'98年の秋頃、レシプロ戦闘機のフライトシミュレータがちょっとしたブームになりました。Microsoftの「Combat Flight Simulator」、MicroProseの「European Air War」、Electronic Artsの「Jane's WWII Fighters」などがほぼ同時に発売され、それまで現用の最新鋭戦闘機シムが中心だったこの世界に変化をもたらしました。
一方、上記パッケージソフトとは別に、ソフトはネットワーク上から無料で配布されており、プレイする時にはサーバに接続して多人数でプレイするタイプのシミュレータも存在します。メジャーなところではiENの「WarBirds」、Kesmaiの「Air Warrior III」、SimGuildの「Flying Circus」、そして現在ベータテスト中ではありますがHitech Creations, Inc.の「Aces High」などがあります。
上記のシムは、多少の違いはあれど基本的には同じようなものです。ここでは、そのような基本的な事柄についてふれてみます。各種機動についてはBasic Maneuver、Evading Maneuver、Attacking Maneuverを参考にして下さい。また、もうちょっと突っ込んだ話なら、Miscellanyにあるかもしれません。
PCでフライトシム、特にコンバット系のシムを楽しんでこられた方の多くはジェット機のシムをプレイされていたことと思います。そのような方がレシプロ機のシムにふれると多少なりとも戸惑うことでしょう。以下、両者の違いについて簡単に述べます。
物理法則に拘束されるという点では、ジェット機だろうとレシプロ機だろうと大差ありません。主翼により発生した揚力によって浮き上がり、各舵を操作することによって機動する、というのは同じなのです。しかし、両者には大きな違いがあります
まず、その推力です。最新鋭のジェット戦闘機の中には、推力/重量比が1を超える機体も珍しくありません。これは、垂直上昇しながらでも速度を維持・増加可能なことを意味します(もちろん、搭載量が大きければ重量が増加するため、この限りではありません)。それに比べレシプロ機では、そのエンジンが発生する推力は微々たるものです。当時の技術レベル以前に、理論的にもプロペラブレードの失速などによる制限が存在する為、どうあがいても700km/hあたりが限界だと言われています。
ジェットエンジンにも、コンプレッサーのブレードが失速する現象があります(コンプレッサーストールと呼ばれます)。が、これはコンプレッサーを多段構成にするなどして回避することができます。もちろん、ジェット機にも限界がありますが、それはレシプロ機のそれより遥かに高いものです。
上記のような理由の為、レシプロ機では派手な機動を行うとあっという間に速度を失ってしまいます。対CPUであればそれでもなお勝利を収めることができるかもしれませんが、対人戦となるとそうはいきません。このレベルを超える為にはエネルギー管理を習得する必要があります。
現用の戦闘機の兵装は非常に高性能です。空対空兵装だと、バルカン砲、ミサイルが主なものですが、バルカン砲は20mm弾を毎分6,000発発射するという凄まじいモノです。また、ミサイルはIR(InfraRedの略、赤外線追尾)タイプのものとRH(Radar Homingの略、レーダ追尾)タイプのものがあり、その中でも方式により数タイプに別れます。どちらにしろ誘導式で、敵機が対抗策を取らなければほぼ間違いなく命中します。ミサイルの有効射程は長いもので100kmを超え、敵機を目視することなく戦闘が終了することすら考えられます。
それに対し、レシプロ機の兵装は基本的に機関砲のみです。射程距離も数十〜数百mといったところで、撃墜する為にはかなり接近しなければなりません。空対空ロケット弾などというものもありますが、これは無誘導で、基本的には一定距離飛翔した後に爆発し周辺の敵機にダメージを与える、といったものです。
アビオニクス(avionics)とは電子装備一般を指す言葉です。現用の戦闘機は「飛ぶスーパーコンピュータ」と呼んでも差し支えない程に電子化されており、コンピュータによるアシストなしでは水平飛行すら覚束ない機体さえ珍しくありません。空対空装備では、一度に複数機を同時追尾可能なレーダを持ち、そのそれぞれに対してミサイル攻撃できる機体もあります。ガンサイトはレーダと連動しており、彼我の相対運動などからリードアングルを計算してくれます。パイロットは単純に標的機にサイトを重ねてトリガーを引けばよいのです。必要な情報はHUD(Head Up Display)に投影され、いちいち計器に目をやる必要もありません。
レシプロ機では「アビオニクス」と呼べるような装備はハナから存在しません。単座の戦闘機ではレーダなど積んでいませんし、ガンサイトも固定です。パイロットは自分自身で見越し量を判断して射撃しなければならないのです。全ての計器はアナログ式で、その精度にも不安が残ります。
レシプロ機のフライトシムをプレイしてみて、例えば「速度が出ない」「すぐ失速してしまう」「射撃が全然当たらない」のような感想を持つのはある意味当然です。これらの点は、上記のようにまさに実機に当てはまることだからです。しかし、敵機も条件は同等なのです。これらの難点をどう乗り越えるか考え、実行してみることできっと答えは見つかると思います。そうなって初めて楽しさが見えてくるのではないでしょうか。逆に、それが自分にとって耐えられないのであれば、無理してレシプロ機のシムをやるより最新鋭の機体を駆って朝鮮半島や中東の空を飛んでいた方がいいんじゃないかと思います。これは優劣ではなくて、単に嗜好の問題ですから。
とはいえ、ヒコーキが好きならきっとレシプロ機のシムにハマってしまうと思います。レシプロ機による空対空戦闘には口では言い表せない魅力があります。特に、WarBirdsやAces Highのように多人数で対戦できるシムは麻薬のようです。僕は完全に中毒になった人間を何人も知っていますし、僕もその一人かもしれません。
それでは、あの空で。