統計に関するゴタク・その2

 「プルトニウムの恐怖」に、放射能の健康に与える影響について論じている部分があります。
 たとえば、120ページあたりに「ロッキー・フラッツの核兵器工場の周辺でガンが多いのではないかと疑った医師が数十万人の住民について調べたところ、プルトニウム粒子による地表の汚染度と発ガン率に相関関係が認められた。しかし当局はこの報告を無視している」という内容の記述があります。
 「当局は『不当に』無視している」という印象を持ってしまいがちなところですが、ところがこれ、必ずしもそうは言えないみたいなんですよ。
 というのは、こんなことがありまして…。


 1994年のことですが、「週刊プレイボーイ」が「有数の『原発銀座』である敦賀半島周辺では、白血病や悪性リンパ腫の発病率が高いのではないか」との内容の記事を連載していました。で、全国、福井県、当該地域の統計の表が添付されているのですが、不思議なことに

 「昨年(1993年)の死亡率(発病率)」
 「過去2年間(92,93年)の死亡率(発病率)」
 以下、「過去3年間(91,92,93年)の」「過去4年間の」「過去5年間の」「過去7年間の」「過去10年間の」「過去15年間の」「過去20年間の」「過去24年間の」
 というようになっているのです。
 疑問に思って1年あたりの率を計算してみました。その結果

      日本全国の人口  白血病死者数  死亡率(/10万人)
93年度    124764000    5819    4.66400
92年度    123476000    5716    4.62924
91年度    123101998    5585    4.53689
90年度    122721398    5633    4.59007
89年度    122459999    5776    4.71664
87,88平均   121780499    5612.5   4.60788
84〜86平均  120244899    5265.7   4.37911
79〜83平均  117156671    4711.6   4.02162
74〜78平均  112218303    4239.5   3.77710
70〜73平均  105321360    3743.5   3.51163

 数字を見てぴんと来ない人はグラフを描いてみて下さい。デコボコが若干ありますが、なるほど、これを基準にすればいいのね、というグラフができます。
 次に、福井県全体で同じことをしてみました。

     福井県全体の人口  白血病死者数  死亡率(/10万人)
93年度     827560     38     4.59181
92年度     825514     35     4.23978
91年度     824581     35     4.24458
90年度     823585     34     4.12829
89年度     823940     41     4.98609
87,88平均    822190.5    34.5    4.19610
84〜86平均   815226.3    39     4.78395
79〜83平均   797812     37.6    4.71289
74〜78平均   778008     33.4    4.29301
70〜73平均   750633     33.25    4.42959

 数字を見てぴんと来ない人はグラフを描いてみて下さい。特に、単年度のデータから算出した89年度以降が大きく上下しています。言い方を変えると、この程度の頻度の事象を扱うときには100万人を切るような母集団では統計の意味がない、ということになります。
 当該地区について計算した結果ともなると、もう…。

      当該地区の人口  白血病死者数  死亡率(/10万人)
93年度     155408      11     7.07814
92年度     155282       3     1.93197
91年度     155606      2     1.28530
90年度     155895      9     5.77308
89年度     154638      8     5.17337
87,88平均    154022      4.5    2.92166
84〜86平均   152235.3     8.7    5.69294
79〜83平均   148691      8.6    5.78575
74〜78平均   146775      5.4    3.67910
70〜73平均   142359      8     5.6190

 もはやグラフを描くまでもありませんね。10万人というと、素人の直感としては十分な人数のように思うところですが、そうとは言えないようです。


 「プルトニウムの恐怖」はチェルノブイリ事故以前の本ですが、その時点では「原子力利用が理由で死んだとはっきりした者はひとりもいない」ことになっており、それが、原子力安全論の最大の根拠になっていたんだそうで。それはウソではないのかもしれませんが、それは「原子力利用が原因で死んだ者はひとりもいない」ということと同じではなさそうです。
 放射線による健康障害の、信頼しうる統計的データというのはヒロシマ・ナガサキ以外にないのだそうです(多分、今ではチェルノブイリも加わっていることでしょうけど)。それさえも、どの程度一般化してよいかについて諸説あるそうな。
 言い方を変えると、それらに相当するような事件や事故が繰り返されないうちは「放射能・放射線による健康への影響について、確かなことはわからない」という事態が続くということですね。(^_-)←
笑い事じゃないって。


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