雑学・日本刀


Q.日本刀は西洋の剣と違い、ゆるやかに反っていますが、なぜ?

A.戦闘形態の変化に従い、より実戦的な形へと進化した結果です。


 古墳出土の埴輪が佩いている環頭大刀や頭椎大刀、あるいは聖徳太子佩用と伝えられる丙子椒林剣は勿論、平安時代の初期、延暦16年(西暦797年)、征夷大将軍に任じられて、いわゆる蝦夷征伐を行った坂上田村麻呂の佩用の大刀は、まだ直刀でした。

 ところが約250年後の前九年の役(源頼義が鎮圧 永承6年〜康平5年・西暦1051年〜62年)やその20年後に起こった後三年の役(源義家が鎮圧 永保3年〜寛治元年・西暦1083年〜87年)の合戦絵巻に見られる武士たちはすでに反りのある太刀(直刀に対し湾刀と呼ばれています)を携えています。

 前九年の役から遡ること約100年前の天慶3年(西暦940年)、平将門を討った俵藤太秀郷の佩刀は湾刀の初期の形とされる毛抜形太刀となっています。
考えられる事は、徴兵が主体だった古代の軍隊に対し、中世以降は武士が台頭してきたことです。

 徴兵主体の軍隊と言うことは、戦闘は当然徒歩戦が中心であったと考えられますが、武士という戦闘の専門集団となればより高度な戦術として騎馬戦を専らにしたと考える方が自然でしょう。

 そうなると騎馬戦というスピ−ドを伴う戦いの中で、斬撃効果と衝撃の緩和という戦闘の必須条件を満たす工夫が為されなければなりません。そこで反りを持った湾刀が出現したのだと考えられます。ただその出現から完成までには100年以上の時が必要だったようです。



Q.武士が持っている刀の鞘(さや)と、任侠映画でよく見かける木製の鞘。
  これらはどう違うの?


A.前者は塗り鞘、後者は白鞘のと呼ばれ、使用目的が全く違います。

 塗り鞘というのは武士が刀を帯びるときに使う鞘のことをいいます。当然、漆などの塗料で美しく塗ったり、全体を皮で巻いたりして仕上げられています。

 白鞘は、別名「休め鞘」といって刀を休ませる(つまり保管)しておくための鞘で、塗りもなにも施されておりません。また、刀に錆がでても鞘を割って、その部分をすぐ削り取ることができるように糊で貼り合わせてあるだけです。

 任侠映画などでは白鞘の刀で斬り合うシーンがよく見られますが、これはあくまでフィクションです。保管用の白鞘は、当然、柄(つか)の部分の作りも簡素で、激しい戦闘を行えばあっというまに壊れてしまいます。



Q.一口に日本刀と言ってもいろんな種類があるそうですね。
  日本刀の種類について、詳しく教えてください。


A.はい。日本刀を示す言葉と、その分類についてご説明いたします。

 『大刀』
 古墳時代の直刀や聖徳太子画像に描かれている直刀はこの「大刀」と書いて「たち」と読みます。 環頭大刀・頭椎大刀、圭頭大刀などが有名です。

 『太刀』
 上記と同じく、これも「たち」と読みます。平安時代中期以降の反りのある刀で、長さは2尺(60cm)以上のもので、刃を下にして帯取りを使って腰にほぼ水平に吊します。太刀を身につけることを「太刀を佩く(はく)」と言います。

 『打刀』
 これも「たち」ですが、一般的には「うちがたな」と読みます。室町時代中期以降より用いられるようになった反りのある刀で、長さは2尺(60p)以上のもので、刃を上にして帯に差します。打刀を身につけることをを「刀を差す」あるいは「刀を帯る」と言います。

 太刀と打刀は外装(拵えといいます)を変えることで太刀が打刀になることもあるわけですが、銘は佩き表(刀を身につけたとき外側になる方)に切ることが普通になっていますので、太刀と打刀の区別ができます。
 しかし豊後国行平・古青江派の諸工などは太刀でありながら佩き裏に銘を切っているし(刀銘)、肥前忠吉一門や越前の山城守国清などは打刀でありながら佩き裏に銘を切っています(太刀銘)ので100%銘での区別は出来ません。

『脇差』
 長さ1尺(30p)以上2尺(60p)未満のものを言います。

『短刀』
 長さ1尺(30p)未満のものを言います。

『剣』
 両鎬造で、左右相似の両刃造りのものをいいます。平安時代以来、実用よりは宗教儀式の祭器として使われてきました。また明治時代以降、軍隊における儀仗的軍刀も剣と呼ばれることがあります。

『大刀・小刀』
 江戸時代、武家諸法度によって定められた刀の型式を言います。
 この場合、大刀は「だいとう」、と読み、長さ2尺以上の打刀を指します。
 小刀は「しょうとう」と読み、長さ1尺(30p)以上2尺(60p)未満のものを指します。
 打刀と脇差しの拵えを統一したもの、と考えればいいのですが、長さは勿論、柄巻きの色や用いる金具あるいは鐺の形まで厳密に規定されています。

補足:刀と剣の違いについて
 「かたな」と言う言葉はもともと「片刃」と言う言葉がなまったもので、両刃の剣に対するものでした。室町時代までは今で言う「短刀」としての意味で使われていたようです。
 その「刀」のうち「短刀」と言う概念よりながいものを「打刀」と呼んでいたようです。現代の用語としては、日本刀全体の総称として用いられますが、法律的には60p以上の長さの腰に差す様式のものを「刀」と呼んでいます。
 一方、両鎬造で、左右相似の両刃造りのものを剣と言いますが、日本では儀仗用に使われるか宗教儀式に使われるかと言う程度で、実戦には使われませんでした。
 これは多分に風俗的な要因もあるようで、たとえば中国などでは綿服を着る機会が多かったため斬るよりは突く方が効果的であったとされており、従って剣が実戦により多く使われたようです。



Q.「寝刃をあわす」とか「寝刃を研ぐ」とか言いますが、その意味は? 

A.研いだままの刀の刃というのは滑ってなかなか物を斬りにくいものです。

 そこでいざ合戦というとき、砂か何かに刃先を擦りつけるなどして刃先をザラメにします。勿論、刃を毀つ訳ではありません。ザラメにするだけです。こうすると物を斬ったとき、研いだままの刃より鋭利に斬ることが出来ます。

 「寝刃をあわす」というのはこのように刃をザラメにする事を言うのです。武士でも中級以上の武士の家の門のうちには大きな石が置いてあるもので、この石は矢玉を防ぐ盾にもなり、寝刃あわせの道具にもなりました。

 「寝刃を研ぐ」と言うのは、悪人が悪巧みをするときに使う表現です。また、戦争中に何か秘密作戦を展開しようとしているときにも使います。



Q.日本刀の刃は剃刀より鋭いと聞いたことがあります。本当ですか?

A.本当ですが、髭は剃れません。

 ではどう言うことかと言いますと、剃刀で髭を剃るとき刃を引いて剃る人はいないと思います。ということは剃刀の刃の角度は見たままの角度と言うことです。
 ところが日本刀でものを斬るときは、自然と引き斬りになります。このとき、最初に物に当たった刃の位置と、最後に物から離れた鎬の位置を結んだ角度を見てみると、剃刀の刃よりも鋭い角度になっている訳です。
 いくら日本刀がよく斬れると言っても、見たままの刃の角度は剃刀より鋭いはずはありません。



Q.刀の鍔は籠手を守るためのもの?

A.本質的には違います。

 鍔で籠手を守れないことはないかも知れませんが、鍔元まで相手に攻め込まれている状態を切羽詰まった状態と云い、籠手を守るどころか命を守れるかどうかの瀬戸際です。
 鍔は元々、刀のバランスを調節するためにつけるものです。
 つまり、振ってみて剣尖に重みを感じるような刀であれば手元に重量がくるような重い目の鍔、剣尖が軽いと感じるような刀であれば軽い鍔をつけて相対的に剣尖に重みを感じる様にすると云った具合です。
 また、剣戟の際、相手を突き刺す場合は手止まりとしての働きもあります。
 だから鍔のない合い口拵えの短刀などで相手を突く場合、手が刀身まで滑って行くのを防ぐため、小指を柄頭に引っかけておく等の工夫が必要だったようです。



Q.鍔は何で造られているの?

A.金や銀、銅や鉄、または革で造られています。

 鉄鍔は刀匠が刀を鍛えた際、刀身と一緒に造ったのが始まりとされています。
銅はそのまま使うと「あかがね(スアカとも呼ばれる)」と呼ばれる独特の赤色の鍔が出来ます。
 銅にわずかな金などを混ぜると「赤銅(しゃくどう)」と呼ばれる真っ黒な鍔が出来ます。
 また、銅に銀を混ぜると「朧銀(ろうぎん)」と呼ばれる暗灰色の鍔が出来ます。
 その他、銅に亜鉛を混ぜた「真鍮(しんちゅう)」製の鍔も造られています。
 革鍔は革を何枚も膠(にかわ)で張り合わせ漆を塗って仕上げる非常に軽い鍔です。
 金や銀は合金の材料として使われましたが、素材として用いる場合、金箔や銀箔としてメッキや象嵌など鍔の装飾性を高める為に使われました。
 飛鳥時代など儀仗用の飾剣のなかには金や銀が素材として使われた鍔が造られたかも知れません。



Q.鍔は誰が作っていたのですか?

A.鍔は元々は刀匠が刀身とともに造っていました。

 そう云った鍔を刀匠鍔と言います。
 また、鎧を造るいわゆる甲冑師(かっちゅうし)も小札(こざね)を鍛える技術を使って鍔を造っていて、甲冑師鍔と呼ばれています。
 室町時代以降、専門の鍔工が出現します。刀匠鍔も甲冑師鍔も素材は鋼ですが、専門の鍔工になってからは素材も色々な金属や合金も多く使われるようになり、文様も多彩なものとなっていきました。特に江戸時代中期になると世の泰平とともに刀剣の制作が衰退の一途をたどったのにくらべ、鍔や小柄・笄(こうがい)や目貫(めぬき)などいわゆる装剣小道具は優れた金工の輩出により、精緻な職人芸で大いに発展することになります。



Q.小柄って手裏剣のこと?

A.小柄と手裏剣とは全く違います。

 よく時代劇で、正義の味方が数十メ−トルの距離を隔てて投げた小柄が悪代官の顔をかすめて板戸に突き刺さり悪代官が腰を抜かすと云うシ−ンがありますが、これは極めて疑わしき状景です。
 小柄というのは長さ約18〜20センチ・メ−トルの小刀(こがたな)を長さ約10センチ・メ−トルの金属製の小柄に装着したもので、小刀を小柄に装着した状態のものを小柄と云うのです。小刀の装着部分(茎・・「なかご」と云います)約6〜7センチ・メ−トルは小柄の中へ入りますので全長としては約20〜23センチ・メ−トルとなります。
 因みに、刀も高級な拵えとなると刀の鞘の佩裏(はきうら・・・・・・刀を腰に差したとき、体に密着する側)に小柄鞘を作りつけるのです。小柄鞘は小柄の長さ分だけ鯉口からひかえて設けるため、小柄にほどこされた文様は外から見えます。実用を兼ねた装剣小道具として用いられるのはその為です。 鍔には小柄櫃が穿ってあるため、刀の抜き差しとは関係なく自由に小柄の抜き差しが出来ます。
 で、例えばちょっと紐を切りたい、紙を二枚切りにしたいと云う時にナイフとして使うのが小柄で、これを敵に向かって投げても刀身より小柄の方が重いので、刀尖を先にして飛んでいくのは物理的に難しいでしょう。従って、時代劇のクライマックス・シ−ンの様に百発百中で板戸に突き刺さることはないと思います。
 小柄には緻密で精美な文様がほどこされていますし、小刀もちゃんと鍛えられた立派な刃物です。
 なお、小柄のごく初期に造られたものの中には、小刀部分と小柄部分が一体で造られたものもあったようです。



Q.手裏剣てどんなもの

A.いくつか解説いたしましょう。

 手裏剣は本当に殺傷を目的として敵に対して投げつける武器で、いろんな形のものがあります。

@5〜6ミリ・メ−トル角の棒状の鉄材を約20センチ・メ−トルに切ってその両端を尖らしたもので、投げ方にかなりの修練が必要。殺傷力の強い手裏剣です。

A3ミリ・メ−トルほどの厚さの鋼の薄板を約15センチ・メ−トル×約1センチ・メ−トルほどにして一方の端を剣の様の尖らせもう片側に孔をあけたもので、棒手裏剣ほどではないが投げ方にかなりの修練が必要。これも殺傷力の強い手裏剣です。

B鉄板を十字形や八方形に切り出して各先端を尖らしたもの。投げ方に棒状の手裏剣ほどの修練を必要としないが殺傷力は強くありません。

 その他にもいろんなかたちの手裏剣があるようです。