大島爆裂

 そろそろこのネタも使えなくなります。というのは、伊豆大島が噴火したのは1986年のこと。その頃生まれた子供が12歳です。つまり、今の中学生にとってはものごころつく前のできごとです。2,3年したら「生まれる前のできごと」になってしまいます。自分が生まれる前の「歴史上のできごと」なんて、なんの感動も興奮も引き起こしませんものね。高校生相手なら、あと1,2年は使えると思いますけど。


 マグマが地表に噴き出すのが火山の噴火です。マグマの成分によって噴火の仕方やできる地形(火山の形)に特徴があります。…というのは基本ですが。
 火山の噴火に関連してよく出てくる言葉に「水蒸気爆発」というのがあります(高校の教科書には載っていることと思います)。マグマそのものは噴出せず、マグマから分離した水蒸気や、地下水がマグマに触れてできた水蒸気の圧力で爆発が起きるものです。
 水蒸気の力って、結構バカになりません。よく知られているところでは会津磐梯山があります。会津磐梯山は1888年におきた水蒸気爆発で山頂部分が吹っ飛び、山体が大きく崩れて今のような形になったのです。このような地形を「爆裂火口」といいます。新しいところではアメリカ合衆国ワシントン州のセント・ヘレンズ山があります(アメリカ地質調査所のページへ行くと崩壊前・崩壊後の写真が見られます)。箱根の大涌谷も爆裂火口で、山体の崩れたものが仙石原高原をつくっています。 


 1986年に伊豆大島が噴火しました。危険を避けるため全島民に避難命令が出され、しばらく島を離れて生活する騒ぎになりました。
 山頂火口から大量の玄武岩質溶岩が流れ出してカルデラ内を埋め尽くし、一部はカルデラの縁を越えて流れ出しました。また、西側の山腹から割れ目噴火を起こし、溶岩噴泉(いわゆる火のカーテン)も見られました。
 次に何が起きるか、興味津々、戦々恐々として日本中の火山学者が見守っていました。当時地質専攻の大学生だった私は最新情報がもれ聞こえてくる場所にいたのですが、一番恐れられていたのが水蒸気爆発でした。
 もし山腹の割れ目火口が拡大して海岸に達したら。もしくは海中に新しい割れ目が開いたら。…割れ目から海水が流れ込んでマグマに触れ、水蒸気爆発を起こすに違いない。すると伊豆大島が会津磐梯山のようになってしまうかもしれない。
 伊豆大島が吹っ飛ぶこと自体も大事件です。でも島民は避難しているので被害(特に人的被害)は最小限に収まるはずです。もっと問題なのは、伊豆大島の崩壊によって引き起こされるに違いない津波です。相模湾・相模灘周辺のあらゆる海岸に数mあるいはそれ以上の津波が押し寄せることでしょう。被害が予想される地域のすべての人や都市機能(道路・鉄道…)を避難させるのは無理です。
 結局、それ以上のことは起きなかったのですが、大学の先生から「オマエら見に行きたいだろうが、海岸に近づくのは厳禁だ。我慢しろ」という指示が出ていました。マジで。

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