コロンブスの安心理論


 地球の大きさを最初に測ったのは古代エジプトのエラトステネスとされています。彼は夏至の正午の影のでき方からシエネ(現アスワン)とアレキサンドリアの緯度差を7.2°と求め、二つの町の間の距離を人を雇って歩測で5,000スタジアと求めました。地球一周の長さを計算した結果は、メートル法に直して45,000kmだったということです(*)。紀元前3世紀のことです。
 地球の大きさについては、その後もいろいろな人がいろいろな説を発表しています。新しい説ほど正確かというと決してそんなことはなく、26,000kmから60,000kmまでいろいろあったようです。


 さてコロンブスです。彼はアジアとの香料の新しい貿易ルートを開拓するため西へ向かいました。その計画をイザベラ女王にプレゼンするにあたって彼が頼りにしたのは、諸説あった地球の大きさのうち最小の26,000km説だったといいます。
 つまり「地球一周は○○氏の説によれば26,000kmである。ヨーロッパから東回りにインドへ行くと直線距離でおよそ10,000kmである。従って西回りに16,000km、すなわち喜望峰経由東回りでインドへ行くのと同じくらいの距離でインドへ到達できるはずである」ということです。
 当然、もしアメリカ大陸(と後に呼ばれるところ)がなければ彼は海の真ん中で力つき、せいぜい「無謀な挑戦」の例として名を残すだけだったことでしょう。幸いアメリカ大陸(と後に呼ばれるところ)があったため彼は世界史に名を残す偉人となりました。
 コロンブス自身はインドに着いたと信じていたようです。そのせいで、アメリカ大陸の原住民はその後長い間(そして非公式には今も)「インド人」と呼ばれるはめになりました。

(*)古い時代の単位が今の単位のどれだけにあたるかは諸説あるのが常です。スタジアとメートルの換算にも諸説あるようで、カール・セーガンの「コスモス」では彼の計算結果を40,000km、すなわちほぼ正確に地球の大きさを求めた、と紹介しています。


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