日本代表/試合観戦記/1997年


97.11.8 対イラン ジョホールバル(マレーシア)

第四話 「 歴史が変わる瞬間 」 

 

 ラーキンスタジアムの座席を確保して、徐々にスタンドが青く染まっていきます。ひととき思いを馳せて、ゴール裏にいるであろう友人達を探しに”魂”の日の丸あたりにいるだろうと勝手に想像してゴール裏に歩いて行きます。ゴール裏の2階席に向かって歩いていたところ、私を呼ぶ声が…声の先には、国立でのお馴染みのメンバーがいました。ひとしきり健闘を称え合うと別の友人が戻ってきて、がっちり握手を交わします。思いは一つ”勝利”のみ、言葉は要りません。もう1人の友人を待っている間、ピッチ状態を確かめにイランの選手がグランドに出てきます。日本人サポは歓迎のブーイングでお迎えします(^^)イラン選手はかなりカリカリ来ていました。それに加えて”アジジ!アジジ!ワッハッハ!”のコールに、アジジ選手はスタンドに向かって何か言いたそうでしたが、同僚選手に、腕を掴まれて控え室に戻っていきました。まずは第一ラウンドはサポータの圧勝でした。

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 その後ゴール裏から、アジアのシンボル”どらえもんの大旗”が出現して、ホームゴール裏、メインスタンドの端、バックスタンドとスタジアムを周っていき、サポータは一つだという事をアピールします。応援コールも何度も続いてまったく途切れる気がしません。居なかった友人がスタンドに戻り、挨拶して自分の席に戻りました。さあ決戦の準備です。緑の能活Tシャツから友人に託された、相馬3レプリカユニに着替えます。日本から持っていった青いビニール袋100枚を周りに配ります。太鼓係りのリーダK氏がスタンドに向かって”ここは日本のホームだ””俺達の力で日本を勝たせよう””何が有っても絶対あきらめるな”とスタンドに向かって声を絞り出します。まずはイラン選手がアップの為、ピッチに登場。スタンドは敵意のブーイングで迎えます。遅れて日本選手登場。場内大歓声です。気になっていたツートップは、カズと中山であとはカザフスタン戦のメンバーと一緒でした。カズのスタメンにちょっとがっかりするも、出るからには精一杯の応援をという気持ちになります。スタンドは応援コールが始まります。スタメン選手のコール、サブの選手のコール、マリオ・フラビオコーチのコールが続きます。”ニッポン”のコールも段々大きくなってゆきます。ピッチでのアップが終わり、しばしスタンドも休憩。ゴール裏のサポータが各座席を周って、応援の激励に来ます。ゴール裏の太鼓以外はバックスタンドにはここしか太鼓が無いため、ゴール裏に合わせるよう依頼されます。スタンド全体で気持ちを一つにして応援をという気持ちになります。

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 FIFAのテーマ曲が流れて、いよいよ選手入場です。メガホンでY氏が”一緒に立って応援しましょう”と周りに声を掛けます。選手が入場してすぐに、君が代が流れました。ホームなのに?と先に流れて、ちょっと意表を突かれましたが、タオルマフラーを掲げて、声の限りに選手に届けと唄いました。ニッポンコールが少し続き、イラン国歌が流れます。終わると周りから拍手が自然と出ます。選手の撮影が終わって、ピッチに選手が散ります。どの選手も気合いが入ったいい顔をしています。

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 いよいよキックオフです。日本のボールからカズとゴンがセンターサークルから主審のホイッスルの合図で蹴りだします。ここからの模様は皆様がテレビで見たとおりです。前半最初から相手GKがあらかさまな時間稼ぎを続けます。グローブを代えたりしてペースを掴もうとしますが、そんな事に負けない日本イレブン。前線からカズ、ゴンが相手DFにチェイシングを掛け続けてペースを掴もうとします。30分過ぎ、中央の中田からゴンにスルーパスが出て、落ち着いて決めて先制点を挙げます。沸き上がるスタンド、私も周りの人達と抱き合います。しかし、1点じゃまだまだ、もう1点とすぐに気持ちを入れ替えて応援に戻ります。前半はこのまま1点リードで終わります。ハーフタイムに周りの人達と絶対このままじゃ終わらないから頑張って応援しようと気合を入れ直します。

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 後半開始、あっ!という間に井原が空振りしてボールはダエイに、シュートを能活がなんとか手に当てますが、詰めていたアジジに押し込まれて同点。本当にあっという間の出来事でした。まだまだ振り出しに戻っただけだ!と声援が飛びます。そうしてるうちに、右サイドの緩慢なプレイからセンタリングを上げられてしまい、ダエイのヘディングゴールが決まり2対1。がっくり肩を落とす日本イレブン。しかしサポータは、何のためにここまで来たのか、絶対逆転してくれると声援が飛びます。いやな時間が続くかと思われた時、ピッチの外に呂比須と城の姿が…、マリサポが待っていた城の姿を、”じょーしょーじ!GoalGet!”の声援を送ります。

 カズ、ゴンが交代して、日本の流れが良くなります。流れを良くしてたのは、この試合で”日本のエース”となった中田でした。最終予選の中で、この試合がいままで一番中田コールをしました。城が登場して数分後、相手カウンターのスルーパスを山口がカット左サイドに送ったボールを中田がセンタリング(試合中は、センタリングしたのは誰か解りませんでした)、城が同点のヘディングシュートを決めて2対2の同点。その後の時間も落ち着いて攻める日本に対して運動量がガタッと落ちたイランはまともな攻めも出来ずに一方的な展開になりますが、90分で決着が付かずにVゴールへ、

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 延長に入る直前、ここまで予選で一度も出番が無かった岡野が、ベンチ前からバックスタンドに向けて一度、二度とダッシュを繰り返します。とうとうここで使うんだ!監督は勝負を掛けて来たなという気がしました。ゴール前でスタッフを含めた全員で大きな大きな円陣が出来、ここで決めるんだという思いがスタンドまで伝わって来ました。

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 延長開始です。後半のいいペースのまま日本ペースで試合が進みます。代わって登場した岡野が苦しかった数ヶ月間を埋めるように走りまくります。登場してすぐに決定的なチャンスはGKにはじかれ、次はゴール直前で中田にパスを出して絶好のチャンスを潰してしまいます。3度目のチャンスは大きくゴールバーを越えていき、押し込んでいますが、ゴールが生まれない嫌な展開が続きます。延長前半が終了し、後半開始。後半も同じ様に日本ペースが続きますが、相手イランの鋭いカウンターで右サイドからセンタリング上げられ、”入る”と思ったダエイのシュートはクロスバーを越えていきほっとしました。ゴール前の混戦から城が相手GKとポストに激突して、治療の為、時間が過ぎていきます。(私のところからは城が頭をポストにぶつけて倒れているように見えて、相手GKは演技だと思っていました)治療が終わり、相手GKは左手が満足に上がらない様子。周りも右サイドにミドルを打てば入るぞと叫んでいました。

 そんな中、私たちが見ているサイドから中田がドリブルを始めて、岡野か城にスルーパスを出すように思ったんですが、相手GKの左側目掛けてミドルシュート!相手GKがはじく所を、岡野がスライディングで押し込みVゴール!!とうとう日本サッカーの歴史が変わりました。

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 ゴールが決まった瞬間は、周りにいる人と抱き合いました、日本人もマレーシアの人も関係有りませんでした。みんなと喜びを分かち合いました。でも決まった瞬間は何故か涙は流れませんでした。涙が流れたのは、ゴール裏から流れて来た、サポータの唄いはじめた”フランスへ行こ〜う♪みんなで行こ〜う♪”の歌声が聞こてからでした。ああ、これでやっとフランスへ行けるんだ。本当に、本当に、良かった。と思ったら、今までの苦しかった事が頭の中を駆けめぐってきて、泣けてきました。(^^;

 

        … 第四話終了 …    

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