化石と進化・時代区分


 地層が「いまから何年前」とわかるようになったのは最近数十年のことです。それ以前は化石を基準にして時代を区分していました。
 つまり、一番新しい「ほ乳類の時代」、その前の「は虫類の時代」、「は虫類の前の時代」、「化石がほとんどでない時代」の4段階です。それぞれ「新生代」「中生代」「古生代」「先カンブリア時代(*1)」と名付けられています。
 (*1)古生代をさらに細かく区分して、最初の時代が「カンブリア紀」と名付けられているのです。カンブリア紀より前の時代だから先カンブリア時代。「先カンブリア紀」ということもあります。

脊椎動物の進化


 そのようなことが可能なのは、前回チラと出てきた通り、時代によってどのような生物がいたか、あるいは栄えていたかということに特徴があるからです。
 たとえば脊椎動物について言えば、一番古い時代からいたのは魚類で、時代が下がるにつれて両生類、ハチュウ類、鳥類、ホニュウ類と順に現れたことがわかっています。

 これはどういうことなのでしょう。それぞれのグループの特徴を思い浮かべてみましょう。1年生の生物で教わりました。…といってもピンと来ない人もいるでしょうから、絵を描いてみましょうね。

 魚類は水中生活です。仲間を増やす(子孫をつくる)ときも、水中に卵をうみます。両生類は肺呼吸ですから陸上生活をするような体なのですが、皮膚は薄くて乾燥に弱く、また仲間を増やすときは水中に卵を産みます。孵化した子供はいわゆるオタマジャクシで、水中生活です。つまり、大人は一応陸上生活をするのですが、水から離れることはできません。
 ハチュウ類は皮膚が厚く、乾燥に強くなり、仲間を増やすときも陸上に卵を産みます。両生類と違って、それほどたくさんの水は必要としません。鳥類・ほ乳類は恒温動物なのでかなり暑いところや寒いところでも生きてゆけます。(*2)

 大昔、脊椎動物に限らず、水中にしか生物がいない時代がありました。魚類が現れた当時は陸上には生物はいなかったのです。やがて、それまで生物が住めなかった新しい環境(陸上)に住めるものが現れ、その新しい環境により適したものが次々現れた、そういうことなのです。
 新しい環境に合った特徴をもった新しい生物が次々現れる、このことを進化といいます。
 (*2)北極や南極にも魚はいます。水中は陸上よりも温度変化や地域による温度差が小さためです。

進化のしくみ


 なぜこんな都合のよいことがおきるのか、説明しておきましょう。そのうち生物で詳しく勉強することになっていますから、ここではごく簡単な説明だけにしておきます。
 まずひとつは遺伝と呼ばれるしくみです。簡単に言えば、子供は親に似るよ、ということです。生物学の用語を使って言うと「親の形質は子に受け継がれる」ということになります。
 ただし、親と子は、あるいは同じ親から生まれた兄弟は全く同じ形質を持つわけではありません。これが二つ目のしくみです。変異とよばれます。これは、どの部分に両親のどちらの形質を受け継ぐか、というくみあわせがたくさんあるためにおきる現象です。
 そして自然選択(*3)。野生の生物の場合、運良く生活の仕方や環境に合った形質をもったものは生き残れる可能性が高いのですが、あっていなかった場合、死んでしまう可能性が大きくなります。そして生き残ったものだけが子孫を残します。
 こんなことを積み重ねて、それぞれの種の生物はより生活の仕方にあった形質になっていったと考えられます。

 とはいえ、これだけでは、たとえば魚類から両生類へというような大きな変化を説明するのは困難です。そこで重要になるのがまれにおきる突然変異という現象です。これは、子が親にない形質を持つという現象です。先祖代々変異と自然選択を積み重ねて作り上げてきた形質を変えてしまうのですから、多くの場合、突然変異を起こした個体は生き残れません。しかし、希の希なことですが、以前よりも優れた形質をもつことになる場合があります。その個体は生き残り、その形質を子に受け継いでいきます。大きな変化はこうしてつくられて行きます。

 それでも魚類から両生類へのような変化は一気に進んだのではないようです。魚類の胸びれが陸上の脊椎動物の前足に、腹びれが後足になったと考えられていますが、形がずいぶん違いますよね。普通の魚のようなひれ(スジヒレといいます)と違った柄のついたひれ(フサヒレといいます)を持つ魚がいたことがわかっています。そういう魚が両生類の先祖になったのでしょう。進化の途中に現れるこのような生物を中間形といいます。
 (*3)最近はあまり使わないようですが、「自然淘汰」という言い方もあります。

系統樹


 1年生の生物で勉強したとおり、節足動物軟体動物など体のしくみが脊椎動物とはかなり違う動物がいます。彼らもそれぞれ進化しています。かなり古い時代に脊椎動物の先祖とわかれたため、長い間にすっかり違う生き物になってしまったのです。節足動物と軟体動物は幾分近いようです。
 図にするとこうなります(図_)。節足動物と軟体動物の先祖をたどると環形動物(ミミズ、ヒル、ゴカイの仲間)が共通の先祖になり、脊椎動物とはさらに遡って腔腸動物(クラゲ、イソギンチャクの仲間)が共通の先祖ということになるようです。さらに遡ると植物とも共通の先祖がいて最終的には細菌のような単細胞生物に行き着くことになっています。
 このような図、地面から木が生えてきて枝分かれしている様子に似ているので「系統樹」と言います。

区分と示準化石


 ここで、時代のもう少し細かい区分と、脊椎動物以外の示準化石も含めて表をつくっておきましょう。

 「代」より一段階細かい時代区分を「紀」と言います。新生代は「第三紀」「第四紀」の二つに区分されています。実は以前、古生代を「第一紀」中生代を「第二紀」と言っていた時代がありました。その後「第一紀」「第二紀」は「古生代」「中生代」に格上げされたのですが、第三紀と第四紀はそのままになっているのです。新生代はホニュウ類の時代ですが、その中で第四紀は人類の先祖が現れた時代です(*4)。そこで第三紀を「ホニュウ類紀」第四紀を「人類紀」と呼ぶこともあります。
 中生代は、古い方から順に「三畳紀」「ジュラ紀」「白亜紀」の三つに区分されています。「ジュラ紀」は最初にこの時代が研究された場所の地名、他の二つは最初に研究された地層の特徴からついた名前です。この時代はハチュウ類が栄えた時代で、特に今では見られない大型のものがたくさんいたことがわかっています。そのようなものは「恐竜」と呼ばれます。
 古生代は「カンブリア紀」「オルドビス紀」「シルル紀」「デボン紀」「石炭紀」「二畳紀」の6つに区分されています。二畳紀は地層の特徴、石炭紀はこの時代の植物化石がヨーロッパで石炭として多く利用されていること、他の4つは地名に由来します。石炭紀、二畳紀には両生類が栄えていました。その前のシルル紀、デボン紀は魚類の時代だったようです。カンブリア紀、オルドビス紀は、脊椎動物で一番古い魚類さえもまだいない時代でした。

 無脊椎動物はあまりなじみがないと思うのでごく代表的なものだけ紹介しておきます。
 古生代を通じて、三葉虫と呼ばれる節足動物が栄えていました。教科書_ページや資料集_ページに化石の写真が出ています。草履みたいな形の動物ですが、体が3つの部分に分かれていた(昆虫が頭部・胸部・腹部の三つに分かれているように)ようで、3つに分解した形になって出てくることが多いため、この名前がついたそうです。
 中生代には軟体動物のアンモナイトが栄えていました。一見巻き貝のようですが、頭足類つまりタコやイカの仲間です(*5)。
 新生代では二枚貝の仲間などにの示準化石として使われるものがありますが、我々素人にはあまりわかりやすくないので省略します。

 被子植物が栄えるようになったのは新生代になってからです。中生代には裸子植物が栄えていました。つまり、恐竜の時代にはスギ・ヒノキ・イチョウなどの仲間が森林をつくっていました。
 古生代の後半、デボン紀石炭紀二畳紀頃にはシダ植物が栄えていました。特に、現在ほとんどない(特に日本には全くない)木になるシダ(木生シダ)が栄え、森林をつくっていたようです。その前にはコケの時代があったのかもしれませんが、化石が残っていないためはっきりわかりません。
 (*4)最近の研究では人類の祖先の登場はもう少し遡れることがわかっています。
 (*5)巻き貝と違って殻の中がいくつもの部屋に分かれています。殻の形が古代エジプトの「アモン神」のシンボルである羊の角に似ているところから「アンモナイト」の名がついたとのこと。

現在につながる過去


 これらはすべて過去のできごとです。しかし、同時に現在の我々に直接つながっているできごとでもあります。一連のできごとのうちの、何かがちょっと違っていたら、現在の我々とは違う生き物がいまごろ地上にいたにちがいないのです。

 たとえば、あれだけ栄えていた恐竜が中生代末に突然絶滅しました。原因はまだわかっていませんが、最近有力になっている説に、隕石が衝突して気候が寒くなり、変温動物の恐竜は死んでしまったのだ、というのがあります。もしそうだとしたら、その隕石が逸れていたら、その後も恐竜が繁栄を続け、今ごろは文明を築いていたかもしれません。
 また、我々の手足の指は5本です。遠い先祖である、初期の両生類の指が5本だったため、その子孫である我々も5本なのです。ところがそのまた先祖である(らしい)フサヒレの魚には6本指や7本指のものがいました。たまたま(たぶん)、5本指のものから両生類が現れたため、我々の指は5本なのです。たとえば6本指になっていたら数の数え方なども大きく違っていたことでしょう。

生きている化石


 まれに、とても古い時代から体の仕組みや生活の仕方をあまり変えずに生き続けている生物がいます。有名なところでは、古生代の魚類の特徴をもつ魚の「シーラカンス」、古生代に栄えた節足動物「三葉虫」の子孫である「カブトガニ」、中生代に栄えた軟体動物「アンモナイト」の子孫である「オウムガイ(*6)」、ハチュウ類とホニュウ類の中間形の生き残りと考えられる「カモノハシ」などがいます。
 もっと身近なところでは、イチョウは初期の裸子植物の特徴(*7)を持っていますし、ゴキブリは中生代からあまり姿を変えずに生き続けているとされています。
 (*6)「オウムガイ」の名は、殻の口のあたりがオウムの嘴に似ているところからついたものです。
 (*7)精子。また、葉脈にはもっと古い時代の植物の様式(二叉分枝)が見られます。

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