この頃の自動車CMでは「この車は安全です。ぶつかっても大丈夫です。」と宣伝するものを良く見掛けます。それを見る度に「何か違う」と思ってしまうのです。 自動車と飛行機は本質的に同じだと思います。飛行機は「落ちたら多分死ぬ」ことは承知の上で乗ってますよね(もちろん、めったに落ちないのですが)。ところが自動車には「ぶつかっても死なない」事を求める。ヘンですよ。 |
最初「時速50kmで壁に衝突しても車室が潰れない」から始まった衝突安全設計は、正面衝突、側面衝突、より重い車との衝突と、より厳しい事態を想定したものになってきています。 その結果車体は大きく重くなりました。ちょっと前には自重が800kgだったサニーが、いまでは1t以上あるのです。1.5tを超す乗用車も珍しくなくなっています。 将来はどこまで丈夫になるのでしょう。「踏切で電車とぶつかっても大丈夫」「橋桁が落ちてきても大丈夫」まで行かないと収まらないような気がします。多分、その頃はサニーの自重が10tぐらいになり、それを動かすために8000ccぐらいのエンジンが積まれることになるのでしょう。燃費は2km/Pぐらいかな。 それはさすがにばかげていると思うでしょ?でも今行われていることはそれと五十歩百歩だと思うのです。 そりゃ、死なずに済むほうがいいに決まってます。しかし、自動車に乗っている人(運転している人ばかりでなく)は飛行機に乗る人と同様、「ぶつかったら死ぬかもしれないよ」ということは当然了解しているはずだと私は思っています。その人を守るためにそれほどのことをする必要があるのでしょうか。 |
一方で、死ぬ覚悟のできていない(と私は思う)歩行者を守る事に関してはおざなりになっています。こっちのほうが重要だと思うのですが。 車体の突起物をなくしたり、ボンネットの前方を下げたデザインにすることが広まっていますので、人をはねた時の死亡率は幾分下がっていることでしょう。それでも自動車にぶつかった人はかなり高い確率で死にます。 歩行者の事故死を減らすには、歩行者の関係する事故そのものを減らす事が必要です。そして、その手だてはほとんど打たれていませんよね。せいぜいABSが普及している程度です(*1)。 狭い日本、道幅が狭いのはむしろ当たり前です。事故を減らすにはスピードの出し過ぎをなくすことです。しかしこの簡単な事ができずにいるのが現実です。 |
むしろ、道路交通の流れは速くなっています。スピードを出しすぎる背景には、日本社会が相変わらずモーレツ(←ふ、古い ^^;;;)を求めていて、危険は承知で1分1秒を切り詰めるのを何とも思わなくなっていることなどもあると思います。 また、「ぶつかっても大丈夫」と並んで、「この乗用車は滑りにくくつくってあります。路面の状態の悪いところでも気にせずに走れます」といった内容のCMもよく見掛けますが、メーカーが臆面もなく流すそういうCMが、今の自動車は限りなく安全になっているような錯覚をもたらし、事故の減少を阻んでいるはずです。 「気にせずに走れる」のは、おもに余裕を切り詰めて走っている事をドライバーに気付かせないようにつくってあるからに過ぎません。それに、しょせん運転しているのはヒトなんです。 メーカーが、ドライバーに必要な緊張感を感じさせる自動車ばかりつくってくれれば事故は減るはずです。でも、そういう車って売れないんだよなぁ。 |
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