「丘の上の向日葵」というテレビ・ドラマをご存じだろうか? 日曜日の晩にやっている。山田太一という人の脚本による名作ドラマだそうだ。
この番組が始まると、わが家はちょっとした騒ぎになる。二階の書斎にいる私も、下から「早く! 早く!」という声がかかると、本でもパソコンのキーボードでも打ち捨てて立ち上がり、どたどたと階段を駆け降りてテレビの前に突進することになる。
それは、うちの家族が山田太一のファンだから? 全然違う。では、この作品が特に優れているから? そうじゃないんだな。それでは、好きな俳優が出ているから? それも違う。
実は、この作品の舞台となっているのが、わが家のある住宅地だからである。
わが家の中学生の娘も、学校帰りにそのロケを見たそうで、さすがに本物は迫力が違う、と言って興奮していた。
ヒロインの女性が住宅地を物思いにふけりながら歩いている場面などでも、本当はしんみりと見ていなければならないのに、「あ、そこを曲がれ! そうすればウチが見える!」とか、「ほら、向うに見える建物、あれが中学校の体育館!」とか、「あれ、ここはどこかな――ああ、そうだ、あそこだ!」とか、大騒ぎなのだ。「あたしを通行人役で使ってくれないかなあ」「ぼくがジョギングしているところに彼女が通りかかって立ち話をする、なんてのはどうだ」(こんなことを言うのは誰だか分るね?)などと、際限がない。
だから、少しも物語が頭に入ってこないのである。私などは、場面が別の場所に変ると、書斎に引っ込んだりもする。
山田太一さん、ごめんなさいね。(一九九三)