ブルトン(Andre Breton 1896-1966)
ひとりの作家の軌跡を追うことは、喜びとともにときにはおおきな
かなしみをともなうことがあります。わたしにとって、ブルトンは
そんな作家です。
100年前に生を受けた作家が、当時いかに理想に忠実であり純粋な生き方を
貫いていたか、そしてその理想がいかに変容しいま現在語られているか、
多くの資料を追っていくうちにいいようのない悲しさを感じてしまいます。
感覚がきざまれるような、鋭利な詩的・散文的表現と崇高な理想がともに
息付いている彼の作品はたとえようもなく美しい。それだけで、ほんとうは、
わたしたちは満たされるべきかもしれません。
<Andre Breton>
フランスの詩人、作家。超現実主義(シュルレアリスム)の理論を創造し、
20代にして全世界の文壇および芸術分野の注目をあつめた。
フロイトの影響を強く受け、「理性によっておこなわれる制御のまったくの
不在における思考の実際の作用」の表現を目指し同志とともに共産党に入党、
おなじ理由にてのちに離党する。以後同志が政治活動に専心し芸術形式の
制約に復帰したため次々と除名、旧同志の多くがレジスタンス文学を
創作するかたわら自らは孤独のうちに活動を続ける。
こんにちにおいては芸術における政治的有効性の一例として取上げられること
が多い。
# ブルトンが提唱したシュルレアリスム理論自体、その時代を物語っている
# 気がします。理性の不在を語るのに理性をもちいることの矛盾、自由な創造
# 行為も「組み合わせ」による劇的な変質に多くを負っており、根本的には
# 既知のものの組み合わせが生み出す不自由な自由でしかない・・・はじめて
# シュルレアリスムの理論に触れたときの印象は、いまも変わってはいません。
# けれども彼が目指した理想が先の時代にどのような影響を及ぼしていくのか、
# わたしにとってのシュルレアリスムはこれからがはじまりなのです。
<ナジャ(Nadja)>
ブルトンの体験から生まれた散文作品。
ある日、彼はパリの街角でナジャと名乗る女性と出逢う。
現実とは違う世界の住人である彼女は、ブルトンの過去や未知の場所を知り、
未来や離れたものを透視する。ブルトンはナジャとの出逢いと別れをとおして
超現実の世界を確信してゆく。
<狂気の愛(l'Amoue fou)>
1934年のある日、「異常なまでに美しい」女性と出逢いセーヌ岸をふたりで
さまよう。数日後、ブルトンはかつて自分が書いた詩にその出逢いについて
事細かに記されていたのに気付く。