君が望む?同人誌制作奮闘記
人生ってはかないのさ・・悪のりしてるね

 ☆注意☆
 作中に出てくる人名、団体名は実在の人物、団体、名称もありますが、架空のものでありほとんど脚色してあります。
また随時更新されるかも・・よ・・



第一部【永遠の始まり】編  第二部【永遠の蔓延】編  第三部【永遠最終計画】  夏コミ奮戦編  サークルの歴史(リアル)

新たなる使命


第一部【永遠の始まり】
 ☆登場人物☆
 沙門祐希
・・「君のぞ」馬鹿。ついでにK田マリ子馬鹿でもある。文・構成担当。出身は奈良。社会人。
 樹之夢真希・・「君のぞ」馬鹿2号。絵描きを目指すプータロー。いつも沙門に翻弄されている。
 桂氏啓太郎・・「ねこねこ」馬鹿。T県に在住する。沙門と同じくK田マリ子馬鹿で、鍵っ子でもある。 1
登場人物は架空の人物であり、現実に存在していても、思想、嗜好は全く違いますので了承下さい。
『黒猫のうんこ踏む?』

●二〇〇一年秋、都内某所

 鬱陶しい急勾配の坂を上るとその住居はあった。久方ぶりここに来る。
 沙門祐希はうっすらと額に滲んだ汗を拭ってチャイムを押した。
 だがチャイムは壊れているため鳴らない、でも押してしまう、いくら鳴らないと知っていても押さないと入りづらいのだ。
「真希さん、どうだい? 首尾は?」中に断りもなく上がり込み、気軽に訊ねてみる。
  だが声をかけられた者は眠っていたらしく、力無く云った。
「ふぁぁ、珍しいね。出不精の沙門さんが来るなんて・・・そっか・・・黒猫キョウコ本の事かい?
 なんとかネタは思いついたんだ。この間みたいに何のネタもなく漠然とはしてないから大丈夫・・・だ思うよ」
「ほぉ、それは心強い・・・オフセはいけそうか? もっともこっちも資金がねぇけどな」
「相変わらず色々と動き回ってるらしいね。もっとゆっくりすればいいのにさ」
 樹之夢真希。駆け出しの漫画描きと云う程の者でもないがとりあえずそうしとこう。樹之夢は身体を起こし飲み物を取りに台所に立った。
「今回はね、妖怪もの・・・」手を擦りながらはにかんだ。
「妖怪? ははぁ、またなんか読んだな」 樹之夢はよくはまる。
そこが面白くて沙門も色々ちょっかい出しているのだが・・・
「まぁね、今度は飛縁魔(ひのえんま)。キリサキキョウコって炎使うっしょ。
で、グリードにスカウトされるのかなんか知らないけど、その能力に目覚めたあたりの話」
「う〜ん、なんか炎じゃなく熱なんだが、いいんじゃない。ストーリーがあるのは。あとは時間だね。どの程度固まってるの?」
「いや、全然、これからこれから」
こっちがかたまった。
「まぁ、時間がまだ一週間もあるし・・・何とかなるでしょう」
「・・そういうわけにもいかないんだよ。まぁ、これを見てくれ」
沙門はここに来た目的を果たすべく鞄からDVDケースを取り出した。
「『君が望む永遠』? ゲーム。それで?」
「う〜ん、わかんないかな? これをやるの?」
「やるって、時間が・・・これ・・」
「手に入れるの大変だったんだからな。あ、再販版じゃないよ。
再販は白色、新宿じゃ中古なのにほぼ倍で売られてたよ。ま、とにかくやるの。これは絶対」
「・・・」何を云ってるかさっぱりわからない真希は眼を白黒させた。
「後悔するよ・・・」
「原稿がかい?ちがうね・・・いいの?」真剣な眼差しにたじろぐ。
「ふぁいと。なせばなるザブングルは男の子!」
「いや、違うと思うけど・・・」
「ん〜じゃ、第一章だけでいいよオープニングまで、でもそこまでは必ずやってね」
 沙門祐希はそれだけ云うと「じゃ僕は『月姫』を片づけないといけないから」と云い残して帰っていった。
どうやら彼は『ブラックキャット』の同人誌を創るのを諦めてしまったようだ。
かくしてこういう状態になったのである。
 

 ●都内某某所 沙門宅 電話にて

「どうだい?進み具合は?」
「順調に遅れてるよ」
「それはいただけないなぁ」受話器の向こうで半ばからかう様に沙門は云った。。
「・・一章が長すぎ。でも高校生活は満喫させてもらいました。 でもあの終わり方でこのまま終われないじゃん」
 やっぱりはまっていた、思惑通りである。ついでに色々と感想を述べたりする。
「最初は遙、何だこいつ!と思ってたけど、ねぇ、やっぱりかわいい・・・やつよ」
「感情移入しちゃった?作り手もそういうの意識してたからといってるからおもっきり型にはっまったな。
こんだけテキストでぐいぐい読ませるのって凄いよね。『Kanon』『AIR』もそうだったけど泣かせますね」
「第一章の長さから行くと『同級生2』とか『YU−NO』のエルフ作品を思い出すよ。
  このお膳立てがあるから生きて来るんだね」
「そうだねぇ。心に残るゲームってそういうの多いね」沙門もベタ誉めである。
  すでにかなりやりこんでいるのが窺える。
「その結果でこうして遅れてるのですよ。沙門さん、わかっててやってるでしょう」
「そうかそうか」なんか嬉しそうである「で、キョウコ本はどうかね?」
「今ね、ネームは出来たけど、大幅に削った。鉛筆でだーっと描いて終わりという感じだね。
  時間がないよ、ホント」寝不足気味である。
「ホントは他のキャラも描いて欲しいんだけど・・無理だなぁ。その様子だと、
  でね、ブラックキャット、キャラコンテスト発表されたけど、キョウコちゃん3位だったよ」
「へぇ、早いねぇ、じゃ1位と2位は?」
「たしか、トレイン、イブだったと・・、てことはリンスを抜いてるのか・・・」
「とにかく、いそいでコンテ切らないといけないなぁ。はやくゲームの続きもやりたいし」
「そだね、じゃ、またいいネタ浮かんだら連絡するから」と沙門は電話を切った。
 樹之夢真希は背伸びをした後トレース台に向かった。
  キョウコばっかり描けるのは嬉しいのだが、けっこう難しくキョウコらしくならない。
 まだ能力に目覚めていないキョウコを思い浮かべてみる。
初期のキョウコはそんなにはじけていないと考え、普通にセリフうぃお喋らせてみる。
「あんですと〜」 う〜ん、難しいぞ、これは、こびりついている・・・。 導入からメインのエロシーンをつなぐのは時間がかかる・・・とばすか?
 結局、ゲームに手を付けだし原稿そっちのけになるのだった。

●都内某所 沙門宅

  「いや〜おつかれさん。それが原稿かい?」
 悲壮感漂う風体で樹之夢真希は原稿の入った紙袋を渡した。どれどれと沙門は中身を取り出す。
「うん?これは・・・涼宮遙ではないか?」
「・・・描いてしまったよ。おかげで原稿は無茶苦茶に仕上げてしまったけど・・」
「うん、ま、白いなぁ。ベタもない。こりゃひどい」
「すまんねぇ、やっぱり一夜漬けだと描けないよって、いつもこんな感じだね、僕のレベルでは」悲しい事実である。
「計画を立て直す必要があるなぁ。ま、でも何か本を出したいという意志はあるんだ。
  なんとか出そう。例え売れなくても・・」
「うん、それでね、『君が望む永遠』なんだけど、やっぱやめれないんだ。全部見るまでは」
「ふふふ、そうだと思ったよ。それでイラスト描いちゃったわけか?
  わかるわかる。そんなことだろうと思って、もう一人知り合いを呼んであるんだ。
  ちょっと他県なもんで来るのに時間がかかるんだ」
「沙門さん、他にも勧めてるの?」きょとんとして訊ねる。
「ん?ああ、ちょっと3本ほど勢い余って買ってしまったんだよ。仕事サボってね。おかげで家計は火の車さ」
「無茶苦茶ですねぇ。ま、それはおいといてコピー誌だからイラストもう一枚くらい描くから君のぞもすこし載せよう」
「真希さんもかなりやる気だね・・・?メールか?来たようだな」
「こんばんは・・・『君が望む永遠』の感想を持ってきたよ」と長身の男が扉を開けて入ってきた。
「沙門さん、確信犯ですか?こうなるのを予想して・・・」
彼は桂氏啓太郎(かつらうじけいたろう)といい、アージュよりもねこねこをこよなく愛する輩である。
「すべてはビックファイヤー、いや、大空寺あゆ様のために!」と沙門。
「まことか!」と、返す桂氏。
「やるねぇ、知らない人が見れば危ない人だなぁ」自分のことを棚に上げて、遠方から来た桂氏のディスクを受け取る。
「ほぉ、ちょうどいいや、桂氏がゲームについてまとめてるからみてみよう、どれどれ・・・」
「はずかしいなぁ。1週間目に突然言われたから凄い適当だよ」
「なぁに、かまわんよ」実際そんなモノである。

◆ストーリー
 内気な遥は水月とは正反対の性格。
 孝之はそんな彼女に戸惑いを覚えていた。
 そんなある日、孝之は突然、遥から想いを告白される。
 彼女を傷つけることを恐れた孝之は遥の告白を受け入れ付き合うことにする。
 これはゲームのパッケージに書いてあるモノのですが、ゲームの初期段階のモノです。
  ストーリーはこれから二転三転します。
 あまり多くを書くとネタバレになってしまいますし、面白さが半減してしまいますので控えまが、
「−−−−時間は人にとって最もやさしくて残酷なもの深く傷ついた
  心を癒してくれるかわりにあなたへの思いを移ろわせてゆく」

 この言葉に何かを感じた方ならば無条件でお薦めします。
 純粋に自分の思うままに物語を進めて下さい。エンディングでグッと来ます。

◆システム
ゲームを始めてすぐに気がつくと思いますが、
 「キャラクターがとても表情豊かである」 という事。
  その為、私的には推進スペックよりも若干余裕がある状態の方が 快適にプレイすることが出来ると思います。
  もちろん、CG鑑賞モードや回想モードもあり、
  過去のメッセージも音声付きで確認することもできるのでマウスの誤作動があっても安心です。

 そして私が一番驚いたことは、「セーブデータの数がMAXを越えると自動的に増えること」
 ゲームをインストールした状態でのセーブファイル数は10か20(覚えてません)なのですが、
  仮に初期値を20とすると、20番目にセーブをすると次回セーブ時には10増えて、トータル30になります。
 上限があるのかは分かりませんが(多分無いかな?) 私はセーブファイル数は70まで確認済みです。
  この作品は攻略対象人数が多いので(後で詳しく記載します)
  セーブファイルは多いに越したことはないのでとても助かります。

「なるほど・・・こういうゲームか?かなり親切なようだな」
「なるほどって沙門さん全部クリアしてるじゃないですか?」と桂氏が不思議に問い返す。
「いや、再販版はまだだ・・」
「・・・」
「まだ続きがありますよ」樹之夢真希はさらにスクロールさせた。

◆レビュー
 この作品は初プレイ時の攻略対象は「遥」「水月」そして遥の妹の「茜」の三人のみです。
 二度目以降ではこの三人に+五人が加わってトータル八人となります。
 これは、初プレイ時には純粋に物語を楽しんでもらうための工夫かと思います。
 私的にも、普通に物語を進めた場合先の三人のいずれかのエンディング以外考えられません、物語の流れを見ると。

 その物語の流れの中で、BGMや演出が臨場感を高め、この物語に没入させてくれます。
 途中、主人公の孝之にヤキモキするところも出てくるかもしれませんが、
 それを乗り越えエンディングを迎えた時、何かこみ上げるものがあると思います。

 当たりかはずれか分からないつまらんTVドラマやや映画を見るよりも
  この「君が望む永遠」の方が物語という点では十二分に楽しめると思います。
  何度かこの言葉を書いていますが、まずは「純粋に物語を楽しんで下さい」

「うぐぅ、なんか言いたいことが全部言われてしまったぞ」
「恐悦極意の極みですな」桂氏が云った。わかりずらいが・・・
「あんですと〜、なんならあゆやまゆのそれから天川さんの謎をばらすぞ〜」
「それだけは、やめて下さい、まだこれからなんです〜」
「あんですと〜」沙門は追い打ちをかける。
「まぁ、まぁ、まだ続きがあるんですよ」

 実は私、エンディングは遥と水月しか見ていません。
  かなりゲームとしてはボリュームはあるので、空いた時間にちょっと・・・・というのは難しいですが、
 一度始めると次の展開が気になってついついやってしまう。
  やはり物語、それと物語の展開が上手いのだと思います。

 他の五人についても五人の物語がきちんとあり、
  それぞれ何か得るものがあるのだろうと遥と水月の物語の進めていく中で感じました。
  まだまだ楽しませてくれそうです。寝不足の日々は続きそうです。

「寝不足か・・・」
「原稿仕上げないと寝不足どころじゃないよ」
「じゃ、さっさと片づけよう」
「そうだな、でも機会があったら本も創りたいね」
「すごい、ネタ考えたのに」
「どんなネタ?」
「あんですと大将軍」
「なんですかそれは?」
「さぁ、これから考えます」


すべてはここから始まった。


第二部【永遠の蔓延】

☆登場人物☆
 沙門祐希
・・「君のぞ」馬鹿。ついでにK田マリ子馬鹿でもある。文・構成担当。出身は奈良。社会人。
 樹之夢真希・・「君のぞ」馬鹿2号。絵描きを目指すプータロー。いつも沙門に翻弄されている。
 桂氏啓太郎・・「ねこねこ」馬鹿。T県に在住する。沙門と同じくK田マリ子馬鹿で、鍵っ子でもある。
 上野ふれき・・「君のぞ」馬鹿3号というか「茜」馬鹿。某ゲーム会社に勤務。K田マリ子馬鹿、かわうそ馬鹿。
 ピートル聡史・・沙門のお隣に住む「格闘」馬鹿。「君のぞ」馬鹿4号というか「茜」馬鹿?某ゲーム会社勤務。
 宇陀羅丸まぁく・・通称まぁくん。「君のぞ」馬鹿5号襲名。大阪在住のわりに秋葉原によく出没する。茜、あゆ馬鹿?


『ハァハァしたい?』
●二〇〇二年年明け都内某所


 沙門祐希はタクシーから降りて、部屋への階段を登った。時刻は深夜、もちろん明日は仕事である。久々の帰郷からの現実に引きもどされる。
 某声優グッズのトランクを担ぎ、また某声優のコンサートの余韻に浸ったまま、扉の鍵を開けようとした。
「やぁ、沙門さん、お帰り。実家はどうだったかい?」と、隣の部屋からぬぼーっとした感じの長身のがっちりした男が顔を出した。彼の名はピートル聡史。お隣に住むしがないフリーター、最近はとあるゲーム会社に勤めてると聞く。
「風邪引いちゃって、散々だったね。文字通り寝正月。というか、どうしたの?」
「いやぁ、どうしたもこうしたもないよ、沙門さん、年末、イベント後、アレ置いてったでしょ」
「・・・ひょっとして」沙門はなんとなく予想がついた、ちよれん祭、そしてコミケの後、色んな人がここに集まり、そして帰っていった。その時、沙門は上野ふれきという某ゲーム会社に勤めてる彼にあのゲームを貸したのであった。
 ちょうど、コミケに落選して、落胆した真希と北関東からやってきた桂氏と飲んでいた時のことである。
「もうじき、彼が来るよ。話したいことがあるって」
 これはこれは新年そうそう大変である。

「では君のぞウイルスがここ付近では蔓延していると云うことだね」熱いコーヒーを啜りながら沙門は云った。もう、夜中をすぎている。だが、寝れそうにない。
「というか、茜ウイルスだね」上野ふれきはばんばんと床をたたいている。ここ二階なんですが・・
「で、真希さんはどう思う?」夜中に呼び出された樹之夢真希は展開についていけてない。
「うーん、とにかく私は遙一筋ですから、その辺は沙門さんと一緒」
「ま、真希さんも全クリしたからね。二人はまだなんでしょ」
「遙と茜しかみてない。後は第一章もう一回やってるというか、これでよし!」
「これこれ床を叩かない。重傷だな。ピートル君は・・・君もかい?」やれやれと沙門は首を振り、寝る支度をする。明日も早いのだ。
「水月のエンドも見て欲しいね。真の遙エンドだし。茜のエンドは四つあるけど全部みたの?」布団に潜り込み目覚ましをセット、三時間ぐらいしか眠れない。
「四つ?え〜、ほんと?」二人とも心底驚いたようだ。
「ちなみにいくつエンドがあるの?」
「一四だよ〜、詳しくは沙門のホムペで確認して、もう寝るよ。真希さん後はよろしく」布団を顔にかぶせていった。

●二〇〇二年 年初のある日
  沙門はとある申込書と睨めっこしていた。
  結局、君のぞウイルスが思った様に蔓延して、沙門の周りでも白熱している。 いろいろなHPを見てるとよくわかる。
  昨年、導入したADSLなる夢の通信環境を手に入れ、日夜、ネット三昧。チャット三昧。いやはや、世間の不景気とは何のその。
 沙門自身は年末から『螺旋回廊2』というゲームに取りかかっていて精神的にまたウイルスにやられていた。
 おもむろにネットをしながら電話をかけた。
「真希さんかい?」
「ああ、沙門さん、どうしたの?」
「参加する事にしたから・・後よろしく」
「さ、なに?」言い終わらないうちに受話器を置く。
「これで準備よし!」と云いながら風呂に入るため立ち上がった。
 その後、電話が再度あり、夜中に真希が訪れた事は言うまでもない。間近に迫った「RumblingPegent」の申込書記入のためである。ついに、『君のぞ』制作班が動き出したのだ。
 だが・・・
「真希さん・・・」打ち合わせにきた真希に沙門はそっと言った。
「また、どうしたの?今度は、レヴォの申し込みも書いたし、そっか、コミケだね?」
「いや、コミケはまだ。壊れたんだ・・・マシンが・・」
「・・・直してくださいよ」
「ううむ、そうしたいのはやまやまなんだが、秋葉までには出るのはめんどくさくて。真希さん行ってくれない?」
「・・・動きたくないのね。わかったよ。原稿どうなっても知らないからね?」
「その分、ふれき君が参加してくれるって。何かね、茜の神から天命が下ったとこなんたら。よく神が降りるなぁ」
「感心してないで考えてくださいよ。また、土壇場で苦しむんだから」
●二〇〇二年 如月の都内某所

「やっぱりこういうことになったな」沙門祐希は明るみてきた空をみて云った。
「何を云ってるんですか、沙門さんのせいじゃないですか?」
「何を云うんだ、真希さん。いろいろ問題が起こるのを予知できなかったのが、まずかったんだよ」
「予知していたくせに、また、突貫工事じゃないですか・・」樹之夢真希は疲れた様子で右腕をマッサージしている。
「ふぁぁ、じゃ、少し眠るよ。後は宜しく」そのまま沙門祐希は倒れ込んだ。
  沙門宅を訪れていた真希は手持ちぶさたで、仕方なく、今し方できあがった原稿を手に、コピー機を探しに街へ出かけた。
「結局、こうなるんだなぁ。桂氏さんでも呼べは良かったのに」

●二〇〇二年 如月の都内某センター

「何とか間に合った」樹之夢真希は荷物を卸し溜息をついた。
「今日はよろしくお願いします」隣の席から声をかけられ、はにかみながら答える。
 今日はイベント当日。
 『RumblingPegent』である。
 たった今までコピーに奔走していた真希はほっとして開場準備にとりかかった。
 程なくして、開場。初オンリーイベントとだけあって、いやでも熱気に包まれる。
 各々が『君が望む永遠』に情熱をぶつけていた。
「・・・うずうず」しかし真希はその情景に耐えられなかった。
  行きたい・・買いに行きたい。俗に言う蛇の生殺し状態である。 特に人気のある行列のあるサークルなど、どんな本を創ってるのだろうと気になる。
 しかし、真希はお客さんが来たり、お隣さんと仲良くなったり、アージュのスタッフさんを見つけたりしているうちに忘れてしまった。
「ねこねこっていいよねぇ」不意に声がして、自分が眠気でボーっとしていたのに気づいた真希は安堵した。
「桂氏さん、来たんだ・・」
「おやおや、真希さん、悄げた顔してどうしたの?ほら差し入れ」長身の彼はおにぎりとお茶を渡すサークル側に回り込んだ。
「いやぁ、徹夜だから・・」
「寝ないと体に悪いよ。僕もオークションで徹夜することあるけど、電車が遅れてね。けっこうここまで遠いからね。おや? 沙門さんは?」
「それが、まだ・・」真希がやれやれといった風で云うと背後で声がした。
「・・・心外だなぁ。ちゃんと来ているよ。つい、アゲくの果てまで行って来ちゃったけど」全身黒 づくめの人物が立っていた。手にはすでにいくつか本も持っている。
「沙門さん」やれやれと云った感じで真希は立ち上がった。
「どうかね、売れているかね。徹夜した我らの血の結晶は?」
「そんなたいそうじゃ無いけど、そこそこは。あ、アージュのスタッフの方が来たよ。本買ってもらった」
「なんとっ、う〜ん。悠長に寝ているわけではなかったか」
「やっぱり寝過ごしたんだね」桂氏はそういいながらおにぎりを沙門にも渡した。
「ううむ、クロウカードの仕業だね」
「「ちゃいまんがな」」
「二人してつっこまなくても。ああそうだ、栗林みな実さんも来ているようだね」
「チェックはやい・・・」二人は呆れたのであった。

●二〇〇二年 桜散る、都内某所

  月日が流れるのは早く、あのイベントから1ヶ月以上経過してしまった。その間にも大阪でイベントがあり、最近はまった宇陀羅丸まぁくが派遣された。
 真希は宇陀羅丸がよく秋葉に来たとき一緒に付き合わされる。 最近は沙門氏とも連絡を取っていないので心配で自宅を強襲することに決めた。 コミック・レヴォリューションに落選、「マブラヴ」も発売延期となり、落ち込んでいないのかと心配になったのだ。
「おや?真希さん、久しぶり」隣に住んでるピートル聡史が髭ぼうぼうの顔で挨拶した。
「ピートルさん、ひょっとして引きこもり?」
「そうそう、ってちゃいまんがな。髭は会社に寝泊まりしていた証拠。最近帰ってへんからなぁ」
「じゃ、沙門さんとも連絡は?」
「しらへん、ホームページの情報くらいや」
「そうなんだ。お疲れだね」 真希はチャイムを押し、扉の外で待った。早くしてもらわないと終電が無くなってしまう。ま、歩いて帰れるけれど。 返事がないのでドアノブを回す。開いている。物騒だ。いつも開けっ放しで寝ているのか? 恐る恐る中に入るとテレビのブラウン管が発するオーラを感じた。
「ロケットパーンチ」声が聞こえる。嫌な予感がした。
「ああ、真希さん。どうしたの?」
「沙門さん、元気そうですね?」
「そんなこと無いよ。心外だなぁ。シュールに熟練度を上げる努力をしているのだよ」
「もう、次のイベントが近づいてるのに連絡無いから心配してきてみたのに」真希はへなへなと座り込んだ。 いつもとばっちりは自分に来るのである。
「なかなかネタが思いつかないのだよ。やはり、『君のぞ』でHは出来ないかなぁ」
「何言ってるんですか。エロゲーなんでしょう」真希はテレビから流れる懐かしいBGMに乗らないように気をつけながらどうにか話題を続けようとした。
「ううむ、じゃ、真希さんは思いついたんだ」コントローラを置き、パソコンの電源を入れる。キュイーンと言う音とともに立ち上がる。程なくして、壁紙が現れた。綾峰慧である。遙の起動音。
「思いつかないからここに来たんじゃないですか・・。宇陀羅丸さんがかなりはまってるんですが、特に茜に」
「彼は妹属性がかなり強いからねぇ、真希さんもじゃなかった?」
「違いますよ。上野さんの方です。あ、ちょっと貸して下さい」真希はマウスを奪うとあるボタンをクリックした。
「何を立ち上げるんだ・・・」
「沙門さん、熱き心を忘れかけてはいませんか?」
「むぅ、これは・・・」
 モニターに流し出されたのは、遙のリハビリシーン。二人ともしばらく釘付け状態。久しぶりの音声に聞き入っていた。
「真の遙エンド」沙門はぽつりと言った。画面は本屋さん。絵本を手に取る孝之。
「やはりこれでしょう・・・」
「これか・・・うぐ・・」悲しい記憶が呼び出される。誰もがプレイ後に陥る症候群。
 オコジョが登場。エンディングテーマが流れる。涙も流れるというもの。
 二人ともしばし、感傷に浸っていた。熱き想いが甦る。誰かに伝えたい、このすばらしさを。
「思いついた」かなり経ってから沙門はぽつねんと云った。
「やっぱりいいですよねぇ・・。ん? 思いつきました?」
「オコジョだよ・・・エロがだめなら、ギャグだよ。真希さん。大阪人の根性見せてやろうじゃないの」
「ギャグ?大阪とちゃうし・・厳密には奈良でしょ。ま、いいですよ、打ち合わせをしましょう」
 こうして、土壇場で同人誌制作が大詰めを迎えようとしていた。


第三部【永遠最終計画】

☆登場人物☆
 沙門祐希
・・「君のぞ」馬鹿。出不精なのに最近は動き回っている。「遙」馬鹿。
 樹之夢真希・・「君のぞ」馬鹿2号。絵描きを目指す。いつも沙門に翻弄されている。
 桂氏啓太郎・・「ねこねこ」馬鹿。「おるすばん」や「おいしゃさん」に命を懸ける・・補導歴はいいますまい。
 上野ふれき・・「君のぞ」馬鹿3号というか「茜」馬鹿。最近は「マブラヴ馬鹿」
 ピートル聡史・・「君のぞ」馬鹿4号というか「茜」馬鹿。今日も挌ゲーに明け暮れる。
 宇陀羅丸まぁく・・「君のぞ」馬鹿5号。妹のねここ信奉者。今日も首輪を求め虎を彷徨う。
華瑞姫慧子・・雑誌の記者を目指す学生。なぜかドイツ語が得意。
MG明石・・沙門の師匠。兵庫県に在住。
重ねて言いますがこれらの登場人物はすべて架空で実存の人物の思想、趣味、嗜好とは異なります。
『新章』


●二〇〇二年 初夏、都内某坂にて

  「ふぅ、もう少し・・」華瑞姫慧子は自転車のペダルを踏みしめ、坂を一気に駆け上がろうとしていた。
「向かい風には負けるもんですか!」負けん気の強い彼女は自分には不釣り合いに大きな自転車をぐらぐらと揺らしながら何とか足をつけず登り切った。
「ここね・・・」自転車を止めると階段を駆け上がる。背中には小さな背負い袋。羽は付いていないが、彼女自身は付けたいと思っていた。
「あれ?」チャイムをならすが鳴らない。もう一度押してみる。
「ここだと思うんだけど・・違うかな?」
 彼女はしばし考えた後、うなずいて隣の部屋のチャイムを押した。
「は〜い」と、扉から出ていたのはピートル聡史。ん?と顔を顰め、目の前の小柄な女の子を眺める。
「宗教の勧誘は、おことわり」
「え?ちがうよ。あなた誰?あ、あ、あの音はEFZ」
「?何、あ、う」突然の展開に着いていけない。慥かにそういう挌ゲーをしているのだが。だが、彼は元ネタのゲームは知らない。いや、アンチ派の彼はメジャーなゲームには手を出さないのだ。
「えっと、沙門さんってあの部屋よね」
「・・そうだけど。なに?いないの」ようやく落ち着きを取り戻した彼は彼女を見た。妹だろうか?
「チャイムが鳴らない、鳴らないチャイムに意味はあるのでしょうか?」小首を傾げて彼女は訊ねる。
「・・・意味は無いと思うけど、沙門さんは煩いからといってたしなぁ・・」頭を掻きつつピートルは扉を叩いた。
「煩いなぁ、静かに叩けないものかなぁ?おや?どうしたの?」眠たそうな眼差しで沙門は扉から出てきた。光が眩しいのか、顔を顰めている。
「・・・・・沙門さん」慧子はピートル聡史の背後から顔を出した。
「・・・ああ、仕事を思い出した」徐に扉を閉めようとする。
「仕事って、こんな日曜の真っ昼間から何言ってるんですか?」屈託無く扉を閉めるのを阻止する。呆然と見るピートル聡史。
「編集者?」
「「(違う)違います!」」

「どうして、君がここにいるの?仕事辞めたんじゃないの?」
「今、学生してます。で、貧乏もしてます」
「ああ、とにかく、うちは駄目だから・・・そうだ、真希さんとに行こう」
「真希さん?」
「え〜、PSOであったことあるよ。シェルって覚えてる?」

●樹之夢真希の部屋

「狭い部屋。大量の塵に埋もれ、樹之夢真希はダンボールの前に鎮座していた。まったくもって、 なんともみっともない格好だね」
「勝手に来といて何て言い方なんですか?」
「いいから、いいから、上がるよ。ほんと狭い部屋だね。もちっと整理整頓しないといけないな」沙門は部屋を横切り、彼女を招き入れた。
「ほんと衛生的ではないですね。しかし、なんですか?ダンボールが机なんですか?」と華瑞姫。初対面の彼女にずけずけと云われながら、真希はばつの悪そうに「沙門さんの方が煩雑なのに」とか「漫画家はダンボール箱と相場がきまってる」とぶつくさ呟いた。
「ふん、私のはきちんと系統だって分けられているのであって、モノが多すぎるからそう見えるだけなのだ」
「そんな言い訳、見苦しいです、沙門さん。初めまして、私、華瑞姫慧子と申します」ぺこりと屈託ない笑顔を見せる。もはや小柄な彼女のペース。
 展開に付いていけない真希は沙門をみやった。沙門も沙門でやれやれと云った様で対処に困っていた。
「実はねPSOで、先に逢ってるんだよ。少しの間だけど・・・」とにかく話を切り出す沙門。
「今日は、最近の萌えゲーを教えて貰いに来たのです」慧子は言葉を遮った。
「萌えゲー?」二人してきょとんとする。
「子供にははやすぎ・・・ぐっ」鳩尾を押さえる沙門。いつもの快活さがこの女の子によって叩きのめされている。
「子供じゃありません!背が低いからって」
「何か、あゆみたい」真希が感想を云う。
「あゆ? どういうところが?私は天使じゃないよ」と言葉尻を捉える。勘違いされたようだと悟った真希はおどおどとする。自分も殴られるのかと思ったのだ。
「・・・ま、いいから。どうして萌えゲー何か?」
「記事を書かないといけないんです。萌えゲーが課題」
「なんだそりゃ、というか、何の学校や」
「とにかく、萌えとか燃えとか、何か奥が深いらしく・・私の知識では到底追いつかなく、沙門さんの類い希無き、その手への知識を拝借できればと思い、自転車を侍らせて・・・」
「何か、嫌みたらしく聞こえるが・・・、そうだ、真希さんちょうどあれがあったでしょ」
 意図がわかった真希は例のソフトを取り出し、彼女に渡した。
 もちろん「君が望む永遠」である。
「ま、そういう事だからとりあえずやってみよう」
「学園ものですか?AIRとかKANONみたいなの?」
「まぁまぁ、いいからいいから。途中まで送って行くから、今日の所は帰ろうね」
「・・・もうひとつ、お願いが・・・」
「何?」
「貧乏学生にお恵みを」
「結局それかい!」



☆中略☆
●樹之夢真希の部屋

「延びちゃったね」
「ああ、延びたね」草臥れた声を出したのは沙門。放心状態で壁にもたれかかっている。
「まぁ、まぁ。時間が出来たんじゃないの?」真希は狭い部屋の中を横切り、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
「まぁ、そうだけど。いまいち気持ちが乗らないんだ」
「レヴォ、ドルパ、キャラクターカーニバルと色々あったからね。疲れたのかも」
「ああ、楽しき事はすぐ終わってしまう。真希さんもそう思わないかい?」手にした果汁飲料を飲みながら溜息をつく。
気持ちが盛り上がらない。いつもの事だが、やりたいことがたくさんありすぎて何をやっていいかわからない状態。
「余韻に浸るってやつかな?仕事がうまくいってないんだね」さすがにつき合いの長い真希は沙門の心情が何となくわかった。だが、しかし・・・
「でも、吸収したものは吐き出していかないとね。ふれきさんだって、やりたい事があるって、すかてんで働く!っていってたじゃない!」
「っ、そうだったな。ただ単に受動態に甘んじていてはいけないなぁ」
「その為に、出不精の沙門さんがここに来たんでしょう」
「そうだった。あまりの部屋の煩雑さに忘れてしまったが、これだよ、これ」沙門は封筒を二つ取り出した。
「これは・・・サンクリとコミケのチケット」
「これが、勝利の鍵だ。『君が望む永遠』でついにとれたのだよ。マブラヴは延期になったけど、その分、遙や水月達とまた出会えればいいじゃないか!」完全回復した勢いで沙門は立ち上がり、さながら某総帥張りに宣言した。
「隣に聞こえるので静かにね・・・」
「ああ、すまん。で、どうする?前回まではコピー誌でお茶を濁したけど、さすがに、今回は」
「オフセなの?サンクリまで2週間か、厳しいね」急に険しくなる真希。それもその筈、自分が絵を描くのだから。トラブルがおこったり、沙門がギリギリまで原案を出さないからいつもとばっちりを喰う。まだ、駆け出しなので遅筆も手伝って何とか出せたという。オフセなんて出来るのだろうか?
「明石先生の手伝いも今回はないし。こっちも仕事が立て込んでるし」沙門も厳しい表情だ。
「ネタ次第だね。前回はギャグでお茶濁したけど。真面目な話、エロにしたってテーマが重くて弄れないよね」
「うん?それだよ、それ。弄れないならおもっきり弄ろうよ。根底から変えてしまえば」沙門はしたり顔で口角泡を飛ばした。
「変える?どういうこと?」
「『螺旋回廊』というゲームはした?2でもいいよ」
「いいや、やってないよ。今、スイートナイツに手を付けようかとしてるけど」
「話が色々分岐するんだよ。情け容赦なくヒロインが凌辱されたり、それを持ち込む。丁度、作品的に絡んでるしね」
「それはいいけど、やったこと無いから。絵コンテとか沙門さんやってね」真希はにやりとした。
「・・・それは考えなかったな、しまった」
 こうして新たな旅が始まった。

「夏コミ奮戦編」
☆登場人物☆

沙門祐希・・
「君のぞ」馬鹿。人生倍速が信条。「K田M子」嬢馬鹿でもある。
樹之夢真希・
・「君のぞ」馬鹿2号。絵描きを目指す。最近出番が多く嘆いている
宇陀羅丸まぁく・・
「君のぞ」馬鹿5号。妹馬鹿で、ねここ信奉者。虎を彷徨う。
華瑞姫慧子・・
雑誌の記者を目指す学生。なぜかドイツ語が得意。
都内某所

 宇陀羅丸まぁく、通称まぁくんは汗だくになりながら数字の名の付いた坂を登っていた。
「さすがに歳のせいか応えるのですよ・・ふふ」汗を拭いながら小休憩。日差しがきつい。でもあの夏の宴の事を考えると大したことはない。目指す家が見えてきた。樹之夢真希の部屋である。
「私、わかったんです」華瑞姫慧子は腰に手を当てて力説していた。
「売れない理由は、『萌え』が無いからなんですよ」
「むぅ、萌えですか、萌え・・」
「ええ、あれから、色々調べたのですよ。慥かに技術的なこともあるかと思いますが、萌えですよ。一昔前は、私も燃えの方だったのですが今は萌えが流行しているのですよ」
「真希さん・・・あ、お客さん?」汗だくのまぁくんは予想できなかった光景に目を白黒させた。
「宇陀羅さん?誰か召還したの?」
「いや、いや、ちょっと秋葉に用があって、こっちにも顔を出したんですよ。これから沙門さんの所にも寄ろうかなと」
「・・・げりらライブだね・・。ああ、紹介しよう。華瑞姫さん。記者を目指す知的少女」
「知的少女ですか?そんないいものではないけど・・・」
「お兄ちゃんと呼んで」
「は?」
「いや、何でもないです。みなさんに紹介しようかと連れてきたんです」彼の背後からひょこっと現れたのは可愛らしい女の子であった。
「こんにちは、宇陀羅光と言います。お兄ちゃんがお世話になっています」
「・・・妹っていたんだ」真希はびっくりした。
「昨日出来たんだ。あ、宇宙人とかじゃないよ。ま、今後もよろしく、あと、夏コミの打ち合わせでもと思って来たんだけど、カタログ買いました?」
「よくわからんけど・・カタログは買ったけど、それ何処じゃないんだよ。原稿仕上げないと・・」
「どれくらい進んでるの?」
「ゼロ。だって、沙門さんがストーリーまだあげてないもの・・・それに・・・」真希は光と戯れている慧子を見た。すでになついているというか、慧子が小柄なせいか違和感がない。
「萌えですよ・・」こちらをちらりと見ず、慧子は答えた。
「萌えですか・・。慥かに萌えです」
「わかってるんですが、このシリアスな話で・・・」

●ある夏の暑き日にて

「暑い・・じっとしてても汗が出る。だるいなぁ」樹之夢真希は沙門が置いていった門井嬢作のうちわを降りつつ口に出してみた。
出して見た所で涼しくなろう筈がない。
涼しいと云えば先日これまた沙門が買ってきた涼屋というペッドのお茶(何か札が付いているだけだが)、あれが冷蔵庫に入っていたな、真希は億劫に立ち上がった。その時、電話が鳴った。
「おはよう、真希さん。仕事はかどってる?」沙門の声だ。編集者さながらの質問に真希はやれやれと応えた。
「まだですよ。何か、暑くて、だるくて何も思いつかないんですよ。この間、華瑞姫さんが『萌え』というから気になって・・・」
「本当は『マブラブ体験版』や『妹でいこう!体験版』やってたんじゃないの?」
「・・・あれ、置いていったのも沙門さんじゃないですか!」お茶を手に真希はダンボール箱の前に座った。
「慥かに、だが、原稿の息抜きにと思って、ね、萌え研究の為にね」
「いつも〜おかねなくて〜、いつも〜おねかすいて〜」
「それはコミックカフェ」
「冷たいですね。でも、これじゃ描けないですよ。
茜編でしょ、話的に萌えの話じゃないし。
それに沙門さんのストーリーって、茜、あゆ、赤、火焙りって、何の事かわからないですよ。最後にマブラヴとか書いているし、どういう話なんですか?」
「気の早い事やな。もう少し落ち着かないと。
とりあえず、時間がないので、来週はみな実さんのライヴもあるしね」
「いいですね、人が原稿描いている時に・・・私は行けないんですよ。
なのに沙門さんはK田M子嬢のライヴも行くんでしょう」
「仕事だからね。ライフワークというか・・で、表紙は出来たの?」
「今、線画は終わってます。遙と茜の絵と、あゆとまゆの絵。
あ、いいこと思いつきましたよ。沙門さん、これから着色しに来て下さい。
ついでに、ネームもやって下さい。さもないと間に合いませんよ」
「・・・桂氏君を呼ぼう・・いや、彼は駄目だ。むぅ、夏コミの為・・わかったよ」
「・・やけに素直ですね」
「ああ?いや、もともとそのつもりで、軌道修正しようと電話したのだよ。もっとも、着色と言う話は考えてなかったけどな」

沙門祐希&火炉那合同企画記念本
☆登場人物☆
沙門祐希・・・「君のぞ」馬鹿。K田M子嬢馬鹿でもある。現在栗の子馬鹿目指し奮戦中。
樹之夢真希・・・「君のぞ」馬鹿2号。最近絵デジタル処理に目覚めるが、ついでに美少女ゲーにも目覚めてしまう。
火炉那・・・「君のぞ」馬鹿。「葉っぱ」馬鹿でもある。通常の3倍のパワーを持っている(何が?)
宇陀羅丸まぁく・・・「妹」馬鹿。最近、妹だけでは満足できない模様。
宇陀羅光・・・宇陀羅丸まぁくの妹。一応、彼の願望が奇蹟を呼んだのだ.

●ある8月の長い夜

樹之夢真希はのんびりとモニターを眺めていた。過酷な修羅場が終わり、後は夏コミ本番までのひとときを過ごすだけであった。
オフセを出すというのはこういうことか、今までの直前の作業は何だったのかと思う。
 突然電話が鳴った。突然鳴るのは当たり前の事だが、最近、借金の催促や、勧誘電話が多くて電話に出るのが億劫なのだが仕方がない。今の所、気分が良い。それがいけなかった・・
「あ、真希さんかい?」電話口の向こうは沙門であった。
「なんだい? 沙門さん」
「ん? エスカレイヤーかい? いけないなぁ?」BGMを聞き取ったのか沙門は話題を変えてきた。気まずそうに真希は音量を落とす。
「沙門さんが置いていったんじゃないですか? 沙門さんだってみずいろや水月やってるんでしょう?」
「いや、それが出来なくなったんだ。仕事だよ、仕事・・・。今度、コロナさんとこの本、委託する話したじゃない?」
「ええ、そうでしたね。おかげで、今回はたくさんお人がお見えになる様で、現に宇陀羅丸さんはここで任意聴きまくってますし」
「そうかい、まぁくんがね。今回は早いねぇ。ダミーの土産は買ってきてくれたのかな? 今日仕事休んで掃除してたから部屋にいると伝えて置いてくれ。麻、彼の妹にでも持たせてくれればいいけどね」
「また、故郷に帰らないんですね」
「今年は、ちょっと、ライヴとかで休み使ったからね、今、実家へ帰ってることになってるし。それより、手短に言うけど、コロナさんと合作でコピー誌を作ることになった」
「え?」思わず声が裏返る。気にしていた宇陀羅丸がこっちを見る。光ちゃんもひょこっと首を捻る。
「どうしたんですか?」彼女は訊いた。
「どうやらゆっくりとくつろいでいるわけにはいかなくなったようだ」
「ん? 真希さん、聞いているかい? そんなわけだから、適当にイラストを描いとく様に。詳細は明日会場で並んでる時にね」
「真希さん、何か、楽しそうですね」
「宇陀羅丸さん、手伝いますか? 昔みたいに、そう、赤ずきんチャチャの時の様に」
「・・・光、手伝ってやりなさい。僕は沙門さんに土産を持っていかねば・・」
「・・・光ちゃんが沙門さんとこにいくようにだって」
「そ、そんな・・・。ちょっと、早めに秋葉に行きたくて来ただけなのに」
「手伝ったら、沙門さんから「妹でいこう!」のサントラ借りてきてあげるよ」
「いもうとなんだもん、ぎゅっとしたいの〜」と光が歌う。
「・・・手伝うのですよ」宇陀羅丸の目はハの字になっていたのは云うまでもない。 
 かくして、コピー誌製作が始まった。


長編 闘いの果てに


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