地殻の変動


 海底にできたはずの堆積岩が陸上で観察できるところがあります。
 ヒマラヤの、エベレストの山頂に近い8000m付近では海の生物の化石が出てきます。つまり、海底で堆積したものがそんな高いところに上がっているのです。

褶曲

 ヒマラヤができたわけは「プレート・テクトニクス」のところで出てきましたね。プレート境界にできた皺です。岩石に圧縮する力が加わると断層ができる話が「地震」のところで出てきましたが、岩石の性質によって、また力の加わり方によってはバキッと壊れるのではなくグニャッと曲がることがあります。岩石や地層がグニャッと曲がったものを「褶曲」といいます。曲がり具合はさまざまで、ゆるく曲がるだけのこともありますし、ぐしゃぐしゃに折り畳まれたようになることもあります。


断層

 もちろん、岩石や地層に力が加わると断層ができることもあります。特にひっぱる力のときは、地層や岩石がグニャッと伸びることはあまりなく、断層ができるのが一般的です。単純に正断層(*1)ができる場合もありますが、図_や図_のような断層になることがあります。
 このように、大きな力が加わって地面や地下の岩石が変形することを「地殻の変動」といいます。

 (*1)ひっぱり型の断層を正断層、圧縮型の断層を逆断層といいますが、特に意味のある命名ではありません。圧縮型の断層が初期の地質学(というより博物学)の主なフィールドであったヨーロッパに少なかったため「逆断層」と名付けられたものです。


火成岩

 図_のようになると山脈状の地形になります(地塁と呼ばれます)。関東周辺に有名な例はありませんが、大阪平野と奈良盆地の間にある生駒山地などが例です。
 逆に図_のようになると溝のように窪んだ地形になります(地溝と呼ばれます)。これは日本のど真ん中に有名な例があります。知っています。…いますね!
 フォッサ・マグナの東側は、その後の火山の噴出などもあって断層の位置が確認されていないところが多いのですが、西側はかなりはっきり確認されています。ひとつの断層ではなく、何本もの断層がつながった大断層地帯になっています。そういうのを「構造線」といいますが、ここの構造線は糸魚川−静岡構造線、略して糸静線と呼ばれています。
 糸静線は、もしかしたら未確定のユーラシアプレートと北米プレートの境界かもしれません(*2)。また、商業電力の50Hz地域と60Hz地域の境界が糸静線とほぼ一致していますが、これは偶然です。^^;;
 もうひとつ、日本の代表的な構造線として「中央構造線」があります。諏訪湖から天竜川沿いに豊橋付近へ、三河湾を渡り、紀伊半島、四国の北の方と横切って九州の西、南西諸島の西の海底につながっていると見られています。地形図を見ると構造線上に直線的な地形が目立ちます。断層の部分は侵食されやすいので谷になりやすいし、四国あたりでは尾根や谷がずれていることがわかる地形もあります。このように、地殻の変動の証拠が地形にあらわれることがよくあります。
 (*2)以前は北海道あたりで日本列島を横切っているという説が有力でしたが、日本海中部地震や北海道南西沖地震が立て続けに起こったため、日本海にプレート境界があるのではないかという説が有力になりつつあります。


隆起地形

 地殻の変動に伴ってできる地形は他にもあります。褶曲にせよ断層にせよ、多くの場合土地の上下動を伴います。土地が持ち上がることを隆起、下がることを沈降といます。

 隆起でできる地形のひとつは河岸段丘です。前回勉強したように、川の流れは山地から海面に向けて図_Aのような地形をつくります。このような地形ができたあとで土地が隆起すると(*3)、川は図_Bのような地形をつくることになります。すなわち、自分がつくった平地(氾濫原)を削ってゆきます(*4)。その時の条件(大雨のあととそうでないときとか)によっては再び埋めて氾濫原をつくることもあります(*5)。こうして川の両岸に階段状の地形ができます。
 教科書_ページに写真が出ています。群馬県沼田市ってことは、利根川ですね。何段かあるということは、隆起したのが一度ではないということの表れです。また、沼田市といえば関東平野の一番奥に近いところです。河口に近いところだけでなく、かなり離れたところにも効果が及ぶのです。

 土地の隆起によって海岸に階段状の地形ができることがあります。海岸段丘といいます。波が海岸を削る力が大きいのは海面付近の高さのところです。ある程度深くなるとほとんどはたらかなくなります。そのため、波の力で土地が削られてゆくところでは、海面下にほぼ平らな面ができてゆきます(波食台といいます)。土地が隆起したときにこの面が陸上にあらわれたものが海岸段丘です。
 近いところでは、江ノ島や城ケ島のまわりに、南部煎餅のように平らな部分があります。このような小規模なものは隆起波食台と呼ぶことが多いのですが、海岸段丘と本質的に同じものです。
 (*3)海面が下がっても同じようになります。
 (*4)侵食基準面から高いところほど、狭く深く削るようになります。
 (*5)一旦隆起したあとでゆっくり沈降するって考えも、よさそうですな。


沈降地形

 逆に土地が沈降してできる地形もあります。
 土地が沈降して、山地にできたV字谷まで海が入り込むと、複雑に入り組んだ海岸線ができます。リアス式海岸(*6)と呼ばれます。このような入り江の奥では津波の被害を受けやすいので注意が必要です。山頂付近だけのこして水没すると、瀬戸内海や松島のような地形になります。多島海と呼ばれます。(*7)
 (*6)「リアス」とはスペイン語で「入り江」のことだそうな。
 (*7)多島海に堆積物が溜まった後再び隆起してできたのが、秋田県の象潟です。(1804年「象潟地震」で隆起。松尾芭蕉の「奥の細道」の時代は多島海。)


地層に残る証拠

 地形だけではなく、当然地層にも地殻の変動の証拠は残ります。簡単なところでは、水中でできたはずの地層が陸上で見られることは土地が隆起した証拠に他なりません(*8)。また、地層に断層褶曲が見られれば、地殻の変動があった証拠になります。
 間接的な地殻変動の証拠として、不整合があります。不整合というのは、地層が堆積するときに一時堆積が中断した痕跡のことです。
 連続して堆積した地層は、前回勉強したようにひしもちのようになります。それに対し、土地が一時隆起して陸上にあらわれた場合には堆積が中断し、むしろ侵食される可能性があります。そのため、多くの場合、表面が凸凹になります。その後沈降して再び海中に沈み、堆積が再開すると、その凸凹の上に再び水平に堆積します。そうしてできた地層は、図_のように層の境界(*9)が凸凹になります(*10)。傾きながら隆起・沈降したり、褶曲を伴う場合もあります。
 (*8)「本当は海水面が低下した」という解釈も可能です。
 (*9)層理面といいます。
 (*10)さらに、上の層の下部に、下の層が削られてできた礫
(基底礫)が入っていることが多い。


地震と隆起・沈降

 河岸段丘や海岸段丘が何段にもなっている場所があります。その場所が何度も、不連続に隆起した証拠です。不連続に隆起したということは、じわじわ褶曲したのではなく、断層ができるような変動であったと推測されます。
 断層と言えば地震。地震について勉強したことを思い出して下さい。同じ地域に繰り返し同じような力が働き、同じ断層が繰り返し動くことがよくあるのでしたね。もう少し具体的には、日本の東の海溝のところでユーラシアプレートが太平洋プレートに引きずられて沈降し、ある程度たわんだあとではがれてはね戻るのでした。
 何段もの河岸段丘や海岸段丘は、巨大地震がくり返される度に土地が隆起をくり返してできたものなのです。


海進・海退

 海面が上下(*11)することによっても、近くの変動と同様の効果があるはずです。実際、石器時代には海面が現在より低く、縄文時代には現在より十数m海面が高かったことがわかっています(*12)。その後の「土地の隆起」と解釈される現象の一部は、縄文時代以後現在までの海退によるものかもしれません。
 海面が上下する原因としては気候の変化が考えられます。気候が寒冷化すると、本来(ってのもおかしな言い方ですが)海水になっているはずの水の一部が氷河として陸上に固定されてしまうため、海面は下がります。逆に暖かくなれば海面は上がります。
 (*11)海面が上がることを海進、下がることを海退といいます。
 (*12)化石や、遺跡・貝塚の分布などからも裏付けられています。


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