信じるこころと勇気にみたされて
わたしは白昼を生き
浄らかな炎につつまれて
夜々を死ぬ
(「ドイツ・ロマン派詩集」国書刊行会刊p98)
太古の記憶。血のかおり。夜をかさねる。 とこしえへの回帰と、満たされぬ渇望。 失われた恋人としての、すずやかな死。
このひとの作品って、すごく好き嫌いが別れるところでしょうね。 実際彼の詩を読んでみると、ロマン派の詩人たちが「霊感」と呼んだインスピレーションを 手ずからえぐり出すようにつきつめていく姿勢が生々しい。敬遠してしまうひとも多い反面、 当時から一部の、特に青年層においてカルト的な人気を得ていた濃密なイメージがいまなお読み手に 圧倒的な影響力を与えていることも事実です。それだけの特異性を持った詩が現在のわたしたちの手に 届く範疇にある(しかも異国の作品で)ということを考えると、ヨーロッパという地域の裏の精神史と いうか、ひかりのあたることのない重い影の上澄をみせられる感じがします。 たいていそういうものはキリスト教がいろいろな意味でちからを持ちはじめる以前の土着信仰やイシス信仰、 原始キリスト教などの色彩が強く、それがまた文学活動としてのロマン派のきわだった特質ともいえる ようです。もっともそういった傾向はロマン派ならずとも文学史のあらゆる面で見え隠れしていて、 いわば公然の事実みたいになっているので、現象にたいして声を大にするようなことはなにもないのですが。 個人的には宗教的背景うんぬんよりは彼のイメージの鮮烈さ、詩としてのつよさにこころ惹かれます。 現世逃避的ともいえる作者の姿勢には相容れないものを感じますが、逆に彼岸への渇望があればこそ 研ぎ澄まされた感性や特異性も生まれるわけで、わたしにとってなにかと考えさせられる作家です。 <ノヴァリース> ドイツ初期ロマン派の詩人。自然科学に傾倒し、「魔術的観念論」と称される独自の世界観を 構築。愛妻の死を通して描かれる異界への憧憬と官能的ともいえるイメージの融合がみられる作品を残す。 ロマン派の典型。
Cf:ロマン派 Cf:詩的霊感 マラルメ