アバン


自分で蒔いた種ではあるわけだけど、しんみりと昔話・・・ってわけにも行かず
やっぱりしっちゃかめっちゃかの大活劇、ってな感じなわけで。
まぁ、ユリカさんには自分の置かれている現状ってやつが認識できて良かったんじゃないでしょうか?

それにしたって・・・
月臣師範、ちょっと目立ちすぎじゃないの?
主役は私ですよ。



秩父山中のとある墓地


「彼らはアキトさんを落としました。」
「え?」
「アキトさんを利用して遺跡をコントロールする術を見つけた・・・という事です。
 これで草壁中将も大攻勢をかけられます。ま、一両日中がヤマですね。
 だから・・・」
「だから?」
ユリカはルリの言葉を待った。

「ユリカさん。あなたに渡しておきたいものがあります」
それはルリなりのユリカへの別れの挨拶であった・・・。



日々平穏


「・・・」
「・・・」
「あのぉ、これから用事あるんだけど・・・行っていい?」
「退屈だから・・・ダメ」
「・・・」
ホウメイに留守番を任されたラピスだが、なかなかサブロウタの服のすそを離さなかった。
しかし、見送りにいった人より遅れてどうするの、サブロウタ君?Janction Point



東京国際空港宇宙船専用滑走路


滑走路にはジャンボに背負われた旧式のシャトルはタラップを外されて発進直前になっていた。
船内は元ナデシコクルーが修学旅行の出発前よろしくめいめいに騒いでいた。

『いやぁ、お久しぶりだねぇ諸君』
「遅れてすみません」
「遅いよ、サブちゃん。リョーコが怒ってたよ。早くコクピットに来い!って」
「ほーい!」
 誰かがウインドウで激励しているようだけど、誰もそんなこと聞いちゃいない。
『忘れちゃいないと思うけど、念の為に言っておくと、僕ネルガル会長アカツキ・ナガレだから』
「ウリバタケ班長の穴は俺達で埋めるぞ!」
「整備班魂を見せてやる!」
「整備班ファイト!」
「「「「おお!!!」」」」
『今回の任務、期待しているから、じゃ!!』
「アカツキ君、落ち目だねぇ。影薄いし〜」
 ヒカルのツッコミは痛烈であった。

『全員、着席。本機は間もなく離陸する。』
 代わりにゴート・ホーリーが現れて現状説明をする。
『行動予定を説明する。親機にて高々度まで上昇する。
 その後、子機にて成層圏を脱出。地球日本時刻14時に月面到着
 以上だ!』

「・・・」
ゴートの説明を聞き流しつつ、ユリカは手の中にあったものをずっと眺めていた。
「ねぇ艦長ぉ」
「はい?」
「それルリルリから貰ったものでしょ。なんだったの?」
ミナトがユリカの手の中を物を伺った。
「ディスクと・・・チャルメラですよ」
「チャルメラ?・・・ああ屋台のだね」
「ええ・・・」
それはかつてユリカとアキトでルリにプレゼントしたもの。
三人で屋台をしていた時に、何かアキトの役に立ちたいと願ったルリへプレゼントしたもの。
アキトがラーメンを作り、ユリカが給仕をし、ルリがチャルメラを吹いて客寄せした。
貧しいながらも楽しかった仮初めの家族ゴッコ
そう、それはあの懐かしき日々の象徴であった。

だから・・・・・・

それはルリの形見分けなのであった・・・



Nadesico Princess of White(Auther's Remix ver.)

Chapter12 帰らぬ理由



回想・秩父山中のとある墓地


 北辰の襲撃騒ぎの後、小高い丘の下でルリとユリカの二人が対面していた。
ミナトやゴート、月臣らは丘の上で二人を見守っていた。
「あなた達、グルだったの?」
「なんのことだ?」
ミナトがゴートに詰め寄る。
「ルリルリ、ゴート・ホーリー、月臣元一朗
 三人揃ってネルガルは何をやってるんだか」
「女には関係ないことだ」
 そういったのは月臣だった。
「なんですって!!」
「人の暗部など覗く理由がなければ、覗かないほうが良い。特に子を育む女性はな。
 後は「人間」のフリをすることしか出来なくなる。」
「・・・」
「所詮、俺達のやっていることは、「人間」だった頃の「オモイデ」を必死に繕っているだけなのだから・・・」
ミナトは口を噤まざるを得なかった。それは闇に浸った者たちが放つ言葉の重みであった。
「ひとつだけ答えなさい。
 毎年白鳥さんのお墓に百合の花をそなえているの・・・あなたね?」
「・・・」
「後悔してるの?」
「いや、後悔なんかしていない。
 後悔するような理由で殺されたなどとは、九十九も迷惑だろう。
 ただ、俺は草壁なんかの為に、俺の様な親友を裏切る者をが生み出されるのを見たくないだけだ。」
「わかったわ」
月臣の精一杯のヤセ我慢にミナトも気づいた。
二人の平行線はほんの少しだけ近づいたのかもしれない・・・

そして丘の下ではもう一組の邂逅が続いていた。テンカワ・アキトという絆で結ばれていた義母と義娘との邂逅が・・・

「あたし、こんなもの貰えないわ!!」
ユリカは珍しく怒っていた。
「これはみんなでアキトを救い出した後に、もう一度屋台をやるために必要なものでしょ!?」
貧しいながらも、三人でアキトの屋台を切り盛りしていった日々。
少しでも手伝いたいとプレゼントされたチャルメラを必死に吹いていたルリの想い。
それはあの忘れえぬ日々をこの世に繋いでおく絆でもあったのだが・・・
「もう必要ないんですよ」
「・・・」
ユリカの想いを言外に否定するルリ。

「あなたの知っているホシノ・ルリはあの日、あの時に死にました。
 彼女の生きた証しです。受け取って下さい。」
そう言ってもう一度ルリはユリカにディスクとそして彼女愛用のチャルメラを渡そうとした。
「カッコつけちゃダメだよ!
 ヤセ我慢しちゃダメだよ!
 寂しかったんでしょ!
 辛かったんでしょ!
 帰ってきていいんだよ!
 一緒に戦おうよ!!」

感情の止まらなくなったユリカは一気に捲し立てた。それはユリカの偽らざる本音だった。

「違うんですよ・・・ユリカさん」
「・・・」
首をふるルリ。それはユリカの気持ちを理解していても、なおかつ否定せざるをえない事情があるからだ。

「火星の後継者達は、手っ取り早くボソンジャンプを制御するために二つの方法を考えました。」
「?」
突然何を言い出すのだろうと首を傾げるユリカ。
だが、それが彼女の「帰らぬ理由」に近づく一番の近道だとすぐに気づいた。

「一つはA級ジャンパーを遺跡に融合し、融合したA級ジャンパーをインターフェイス代わりにして遺跡を制御しようという方法。」
「アキトがされた方法だよね・・・」
無言でうなずくルリ。
「そしてもう一つ・・・」
そう続けながら、ルリは自分の顔に架けていた黒いバイザーを静かに外した。

「それとは逆に遺跡の組織を人間に植え付けて、強制的にA級ジャンパーを製造する方法・・・」
「は!!」
バイザーの下から覗いたモノ
それを見てユリカは息を呑んだ。

それはあの美しかった金色の瞳・・・ではなかった。

瞳であったモノ
そうとしか形容できないモノ
かつて金色の瞳があった場所にはただ、灰色の、遺跡と同じ素材の球体があっただけであった。
彼女の眼球は遺跡の組織に侵されて、遺跡と同化してしまっていたのだ。

「結構全身に広がってるんですよ、そうは見えないでしょう?
 ま、瞳が一番表面化し易かったようですけど・・・
 例えば左手なんて本当はもう動かすのも辛いんですよ。」
「もういいよ・・・・・・・・・」
自嘲気味に話すルリをユリカは声にならない声で必死に止めようとした。

「でも、おかしいんですよ。
 遺跡に侵食されればされるほど、
 ボソンジャンプが使えるようになった。
 ホワイト・サレナの操縦にも耐えられるようになった。
 北辰達と対等に戦えるようになった。
 皮肉ですよね。遺跡に侵されれば侵されるほど、復讐を叶える力を手に入れられるようになるなんて・・・」
「もういいってば・・・・・・・・」
『止めなきゃ』、そうユリカは思った。そうしなければルリの心は壊れてしまう。

「もうすぐ夢が叶うんですよ。
 ユリカさんを巻き込まずに奴らを倒すことがアキトさんの意思だったから。
 辛かったけど・・・。
 だから、最後まで一人でやりたいんですよ・・・」
「ルリちゃん・・・」
たぶん、もう誰の言葉もルリには届かない。なぜならその瞳からもう涙が流れることはないのだから

「もう、涙が出ないんですよ。
 食べ物も胃が受けつけないんです。
 アキトさんのラーメン、食べられないんですよ。」
思わずルリを抱きしめるユリカ。
「遺跡組織の侵食具合から見て今度こそ北辰に勝てるんですよ。
 次は多分、確実に・・・」
希望に綴られた言葉で語ればそうなる。しかし逆に言えばこれが彼女が「自分の生きた証し」を残せる最後の瞬間だったのだ。
彼女の心が変わることはなかった。いかなる言葉も彼女の前では無力だった。

「もうすぐ物言わぬ存在になるんですよ。
 だから・・・」
その後をルリは続けなかった。
それがルリの最後の優しさだったからだ・・・



再び東京国際空港


 飛立つ親子シャトルを空港の見送り用フロアには見送りに来たプロスペクターとホウメイの姿が合った。
「祝勝パーティー、楽しみにしてくださいねぇ!」
「今度は見送る側になっちまったね。」
見上げたままの二人。
「おや、残念そうですね。一緒に行けば良かったんじゃありませんか?」
やや冷やかし半分にプロスが言う。訳知り顔のくせに。
「古い友人が尋ねてくる事になってるんだよ。
 それに可愛いお客さんに店番任しちゃってるしねぇ。」
「なるほど・・・」

「プロスさん、ホウメイさん!!」
「「「「「こんにちわ!!」」」」」
後ろから唐突に黄色い声をかけられた。二人とも振り向くと少女達が立っていた。
メグミ・レイナードとホウメイガールズである。

「おやおや、遅刻かい?
 もうみんな行っちまったよ」
「いえいえ、彼らには別の任務がありまして」
「別の?」
ホウメイの疑問にプロスが答えた。
「さぁ、皆さん行きますよ!」
「「「「「「はい!!」」」」」」
「なんか面白そうだねぇ。後で教えておくれよ。」
この発言をホウメイはあとで半分後悔するのだった・・・



東京国際空港郊外


飛立つシャトルを眺める人影。
北辰の部下、六人衆達であった・・・。



なぜなにナデシコ


テロップが流れる。
『すみません、今回は一身上の都合によりお休みします。
 次回にお会いしましょう・・・by.白百合』



日々平穏


「はい、チキンライスだよ」Janction Point
「ありがとう」
 ラピスは留守番したお礼にホウメイからチキンライスを奢ってもらっていた。
横でルリが穏やかに微笑みながらラピスの様子を見守っていた。
「ねぇ、ルリ坊。本当に水だけでいいのかい?
 何かスープでも作ってやろうか?」
ホウメイは最初ルリの姿に驚きはしたものの、それ以降は特に詮索もしなかった。
たとえ姿や言動が変わっていてもごく普通に昔のルリとして対峙してくれていた。
ルリにはそれがありがたかった。

「かまいませんよ。どうせ味なんて感じませんし」
「残念だねぇ、食べる楽しみが無くなったら人生の楽しみの半分ぐらいは失うことになるのにさ」
「後の半分は?」
「寝ること」
「ふふふ」
 なぜ、ホウメイに会いにきたのか?
それはラピスがホウメイの料理を食べたいと言ったからだ。以前、ルリがホウメイの料理の思い出話をした時に興味を持ったみたいだ。
正直に言って、昔の仲間に会うのは勘弁したかった。でもホウメイならばと承諾した。
たぶん、ホウメイがいい意味で「大人」だったからだろう。
逝ってしまった者たちを多く見て来たが故の距離感、
死にゆく者たちが決して憐れみを求めている訳ではなく、
ただ自分のことを記憶に留めていて欲しいだけだという事を知っている人。

「姉さん、これ美味しい」
「そう」
ラピスは少し食べる手を休めてルリに話しかけた。
「教えてあげる・・・」
「え?」
ラピスは自分の味覚をルリとリンクさせた。ラピスが食事する度に、その味がルリに伝わった。
「どう、食べたがってたチキンライスおいしい?」
「ラピス・・・」
うまく感情を表現できないもどかしさで一杯だが、ラピスは精一杯優しい顔でルリを見つめた。

「昔、姉さん教えてくれた。ホウメイの料理食べたいって。食べれば元気になれるからって。
 だから元気になって欲しかった。」
ラピスは決して自分が料理を食べたかったからルリにねだったのではなかった。
かつて火星の後継者達に捕まっていた時、ルリが恐がるラピスをなだめる為にしていた思い出話の一つでホウメイの料理の事を話していた。
彼女は彼女なりにルリの役に立ちたかった。
かつての笑っていたルリに戻って欲しかった。
しかし今の彼女ではせいぜいユーチャリスのオペレーションぐらいしか出来なかった。
でもそれではルリは笑ってくれないのだ。
だからラピスは必死になって考えた。
その時思い出話をしていたルリの顔があまりにも幸せそうだったから。

「ラピス・・・バカね!」
「姉さん・・・痛い」
たまらず、ルリはラピスを抱きしめた。
決して涙は流せなかったが、ルリにはそんなことかまわなかった。

「いい妹が出来たね」
「はい・・・」
ホウメイの問いかけに素直にルリはうなずいた。
この時だけ、ルリはナデシコにいた頃のルリに戻れたのかもしれない・・・。

「オモイデ」は「耐える力」を与えてくれるはずだから・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


と言うわけで、お墓のシーン後半です。やりたかったシーンその2と言うことで今回のこのシーンがやりたいが為にこのお話を書き始めたといっても過言ではありません。
いやぁ、ルリをああいう扱いにして、どういう反応が返ってくるかわかりませんが、先に一言だけ言っておきますと決して救いの無いお話しにだけはしません。
それだけは信じてください。

一応、おっかなびっくりではありますがご感想をお待ちしております。
次回からは明るい話に戻りますので。

では、次回まで・・・

Special Thanks!!
・SOUYA 様