NOTE - 回路設計編 - フルブリッジ - モータドライバ
last update - 2002/03/17
author - m.kimpara

DCモータを半導体素子だけで正逆可変出力運転する場合、フルブリッジとかHブリッジと呼ばれる、半導体スイッチを4個使用した回路が必要となります。最近はパワー半導体が高性能で安価になったので、フルブリッジを組みやすくなりました。

製作例 - 写真 (2回路入りバージョン) / 回路図 (手抜き) / 定格


Locked Anti-Phase PWM / ブートストラップ / デッドタイム生成回路 / 製作上の注意

写真の回路の定格
動作モード Locked Anti-Phase PWM (用語はNS社のモータドライバのデータシートから引用)
動作周波数 20kHz (モータの電気時定数によって変更の必要あり)
動作電圧 DC18V〜28V
最大出力電流(連続) 10A (FET1本あたり2Wの発生熱時で計算)
最大出力電流(短時間) 50Aくらい
入力信号形態 5V-logic level PWM(1相/1ドライバ)


もちろん、同じ回路でも部品を選び直せば定格は変わります。


Locked Anti-Phase PWM

フルブリッジを使った4象限ドライブの1方式です。
入力パルスの Hi と Lo で、ブリッジ出力を 正転/逆転 させ、正転出力の時間と逆転出力の時間の比率によってモータの回転方向と出力が決まります。よって、duty 50% で、出力軸が停止します。

これを使うと、出力電圧よりモータの逆起電圧が高い(回転数が高い)場合、回生充電になり、ブレーキがかかります。
よって、DCモータの理論制御式が素直に使えます。

詳細-モータドライバと象限 (参照)

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ブートストラップ

ブリッジを、上下段共に Nch FET で組むと、上段の FET のゲートドライブ用の電圧をどこから得るのかが問題になります。
この回路では、ブートストラップという手法で、それを得ています。
ブートストラップ回路(ハーフブリッジ)
左の回路図は、ハーフブリッジ部分を抜き出したモノです。

まず、下段のドライバは問題ないと思います。

上段の電源は、source が出力へ、ゲートドライバの +電源がゲート電源(15V)へ、SBDを通して接続されています。

このブリッジに相補PWM を入力します。

下段が ON すると、出力が GND レベルに落ちます。
そのとき、上段のコンデンサ(474)に、SBD を通して、15Vから充電されます。

十分に充電されれば、その後 下段OFF-上段ONのとき、蓄えられた電荷で上段のゲートがドライブされます。

あとは、上段のコンデンサの電圧が一定より下がらないうちに、パルスを切り替えてやれば連続して動作できます。

ここまでで気がついた方もいるかと思いますが、この方法は、次の前提で成り立っています。

1. 上下段には相補信号が入力されること。
2. 一定間隔で、下段が ON されること。

以上が成り立てば、比較的簡単に Nch ブリッジが動作させられます。

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デッドタイム生成回路

半導体でブリッジを組むと、上下段に片方を NOT でひっくり返した単純な相補信号を加えた場合、ターンON/OFFの遅れによって、短時間ですが上下段が共に ON になる期間が出来、電源とGNDがショートして回路が発熱-最悪の場合発火します。 それを防ぐため、信号の変わり目に上下共に OFF になる期間 - デッドタイムを挿入して、ショートが発生しないようにします。この回路は、一組の PWM 信号から、デッドタイムが入った 相補信号を作り出すものです。

EX-OR は、片方の入力を Hi に固定するとインバータ、Lo に固定するとバッファとして扱えます。 これを使い、1本のPWM入力を相補に分解し、次の段でデッドタイムを生成します。

デッドタイム生成段は、CRローパス + ダイオードクランプで、立ち上がりを遅らせて、立ち下がりをそのまま通すことで作ります。

回路図の、上段 CRローパスのコンデンサ(152)が、出力-Vcc間につながっているのは、配線上の都合です。
こうしても、通常(下段)のように 出力-GND間に接続する場合と波形は変わりません。

実装上の注意としては、CRローパスの時定数を、上段(逆相)と下段(正相)で、そろえるようにすることです。
特に Loadked Anti-Phase PWM を使う場合、時定数がずれてデッドタイムがばらつくと、入力 50% duty で出力が 0Vにならない場合があります。

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製作上の注意
この形式の回路を実際に製作するときの注意点をいくつか示しておきます。

a) PWM 周波数の選定

このモードを使うときは、電流連続モードPWMを使います。
電流不連続モードPWMを使うと、常に正逆転の信号が入るため激しく振動し、また無負荷状態でも電流が盛大に流れるため、回路やモータがものすごく熱くなります。
また、電流連続モードでも、周波数が下限ぎりぎりだと、電流が脈動するため、モータの鉄損が著しく大きくなり、流れる電流の割に発熱が大きくなるので、PWM周波数は多少高めに設定しておくのがこつです。

今までの経験上、原則的に電気時定数の1/10以下の周期になるようにします。

経験的に得たいくつかのモータでの周波数を示します。
日本サーボ製DCモータ(DMEシリーズ) 5kHz〜10kHz
マブチ製DCモータ(RS380/385/540/550/750) 7kHz以上
マブチ製DCモータ(RS280以下のサイズのもの) 不可
ツカサ製DCモータ 5kHz以上
MAXON製DCモータ 追加インダクタ必須

MAXON製のモータは、インダクタが小さすぎるため、モータのみを駆動すると、必要なPWM周波数は大変高くなります。RE40-150Wの場合、計算上おおよそ200kHzになり、ロボコンで使用されるマイコンでは駆動できないので、外部にインダクタを追加してやる必要があります。

b) フォトカプラの駆動回路の注意
ふつう、フォトカプラを駆動するときには、トランジスタで電流増幅をしておくことになると思います。
このとき、コレクタフォロアで駆動する場合、ベース抵抗に適切なスピードアップコンデンサをつけて、トランジスタの蓄積効果による遅れがでないように してください。
1象限のドライバの時は、多少遅れても duty がわずかにずれるだけで動作するので気にしていない場合がありますが、このブリッジでは相補ドライブをするので、OFFが遅れるとデッドタイムが無くなってブリッジが貫通して破壊します。
c) 電源ラインにコンデンサを入れる
ブリッジの直前に、大きな電解コンデンサをつけてください。
これは、この駆動方の場合、毎周期ごとにフライバック電流が流れるため、電源のインピーダンスが低くないと電源ラインに大電流が直接逆流し、大きな電圧変動を引き起こすためです。
NS社のデータシートによると、モータ電流1Aに対して、最低100uFの割合で入れるそうです。まあ、基本的に、大きい方がよいです。
ただし、コンデンサが大きいと、電源をつなげるときに突入電流が流れるようになるので、それなりの対策が必要となります。
d) モータ端子間のコンデンサを小さくする
よく、モータノイズ低減のためにモータの端子間にセラミックコンデンサをつけますが、Locked Anti-Phase PWM を使う場合は、あまり容量の大きいコンデンサをつけないようにします。
これは、このドライブ方法では常に端子間電圧が交代しているうえに、比較的高い周波数を使うので、コンデンサのインピーダンスが小さくなって、無負荷電流が大きくなってしまうからです。
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おまけ

小出力のモータの場合、ディスクリート部品でブリッジを作るとあまりにオーバースペックなので、その場合はモノシリックのブリッジICを使うことがあります。( 参照

その場合、品種によって、Locked Anti-Phase PWM が使えるモノと使えないモノがあるので注意する必要があります。

# p.s.
# 農O大の三Oさん、こんなもんでいいですか?


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