運賃表との戦い

整理券方式運賃後払い式。
この様に書いてあるバスに乗るときは、いつも戦いである。
なぜなら、降りるときまで俺は、運賃がいくらか分からないからである。
親切なバス会社は、バス停やバスの車内に運賃表が貼ってあり、運賃が事前に分かる。
その時の気分はそこで平和協定でも締結されたように、安心していられる。
ところが、それがないないバス会社の時は、
バスに乗った瞬間から運賃表との戦いの火蓋が機って落とされる。それは財布が軽くなるどうかとの瀬戸際でもある。
運賃表とにらめっこ。上ル上ル上ル。一体いくらになれば気が済むんだよ料金表。また上がった。
やっと自分が降りる停留所に近くなった、俺は整理券と運賃表を照らし合わせ、財布から、小銭を取り出す。
だが、まだ安心しきってはいけない。戦いは続いている。自分が降りる停留所の放送が始まるまでは。
降りる停留所の一つ前になった。どきどき、心臓バクバク。
まだ、料金表の金額はさっき上がったまま変わっていない。 これなら手持ちの小銭で運賃を支払う事が出来る。
ところが、世の中そんなに甘くはなかった。
こんな時に限って「次は〜」と、自分が降りる停留所の放送が流れ始め、料金表から発せさせられる電子音。
何となく嫌な予感。 降車ボタンを押して、静かに料金表に視線を合わせる。勝敗が分かる一瞬。
一区間、上がっている。
負けた、俺の負けだよ。
無い、小銭がない。いつもなら、百円玉を両替すれば事足りるが、今日はそれすら無い。 完全に負けた。完敗だよ。
俺は渋々、夏目漱石を機械に食べさせて両替。
そして運賃を払う。
結局、財布の中には小銭であふれてしまうのだった。

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