ひどゆき一家大阪呑み怪
序章

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 2000年8月19日午後3時、昼下がりの太陽が白く煙る大阪駅に降り立つ。ひたすら蒸し暑い、汗が乾かない、行き場のない不快感がつのる。しかし、後ほどの呑み怪を考えると喉元までせりあがっていた悲鳴もすっとひいてゆく。

 まずは散歩がてら阪急梅田駅のビッグ1を探す。が、なかなか見つからない。まああとで何とかなるだろうと、むせ返る人ごみを避けてホテルへ向かう。陸橋を登ったり地下をくぐったりと方向感覚を試されるような駅前をなんとか潜り抜け、商店街を突っ切り、お初天神を折れてしばらく行くと「ホテル関西」の派手な看板を発見。どれ、さっそくチェックインをと近づいて行くと、「信号左」などと書いてある。

 とりあえずその指示に従い、てくてくと歩いて行くとなんと風俗街。左手に「ルパン三世」発見。わき上がる興味を押し隠し、ふと右手を見上げるとそこに「ホテル関西」のネオン看板が。さらに「この先右」と書いてある。ぐるっと回って最初の看板の裏だったら火をつけるぞ!などと崩れそうになる膝を立て直し、右へ歩いて行くとようやく本物の「ホテル関西」を発見。人妻クラブの真ん前どころか、周囲は全て風俗店。これはさぞかし夜は賑やか、朝はおねーさんがたの帰宅が見れるかなどとアホなことを混み合うネオンに押し隠し、ささっとチェックイン。

 エレベーターを4階で降り、廊下に足を踏み入れると・・・なんじゃこのひしめき合うドアは! 狭苦しいであろうことを想像しつつあてがわれた部屋のドアを開けると、入ってすぐ右手にシステムバス、その向こうにベッド。見えている床はドア一枚分の幅、ベッドとバスの分の長さしかない。狭い・・・。ふと天井を見上げると、何かの配管に沿って模造のツタがはわせてあり、まるで場末安普請のスナックである。あまりに狭苦しいので窓を開けようと・・・あれ? 板戸がはめてある。何じゃこりゃとばかりに板戸を開けるとそこに窓が。しかしその窓の向こうはすぐに壁であった。ああ、空が見えない、ここには本物の空がない。思わず知恵子抄の一節だったか、を口走ってみたり。

 汗を流してさっぱりすれば気分も晴れるさとシャワーを浴び、人心地ついたところで昼から放浪しているはずの紅蓮殿に電話。ホテルに戻ったら電話をもらうということで、その間私はちょっとお散歩に。と思いきや、ロビーでばったり。あら、ほんとに同じホテルだったのね。

 ロビーで待ち合わせて「お初天神」へ。神牛の背をなでたり、「とおりゃんせ」の天神様はどこだろうかと論議したりしつつ、本殿へ詣でる。そこに先客の老婦人、長い長い祈りを捧げている。数分待つが、微動だにしない。これは長いか永いに変ってしまったか? 枯木のようになってしまった老婦人をそっと脇に立てかけ、この世でだめならあの世でと紅蓮くんと祈る・・・のではなく、それぞれの胸の内をそっと神に打ち明けてみたり・・・したのだろうか?

 おっと、前口上が長くなってしまった。ささっと阪急梅田駅に向かい、紅蓮殿にビッグ1に案内してもらう。てっきり屋外にあると思いこんでいた私は、駅の外を探していたから見つからなかったのか。ビッグ1も紀伊國屋もビルの中であった。紅蓮殿が猫屋敷ならぬ怪屋敷をゲットし、早めに移動していた劉貴さんたちと合流。はじめましてのゆきさんを筆頭に、劉貴さん、所長、紅蓮殿と私が集まる。変なミネラルウォーター早飲みショーを眺めつつ、レンズ付きフィルムを買い求めつつ、時間があるので喫茶店へ。優雅に紅茶なぞをオーダーしつつ、闇のビデオライブラリーと引き換えに、ゆきさんハンドメイドの「サマーナイトメア・メロンマン」をいただく。首にさげたりしていると、「宴会の時はネクタイで頭に結びつけるのですな」などと紅蓮殿にそそのかされる。私に酔っぱらいサラリーマンをやれと?

 前回ライブの土産話ということで、あまった映画冊子を配り、劉貴さんとその時の危ない写真の披露会をする。わたしのアルバムの最初の写真は、おいしいニラまんの餡を落として呆然とするみぎー。いきなり所長の爆笑をとる。さすが埼玉辺境芸人みぎーである。さて、劉貴さんの写真、あったあったM氏がANさんを抱きかかえている写真。伝説はこうやって拡大するのですな。そうそう、紅蓮殿に棺桶ペプシマンをもらう約束・・・が、出てくる出てくる。しかも劉貴さんまで。ダブっているぶんを持ってきたらしい。そして大量の棺桶ペプシマンたちは所長の袋の中へ消えて行った。決して押しつけたのではない証拠に、所長は涙を流していたことを記しておく。場も盛り上がったところで、本日のわたしの一発芸、「さくや妖怪伝」のパンフレットを披露。紅蓮殿と「む〜ら〜ま〜さ〜!」の話題で爆発し、いかにさくや妖怪伝が素晴らしく、感動的な映画であったかをぶちまける。こうでもしないとやりきれませんな、この映画は。

 待ち合わせ時間も近づいたので、再びビッグ1前に移動。するとすぐにはう蔵殿、謎の坊主さん、柚井さん、KIJISUKEセンセーがぞぞぞっと集まる。なんと集合時間5分前には全員集まってしまった。は、早すぎる・・・のではなくこれが理想ですな。宴会には少々早いが、とりあえず移動。土地勘のない私は幹事のはう蔵殿について行く。しかし、ふと見渡すと、なぜか3グループに別れて別々の方向へ歩いて行くひどゆき一家。皆さん、いったいどこへ行くのですか? ああ、どの道を通ってもいいから早く着いたものが勝ち、ガムボールレースなのですな。などと呑気なことを言っていると本当にはぐれそうになるので、はう蔵殿が徴集呼子を吹きならす。

 そしてしばし歩くと、シネマ通りなどという血が騒ぎそうな通りに、しかし、そのとおりのほとんどはファーストフードが占拠していたような気がするが。それはさておき、その一画に一次会場、「贔屓屋」がたたずんでいたのであった。

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