アバン


誰かが勝手に始めた戦争
あちらの正義とこちらの正義
正義の御旗はどこへやら

でもそんな戦争にでも、巻き込まれてしまったからには、それはもう「僕たちの戦争」
だから、もう一度「戦う目的」を見つめ直して

自分を見失わないうちに

心が壊れないうちに

私の様にならないうちに・・・



アマテラス戦闘宙域


「もうちょい!」
リョーコらライオンズシックル隊はホワイトサレナを追い詰め始めた。
『全員付いて来られても困るので、間引かせてもらいますね』
バシッ!!
いきなりホワイトサレナはパーツの一つを切り離した。追加のバッテリパックだった。いきなりのことで避けきれなかったエステバリスにぶつかる。そして小爆発をおこした。
『わぁ!脱出!』
「なに!」
次々いらないバッテリーパックを放出した後、初めてホワイトサレナのほうから砲撃した。
『脱出!』
『隊長!すみません!』
その精度、その威力によりフィールドを張りながらも、ライオンズシックル隊のエステバリスはコックピット以外の箇所をきれいに打ち抜かれていった。
そして、ホワイトサレナは高速強襲用のバードタイプから、手足の拘束を解いてより格闘戦向きのワルキューレタイプに変形した。
「くそ!おめぇはゲキガンカーかよ!」
部下を落とされた悔しさに歯ぎしりした。

「打ち落とせ!!」
アズマはあらかじめ彼らのコースに砲戦エステバリスを多数配置しておいて、一斉掃射させた。
「撃て、撃ちまくれ!!」
翻弄するように飛翔するサレナに砲戦エステもあきらめたのか、ただひたすら撃ちまくった。
『暫くリョーコさんの相手をしておいて』
サレナは浴びる無数の砲撃をからかうように避けながら、不意に姿を消すようにあさっての方向に飛び去った。後ろから追っかけていたリョーコ機がその砲撃にさらされることになった。
「わぁ、ば、バカ。味方だ・・・」
「撃て、落とせ、撃ちまくれ!」
既に目的と手段が逆転しているアズマ。
「ばっきゃろ!!」
思わず、レールキャノンを砲戦エステにぶつけるリョーコ。


アマテラス統合軍ブリッジ


『てめえら邪魔なんだ!そこで黙ってみていろ!』
「何を、お前こそ邪魔だ!」
『邪魔はそっちだ!』
エステバリス隊の隊長なのに守備隊司令官を邪魔者呼ばわりするリョーコ、大体砲戦では捕らえきれないのは明白なのに既に目的を見失って砲戦にこだわり、あまつさえリョーコと同レベルで罵り合うアズマ。
統合軍にはこんな奴しかいないのか?

『あの、ゲート開いちゃっているんですけど、いいんですか?』
「「え?」」
二人のいがみ合いに割り込んだユリカがそっけなく伝えた。
「13番ゲート開いています。敵のハッキングです!」
オペレータの報告がそれを裏づけた。

『第13番、「遺跡」搬入口、開門』
「13番、なんじゃそれは、ワシはそんなもの知らんぞ」
「それがあるんですよ、准将」
アズマの疑問にシンジョウが答えた。
「どう言う事だ、シンジョウくん」
「茶番は終わり、と言う事ですよ」

「人の執念・・・」
シンジョウの呟きは、ここまでたどり着いた敵に対してのものだったのだろうか?



Nadesico Princess of White(Auther's Remix ver.)

Chapter4 MARTIAN SUCCESSOR



なぜなにナデシコ


「しばらくお待ちください」のように次のテロップで流れていた。
『ただいま外出中、宿題です。次回までに今回のサブタイトルの意味を考えておいてください』



第13番ゲート内


砲撃をかいくぐりながら、ゲート内部に突入するホワイトサレナ、遅れてリョーコのエステバリス・カスタムも後に続いた。
「待ちやがれ、うぉ!!
リョーコ君、機体が違うんだから同じように突っ込んじゃダメだって・・・

『大丈夫ですか?リョーコさん』
無数の機動兵器のスクラップに囲まれながら、なんとか助かったリョーコ機のコックピットにユリカのウインドウが現れた。
「おお、艦長。久しぶり、元気か。2年ぶりかな?」
『ええ、それよりそのトラップ突破するなんて流石リョーコさんですねぇ』
「へ、無人機倒したって自慢にはなんないけどな。」
リョーコはひっくり返った機体を起こしながら言った。

『侵入者を無差別に攻撃するトラップみたいですね。ありがちですけど並みの相手には効果絶大ですからね』
「フーン」
『トラップのないルートに案内します。マップ送りますね』
「すまないな、艦長」
ユリカの勧めに従ってエステを進めるリョーコ、まだナデシコ時代の呼称で呼ぶ癖が抜けないようだ。が、数秒後にあることに気づく。

「ああ!!あんた、人ん家のシステムハッキングしているな?」
『あはははは、いえ、敵さんのハッキングしているパケットを解析しているだけですし、そもそも実行犯はこのハーリー君ですから』
『ああ〜っ、艦長ずるい!』
「ははは」
アキトが事故で亡くなった後、居たたまれなくてその後ユリカと合わなかったリョーコだが、彼女の変わらぬ姿にほっとしたようだ。



再びアマテラス統合軍ブリッジ


「敵、第5隔壁に到達」
オペレータが報告する。だが、それは既に統合軍の為の報告ではなかった。
「プラン乙を発動」
シンジョウ中佐は宣言するように指示した。
その場にいる大半のオペレータは彼の指示に沿って動いた。本来の司令官、アズマ准将を無視して。それどころか羽交い締めにすらされていた。
「離せ、ワシは逃げはせん!」
「准将お静かに!」
「シンジョウ中佐、何を企んでおる。君たちは何者だ」

「地球の敵、木連の敵、宇宙のあらゆる腐敗の敵」
「!?」
「我々は火星の後継者だ!!」
統合軍の制服を脱ぎ捨てて、彼らの本性を現した。
「火星の後継者」という名の本性を・・・



第5隔壁前


隔壁前に到着したホワイトサレナはさっそく隔壁の開閉パネル前に機体を移した。
『この隔壁を開くにはパスワードの入力が必要です』
白百合・・・サレナのパイロット・・・はその警告に従い、パスワードの入力に入ろうとした。しかし、一瞬早く追いついたリョーコ機がその背後に着いてそれを制した。

「おっと、そのままそのまま」
リョーコはそのまま相手機に接触通信用のワイヤーを打ち込んだ。
「すぐにどうこうするつもりはない。まずはあんたと話がしたい奴がいるんだ」
『こんにちわ。私は連合宇宙軍大佐、テンカワ・ユリカです。
 無理矢理で済みません。こちらからのウインドウ通信に答えていただけなかったので、リョーコさんに中継を頼んだんです。』
無言の相手機にかまわず話し続けるユリカ。
『あなたは誰なんですか?』

その質問に興味を失ったのか、白百合はユリカを無視した。
「ラピス、パスワード解析」
ホワイトサレナの頭部から突き出す・・・まるでポニーテールのような・・・アクティブテイルが開閉パネルに近づいてパスワード入力を行った。

「パスワードを入力してください」

>JESUS■.....

「確認」
彼女は苦笑した。そのパスワードがこの中に隠しているものを皮肉ったものだと。
イエス・キリスト、そう神を隠しているのだと。

「時間がありません。見たければ勝手にどうぞ、中身は保証しませんけど」
初めてのホワイトサレナからの肉声にギョッとするユリカ。そのパイロットが女性だとは思わなかったからだ。
だが、そんな感傷を押し流すかのように隔壁の扉が開いていく。
飛び込んでくる光景に思わずリョーコやユリカは目を奪われた。

「何ぃ!!」
リョーコはサレナの事は忘れてたまらず飛び出した。
「何だよ、これは!」
『リョーコさん!』
「何なんだよ、これは!!」
『落ち着いて!!』
「何のつもりなんだよ、こりゃ!!!」
『リョーコさん、冷静に!!!』
怒りに震えるリョーコをなんとかなだめようとするユリカ。彼女だって動揺していないわけではない。ただ、艦長という職業をやっている以上、自分が真っ先に混乱するわけにはいかない。そういう訓練を受けている、ただそれだけだった。
気持ちはリョーコと同じだった。


遺跡格納庫内部


オモイカネの照合データでは「そこ」にあるのものは99%の確率で「初代ナデシコ」とあの「遺跡」と推測された。
『形は変わっていても、間違いありません。
この前の大戦で地球も木連も狙っていた、ボソンジャンプのブラックボックス』
「・・・」
『これがヒサゴプランの真の目的だったんですね?』
「そうですよ」
白百合は肯定だけした。
「あれは、お前やアキトやルリが必死の思いで誰も手の届かないところに飛ばしたんじゃないのかよ!」
『リョーコさん・・・』
「それがこんなところにあるんだよ。アキトやルリやイネスさんが浮かばれないじゃないかよ!」

それはかき消した、彼女たちの感傷を。まるでそれが無意味であるかのように・・・
『それは人類の未来のため!!』
まるで彼らの「正義」に対抗するようにあの男のウインドウがナデシコを覆うように現れた。
「え!」
「クサカベ中将!!」
「リョーコさん右!」
白百合からのとっさの忠告にリョーコは反応できなかった。
漆黒の闇を滑る「それら」は、前から、横から、上からリョーコのエステバリスに襲いかかった。
「わぁぁぁ!」



アマテラス各所


『ヒサゴプランは我々火星の後継者が占拠した』
次々、各所を制圧していく火星の後継者達。
いや、そのほとんどは最初から火星の後継者たちだった。知らない一部の人を圧倒しつつ彼らは着々とアマテラスをその支配下においていった。
『占拠早々申し訳ないが、我々はアマテラスを爆破、放棄する』
呆然とする一般人、そして「正規」の統合軍達。


ナデシコB


『敵味方、民間人を問わずこの宙域より離脱を勧告する。繰り返す・・・』
「律義な人達だなぁ」
そのシンジョウのアナウンスに現実感がないのか、ハーリーが気の抜けた感想をもらす。
「ハーリー君、データ収集終わった」
「はい、ばっちり」
「そう、サブロウタさん、リョーコさんをお願い」
「了解!」
サブロウタのスーパーエステバリスがアマテラスへ向かって発進した。
この時点でナデシコあるいはユリカは傍観者だった。まだ傍観者でいられた・・・。



再び遺跡格納庫内部


『リョーコさん、大丈夫ですか?』
「アブねぇ、今度はマジやばかな・・・」
錫杖が機体に食い込んで身動きが取れないリョーコ機。ユリカのウインドウもノイズ混じりで機体のダメージが深刻なのを物語っていた。左手、左足をパージしてもまだ身動きが取れなかった。
頭上ではホワイトサレナが先程リョーコを襲った相手と戦っている。何もできない自分にリョーコは歯がゆかった。
そして、かばうようにリョーコのそばに降り立つホワイトサレナ。

「あなたは関係ありません。ちゃっちゃと逃げちゃってください」
「言われなくてもやっているよ!」
白百合から通信が入る。興奮していてリョーコは気づかなかった。その声に。
「来ますよ・・・」
「え?」
努めて冷静を装う白百合、発せられる殺気に気づいてリョーコは振り向いた。
ボース粒子増大。何者かがジャンプアウト。あの錫杖の音・・・

シャリン・・・

「一夜にして、天津国まで伸び行くは、瓢のごとき宇宙の螺旋・・・」

シャリン・・・

それは真っ赤な機動兵器、夜天光 そして彼の影、六連。
圧倒的な殺気を纏って、その場に現れた。
「男の前で死ぬか?妖精」
彼は不敵にあざ笑った。

「北辰!!」
「男?妖精って・・・え?」
そんなリョーコの疑問を考えるまもなく、事は起こり始めていた。
怪しく遺跡が光り始める。北辰の言葉に反応するかのように・・・。

遺跡が開き始めた。他に適当な形容詞はなかったが、開き始めた。
それはまるで十字架のように。
そしてその中にはまるで十字架に張りつけにされたかのような男の姿が現れた、まるでJESUSの様に・・・
『ア、キト?』
ユリカが呻く。そう、彼女の夫だった。ただし、彫像のように遺跡の一部と成り果てた姿ではあったが。

どこかで爆発する音が聞こえた。火星の後継者がアマテラスを放棄し始めたのだろう。あちこちから爆破の影響で破損した構造物が落ちてきた。その騒音に負けないようにリョーコは叫んだ!
「ルリ!ルリなんだろ!だから、リョーコさんって、オイ!」
白百合=ルリは答えない。彼女の関心はリョーコにもユリカにもなかった。彼女の関心は既に目の前の養父と仇敵北辰のみだった。

「滅」
リョーコの悲痛な叫びも無視するかのように、ホワイトサレナと夜天光は戦い始めた。

「お助けマン参上!」
そんなところに乱入してきたサブロウタのスーパーエステバリス。だが、既にアマテラスの崩壊はそこまでに近づいていた。


第13ゲート内


「バカバカ!引き返せ。アキトとルリが!」
「艦長命令だ。悪いな」
リョーコ機のアサルトピットだけ抱えて、来た道を引き返すサブロウタ。彼の命令は「リョーコさんをお願い」だった。敵と戦うことではない。



ナデシコB


『ユリカ、見てるんだろ、聞こえてるんだろ。あいつら生きてたんだよ』
ユリカは答えなかった。いや、答えられなかったのだ。
『今度も見殺しかよ!チクショウ!チクショウ!』
艦長としての理性がなんとか彼女の感情の暴発を押し止めていた。言葉に出せばそれを止められない。リョーコのように泣き叫べたらどんなに楽だろう。

一呼吸をついて心を押さえ、ようやくその一言だけを発した。
「タカスギ機を回収の後、この宙域を離脱。地球に帰還します。あと、ハーリー君お願い」
「了解」
それだけ言うとユリカは膝を抱えてうずくまった。
彼女の席から他のクルーにその姿を見せずにすむのは幸いだった。

アマテラスが宇宙の藻屑となるのを眺めて、ユリカは不思議と涙だけが出なかった・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


別にルリに恨みがあるわけではありません。
ただ、ルリがアキトを救うということは、アキトがユリカを救うのと同じなのか?
ルリがアキトを救う事で本当にルリは救われるのか?

そういう好奇心があって書きました。
だから、もしよければ見守ってください。

ついでにユリカがユリカらしくアキトを救えるのかも見守ってください。

では。

Special Thanks!!
・えちょ様