わけいかづちの神。 幣は、稲妻の象徴。(能楽手帖)

<加茂・賀茂・鴨>
・賀茂別雷神社 京都市北区上賀茂
・賀茂御祖神社 京都市右京区下鴨 (御祖の神…みおやの神)
・岡田鴨神社   相楽郡加茂町 (京都府の南端)
カモを調べると、海部、海人との関係や、銅鐸の分布との関係、馬の放牧の御料など、複雑な古代史となる。

前場は優美な水尽し、後場は、軽やかな天女之舞と、別雷の神の豪壮な舞働。 パンフレットの写真の里女は唐織着流しだが、小書では、白水衣になるとか。
水衣ではもの足りないような感じがしていたが、神職一行のきらびやかな装束の前で、 清楚で柔らかく、それはそれでよかった。2人の里女が凸凹コンビに見えなかったのも意外で、 遠近法を逆にした配分だったのだろうか。もっとよい存在の化身という風情がよかった。
末社の神の庶民的風俗が、何か哀しい。
女神は謡いもはっきりしていて、明らかな動きでよかった。 しばし舞って笛の前に静かに座ると、自然と、もっとすごいものを待つ感じが高まる。 別雷の神は、かっと見開いた目に、くわっと口を開け、勇壮に床を踏みしだいて雷鳴を轟かせる。 どどどど、と響きに響きがつながって素晴らしい。 今日の稲妻は、幣から螺旋に伸びる竜巻型のような感じ。 女神はお宮に戻り、雷神は天に戻る、その還り方の違いが面白かった。
数年振りの河村 大さん、精悍な狼のよう。 ジャック・ロンドン「荒野の叫び」が、雷神のみならず女神にもマッチしているのが、おもしろい。
東京金剛会例会能で既に「普及能」を観たので、 今日が「金剛流初めての普及能」であるというのがよくわかりません。



2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
6月11日
(水)
東京能楽囃子科協議会能 
国立能楽堂  5:30〜 
舞囃子
[金札]

[高野物狂]

[阿漕]
宝生流 渡辺筍之助
      大:高野彰 小:森澤勇司 太:大江照夫 笛:藤田次郎
喜多流 友枝昭世
      大:大倉正之助 小:亀井俊一 笛:槻宅聡
観世流 観世喜正
      大:亀井実 小:大倉源次郎 太:金春國和 笛:一噌隆之
「阿漕」よかった。始め、どんぐり眼に違和感があったが、だんだん引き込まれた。 「高野物狂」は重苦しかった。
一調
[船弁慶]
宝生流 大坪喜美雄   太鼓…松本章
知盛の亡霊が現れるところ。「義経か」というあたりに太鼓が鳴っていたのかと、改めて思った。 もっと不気味がよかった。
狂言
[蟹山伏]
シテ・山伏…大蔵弥太郎  強力…大蔵千太郎  蟹の精…大蔵基誠
お囃子(大、小、笛)

■なぞなぞ…『二眼(じがん)天にあり、一甲(いっこう)地に付かず、大足二足(たいそくにそく)、 小足八足(しょうそくはっそく)、右行左行(うぎょうさぎょう)して遊ぶものの精にてあるぞとよ。』

江州蟹ケ沢…甲賀郡土山(つちやま)町の東海道沿いには蟹河坂(かにがさか)村があり、 昔旅人を悩ませる大蟹が、高僧により成仏させられたとの伝説がある。  (彦根城博物館たより 17号より)
おもしろかった。お囃子で登場。山伏のご大層な装束にびっくり。エライらしい。楽しい予感。 横跳びに何やら現れ、上げた両手が、“まことちゃん”のグワシ型。 せわしく橋掛りを右に左に跳ねている。「異形のものが現れた…他に道はないか?」というのが、 やっぱりね、という感じで一番おもしろかった。名乗は全然わからなかったが、カニなのだ。 オイディプスのスフィンクスのなぞなぞより、楽しく、明るくていい。山伏はひたすら逃げ、家来は、 晩のおかずにと追いかける。カニは、赤い髪を下げ、横を見ている面で、家来の左耳をちょいと挟んで、 引っ張り回す。「ぼーろんぼーろん」と効かないおまじないをしている山伏の右耳も、ちょき。 痛がる二人を放って逃げていきました。また出てね。

観世流
[杜若]
恋之舞
シテ…観世喜之  ワキ…殿田謙吉
大鼓…亀井忠雄 小鼓…北村治 太鼓…三島元太郎 笛…藤田大五郎
明るく、しっとりとした、素敵な面だった。三河の八橋の静かなひと時であったことがわかった。 ワキ正から、ワキの微妙?な動きや、シテが長絹を着けるところなどがよーく見えておもしろかった。 キリにあまり所作が無く、大小前でもじもじした動きだったのに少しがっかり。初冠の正面の白梅?の小枝と、 横の“いがいが”が、細く煙るようだったのが独特の雰囲気。橋掛りに来て、ゆっくり向きをかえたり、 なかなか見ごたえがあった。穏やかなようでいて高揚する感じもあり、華麗という上澄みを流した後の 底力を感じた。笛がとてもよく聴こえた
今日は、ワキ正で大正解。お囃子の音がすぐ近くで大きく響くのに驚いた。 杜若で、シテが現れる直前、後ろで、低い声がして、杜若の雰囲気ではなくてぎょっとしたが、 あれが、「お幕」だったのかも。橋掛りで装束の擦れる音や、通り過ぎるときの、 さわさわと風が流れる感じがよかった。また、舞台の中央より前には殆ど出ないのが珍しかった。 ワキの方のお口の動かし方も、工夫なさっているみたい。やはり、あの始めのセリフは、 単純、簡単ではないのだ。いろいろ、正面からは、わからない部分を楽しんだ夕べでした。



2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
6月1日
(日)
樂瑶会  
青葉の集い  
杉並能楽堂  

金剛流
[羽衣]

3:40頃〜
シテ…(天人)高橋雪絵
ワキ…(漁夫白竜)宝生欣哉  ワキツレ…(漁夫)則久英志  御厨誠吾
大鼓…安福光雄  小鼓…住駒匡彦  太鼓…小寺佐七  笛…槻宅 聡
後見…豊嶋訓三  蓮元早苗
地謡…森川仁惟  荒川進  元吉正巳  田村 修
     坂本立津朗  山田純夫  工藤 寛  片山峯秀
<Do素人 S氏 の感想>
高橋雪絵さんの発声は非常に新鮮で、天女に妖しい魅力を 感じたほどです。舞にもう少しメリハリをつければ、小柄な身体 が大きく見えるでしょうし、単調になりがちな舞台にも緊張感が でるのではないでしょうか。 漁夫がすぐに衣を返してしまうので、 ストーリー性に乏しく、難しい舞のように思いました。 それにしても、ワキツレの漁夫は辛抱役ですね。
素人の発見〜謡曲は「失せにけり」で終るのが多い。
<観能5回目の do素人 T恵さんの感想>
大鼓がとてもよくて、ほれぼれしました。カーンという音と、あうあうという声と、 打つ姿も魅力的で、もしかしたら私は、大鼓が好きなのかもしれません。
女性のシテは初めてで、小柄なのに驚きました。声は張りがあってよかったけれど、 少し面の中にこもっているようにも感じました。歩きかたが細かかったのが、 どうも全体を小さい感じにしてしまったのかなという印象です。 ゆったりした大きな動作も見たかった。 でも、全体的によかったと思います。地謡もよかったし、 宝生なんとかさんの、しゃきっとしている姿もよかった。 やはり、時々お能を見るのもいいものですね。
<o素人 Cat☆彡 の感想>
天女が、衣を着なくても飛べるか試そうとワキ正から飛び立つのか…、と、 地謡の後方から天帝?の声がして、シテ柱に向きを変えて離れていきました。
浅緑の羽衣をまとった天女は、天冠の日月も映えて、前に下がった赤くて長い緒が 若々しく可愛らしい。そのあと舞が続くが、テンポの変化とひらひら感がいまいちで、 謡の言葉とメロディーの楽しみがなかったら、ちょっと単調だったかも。 でも、うっかり衣を人間に取られてしまった若い天女が、“天人の私の舞”を舞っている感じが とてもよかった。衣の袖を後見が整えてあげる場面もドラマのようで、 「さあ、舞っておいで」と天人の先輩が送り出すかのよう。 白龍もすっきりしていて、ハンサムな2人の漁師に見つめられ、天女は気持ちよく、 天上に還っていきました。爽やかで不思議な、明るい浦のできごとでした。



2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
5月25日
(日)
西荻薪能  
午後7:00〜 井草八幡宮 神楽殿  雨天決行  
金春流
[羽衣]
シテ…辻井八郎  ワキ…野口能弘
大鼓…安福光雄  小鼓…鵜澤洋太郎  太鼓…大川典良  笛…田中義和
後見…井上貴覚
地謡…高橋忍  金春憲和  芝野善次
     山井綱雄  中村昌弘  岩田幸雄
薪能というと、ライトぎらぎら、音はうわんうわん、ということがあるが、 今日は、つつましく自然なところがよかった。 能舞台は、舞台中央で、屋根の裏のライトに照らされるより、 正先の軒下のようなところが、陰影があって、面の表情もきれい。 天女はビブラートのかかった声で、少し聴き取りにくかった。 全体に音響の、声が抑えられ過ぎていた感じ。少々さびしかったかも。 お囃子の音が、舞台から闇に放射状に、鋭く直線的に突き進むのが、 正に魔除けのよう。得がたい経験をしました。
舞台正面の大木さんは、見にくいけれど、始めからあるので、順応してしまった。


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
5月17日
(土)
第2回 東京金剛会例会能 
普及能 11:30〜  例会能 1:30〜  国立能楽堂 

[羽衣]
盤渉
シテ…元吉正巳  ワキ…安田 登
大鼓…柿原光博  小鼓…野中正和  太鼓…桜井 均  笛…寺井宏明
後見…山田純夫  田村 修  蓮元早苗
地謡…榎本 健  荒川 進  熊谷伸一  大川隆雄
     遠藤勝實  工藤 寛  片山峯秀  見越文夫

■シテが幽霊でなく、また、夜ではなく、朝から昼にかけてという三番目ものはこの曲だけ。 「熊野」は昼から夕方。(能楽手帖)
天冠の白い蓮の花が清浄な感じでよかった。衣の袖が瓔珞に当たり、カタカタと乾いた音が響いて、 「天女のお顔は硬い」と、見学の中学生が書きそう? 序ノ舞からキリになって、何となく帰り急いでいるようで、 さーっと三の松まで行き、そこから「浦風に棚引き」と一の松に風が流れ、 「富士の高嶺」も橋掛り。袖を高く掲げ、回っては遠のき、回るごとに彼方へ、 こちらを見ながら消えていったのでした。
仕舞
[桜川]クセ
[放下僧]

  小歌
大川隆雄
遠藤勝實

地謡…熊谷伸一  雄島道夫  見越文夫  荒川 進
  

[雲林院]
うんりいん
シテ…豊嶋訓三
ワキ…和泉昭太郎  ワキツレ…藤野藤作  荒木吉治  アイ…若松 隆
大鼓…安福建雄  小鼓…野中正和  太鼓…小寺佐七  笛…一噌仙幸
後見…山田純夫  工藤 寛  見越文夫
地謡…榎本 健  酒井鴻風  大川隆雄  熊谷伸一
     田島 弘  種田道一  宇高道成  片山峯秀

■雲林院……なぜ、ここなのか?
紫野院 → 雲林亭(淳和天皇離宮) → 雲林院(仁明天皇→常康親王の出家により仏寺に) → 僧正遍照により天台宗寺院として隆盛 → 大徳寺の敷地として、宗峯妙超(大燈国師)が花園天皇より雲林院敷地の一部を拝領、臨済宗寺院に

源氏物語「賢木」で、父帝の亡くなったあと、源氏は、藤壺の中宮へのあてつけに、雲林院に篭る。 また、当代の寵妃、朧月夜との密通発覚。伊勢物語では、業平が二条の后に恋したことが発端となっており、 「帝の后との恋」のイメージに、雲林院は、ぴったり? 風光明媚で知られた所でもある。 (かんぜこむ・のうのうたより?より)
  是や聞く雲の林の寺なれば  花をたづぬる心休めん   西行

しほるる裾をかいとって→忍び出ずるやまめ男→降るは春雨か→落つるは涙    連歌的転換の妙の名文と名型 (能楽手帖)
前回の仕舞「網の段」のいたずらっ子のような生き生きした感じから、 うって変わって、張りの無い感じ。 前場の終わりの笛がいい音色で、去っていく老爺も気持ちよく、 そのままになってしまうのではないかと思ってしまった。
いつもお坊さんキャップに隠れていた和泉昭太郎さんのおつむを、初めて目撃。むふふ。
業平は、うな垂れたような中将の角度で、初冠の巻いた形に困惑の体。
地謡よかった。余裕のある響きで、高音もきれいだった。
狂言
[因幡堂]
シテ:夫…山本則直  妻…若松 隆
夫が自然でよかった。“お告げ”の新しい妻に、なかなか話かけられないのが、おかしかった。 “見ず知らずの女性”に、いきなり「家にいらっしゃいませんか」「OK」という展開に笑える。 新しい妻も飲酒愛好家らしいことがわかって、がっかりするかと思ったら、意外と冷静で、 山本則直さんは、やはり、怒ったようなセリフの熱血タイプが似合うのかもしれない。
仕舞
[杜若]クセ
[善知鳥]

宇高道成
種田道一
   

[海人]
シテ…坂本立津郎  子方…片山隆志
ワキ…村瀬 純  ワキツレ…村瀬 提  村瀬 慧  アイ…山本則孝
大鼓…柿原光博  小鼓…古賀裕己  太鼓…桜井 均  笛…中谷 明
後見…宇高道成  片山峯秀  遠藤勝實
地謡…田村 修  雄島道夫  見越文夫  荒川 進
     城石隆輔  山田純夫  種田道一  工藤 寛

■観世では「海士」。 元々は、天皇の食膳に供する海産物を採る特殊技能者。 志摩、丹後などの海も直轄領で、出先官庁に、公卿が赴任していた。

 唐から贈られた三つの宝とは (アイ狂言)、
  華原磬(かげんけい)…一度打つと袈裟をかけるまで鳴り止まぬ楽器
  泗浜石(し=涙 ひんせき)…墨をすれば自然と水がしみだす硯
  面向不背(めんこうふはい)
   …玉中の釈迦の像がどこから見ても同じに見える名珠 (能樂手帖)

観音の冥護…志度寺の古伝を踏まえた作者の深慮 (能楽ハンドブック)

★文武天皇の妃で 聖武天皇の母の宮子が海人だという伝承がある。 海人を掌中に収めて従属させることそのものが、古代の王権の象徴のようなところあり。 また芸能の原点は海人である。梅原猛「海人と天皇」を読むべし。 (「海人の國」のページより)
★なぜ、龍女か? 法華経に、女人は龍になると成仏できる、とあるとか。
海人の声の、聞こえるようで聞き取れない、わかるようで、はっきりしない感じに疲れた。 数年前の「黒塚」の前場の、じわっとくる存在感がなかった。 玉ノ段は、終わりの紐を引くところが、なんとも凄惨な感じ。 子方の藤原氏が着座すると、背中にぴったりと背後霊のように後見のお顔がついていました。 今日は、少々控えめな発声。浦人の三つの宝の説明は、あまりよくわからなかった。
龍神は正体を顕したもので、龍女は、昇華の姿らしい。影絵のオブジエのような龍の冠が大きかった。
今日、よかったのは、「善知鳥」のお仕舞と、「雲林院」の地謡。 よくなかったのが、一噌仙幸さんの、笑っているような表情。

国立能楽堂展示室は能面展で、中ほどのケースにあった増女(深井だったかも)と、 萩焼の枇杷色のような般若がよかった。能楽の歴史のプリントをいただく。 檜書店の出店が、「広縁」から「広間」の壁寄りに変わっていて、初め気がつかなかった。


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
4月18日
(金)
国立能楽堂 定例公演
6:30pm〜
狂言
和泉流
[寝音曲]
シテ:太郎冠者…野村万作  アド:主…野村万之介

■謡の上手な冠者が、主人に所望されて、度々あってはかなわないと、酒がなくては、妻の膝枕でなくては、 と難癖をつける。劇中の謡は、大蔵流は「放下僧」の小謡、和泉流は「海人」の玉ノ段。(狂言ハンドブック)
太郎の肩衣の黒地に金泥か金茶のタンポポと、盃の桶の蓋が、新しそうなぴかぴかの黒漆に金の紋だったのが、 何か心入れという感じ。
主人と太郎が近づくのに、毎回膝行なのが、時代を象徴している。 盃をあけながら、時間稼ぎにいろいろお世辞を言う太郎に、「酒の鑑定は頼まん」と素っ気無い主人が 一番よかった。 普通の姿勢では声が出ないという、みえみえの表現がおかしかったが、本当はできるんです、という全体の感じに ふふん。膝枕と起きているときの出来の入れ替えが上手だった。

金剛流
[土蜘蛛]
千筋之伝
シテ…豊嶋三千春
ツレ:頼光…金剛永謹  胡蝶…豊嶋晃嗣  太刀持…遠藤勝実
ワキ:独武者…森常好
ワキツレ:従者…舘田善博 則久英志 梅村昌功
アイ…竹山悠樹
笛…内潟慶三  小鼓…幸正昭  大鼓…柿原崇志  太鼓…小寺左七
後見…豊嶋訓三  工藤寛  豊嶋幸洋
地謡…田村修  雄島道夫  田島弘  見越文夫
     山田純夫  宇高通成  松野恭憲(地頭)  松野洋樹

土蜘蛛(土雲)・・・神話伝説で、大和朝廷に服従しなかった辺境の民の蔑称。 (「GLNからこんにちは」のページの『動植物名に因む芸文』より)
独武者(ひとりむしゃ)・・・知行地を持たない武者。 手柄を立て、恩賞で領地を得て出世すべく、戦場でチャンスを狙っている。(「義経」司馬遼太郎 より)

昔、蜘蛛の糸は、もっと太くて短く、本数も少なかったが、 江戸末期、金剛流のこの小書で、細くて長い千筋の糸が工夫され初登場。(能楽ハンドブックなど)
千筋の蜘蛛の糸がすばらしかった。初めの一投の、手から吹き出したように弧を描いて伸び、 ゆっくり、ふわっと下方に広がる糸の網に感激。梁にまで掛かり、蜘蛛屋敷と化す。 頼光さんが、糸の中に霞んで見えて、なかなか幻想的で、 あれでは病気になるわ、という妖力を感じた。紗がかかったような薄グレーの指貫の効果もあった。 蜘蛛の巣を被ったまま「くもきり」と名づけ、被ったまま退場、本当にこういう演出があるのだと感心した。
いよいよ塚が登場。武者一行の白い鉢巻が目に被さるようなのが気になってしまった。 ますます従者が心もとなく見えてしまう。土蜘蛛が巣の左右を破り、糸を飛ばすと、 すぐ後ろの後見からも区別がつかないくらいの連続噴射で、花火の火の糸のように音もなく脹らむ。 一畳台に立ち、下をぐいっとにらんだ表情ったら、最高!金色に盛り上がった白目が、ぎらりと暗く反射して、 その先の丸い空洞の黒目が不気味な水晶玉に見える。黒いふさふさの“たてがみ”がぱさっと揺れると、 こめかみに影が動き、「わー、怒ってる怒ってる」。 大きなペコちゃん型の口の両端に牙があるように見えた。
途中で巣に戻り、座って巣の糸をもぞもぞしている。 きっと隠し玉なのだ、と観客全員思ったと思う。 怒り倍増の土蜘蛛は、巣の正面の網をたたき切って出てくる。投げるは投げるは、糸吹雪。 しかし、糸にからまりつつ、武者チームが優勢になり、最後は蜘蛛を滅多切り。 土蜘蛛かわいそー。鬼って、なんて可哀想なんでしょう!
今日の笛は、あまり景気よくなかった。
国立能楽堂のプログラムに、非服従氏族のことが載っていたので、驚いた。 お能の解説も、周辺を深めるほど普及してきたのだ。 が、「勾欄越し」があるかも、一畳台から宙返りがあるかも、 と演出秘話?が先を行っていて、むなしい。
6年程前の、中森昌三さんの頼光をふと思い出す。 頼光とは、かっこよくて貫禄のある、面白い存在だ。

隣の席のおじさまが、いいところになると開放的に咳をなさるのは、なぜ?


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
3月15日
(土)
1:30pm〜
平成15年 第1回
東京金剛会例会能
国立能楽堂
仕舞
[富士太鼓]
[国栖]
キリ


蓮元早苗
田村 修
   地謡…熊谷伸一 元吉正巳 坂本立津朗 遠藤勝實
   

[源氏供養]
 舞入
シテ…今井清隆  ワキ…宝生欣哉 ワキツレ…則久英志 野口能弘
大鼓…安福建雄  小鼓…住駒昭弘  笛…松田弘之
後見…金剛永謹 山田純夫 見越文夫
地謡…熊谷伸一 酒井鴻風 雄島道夫 荒川 進
     城石隆輔 廣田幸稔 (地頭)松野恭憲 坂本立津朗

■ 仏教思想では、作り話は、妄語戎を犯したことになり、紫式部は成仏できない。(能楽手帖)
面がかわいくて、きれいだった。華やかさの中に高尚さが垣間見えるようなみかん色に、 部分的に緑がかった唐織で、意味ありげな、由緒ありげな、里女だった。 アイがなくて、僧の語りだったり、巻物が出てきたり、本の内容が視覚的に面白かった。 ぎらぎらの花車の紫の長絹が、優雅な舞の風情を少々損ねていたような…。 一語一語がくっきりとして、少し重々しい言い方は、実は、観世音だからなのか。 布教劇より、紫式部の霊のままがいいなー。
小鼓の存在がどうもはっきりしなかったが、笛が劇的にストーリーを語っているようで、よかった。 地謡は地味めで、高音がちょっと。
ワキの長いセリフ、出来ないけれど、あのように変化をつけるのか、といろいろおもしろかった。
狂言
[薩摩守]
大蔵吉次郎(僧 シテ) 大蔵弥太郎(茶屋) 善竹十郎(渡し守)
   後見…大蔵基誠

■ 薩摩守忠度(ただのり→ただ乗り)⇔青海苔の引き干し
→ 忠ノリ⇔青ノリ (狂言ハンドブック)
水衣と筒型の足首(ハンドブックによると括袴:くくりばかま)に、「あ、法華僧」 と思うのは、素人の会で「宗論」を見たから。あれは、性格の区別を明確にするためで、 宗派は関係ないのかもしれない。
船が離れた所にいるのを呼び寄せるという、昔の渡しの風景らしいところが面白い。 大げさに船が揺れて、奥の船頭さんと、前の僧が、同じように傾くところが見どころ。 あと一歩ぴったりか、ウェーブのような時差か、情景がはっきりしたら、もっと面白かった。 船頭さんの声が一番若かった。
ただで舟に乗るのに、オチを忘れて洒落にならなくなるという洒落で、 誰でも知っている“薩摩守”のわりには、いまいち、ぴりっとこなかった感じ。 「青海苔」だけのほうが、すっきりするのに、長く言うのは、 自信なく先細りになるのを表現するためなのか。
仕舞
[忠度]
[網之段]

金剛永謹
豊嶋訓三
   地謡…榎本 健 廣田幸稔 松野恭憲 工藤 寛
狂言の後に、オリジナルのお仕舞とは、しゃれなのだろうか。
「網之段」、なんかリキが入っていて、網を傾けるあたり、くっきりとした動きで、 物狂いの感情が高まる感じ。向いたお顔が、生き生きしていた。 数年前の、網をみつめ、じっと物思いにふけるのとは、別解釈という感じ。

[是我意]
シテ…片山峯秀 ツレ…遠藤勝實
ワキ…野口能弘 ワキツレ…野口琢弘 小原利宗  アイ…大蔵基照?
大鼓…大倉三忠  小鼓…住駒匡彦
太鼓…梶谷英樹  笛…藤田朝太郎
後見…廣田幸稔 工藤 寛 荒川 進
地謡…大川隆雄 雄島道夫 見越文夫 田村 修
     田島 弘 山田純夫 豊嶋訓三 元吉正巳

■ 天狗とは、仏説の増上慢を象徴した、深山に住む怪人物。 悠々と登場するのは、例えば、回っている独楽が静止して見えるように、 フルスピードで飛んでいるところを、ゆっくりした動きで示す能の表現法のひとつ。 (能楽手帖)  (=ΦwΦ=) にゃるほど
ワキの僧の、見た目も声もお若いのに、すっごい貫禄ある口調に、びっくり。 作り物の車の雰囲気が愉快で、リヤカーの枠だけという感じなのに、僧が乗ると、 中国古代の石碑を写した墨絵のような場面になって、物語を紡ぎ出す。
前場で、山伏姿の二人が向かい合って語り合っているのが長くて、早く天狗になーれ!で、 天狗登場。鶴の羽団扇。今日は鷹の羽のほうが似合いそうだが、流派で決まっているのだろうか。 「大べし」というお囃子に特に注目しなかったので、次の機会に。
お囃子が、何となしに、思い思いの方向を向いていて、こちらの意識が集中できなかった感じ。 愛らしい笛の音が、おもしろかった。
土曜日を丸一日空けるのは結構大変で、研修能がめったに見られないのが残念だ。 今日は、[花月] シテ…榎本健 ワキ…村瀬提 アイ…大蔵教義、  大鼓・小鼓も若い方登場のようで、“未来の過去”から目撃しておきたかった。


2003 最新へねこ 観能予習 復習  2001  2002  2003  
2月16日
(日)
都民芸術フェスティバル 参加公演
式能

1部 10:00〜  2部 16:00〜   国立能楽堂
金剛流
[翁]
金剛永謹   三番三…山本東次郎  千歳…山本泰太郎

大鼓…柿原弘和  小鼓…福井啓次郎 柳原冨司忠 福井良治
笛…杉 市和  太鼓…小寺真佐人
後見…廣田泰三 豊嶋訓三 廣田幸稔
三番三後見…山本則直 山本則秀

地謡…廣田泰能 坂本立津朗 片山峯秀 元吉正巳
     宇高通成 豊嶋三千春 今井清隆 山田純夫
やはり、橋掛りから、地謡もずらーっと並んで登場するのが、いい。
思い出は当てにならないが、5年前のほうが、恭しくて厳かだった。
金剛の翁の面は、どこかで会えそうな表情なのが、不思議。 『わたくし、普通ではありません』というワザをあまり使わない感じなのだ。 渦巻くシワもないし、白くもない。 5年前のは、ご近所の好々爺が控えめにはにかんでいるところ。 今日のは、大きな白いぽんぽん玉の眉の下で、細く見えないくらいまで笑った目と、 唇をゆるく閉じて横に広げて、両端を下げ、笑うのを抑えたような口元。 なんとなく、こちらを「むおっほっほ、お若いお若い」と見ているような…。

3丁の鼓は、出だしの「ぽん・ぽんぽん」が揃って迫力があったので、雰囲気に大いに貢献して、 その部分だけでかなりの高得点。あとの時間差攻撃や、雨垂れぽたぽたは、まあね。 中心人物の装束が、異文化的で面白かった。緑!の着物、白の長袴の上と裾に、山吹色の模様!

千歳は、はきはきとしていて、現代的だった。
さて、いよいよ三番三。よかった。同じ人に、何通りもの型があるのだろうか。 数年前の麦踏(子供の頃、郊外の畑で見た)のようなのとは、かなり違う気迫。 藍染め系でも、濃いめの装束がよかった。普通、剣先烏帽子をつけると、すらりとかっこよくなるが、 東次郎さんは、あまり変わらなかった。鈴のところで、少しもたれたが、 ステップと腕の動きに溜めた力がみなぎり、見ごたえのある舞台であった。

[高砂]
シテ…松野恭憲  ツレ…松野洋樹
ワキ…高安勝久  ワキツレ…藤野藤作 塩田耕三  アイ…山本則孝
老人と年配の娘という感じ。袖にあまり風が吹かなかった。こうしてみると、 金春流で見た、たっぷり袖を広げる姿がなつかしい。
笛は、ちょっと昔の藤田六郎兵衛さん的音があって、一歩進むと、舞台は私が操っています、になりそう。
狂言
[末広]
シテ…山本則俊(果報者)  アド…山本則重(太郎冠者) 山本則直(男)
後見…遠藤博義
いつも、ここで、ぱらぱら立つ人が多く、あと30分待てないという現実に合わせる 工夫はないものか。ざわつく客席に向かって、無理して強い感じを出して、 雰囲気にそぐわなかった。それなりに見ている人はいるのだから、自然に演じてほしい。

喜多流
[敦盛]
シテ…内田安信 ツレ…内田成信 佐々木多門
ワキ…植田隆之亮  アイ…深田博治
小鼓…幸 清次郎 大鼓…安福建雄  笛…中谷 明
後見…粟谷辰三 佐藤章雄
地謡…粟谷浩之 粟谷充雄 狩野了一 金子敬一郎
     長島 茂 大村 定 出雲康雅 中村邦生
草刈男が遠慮がちで、立ち去ったあとの空間の密度が薄くて、 敦盛も草刈のまま、何だかうやむやに前場が過ぎた。地謡いまいち。
狂言
[子盗人]
野村万之介(博ち打) 石田幸雄(主人) 高野和憲(乳母)
あまり面白みがなかった。人形を使う、救急救命訓練のような感じ。 万之介さんの声や言い方が佳境に入らないうちに、終わってしまった。

観世流
[杜若]
 恋之舞
シテ…野村四郎  ワキ…宝生 閑
大鼓…亀井忠雄  小鼓…曽和博朗
太鼓…金春惣右衛門  笛…藤田大五郎
後見…観世芳伸 坂井音重
地謡…藤波重孝 木原康之 浅見重好 津田和忠
     武田宗和 武田志房 片山九郎右衛門 浅見真州
初冠りから結びの長い赤い組紐が下がっているのが、晴々しく、妖しく、なかなかよかった。 葵祭りの斎王にも、杜若の想いを探してしまいそう。以前、新聞の記事にあった、 汎神論だの両性具有だのは、あまりお呼びでない感じ。
狂言
[腹不立]
大蔵弥太郎  善竹十郎  大蔵吉次郎
「い-や い-や」という弥右衛門さんの“正直坊”の声が耳に残っていて、当分消えそうにない。 同じようなメンバーなのに、あの時は、いやがらせにも芝居気が感じられて、 「ところで御坊、お名前は?」の連発に笑えた。 全体に余裕があっておもしろかった。今日の公演は、みな、軽くせわしない。

金春流
[籠太鼓]
シテ…桜間金記  ワキ…副王茂十郎  アイ…小笠原 匡
大鼓…亀井 実  小鼓…北村 治  笛…一噌隆之
後見…守谷泰利 鈴木圭介
地謡…井上貴覚 辻井八郎 山井綱雄 本田芳樹
     吉場廣明 本田光洋 金春安明 高橋 忍
「○○太鼓」「○○鼓」には、惨劇が浮かんで、撥を使う“鼓”の運命のような感じ。 牢の風景と鼓との違和感が効果的で、打ち鳴らした狂乱の妻がオリから出ないところがよかった。
狂言
[骨皮]
野村萬(住持) 野村与十郎(新発意) 久保克人 山下浩一郎 橋本勝利
新しい傘を貸したといって、がみがみ怒る住持。結局、何も貸さない主義なのだ。 馬が骨と皮と別々になり、腰を抜かしたことになった住持は、ご馳走を逃す。 “よい和尚さん”には、ご近所に彼女がいる、と、のらくら、ぼそぼそと言い始める新発意が おかしかった。

宝生流
[熊坂]
シテ…小林与志郎  ワキ…宝生欣哉  アイ…野村晶人
大鼓…大倉正之助 小鼓…宮増新一郎 太鼓…金春国和 笛…寺井宏明 後見…寺井良雄 佐野登
地謡…小倉伸二郎 水上優 東川光夫 金森秀祥
     水上輝和 亀井保雄 小倉敏克 武田孝史
長い一日の終りに、いまいちスカッとしなかった。長範頭巾は、兜なのか、覆面なのか、 どうも愚痴っぽい長範の頭上でゆさゆさ揺れて、義経に負けたのが納得いかない風だった。
せっかくの「式能」が、痩せ細っていくような感じ。あちらは式で、見所は普段着、 という状況からしてアンバランスだ。ハレのものは、ハレのように見る、 こちらの演出も必要なのかもしれない。国家の施設は、特定宗教の注連縄なども飾れないようだし、 お祭りにはならないし、食堂もいつも通りだし、盛り上がる要因がないので、困ってしまう。 伝統芸能の見える部分だけを切り取って、現代の生活にはめ込むと、こういうことになるという感じ。


2003 最新へねこ 観能予習 復習   2001  2002  
1月18日
(土)
午後1時〜
国立能楽堂
能楽公演  

ユネスコによる第一回世界無形遺産の宣言を記念して  
能楽協会・日本能楽会 主催
  
狂言
大蔵流
[木六駄]
シテ…茂山千之丞  アド…茂山宗彦 茂山七五三 木村正雄

太郎冠者が、牛に積んだ木六駄と炭六駄と、酒樽を届ける。
座興で鶉を弓矢で狙う型が上手だったが、かわいそう。 酔ってから長いので、ふらつく動きに飽きてしまった。 木六駄が自分の名前であるという言い訳が、一番おもしろかった。 伯父のセリフに、4駄とあったので、どうも釈然としない。

観世流
[船弁慶]
重前後之替
観世清和  子方…観世紘顕
ワキ…福王茂十郎  ワキツレ…福王和幸 福王知登
アイ…茂山七五三

大鼓…柿原崇志 小鼓…鵜澤速雄
太鼓…三島元太郎 笛…藤田六郎兵衛
後見…片山九郎右衛門 観世恭秀 寺井 栄

地謡…角當直隆 小田切康陽 鷹尾維教 山崎正道
     会田 昇 大槻文蔵 梅若六郎 梅若晋矢
演出が珍しくて面白かった。声が嗄れて張りのないところもあったが、今日の静の人柄と風情が、 今まで見た中で、物語に一番合っていた。お別れの舞にハネ扇など、いろいろな所作が語っていて、 激しい感情を込めた感じががよかった。舞の終りに橋掛りまで行き、離れたところから義経をじっと見て、 意を決したように戻り、それから悲しげに一人とぼとぼと、座っている船頭の前を通って去っていった。 全くお見送りが無いというのも、義経の心遣いがないようで、ちょっと困ったものです。

さて、船出して船頭は、日が良くないという声の主の、かっこいい侍を叱り付ける。弁慶は無言で、 船頭の怒りに任せている。まるで、その不機嫌が引き寄せたかのように、海に異変がおこる。 船の中で、船頭が足踏みでとんとんとん、大波だ、しーー。 どうも、船から片足を出しての「どどど」には及ばない感じ。心なしか、かっかっか、ぽんぽんぽん、 もおとなしめ。

幕が半分だけ揚げられると、知盛の姿が見えた。カタカタと木の当たるような音がしていたのは、 幕の折り返しをくっきりさせために、重石の棒を横に挟む準備のためのようだ。 中年の渋い武将が、深い怨みの淵から上ってくるような声で「…義経か…」。 抑えた中に、尋常ではない底無しの執念が漂い、湿った恐怖を感じた。こういうの初めて。 しかし、怨念の割には武勇はいまいちで、船に近づくずっと前に力が抜けて、無力化していた。 義経が応援団の発声練習のようで、しらけた。そして知盛は、全く普通に去って行きました。

藤田六郎兵衛さんの笛が普通の感じになってきた。以前は、舞台を操るかのような、 ハンメルンの笛吹き(子供を連れ去った)のように、人の意識を支配するかのような音色であった。


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