アバン


彼女はたぶん真実を見つめたくなかった。
だから涙も流せなかったのだ。

でも「戦う理由」を見つけたから真実と向き合う勇気が出来た。
真実と向き合ったから悲しいことを悲しいと認めることが出来た。
たとえどんなに憎いと思っていても、やっぱり愛していると気づくことが出来た。
そのとき人はただ泣くことしかできないのだということに・・・

だけど私は・・・まだ泣けなかった。



なぜなにナデシコ・戸籍編


こんばんわ、白百合です。
今回は戸籍に関してです。
本当はユーチャリスかホワイトサレナの事に関してお話ししようかと思ったんですけど、どうせこの後、月のネルガルの基地に着いたらサリナさんが二代目説明オバサンの如く説明しだすでしょうからやめましょう。

23世紀の現在においては男女同姓や男女別姓のどちらもありません。
例えばユリカさんの場合は、旧姓がミスマルでしたので、結婚後はテンカワ・ミスマル・ユリカが戸籍名となります。これはあくまでも戸籍名ですので所属報告など身元確認以外には使用しません。
普通はテンカワ・ユリカあるいはミスマル・ユリカのどちらを使用してもかまわない事になっています。

さて、離婚したらどうなるのでしょうか?先の例では単にテンカワがとれてミスマル・ユリカになるだけの話です。つまり、簡単に言うと複数の籍に入ることができて、自分でどれをメインにするか選べるわけです。
ちなみに子供の場合は成人前は両親の姓を戸籍名として持つ事になりますが、成人後はどちらかを選べることになります。一応、相続権などのからみもありますので。

さて、私の場合はといいますと・・・ホシノ・ルリはホシノ・ルリのままでした。
ま、養女とはいってもテンカワの戸籍に入っているわけではありませんし、何より親子になると結婚できませんから・・・。
養女ではなく妻としてテンカワ・ホシノ・ルリになりたいものです。
まぁ、願望ですが・・・(///)

もうすぐ着艦ですので、それでは今回はここまで



Nadesico Princess of White(Auther's Remix ver.)

Chapter6 父あるいは娘の事情 - RURI SIDE -



ネルガル月面ドック・ユーチャリス専用秘密ケイジ


ケイジに係留されたユーチャリスからサングラスのようなバイザーと白いマントに身を包んだホシノ・ルリが降りてきた。
「姉さん!!」
後から着いて来たラピスがルリの腕にしがみ付いた。
「お疲れさま、ラピス」
「ありがとう」
感情に乏しく表情を出すのが下手な少女だったがその様子からルリに懐いているのがわかった。

「お疲れさま、ホシノ・ルリ、ラピス・ラズリ」Janction Point
出迎えたのはエステバリス設計責任者のサリナ・キンジョウ・ウォンだった。
「サリナさん、ホシノ・ルリはもう死んでるんです。
 ここにいるのは白百合、そう呼んでくださいとお願いしてましたよね?」
「ぐぅ・・・」
サリナは思いっきり気圧される。元々クールなルリが多少脅しもかけてしゃべればたいていの人は脅える。
「わ、わかったわよぉ。それより・・・」
「サレナの稼働データと改善要求は後でオモイカネからメールで送らせます。一刻も早くデータが欲しくて仕方ないのに申し訳ありませんけど。」
「う、そんな訳じゃないんですけどぉ・・・」
「無理ですよ。エリナさんじゃないんですから。貴方みたいにすぐ顔に出る人は駆け引き出来ませんよ」
「わ、悪かったわねぇ!」
サリナはエリナのような上昇志向の持ち主ではなく単純に技術バカであるともいえる。ウリバタケに通じるものがあるかもしれない。ただ、ウリバタケとサリナの違いはある。
人殺しの機械を作っているという自覚があるか、ないかだ。
だから次のような質問を平気でするのだ・・・

「ねぇ、第二デッキのブラックサレナなんだけど、あれそろそろ分解していい?フレームのストレス度合とか劣化係数とか調べたいんだけど・・・」

シャキン!!

サリナが台詞を最後まで言うことは出来なかった。サリナの気づかないスピードにて抜刀されたルリのサーベルがサレナの首元に押さえつけられたからだ。
「これ、イミディエットナイフと同じ構造ですので、私みたいに非力なものでも簡単に切り落とせますよ、その首」
「ぃぃぃぃ!!」
「私、同じこと何度も言うの嫌いです。あれは『あのままにして置いて下さい』と頼んでましたよね?」
「あ、あい・・・」
了解を得たと確認すると、ルリはこれまた素早くサーベルを納刀してルリはその場を立ち去った。ラピスもそれに付いていく。

「うう、恐かったよぉ。チビりそうになったよぉぉぉ」
バン!
「あれはあんたが悪いわよ」
マジでチビリかけている妹の頭をエリナはバインダーで叩いた。
「痛ぁいい!何よ、何でよ姉さん」
「あれはあの子とアキト君の唯一の絆だったのよ。それをまるで用済みと言わんばかりに扱われりゃ誰だってああなるわよ」
「だって、もうホワイトサレナは完成したのよ!
 ブラックサレナは所詮その場限りの間に合わせで構築したシステムよ。 
 本来のエステバリスシステムの理想からすれば、ほとんどの要求性能差を外部装甲の追加に頼るブラックサレナなんて邪道なのよ。
 まぁ、あの時は時間がなかったから仕方なかったけど。
 でもホワイトサレナは違う!!!
 高機動戦フレームとしてデビューすべくアルストロメリアですら先送りしたフレームの基本設計を全て1から見直し、CC組成を導入する事により相転移エンジンを搭載することなくそれに匹敵するゲインを引き出す事に成功した。
 ウイングにより重力波アンテナ8枚分のジェネレータキャパシティを確保し、おまけにブラックサレナのようにバーニアノズルなんて美しくない手法を取らなくても同様の機動性を確保できた。
 エネルギー容量の増大により戦艦並みのディストーションフィールドが実現でき、ブラックサレナの様に強固な装甲が必要なくなる。
 ゆくゆくはユーチャリスからの無人操縦が可能になる!
 まさにナデシコフリート構想の理想形ともいえる機動兵器なのよぉぉぉ!!
しゃべりだすと止まらない技術フェチであった。

「でも、多分売れるのはブラックサレナでしょうね」
エリナは身も蓋もなく切り捨てた。
「ええ、なんで!どうして!」
「何時か、アキト君にホワイトサレナのロールアップ時に試乗してもらったことがあるけど、その時に彼、何て言ったと思う」
「?」
「『鳥になったみたいだ』・・・そうよ」
「別にいいじゃない、そのくらい」
それが何を意味するかわからないサリナの発言にエリナは溜め息をついた。
「分かってないわね、IFSはどういう代物?」
「考えている事を素早く伝えるシステムでしょ?」
「じゃ、IFSを付けたパイロットに必要な資質は」
「素早い反応・・・って」
やっとサリナにも分かった。
「そうよ。エステバリスが人型なのは何もゲキガンガーが作りたかったわけじゃない。
 人は危ないと思ったら両手で顔を庇う。IFSはその動きをそのままシステムに伝える。そこでシステム側も人型でなければシステム的に矛盾が起こる。だからエステバリスは人型なの。」
「つまり鳥形の兵器を人間がIFSで操作しようと思ったら、人間の条件反射も全て鳥形のシステムにあうように訓練し直さなければならない・・・って言うこと?」
「そうよ。たとえ訓練できたとしてもやはりコンマ何パーセントで遅れが生じる。それが実際の戦闘でどれだけの致命的な問題になるか想像はつくわね?」
「・・・」
「ホワイトサレナが動かせているのはパイロットの経験がなく、且つパイロット以上にIFSに精通していたホシノ・ルリだったから出来たの。じゃなければ誰も操縦なんて出来ないわよ。」
「ううう」
「ブラックサレナは兵装以外は既存のエステバリスと同じ操縦感覚だから、デチューンして一般兵士に使えるように調整すれば軍は大喜びで買うわね。既存のエステバリスにマウントできて必要ない作戦なら外せば済む。オプションでボソンジャンプも可能になる。売れるわよ。」
「うるぅぅぅ〜。」
エンジニアの美学を打ちのめされたサリナであった。


同第二デッキ


今は使う主のいないブラックサレナの前でルリは振り向いてラピスに言った。
「用があります。しばらく一人にしておいてもらえませんか?」
「わかった」
「ありがとう。エリナさんにおやつでも貰ってらっしゃい」
「うん、姉さんの分も貰っておく」
テテテと走っていくラピスを見送った後、ルリはブラックサレナのコックピットに乗り込む。
出撃から帰還した後、ここで膝を丸めることが彼女の儀式となっている。人殺しの嫌悪感と復讐の空虚さと、そしてそれらに負けない為の「戦う目的」を再確認するために。
「アキトさん・・・」


同ユーチャリス前


「で、結局失敗したんでしょ?まだ続けるの?」
「毒を食らわば皿までよ」
「好きよね、姉さんもホシノ・ルリも。フラれた相手のために血道を上げてるなんて。どうせ助けても他の女のところに帰っちゃうのに」
「な、なにいってるのよ」
「ムキになっちゃってあやしいぞ」
既に姉と妹の会話になってるエリナとサリナ。サリナ自身も色恋沙汰に無縁であるが、姉が恋に従順なのに驚いてもいるのだ。
「だって、仕方ないじゃない。あんなすがる目で見られちゃ・・・」

そうだ。あの日、あの時
テンカワアキトが血塗れで私の目の前に現れるまでは・・・



回想 2years ago Elina's View


あの時、私は呆然としていた。アキト君が事故死した一報を聞いていたからだった。いくらとうの昔にフラれて気持ちの整理は付いているとはいえ、未だに好きな人であったからだ。

その時だ、月臣元一朗に担がれた血塗れの彼が入ってきたのは。
「お願いだ!エステを貸してくれ。まだルリちゃんが捕まってるんだ。早く・・・」
彼の意識はそこで途絶えた。月臣が気絶させたからだ。
「まったく、自分が怪我人だということを自覚しろ。ウォン、彼を医務室へ放り込んでおいてくれ」
「ねぇ、どういうこと!?何があったの!?」
「ミスマル大将に忠告しておいたんだが、逆にあだになったな・・・
「え?」

そこで月臣から事のあらましを聞いた。
旧草壁一派がジャンパーを誘拐しだしていること。テンカワ夫妻の新婚旅行を襲うと察知したこと。場所を突き止めて救出したときに彼だけしか助けられず、ホシノ・ルリを救えなかったことなどである。

数日後、彼は目を覚ました。
「アキト君、多少ナノマシーンを改造されちゃっているけど大丈夫、元に戻るわ。それより脱出の時に無茶したんですって?ホシノ・ルリを助けようとして。そちらの方が深刻ってドクターがおっしゃってたわよ。しばらく体を休めて、ね。」
辛かったから彼の顔を見ずに事実を告げた。彼が痛いほど悔やんでいるのがわかったから。

彼が回復する頃、やはりエステバリスを貸しほしい、戦力が欲しいと急っついてきた。私が「連合宇宙軍あたりに保護を求めた方がいいんじゃない?」というと、
「だめだ。それだと今度は奴らの目がユリカに向く。
 それに奴らが欲しいのはテンカワ・アキトの力だ。
 ルリちゃんを人質に取っていれば取り返しにくる、そう思っている。
 そう思っているうちは他のやつに目が行かないはずだ!」
と答えた。どこまでも自分を追い詰めてしまう人だった。

そのことを会長に告げると
「貸してやれば?嫌がらせ、しておきたいでしょ?」
の二つ返事で彼への支援が始まった。

それからの彼は痛ましいほど努力をしていた。敵の実働部隊、北辰の駆る夜天光の性能は桁外れだった。どんなに器用でも所詮はコックあがりのアキト君が敵うはずもなかった。機体の絶対の性能差というものもある。
彼が生きて帰れたのはひとえに彼がA級ジャンパーであったおかげだ。
だが、それも皮肉な話だ。ジャンパーでなければこんな事に巻き込まれずに済んだのに・・・。

それからだった。彼は月臣から木連式武術を指南して貰うようになった。
性能差を埋めるためにサリナにブラックサレナの製作を依頼したのもその頃だ。
私も辛そうにしている彼を見ながらも、一方で彼に手を差し伸べられるのは自分しかいないことに喜びを感じていたのかもしれない。
彼の努力もあり、もう少しでホシノルリを取り戻せるところまで行った。

だが、みんな少し急ぎすぎていたのかもしれなかった・・・

その日出撃したアキト君が二度と戻ってくることはなかった。
戻ってきたブラックサレナを出迎えに行ったとき、中から降りてきたのは泣きじゃくるホシノ・ルリとラピス・ラズリの姿だけだった・・・

アキト君は彼女たちを助ける代わりに奴らに捕まったのだ。



再び同ユーチャリス前


「だからホシノ・ルリにとってブラックサレナはアキト君との唯一の絆なの。
 たとえ男と女の関係になれなくとも命を懸けて救い出してくれる親子の絆としてね」
「ふうん、そこまでやってくれれば女はイチコロね」
エリナの思い出話を茶化すようにいうサリナ。
でもそれに囚われた者の悲劇を彼女は知らないのだ。
エリナや・・・ルリの様に・・・



回想 2years ago Ruri's View


あの日から、私はずっと王子様を待ち続けました。
自分にどんな実験をされているのかに興味もなかったし、知りたくもありませんでした。
来る日も来る日も王子様が助けにきてくれるその日だけを待ち続けて。

そのとき初めて気がつきました。自分の中のアキトさんの気持ちに。

唯一の心の慰めは妹に出会ったことでした。本当のという意味ではありません。同じネルガルの研究室出身で奴らにさらわれた少女。
名前がないと言ったので、私が名前を付けてあげました。

ラピス・ラズリ・・・もう一人の私

私たちはすぐに仲良しになりました。だからアキトさんを待つのが辛くなかったのかもしれません。
でも、それも何かの運命、何かの皮肉。
あの人が助けに来るまでは・・・

アキトさんが私を救いに来てくれたとき、すがる瞳でラピスがアキトさんを見つめた。
この時彼女を助けなければアキトさんは捕まらなかったかもしれない。
でも、あの人に、私と同じ瞳の少女を見捨てることなんて出来るわけがなかったのかもしれません。

そして、乗ってきたブラックサレナに私たちを乗せようとした時・・・
パン!!
一発の銃弾があの人の肩を貫いたのは・・・
私の目にはアキトさんを楽しむように打ち抜いたあの爬虫類のような目の男の顔だけが焼きついた。

「アキトさん!アキトさん!!」
「早く、ラピスを乗せて!」
「アキトさん、わかりましたから、だから早く!!」
「乗ったらそこの赤いボタンを押すんだ。自動的にネルガルまで逃げられる・・・」
「アキトさん!!!」
床に落下するアキトさんに手を伸ばそうとしましたがそれを阻むようにブラックサレナのコックピットのハッチが閉じました。どうする事もできず、私はただ赤いボタンを押すしか出来ませんでした。
私たちを乗せたブラックサレナはアキトさんを見捨ててボソンジャンプしたのでした。

それからのことはあまり覚えていません。
ただ、私のせいで今度はアキトさんが私と同じ目に合わされることになったのです。


だから私は待つだけのお姫様であることをやめました。
私は王子様を救うナイトになる。
だから・・・



再び同ユーチャリス前


「ともかく、今度はアキト君に変わってホシノ・ルリが彼の歩んでいた道を歩くことになった。もっと過酷な道をね。奴らヒサゴプランを隠れ蓑にし出したしね」
「ふ〜ん。でもさ、あの子、大丈夫なの?」
「なにが?」
サリナはウインドウを開いた。ホワイトサレナの記録映像、「YURIKA」の文字、アマテラスのホストコンピュータの自我暴走の様子だった。
「結局いくらやっても起きなかった王子様はお姫様のキスに一発でお目覚め。
 ナイト様なんてはなからお呼びじゃなかったってことじゃないの?」
「・・・そんなの・・・」
「?」
「そんなの最初から承知よ、あの子は・・・」



ブラックサレナ・コックピット


そんなこと、初めからわかっていた。
だけど、泣けない女、血を流さない女になってしまった私にとって、あの人を救うことしか、あの人との絆を保てないのだから・・・。

だから、

たとえ、あの人がユリカさんを求めていようとも・・・

これだけは・・・譲れない!

See you next chapter...



ポストスプリクト


今回も暗いです。ルリがこちらサイドに回るとどれだけ悲惨になるかよくわかりました(苦笑)
よって、ここではこれ以上コメントしないことにします。
後もう一回ぐらいオリジナルに近い話をやって劇ナデにそったお話に戻るつもりです。

後は、与太話ですが

Princess of Whiteモードのルリについて

服装はほぼ白一色。
本人曰く「黒はナイトって感じじゃありませんから」だそうだ。
一応、アキトと同じデザインの白いマントを羽織っている。
中の服装は上はシルクのシャツ(王侯貴族みたいな)に下はタイトスカートにスパッツ、セミのロングブーツ
また、顔にはアキトと同じ黒いバイザーをかける。
装備はデストーションブレード内蔵のサーベルである。
アキト愛用のリボルバーは彼女には重すぎたようだ
(泣く泣くあきらめた様子、まぁナイトらしくないってのもあるが)
流派は木連式抜刀術で師範は当然月臣だった。
腕はなかなかのもので月臣の投擲術で放たれたナイフを落とせるほど。
全般的にピースランドの一件で調べたナイトの偏った知識を引きずっているように見える。

機動兵器にホワイトサレナを選んだのは服装とのコーディネートという意味もあるが、一番の理由は純粋にブラックサレナを操縦できなかったことにある。
(これまた泣いて悔しがったとか・・・)
ホワイトサレナに乗れた理由は劇中にもあるように、あの機体が元からオモイカネからの無人コントロールを前提に設計されたことによるもの。
その意味でユーチャリスとサレナシリーズはワンマンオペレーション構想によりワンパッケージで設計されていたことになる。

ちなみにサレナシリーズはともに戦艦クラスのデストーションフィールドをはれるのでジャンパー以外の人が乗っても短距離という制限はありますが単独ボソンジャンプが可能です。

今回はここまで
では

Special Thanks!!
・SOUYA 様