NOTE - 回路設計編 - モータドライバと象限
last update - 2001/12/04
author - M.Kimpara

モータドライバを設計するとき、どの象限を制御対象にするかで、だいたいの回路形式が決まります。
ここでは、それぞれの象限に対応する代表的な回路形式を示します。

# ここでは、PWMなどパルスドライブをする回路を対象にします。
# パワーオペアンプなどでアナログ駆動する場合、ハーフブリッジだと2象限制御に、フルブリッジだと4象限制御になります。


象限の意味 / 1象限のドライバ / 2象限のドライバ(制動) / 2象限のドライバ(逆転) / 4象限のドライバ

象限の意味
制御中のモータの端子間の電圧と、巻き線に流れている電流を、縦軸と横軸にとって、直交グラフにし、電圧、電流が取りうる範囲を塗りつぶします。(ここでは、電圧を縦軸、電流を横軸に取ります。)
このとき、モータドライバの形式によって、塗りつぶされる部分が変わってきます。
第1象限のみ塗りつぶされるものが1象限制御のドライバ、2つの象限が塗りつぶされるのが2象限制御のドライバ、4つの象限すべてが塗りつぶされるのが4象限制御のドライバです。(2象限制御は、2種類あるのでそれぞれの場合について後々説明します。)

直交グラフ上で4つある象限は、それぞれモータの動きを表しています。

ここに直交グラフを入れる!
第1象限(電圧 : + / 電流 : +) => 正転、加速(しようとする)

第2象限(電圧 : + / 電流 : -) => 正転、制動(しようとする)

第3象限(電圧 : - / 電流 : -) => 逆転、加速(しようとする)

第4象限(電圧 : - / 電流 : +) => 逆転、制動(しようとする)

ここより、必要とされるモータの動きにあわせてドライバを選定します。

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1象限制御のドライバ
正転、加速のみ(第1象限)の出力をするドライバです。スイッチング素子が1個でよいので簡単ですが、制動は回転系の機械抵抗に頼ることになります。
この為、duty と無負荷回転数が比例しない場合が多いので、フィードバック制御は難しくなります。

ここに回路図を入れる!
回路は、スイッチング素子でONし、OFF期間はフライホイールダイオードに電流が流れるタイプになります。
PWMは、電流連続モード電流不連続モード の両方が使えますが、電流連続モードの場合はフライホイールダイオードに流れる電流量が多くなるので、電流が3〜4Aを越える場合は熱的に厳しくなる場合があります。
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2象限制御のドライバ(制動)
正転方向の加速、制動(第1象限、第2象限)の出力ができるタイプです。(たぶん)ふつう2象限制御という場合は、このタイプのことを指します。

ハードウェアとしては、トーテムポール(プッシュプル、ハーフブリッジ)をとりますが、信号の加え方で動きが変わります。

模式図を入れる
加速と制動を別信号で加える場合

この場合、1象限制御のドライバに、モータを短絡する制動用のスイッチが追加されていると見なすことができます。従って、駆動特性は 1象限制御ドライバ に準じます。

明示的に加減速を指令したい場合に使います。

模式図を入れる
相補信号を加える場合

上段と下段に、相補に PWM を入力する場合です。PWM duty に比例する平均出力電圧に無負荷回転をあわせようと、加速/減速します。
フィードバック制御をする場合はこちらの方が制御しやすいです。

PWMは電流連続モード にしなければいけません。

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2象限制御のドライバ(逆転)
1象限制御ドライバの出力部にリレーなどを使った正逆転切り替え回路を追加した場合です。
(第1象限、第3象限が制御対象になります。)
工業的にはあまり使われていないと思われますが、ロボコン界/アマチュアレベルではハードウェアが簡単になるため結構使われています。

制御性は、基本的に1象限制御ドライバ の特性が正転方向と逆転方向に延びているの考えてOKです。

詳細(参照)

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4象限制御のドライバ
正転、逆転、加速、制動の4象限全領域で使えるドライバです。工業用に売られているドライバはほとんどこの形式です。(じゃなきゃ製品として使えませんもんね)。
回路の形式としては、フルブリッジと、2象限制御ドライバ+リレーでの正逆転が考えられますが、後者はまったく実用価値がないので、フルブリッジを使います。

フルブリッジで制御する場合、Sign/Magnitude/Break PWM 形式をとるか、Locked Anti-Phase PWM 形式をとるかで、制御性及び回路設計が変わってきます。
(*Sign/Magnitude : Loacked AntiPhase PWM という用語は、National Semicondactor 社の LM18200T というモータドライバICのデータシートから引用しました。)

Sign/Magnitude PWM の模式図をいれる
Sign/Magnitude/Break PWM 形式

上段のスイッチを回転方向を決めるのに使い、下段のスイッチでPWMにする形式です。ブレーキは、上段を両側OFFにして、下段の両側を同時にONする事で端子間を短絡させて行います。

4つの象限のどこを使うかを明示的に指定することが特徴です。
よって、可動フェーズが明確に分かれている場合に有効です。

最低2本(PWM/回転方向)、ブレーキのコントロールも入れると、3本の信号が必要になりますし、ドライバレベルでは制御に応じて4つのスイッチング素子を独立して制御する必要があります。

Locked Anti-Phase PWM の模式図をいれる
Locked Anti-Phase PWM 形式

1本のPWM信号のH/Lで、ブリッジを常に正転/逆転させる形式です。
出力波形の電圧積分が平均電圧になるので、50%duty で出力 0V=停止します。

指令値とモータの状態によって、4つの象限の間を境目無しに行き来することが特徴です。
フィードバック制御をかける場合、この制御を使っていると、パルスドライバでもDCモータの基本制御式(無負荷回転は電圧に比例し、トルクは電流に比例する、ってやつ)が使えます。

ただし、PWMを余裕を持って電流連続モード にしないと、モータが振動したり、無負荷でも大きな電流が流れて発熱したりします。

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