宇宙人を探す


 われわれは地球のいろいろな生物について調べることで、われわれヒトについての理解を深めてきました。同じように、地球以外の生物について知ることができたら、地球の生物のことをもっとよく知ることができるかもしれません。また、他の文明のことを知れば、現在われわれの文明が抱えているいろいろな問題を解決するヒントが得られるかもしれません。
SETI計画

 アメリカ科学財団の主宰で「SETI(Search for Extra-Terrestorial Individuals)計画」という事業が30年ほど前からおこなわれています。E.T.(すなわち地球外の人)を探すという名の計画です。
 SETI計画で使われている主な武器は、メキシコのアレシボというところにつくられた直径300mの電波望遠鏡です。電波望遠鏡というのは大きなパラボラアンテナで、星や宇宙空間のガスが出す電波を集めるのが普通の使い方です。普通の望遠鏡(光学望遠鏡)がレンズや凹面鏡で弱い光を集めて暗い天体を見るように、大きなアンテナで弱い電波を集めて調べるのです。(*1)(*2)
 われわれはテレビ、ラジオ、各種通信などの目的で日々たくさんの電波を出しています。よその宇宙人も(もしいるとしたら)同じようなことをやっている可能性が高いでしょう。そのような電波を見つけるのがアレシボ天文台の目的です。もしかしたら、意識的に宇宙人宛の電波を出しているかもしれません。いずれにせよ、自然現象ではおきないような、複雑な変化をする電波が見つかれば、それは宇宙人がいる証拠と考えてほぼ間違いありません。
 今のところ、宇宙人からの電波は観測されていません。つまり、われわれは、宇宙人がいるという証拠をつかんでいません。また、反対にいないという証拠もつかんでいません。
 (*1)電波望遠鏡は日本にもいくつかあります。東京から近いところでは、八ヶ岳の東にある野辺山天文台などです。ここはいつでも構内が見学できます。
 (*2)アレシボの天文台は、山の中の窪地をお椀形に形を整え、鉄板を敷き詰めたような作り方になっています(*3)。地球の自転に伴ってアンテナが向きを変えるので、広い範囲の空を観測できるようになっています。
 (*3)西武球場方式です…と言っても今時の若い者は知らんか。


地球からの発信

 一度だけ、アレシボのアンテナから宇宙人宛のメッセージを送信したことがあります。「ここに、科学に興味を持ち、電波を使いこなす生き物(*4)がいます」という意味を込めた絵を送りました。宛先は、約2万5000光年のところにあるM13と呼ばれている球状星団です。いろいろの証拠から、宇宙人がいる可能性が比較的高いと考えられました。また、地球から比較的近い(*5)ため、ここが選ばれたのです。
 太陽系の惑星を探査する目的で打ち上げられた「ボイジャー1号・2号」には「この物体は太陽系の第3惑星から来ました。」ということを絵で刻んだ金属板と、地球のさまざまな音を録音したレコードが積み込まれています。もしかしたら目的を達したあと太陽系外の宇宙空間を漂っているときに円盤に乗って旅をしている宇宙人に拾われるかもしれない、そのときのためにです。
 (*4)地球人のことです。
 (*5)それでも25000光年です。電波の速さで往復5万年。


いるのか?いないのか?宇宙人

 先に述べたとおり、今のところ、宇宙人がいるという証拠も、いないという証拠も見つかっていません。いるのかいないのか、いろいろな意見があります。それらを紹介してゆくことにしましょう。

・大前提 … 水と有機物
 われわれ地球の生物の体の主要な部分は、ほとんど水と有機物でできています。有機物は、構成する元素が同じでも結びつき方によって実に多種多様な性質の異なる物質になります。生物がおこなう複雑な化学反応にはうってつけです。また、その反応は大部分が水溶液の中でおこなわれています。水はいろいろな物質をよく溶かす性質を持っています。
 ですから、もしよそに生物がいるとしても、たぶん似たような仕組みになっていることでしょう。

・いる? … 「ありふれた材料、ありふれた条件」
 以前、太陽の勉強をした中で、太陽の中心部では「核反応」がおきており、水素原子がヘリウム原子に変わっているということが出てきました。われわれの体をつくっている主な元素である炭素、水素、酸素、窒素など(*6)は、恒星内部の核反応でつくられ、恒星の寿命が来たときにばらまかれていることがわかっています。実際、宇宙空間のガスが出す電波の観測などでもこうした元素がたくさん存在することがわかっています。
 宇宙空間のガスやチリが集まって地球はできたと考えられています。太陽系以外に惑星があるとしても、同じようにしてできたことでしょう。つまり、炭素、水素、酸素、窒素…が豊富にあるのは地球に特有の条件ではありません。
 また、大昔の海を想定した装置の実験で、タンパク質の部品であるアミノ酸ができることは確かめられています。ですから、ありふれた材料とありふれた条件があれば有機物はごく当たり前にできるもので、地球と同じようなことがよそでもおきているに違いない、という意見があります。
 (*6)多い方から順にC・H・O・Nです。第5位以下はMg・Ca・K・S・P・Feと続きます。そこで「チョンマゲ隠すリンと鉄」などという覚え方があったりします。(^^)

・いない? … 「ありふれた条件ではない」
 反対の意見もあります。地球のように、液体の水があるところでは水溶液の中で化学反応が進んで有機物ができるのかもしれません。しかし、この前勉強したように、太陽系の中で液体の水があるのは地球だけです。金星は太陽に近すぎ、火星は遠すぎます。「液体の水が大量に存在する」というのは非常に稀な条件だというのです。
 また、条件が揃っていてもタンパク質は簡単にできるとは思えないという人もいます。例の実験でも、アミノ酸はできましたが、タンパク質はできませんでした。地球でタンパク質ができたのは何かよほど特別な条件があったに違いないというのです。

・いる? … 「宇宙の広さと地球の広さ」
 もしかしたら惑星が液体の水を持つ確率は大変低いのかもしれません。しかし、宇宙にはたくさんの惑星があるにちがいありません。その中には液体の水を持つものがいくつかはあると考えるべきではないか、そう考える人がいます。
 有機物をつくる実験は、たかだか数百日、非常に限られた条件で行っただけです。何万年も続ければタンパク質ができるのかもしれません。また、実際の海はところによって様々に条件が違ったことでしょう。生命が発生するような条件のところがどこかにあるのが当たり前だ、と考える人もいます。

・いない? … 「進化は進まない?」
 地球ができてから最初の生命が発生するまでほんの10億年そこそこでした。しかしその後の進化はなかなか進みませんでした。カンブリア紀になってさまざまな体の仕組みをもったものが大量にあらわれるまで、30億年かかっています。
 これがどこまで一般論として拡張できるかは不明ですが、生命が発生することはそれほど難しいことではないが、その後進化が進むのは難しいことだ、そう考える人がいます。きっと、生命が発生しても多くの場合は進化が進むことなしに滅んでしまうに違いない、と。

・いる? … 「地球はむしろ遅いほう」
 いや、逆に地球のように何十億年もかかる方が例外なのではないか、そう考える人もいます。一旦生命が発生したら一気に進化が進み、多様な生物が栄えるようになるほうが普通なのだ、と。

・いない? … 「文明の寿命」
 もしかしたら、宇宙にはたくさんの生命が発生し、すさまじい勢いで進化を続けているのかもしれません。その多くが文明を持ち、電波で交信するようになるのかもしれません。しかし、「その文明があるとは限らない」と指摘する人がいます。ないのなら、探してもむだなことです。
 われわれの地球はできてから今まで46億年。この先50億年ぐらいで太陽が寿命を迎え、地球も運命をともにすると考えられています。合計約100億年です。一方、地球人が電波を使うようになって100年そこそこです。もしわれわれの文明が地球が滅ぶまで続くとしたら、電波文明の寿命は50億年で、地球の寿命のざっと半分です。しかし、もし明日滅ぶとしたら、電波文明の寿命は100年で、地球の寿命の1億分の1です。
 たとえば銀河系の中に1億個の文明が発生したとして、その寿命が惑星の寿命の半分であるならば、今存在する文明の数は5000万です。しかし、惑星の寿命の1億分の1であるならば、いま存在する数は1個ということになり、見つけることは難しそうです。ってゆーか、地球以外には存在しないかもしれないということです。
 前回勉強したように、われわれの文明はたくさんの問題を抱えています。資源の枯渇、公害問題、いわゆる文明病…。

・いる? … 「そんなにバカじゃない」
 冷戦時代、米ソ2つの大国は、全人類を何回も滅ぼすほどの兵器を手ににらみ合っていました。そのころ、「人類が明日滅ぶかもしれない」というのはきわめて現実的な不安でした。その状態は今では解消しました。戦争そのものが根絶されたわけではないし、大量の兵器は残っています。しかし、「明日、人類が滅ぶかもしれない」という危機はなくなったと見てよさそうです。
 われわれの文明は、とりあえずの最大の問題をどうにか解決したようです。他の問題も、いずれ解決する知性をわれわれはもっているかもしれません。われわれだけでなく、他の惑星で文明を作り上げた宇宙人達も、危機を乗り越える知性をもっているに違いない、だから文明の寿命は長く、宇宙には今もたくさんの文明があるだろう。そういう考えもあります。

 くどいようですが、これらの考えの、どれが正しくてどれが間違っているか、今のところわかりません。当然、地球以外に文明があるのかないのか、現時点ではわかりません。(逆に、他に文明があるのかないのかわかれば、どの考えが正しいのかわかるのかもしれません)


ダイソンの球殻

 別の方法で文明の存在を調べようとした人がいます。アメリカ人のフリーマン・ダイソンという天文学者です。
 彼は、「進んだ文明」がどんなものかをまず考えました。われわれの文明は、100万年前に火を使い始めて以来、薪→木炭→石炭・石油→原子力 と、どんどん大きなエネルギーを使うように変わってきました。われわれのお手本になるような進んだ文明があるとしたら、きっとより大きなエネルギーを使っているに違いない、と考えました。具体的には核反応のエネルギー、それも惑星から放射性物質を掘り出して使うよりもっと大きなエネルギーを。恒星です。
 太陽から放出されたエネルギーは、ごく一部が地球にあたって地球を暖めたり、光合成をおこさせたりしますが、大部分は地球にあたらずに宇宙空間へ出ていってしまいます。進んだ宇宙人は、これを集めて利用する仕組みをもっているに違いない、というのです。
 そのためには、恒星系全体をすっぽり覆うような球殻をつくり、その内面で恒星の光を集めて自分たちの惑星へ送り込むようにしているに違いない、と考えました。そのようなものが見つかれば、そこに宇宙人の文明がある証拠と考えられます。
 ダイソン球は、普通の恒星より遥かに巨大なものになるでしょう。また、普通の恒星より低温で、可視光は出していないでしょう。しかし異常に強い赤外線を放出しているはずです(*7)。
 現在の技術でも、そのようなものを探すことはそれほど難しいことではありません。地球を中心に、半径数百光年の範囲にあれば、確実に見つかるはずだ、そう考えて彼は探しました。
 結果は…見つかりませんでした。これはどういうことか、2通りの解釈ができます。ひとつは、「地球の近くには、進んだ文明は存在しない」という解釈です。
 もうひとつは「そんな文明は存在しない」という解釈です。つまり、真に進んだ文明はエネルギーを大量に消費するようなことはしない、ということです。もしそうだとしたら、現在のわれわれがやっている、エネルギー大量使用・大量生産・大量消費を考え直すべきだということになります。
 この考えが正しいかどうかは今のところ不明です。しかし、気になる説ではあります。

(*7)熱力学の法則によれば、エネルギーを使ったあとは必ず低温の熱として捨てなければならないことになっています。


UFO?

 宇宙人といえば、いわゆるUFO。ただ、確実に万人が納得するような報告は今のところないようです。
 私も、変な飛び方をするものを見たことがあります。でも、もしかしたら何かの見間違いかもしれないし、未知の自然現象かもしれないし、一般に知られていない地球人の作品(どこかの国の秘密兵器とか)かもしれません。
 今のところ、UFOを宇宙人存在の証拠として取り上げることはできないでしょう。


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