女子高生

 しばらく前のこと、私はバスに乗って、後部座席に座っていた。隣には女子高生が座っていた。ところが、バスが大して揺れているわけでもないのに、彼女が私にドーン、ドーンと体をぶつけてくる。私は、これは危険だと思ったので、すぐに席を立った。
 この話を同僚の女性にすると、
「すぐに立ったのは正しいやり方です」
 と褒めてくれた。
 またある時、私は電車に乗ろうと、改札口前の券売機に向って歩いていた。その頃はまだいちいち切符を買って電車に乗る時代で、幾つも並んだ券売機の前には長い行列ができていた。
 私はその一番端の列に向った。その列の最後尾から離れた所で五、六人の女子高生が向い合って輪を作り、話に夢中になっていた。私はその列に並んだ。私と後ろの女子高生の輪とのあいだには二メートルほどの距離があった。
 そのうち、一人の女子高生が私に気づいて、
「あ、並んでるんですけど」
 と言った。
 そして、それに続いて、他の女子高生も、
「割り込みはやめてください」
「困るんだなあ、そういうことをされると」
 などと口々に叫んだ。
 恐らく、話しているうちに列が短くなっていることに気づかなかったのだろう。
 私は黙って隣の列に並び変えた――「黙って並び変えたのは正しいやり方です」という同僚の声を耳の奥に聞きながら。
 女子高生は怖いもの知らずのように思える。何があっても世間が自分たちに味方してくれるという確信があるのだろう。
 ここで嫌でも思い出すことがある。
 何年か前に共立の四〇代初めの男性の非常勤講師から辞職の申し出があった。彼が誠実で優秀な人であることを知っていたので、私はとても残念に思った。
 しかし、その電話を受けた事務職員の話を聞いて、私は驚愕した。
 彼はそれまで独身だったが、婚約者ができて、彼女の両親に挨拶するために地方都市に赴いたという。
 駅前のレストランで彼女を交えて四人で食事した後、幾つか決めなければならないことがあったので場所を変えた方がいいということになって、彼は三人をその場に残して、適当と思われる喫茶店を探すためにそこを出た。
 しかし知らない土地だったので、歩いている途中で狭い路地に入り込んでしまった。
 そのとき、向うから五、六人の女子高生が大声でお喋りしながら歩いてきて、擦れ違った。
 その瞬間に、そのうちの一人が、
「あ、この人が私の体に触った!」
 と叫んだ。
 すると、それを待っていたかのように、他の全員が、
「痴漢だ、痴漢だ!」
 と大声で叫び立てた。
 一人が近くの交番に走って行って、その結果、彼は警察署に連行された。
 彼はそこに翌日まで拘束され、「やっただろう」「いいえ、やっていません」を繰り返し続けた。その間、告発者の女子高生は無関係だった。
 そして証拠不十分で解放された。それでも、疑いが晴れたという訳ではなかった。
 「私は何もやっていないと断言いたしますが、それでも今後の展開によっては貴学にご迷惑をお掛けする可能性がないとは言えませんので、身を引かせていただきます」という言葉で彼は電話を締めくくったという。
 彼の結婚がその後どうなったかについては情報がない。

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