治水工事をすると水害が起きる


 まあ、ひとつは「マーフィーの法則」的なものですね。(^◇^)


 治水工事(洪水対策)としてよく行われるのは堤防のかさ上げです。過去の記録から最大の流量を求め、それと同程度の水が流れてもあふれないように設計されるのでですが、これが案外あっさりと越えられてしまったりすることが珍しくありません。
 堤防のかさ上げの他に、水がスムーズに流れるように川の流路が曲がっているものをまっすぐにしたり、川岸や川底をコンクリートで固めたりする工事が同時に、あるいは別個に行われていることがよくあります。あるいは、都市化の進行によって過去の水害の時とは流域の様子が変わっていることがあります(というか、それが普通です)。実はこれらがミソなのです。


 雨として降った水は、一部が地下にしみこみ、一部が地表を流れて川に流れ込みます。地下水となったものは地下を流れて、大部分は結局川に流れ込みます。ほかに、地下にしみ込みはしないものの、田圃や池に一時的に蓄えられてあとから流れ込む水もあります。
 ところが、最近の都市では地表がほとんどコンクリートやアスファルトで固められ、降った雨はほとんど地下にしみこみません。地表を流れ、排水溝を流れ、すぐに川に流れ込みます。つまり、昔は降った雨が数日かかってだらだらと川を増水させていたのに対し、最近はその日のうちに一気に川に流れ込み、川を増水させているのです。


 また、川の流れも急になり、上流で増水するとそれがすぐに下流にやってきます。そして下流に降って流れ込む雨水と一緒になって川を増水させます。これはコンクリート張りになって流れがスムーズになったことのほか、流路の曲がりがなくなって距離が短くなり、その結果河床勾配がきつくなったせいでもあります。
 さらに、川を掘り下げたり川幅を拡げたりして断面積を大きくすると流速が下がり、ベルヌイの定理によって水面が上昇します。
 そんなこんなで、ヘタに治水工事をするとかえって水害を起こすことになりかねないのです。「治水工事をすると水害が起きる」のはあながちマーフィーの法則ばかりでもないのです。


 話はそれますが、これらの変化が環境に与えている影響についても書いておきましょう。
 舗装化は都市の温暖化(ヒート・アイランド化)の要因のひとつです。地下にしみこんだ水の一部は、再び地表から蒸発します。水が蒸発する(=液体から気体に状態変化する)ときには熱を吸収します。つまり、まわりの温度を下げます。ところが舗装化された最近の都会では、水は地下にしみこむことも、またしみだして蒸発することもできません。(都市の温暖化の原因には他にも、人工的な発熱が多いこと、コンクリートやアスファルトが熱を蓄えやすいことなどの要因があります) 


 河川を、両岸・川底ともにコンクリートで固めてしまう「三面張り」は水質を悪くする要因にもなっています。本来、川に流れ込んだ有機物は魚や水棲昆虫の餌となり、なお残る有機物はワムシのような微生物の餌となって効果的に分解されるものです。
 このような仕組みがうまく働くために川底には凸凹が必要です。凸凹があれば流れの速いところや遅いところができ、多様な生物が住めます。産卵場所として流れの緩いところや砂地を必要とするものが多いという意味でも重要です。
 また、石の表面や石の隙間はワムシのような微生物の住みかとして重要です。微生物が多ければそこに住む魚や昆虫に多様な餌が提供されることになり、多様かつ多数の動物が生活できることになります。
 さらに、凸凹によって水がかき混ぜられ、多くの酸素がとけ込むことも重要です。酸素が少なければ有機物の分解は進みません。細菌などで酸素を必要としないものもいますが、それらは有機物を腐らせ、ヘドロに変えてしまいます。
 治水工事に限らず、環境を人工的に作り替えるに当たってはこのようなさまざまの要因を考慮する必要があります。考慮しても、自然現象には未だ人知の及ばない部分がたくさんありますから、予想外の事態に到ることもあります。現在の我々には、そのような自然に対する謙虚さや慎重さが足りないように思うのですが、いかがでしょうか。
 

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