「酒販ニュース」2002年2月21日号 佐藤吉司記者の取材より

「不均一な成熟」に持ち味
様々なベリーの味を表現

Zinfandel
ジンファンデルといえば、
オーストラリアでいう「シラーズ」のようにな位置づけで、
カリフォルニアを象徴するブドウ品種にまで昇華されている。
そして一般に「濃くて、甘い」と連想されがち。
日本では一部の愛飲家を除いて
あまり馴染みがないだけに、誤解も多そうだ。
「ミスター・ジンファンデル」リッジ・ヴインヤーズの
ポール・ドレイバー氏から繊細なジンファンデルをつくる
ダグ・ナール氏、廉価品を得意とする(クライン・セラーズ)の
マット・クライン氏ら第一線の造り手から、
ジンファンデルの本質を探る。
登場人物

●ポール・ドレイパー氏/リッジ・ヴィンヤーズ(サンタクルーズ・マウンテン)

●ダグナール氏/ナール (ソノマ・ドライクリーク)

●ダン・テルデッシ氏/テルデッシ (ソノマ・ドライクリーク)

●マット・クライン氏/クライン・セラーズ(ソノマ・カーネロス)
目次

●開花時期はまちまち

●自然発酵

●長期熟成にも耐える

●原産地はクロアチア
開花期はまちまち
 発酵タンクのなかをのぞくと、他のブドウ品種とは何かが違う。レーズン状の黒い実もあれは、少し皺のよった黒紫の実、張りのある紫色の実、明るい赤紫の実、成熱度合の違う実が一緒に入っている。よく言われるようにジンファンデルは「均一に熟さない」ため、様々な実が混ざるのだ。
 同一の房であっても、そのなかでの開花時期がまちまちで、五月雨(さみだれ)式に開花していく。同じ房のなかの最初の開花と最後の開花のタイムラグが例外的に長い品種だ。従って、ブドウの実の成熟もまちまちで、レーズン状にまで成熟したものとパンパンに張った赤紫の実、時には青い実が同一の房に生っている。この開花のタイムラグが「均一に熱さない」とされる要因だ。
 青い未熟果が発酵タンクに入ることは避けなければならないが、「不均一な成熟」は果たして欠点かというと、そうでもないようだ。
 「まちまちな成熱過程ゆえに、非常に幅の広い果実味のスペクトラムをもつ。ラズベリーから、チェリー、ストロベリー、ブルーベリー、ブラックベリーなど様々な風味を出す。これこそ不均一な成熱の実によって構成されるからで、不均一こそジンファンデルの宝だと思う」(ナール氏)
 ドレイパー氏も同意見だが、リッジのワイン造りでは、「なるべく完熱した実をえるために、89年から選果を細かくやるようになった。収量制限もした方がいい」と付け加える。
 四人の造り手の言葉から、カベルネ・ソーヴィニヨンとの比較でジンファンデルの特徴を描写してみる。カベルネの1.5倍程度の房の大きさで、房の肩の部分が張っている。カベルネは皮が厚く、収穫期に雨が三〜四回降ってもカリフォルニアでは病気にならないのに、ジンファンデルは皮が薄く、数回の雨でカビや病気が出る。タンニンはカベルネより少ない、特に種のなかのタンニンは少ない。色づきがよく、濃い。
 「単独よりはフレンドした方が美味しい。昔の人がすごいなと思うのは、ブドウ畑はジンファンデルを中心にカリニャンやサンソー、シラーなどが混植してあること。フィールドフレンドと言っているが、美味しいジンファンデルの比率を知ってたんじゃないだろうか」(ドレイバー氏)
 造り方も様々だが、共通しているのは、カベルネのようなタンニンの多いブドウではないので、ロングマセレーションはあまり用いられないことだ。
自然発酵
 〈ナール〉はフルゴーニュ・ピノ・ノワール風で、ステンレスのオープンファーメンター(発酵樽)でパンチダウンを用いている。自然発酵。同じくドライクリークの〈テルデッシ〉もこれとはとんど同じだ。
 〈リッジ〉は、ローヌ地方のサブナージュを組み込んでいる。発酵中に金属製のグリッド(スノコ状の格子)を果帽の上に落とし、果帽をワインのなかに沈めてよく抽出する方法、シラーで用いられる方法だ。これにルモンタージュ(ポンプオーバー)を組み合わせている。
 規模の大きい〈クライン〉は、密閉式の大型のステンレスタンクで発酵、ポンプオーバーを用いている。年産10万箱とカリフォルニア最大のジンファンデル生産者だ。
 いろいろな造り方を用いることができ、かつ果実味のスペクトラムが広いことから、ジンファンデルはスタイルのヴァリエーションが豊富。
 「ボジョレやローヌみたいなスタイル、カベルネみたいなスタイルもあれば、フルゴーニュのようなものもある。たくさんのバラエティが表現できる」(ナール氏)
だからこそ、「ワイン雑誌が、ジンファンデルはアメリカンオークを使わなくちゃいけないとか、濃くて甘くなくちゃいけないとか、こういう造り方で、こういう味こそジンファンデルだ、みたいなことだけは言ってはしくない」(同)
長期熟成にも耐える
熱成ポテンシャルは、ナールによれは「6〜10年くらいが一番うまい、12年ぐらいからゆっくり下り坂に入る」。テルデッシ氏は「発酵終了後から美味しく飲めるが、四年ぐらい経つとグンと美味しくなる」。
数年前、ドレイパー氏はロバート・パーカー氏との話のなかで、パーカー氏から「ジンファンデルは長期熱成には不向きで、若いときに飲まないとよくない」と言われたそうだ。ある日、ドレイバー氏はパーカー氏との食事の時に、1973年と74年のジンファンデルを持参した。それを試飲してパーカー氏は15分ほど無言のままだったという。いまだ若々しく複雑な味わいだった。これを機会に、パーカー氏の認識は変えられたようだ。「99年のリットン・スプリングスは25年は平気で熟成すると思う」(ドレイバー氏)

といいつつ、彼は別の所で、こう述べている。結局同じ意味かな〜
原産地はクロアチア
 なお、ジンファンデルは、つい数年前までイタリアのブリミティーヴォ種とまったく同じものではないが、同一の起源をもつ非常に近い存在とされてきた。しかし、その生まれがイタリアであるのかははっきりしないままだった。しかし、UCデイヴィス校の最新のDNA鑑定の結梨、ジンファアンデルがクロアチア原産のクリルジェナック(Crljenak)という品種と同一であるという結論に達した。クリルジェナックこそ、ジンファンデルの祖先であると。ブドウの遺伝子研究者キャロル・メレディス女史とクロアチアの科学者イヴァン・ペジック氏らにより突き止められたこの報告は、つい最近行われた。



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