「痛い」って?


 確かムツゴロウさんのテレビ番組でのこと。キツネだったかが大けがをして治療をする場面で、「野生動物は痛みの感覚は鈍いらしい」との説明が付いていました。生物の授業で解剖にとりかかるのを躊躇する生徒にこれを言ってやるとほっとした表情で切り裂き始めます。
 でも、本当にそうなんでしょうか。
 実家で犬を飼っていましたが、遊んでいてはずみで足を踏んでしまうことがしばしばありました。そんな時、犬は「ぎゃいんっ!」と声をあげます。あれは「痛いっ!」ではないのでしょうか。
 もしかしたら「びっくりしたっ!」なのかもしれませんね。また、もしかしたら犬は野生動物ではないから痛いのかもしれませんね。


 ではキツネはけがをしても平気なんでしょうか。多分平気じゃないと思います。たとえば足をけがしたら獲物を追って走ることができなくなるのは困るでしょう。目や鼻を傷めたら獲物が探せなくなって困るでしょう。キツネ以外の動物についても、餌をとったり身を守ったりすることに差し支えるでしょうから、けがをすると困るはずです。困ると言うよりも、生存の危機にさらされる事になるわけです。
 ところで、「痛い」というのはどういうことでしょう。「体に異常がある。ヤバいぞ」という感覚ではないでしょうか。だとすると、「けがをした。困ったぞ」は「痛い」と全く同じことになります。つまり、キツネもけがをすれば痛いはずだということになります。


 もしかしたら、本当に困ったとき初めて「困ったぞ」と思うのかもしれません。つまり、「走ろうとしたら走れない」というとき初めて「困ったぞ」と思うのかもしれません。もしそうだとしたら、けがをした時点ではまだ「困ったぞ」と思わない、つまりけがをしても「痛い」と思わない事になります。


 先日、同僚の先生の3歳だかのお子さんが手術をうけられました(*1)。手術室から帰ってきたところで、何時間ごとかに痛み止めを打ったりするのかと看護婦さんに訊いたところ、こんな答えが返ってきたそうです。
 「小学生になると痛み止めが必要ですが、小さい子供はいらないんです。痛いと寝てしまいますから」。実際、泣きもせずに寝ていたそうな。


 いやー、生き物の体って、よくできてますよねえ。ヒトはともかく、野生動物の子供が「痛い」といって鳴き声をあげたら食われてしまいますものね。タダでさえ子供は狙われやすいのに、しかもけがをしている(=体の自由が利かない)となると。
 そういうときは息を潜めて静かにして、見つからないことを願うほかにありません。ある程度大きくなった個体ならそういう判断もできるでしょうが、幼い個体にはムリでしょう。ところが寝てしまうことで自動的に静かになるようになっているのです。


 あれ?ってことは、やっぱり痛いんじゃないの?
 もしヒトだけが痛いのだとすれば、上記の適応もヒトだけのものであり、すなわちヒトの先祖がほかの動物(ほかのサル)と分かれてからの数百万年(*2)のあいだに形づくられたことになります。これは大変短い時間であり、そのような仮説は不自然であるように思われます。どうでしょう。>生物の専門家


(*1) なんかニホンゴがおかしい気がします。どう直せばよいのでせう?
(*2) しかも捕食者の脅威を感じなくて済む生活をするようになるまでの間。

 


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