空気銃

 私が育った家は新宿区のど真ん中にあったが、戦前は陸軍の営舎・練兵場の地だったために、そのあたりには戦後になっても野原の部分が多かった。木もたくさん生えていた。言うまでもなく、野原は子供たちの絶好の遊び場だった。
 兵隊の訓練に使うための人造の小さな山があって、なぜかそれは箱根山と名づけられていた。その山腹には防空壕の穴もあった。そのあたりで走り回ることが私の「日課」だった。私が小学校に入って初めて書いた作文の題が「箱根山」だったことをよく覚えている。
 しかし、いやな思い出もある。
 あるとき、小学生の私は一人で箱根山の裾を歩いていて、二〇メートルほど離れたところに立っている中年男性と顔が合った。
 彼は肩に空気銃を担いでいた。当時は野鳥を撃つことが禁じられていなかったので、それは珍しいことではなかった。
 彼は私を見て、やおら空気銃を肩から下ろして、それを構えて、私に照準を当てた。そして一〇秒間ほど、その姿勢を保った。
 私は恐怖で全身が凍りついた。
 彼はそれからゆっくりと銃を肩に担ぎ直して、何事もなかったかのように向うを向いた。
 彼としては、子供相手にちょっと冗談をしてみただけのことだっただろう。しかし私はそれからしばらくのあいだ、体が震え続けた。
 現代の日本で、銃を向けられたときの恐怖を体験した人は少ないに違いない。
 あれから長い年月が経過したが、今でも、思い出すたびに、恐怖が蘇ってくる。
 あの男を憎悪する気持ちは未だに消えない。

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