手荷物料金

 私はしばらく前に、ロンドン郊外の大学での外国人むけの英会話講習会に参加する学生数十名を引率してロンドンに行った。引率というと聞こえはいいが、実際にはただついて行っただけである。
 学生は指導教員をジョンとかリチャードとか呼び捨てにすることを求められ、初めは戸惑っているようだったが、すぐに慣れて、勉強というよりは遊びの感覚で元気いっぱいに二週間ほどを過ごした。それは、学生にとって、日本にいては到底期待できないほどに有意義な体験だった。
 しかし、私は何もすることがなかった。私は呆然として毎日を過ごした。
 そして帰国の時を迎えた。
 ロンドンの空港で手荷物の重量を計ったところ、多くの学生が規定の重さを越えているということで、超過料金を請求された。学生たちはそれぞれ沢山のお土産を買いこんでいたので、手荷物が重くなるのは当然だった。
 しかしその超過料金がかなりの額だったので、学生たちは戸惑っていた。それならこんなに買わなければよかった、と顔に書いてあった。
 そこに居合わせた私も、戸惑った。早く払いなさいと言うのは簡単だったが、私にも腑に落ちないものがあった。
 そこで、学生の手前ということもあって、係の小柄な日本人と思われる女性に、言った。
「そういう規則になっているんだったら、仕方ないですね。学生たちには払うように言いましょう。ただ、私が疑問に感じるのは、手荷物の重さが問題になるのは、結局、それが飛行機に与える負荷を考慮しているからですね。だけど、ここにいる学生たちの体重は四〇キロ前後かせいぜい五〇キロぐらいまでで、大した重さではないんです。でも八〇キロ、九〇キロの人はザラでしょう。もし飛行機に与える負荷を問題にするんだったら、体重を込みにして考えるべきじゃないでしょうかね。体重の軽い人だけが余分な支出を強いられるとしたら、それは不公平ですね」
 まあ、こういうのをいちゃもんというのだろう。私は学生たちに「規則なんだから、早く払いなさい」と言うつもりで学生たちの方を見た。しかしその途端にその係の女性はどこかに行ってしまった。
 あれ、どうしたんだろうと思っていると、彼女が戻ってきた。そして、
「それでは結構です。超過料金は頂きません」
 と言った。
 私は驚いて「え、いいの。でも規則なんじゃないの」と言いかかったが、ぐっとこらえた。
 学生たちは一斉に感謝の目で私を見た。
 私はロンドンに来て初めて一働きしたように感じた。

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