文明の未来

自然の復元力の利用

 さて、どうしましょう。
 まず、自然の持つ復元力をなるべく利用することを考えましょう。復元力の限界をよく見極め、それを越えない範囲ならば、人類の後始末を自然界にまかせることは可能です。自然界が処理能力を持たないことをやらせないのはもちろんです。
 復元力が弱らないようにすることも必要です。先ほど見た通り、多くの生物と、生物をとりまく諸条件がかかわり合って成り立っているのが自然界、いわゆる生態系です。生態系の中でそれぞれの要素が果たしている役割について、人類はまだ十分解明していません。生態系をうかつに壊してしまわない注意が必要です。特に湿地や熱帯雨林については、とりわけ多くの生物が生活している場所として、保護しようということになっています。
 湿地については「ラムサール条約(*1)」が取り交わされています。また、もっと一般的に生物の多様性を維持するために、希少動物の保護を目的とした「ワシントン条約」もあります。
 (*1)ラムサール条約でいう湿地とは、湿原や干潟のほかに湖沼や河川や海もふくむ、「水があるところすべて」。


食物連鎖

・人工物質の問題
 人類が作ったものについては、人類が責任を持って後始末することを原則と考えるべきです。たとえば、使用後のフロンガスは大気中に出してしまわず、回収して分解するなどの策が採られるようになってきました。

・省資源、省エネルギー、リサイクル、リユース
 あらためて説明するまでもありませんね。資源の枯渇を防ぐためだけでなく、排出物によって自然界に与える影響を小さく抑えるためでもあります。
 物を簡単に捨ててしまわず、長く使うのは資源節約のためによいことです。一方、よく広告で見かけるように、最近の電気製品は少ない電力で働くようになっていたりもします。新型に買い換えるのと、今あるものを使い続けるのと、どちらがよいかはその都度よく考える必要があります。難しいところです。

・未利用資源の開発
 例えば、海底には「マンガンノジュール(マンガン団塊)」と呼ばれるものがあることがわかっています(P127)。これを拾い上げる技術ができれば資源の枯渇の問題はかなり改善されます。他にも、海水にとけ込んでいる金属を利用できないか、とか、燃料として利用できるメタンガスが深海底(低温・高圧)で固体になっているはずだ(メタンハイドレートという)から、これを掘り出せないか、といった研究が進められています。
 そのようにして最近使われるようになった資源に「天然ガス」があります。

・再生可能な資源
 例えば鉄は、掘り出して使ったらその分埋蔵量が減ってしまいます。しかし木材は、また育てれば増えます。そのように、使っても減らない資源、増やせる資源を活用することも考えられます。同じ植物でも、木よりも草の方が成長が早くていいだろう、という発想で作られるようになったのが非木材紙(ケナフ紙)です。
 エネルギー資源としても、サトウキビやイモを育て、発酵させてつくったアルコール(バイオアルコール)やメタン(バイオメタン)ならば、化石燃料とちがって再生可能です。燃焼によって発生する二酸化炭素についても、次のサトウキビが育つために使われれば増えないことになります。
 化石燃料の場合は大昔の植物が光合成によって大気中から二酸化炭素として取り込み、その後地下に埋まっていた炭素を掘り出して燃やし、大気中に戻していることになります。この場合、現在の大気中には二酸化炭素が増える一方です。
 また、化石燃料は、過去の植物が光合成のときに吸収した(そして有機物の中に化学エネルギーとしてとじこめた)太陽のエネルギーを再び取り出していることになります。それに対してバイオ燃料は、現在使うエネルギーは現在の光合成でまかなおう、という発想であるという見方もできます。

・新エネルギーの開発
 エネルギー資源については、風力発電や太陽電池など、未利用の自然エネルギーの活用も模索されています。これらは汚染物質を出さないので(*2)「クリーンエネルギー」とよばれることもあります。しかし、広大な土地が必要になったり、気象条件など、自然の都合に左右されるなどの問題も残っています。
 最近注目のエネルギー資源が水素です。水を電気分解すれば得られ、燃やした後には水ができるだけです。電気分解のエネルギー源に石油を使ったとしても、石油をそのまま燃やすより省エネルギーになるそうです(*3)。また、バイオアルコールから作ることもできます。石油やガスのように燃やすほかに、燃料電池(*4)を使って電気を起こすこともできます。
 (*2)太陽電池を作るときには石油等のエネルギーを使う。廃棄物も出ます。風力発電機も同様。だから、厳密には完全にクリーンというわけではない。
 (*3)電気は「エネルギー効率」がよいらしい。詳しい説明は省略。というか、私もよくわからん。
 (*4)電池というより、じつは発電装置。水素と酸素で電気をつくる。


地球脱出?

 汚れた地球を見捨てて他の惑星に移住しよう、という発想をする人もあります(*5)。比較的現実味のあるところでは、火星などが候補になるようです。
 しかし、そのままでは人類は(というか、おそらくすべての地球の生物は)生活できません。大規模な改造が必要になります。「惑星地球化計画(テラフォーミング)」と呼ばれます。これには大変な費用がかかります。火星へ行くだけでも大変です。それよりは、地球を、住み続けられるように維持する方が安くつくことは疑いありません。
 (*5)そういった目的ではなく、将来なにか破滅的なことが起きたとき(たとえば小惑星の衝突というような)、火星にも移住しておけば地球の生物は絶滅しなくて済むじゃないか、という発想からテラフォーミングを提案・検討している人もいます。


「人間」と「ヒト」

 人類は、文明の力で身の回りの環境を作り変えてきました。より安全で、快適で、便利に変えてきたはずでした。そしてふと気がつくと、自然の仕組みからすっかり浮いた存在になっていました。
 我々は文明のぬしで「人間」と名乗っています。しかし同時に、40億年の歴史につながる「ヒト」という生物でもあります。このことを忘れてはいけません。
 「人間」のやることは急速に変わってきましたが、生物としての「ヒト」はすぐには変わりません。前に腰痛のことが少し出てきましたが、冷房で体調を崩すなどというのもありますね。各種の精神的・心理的ストレスにも、そんな原因のものがあるのでしょう。


地球と人類の将来

 地球の環境−生物をとりまく諸条件−は、46億年間一定だったわけではありません。生物が環境を変えたこともありました。そしてその時々の環境にあった生物が栄えてきました。
 急激な環境変化があったときには大絶滅が起きました。しかし何かが必ず生き残り、次の時代に栄えました。生物にはそんなしぶとさ、たくましさがあります。生物は変異と自然選択を繰り返し、多様性を増すことで変化した環境に適応してきました。
 現在、人類は文明の力で地球に手を加え、急速に環境を変えています。それに伴って数多くの生物が地球上から姿を消しています。地球史上最大の大絶滅が進行しているという見方をする人もあります。
 今度は何が生き残るのでしょうか。生き残った生物たちは新しい生態系を作れるのでしょうか。人類はどうなるのでしょうか。現在のところ、我々人類はその答えを知りません。

 ただ一つはっきりしていることがあります。人類がこの先どうするのか、それを決めるのは、人類自身以外にはいないということです。


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