最近読んだ本

最近数カ月間に読んだ本の中から,私が気に入ったものを一部ご紹介します。我ながら全く脈絡のない読み方・・・のつもりだったんですが,やっと本当に脈絡がなくなってきました :-)

著者 書名 出版社
谷沢永一 司馬遼太郎の贈りもの PHP 文庫
石原壮一郎 大人の主張 扶桑社文庫
中島らも 『明るい悩み相談室』シリーズ 朝日文芸文庫
入江泰吉 入江泰吉の大和路[3] 歴史の舞台 小学館
池田理代子 ベルサイユのばら 集英社文庫
宮城谷昌光 重耳 講談社文庫

(Last update: '96/11/25)


司馬遼太郎の贈りもの

谷沢永一 著(PHP 文庫)

 司馬遼太郎の作品群は,「いかに平明な言葉でいかに深い内容を伝えるか」という難題に,見事な解答を与えています。己を虚しうして素直に読めば,文章の存在を忘れ,内容そのものが直接伝わってくるような文章でした。いわゆる「名文」は,文章が自己主張して雑音を発し,肝心の内容が読み取れないことがあるものです。真の政治とは,民衆が政治の存在を忘れるような政治であります。同様に,真の名文とは,読者が文章の存在を忘れてしまうような文章のことでありましょう。
 しかし,司馬遼太郎の示した「割符」に対して,読者は十全の割符を示し得るのか。それはおそらく,不可能に近いでしょう。ところが,その不可能に近い十全の割符を持ち得たのが谷沢永一でした。我々は,谷沢さんの割符の助けを借りて,司馬作品からより多くのものを引き出すことができます。その過程は,自らの割符を磨くことにもつながります。まこと,著者の言葉を借りれば「読者にとってトクをする本」です。

('96/11/25)


大人の主張

石原壮一郎 著(扶桑社文庫)

 なんちゅうか,ひじょーに人を喰った本です。「どこが大人やねん!」とツッコまずにはいられないような内容を,著者自身もときどき自分でツッコミながら,真面目くさったような人を小馬鹿にしたような文体で,次々に教えてくださいます。
 中でも感服せずにいられないのは,「大人のホメ殺し」・赤旗編です。赤旗と言えば,泣く子も黙る (!?) 日本共産党の機関誌です。畏れ多くもその大・赤旗紙を,こともあろうにホメ殺してしまうのです。

どう生きればいいかは,すべて日本共産党のエライ人たちが「赤旗」の紙面を通じて道を指し示してくれるし,世の中で起こっている都合の悪いことは,すべて資本家や悪徳政治家が裏で糸を引いていると考えることで,憤りの方向をはっきりさせることができます。歴史に対する評価も,すべてに関して答イッパツで,迷う余地などありません。
(大人の主張 より*
赤旗を読むだけで,揺るぎない価値観を確立できるわけです。赤旗恐るべし。
 こんな恐るべき企画がよく通ったものです。いや,まぁ,それはその,「自由と平和」を旨とする日本共産党のみなさんが,よもやこれしきのことでお怒りになろうとはゆめゆめ思いませんが,なんというか,その,ようやるなぁ,と思うわけです。

(*) 念のために申し開きしておきますが,共産主義の理念がこの程度の認識でくくられるほど単純なものではないことは理解しているつもりです。一応,「共産党宣言」「空想から科学へ」ぐらいは読んでますし。ただ,この程度の認識を読んで笑ってしまえる人が多いんだということは,知っておかれたほうがよろしいのではないかと**
(**) 誰に向かって言い訳してるんや,俺は?(笑)

('96/11/25)


『明るい悩み相談室』シリーズ

中島らも 著(朝日文芸文庫)

 言わずと知れた,朝日新聞の超人気連載の文庫化です。1巻・「もっと」・「さらに」・「ますます」・「ばしっと」・「つくづく」まで出てて,そろそろ最終巻「やっぱり」が出る頃でしょう。ようこんな変な問いに変な答えを付けたもんやなぁ,と感心することしきりです。電車の中で読んでると,ときどき我慢できずに一人でニヤニヤ笑ってしまうのですが,はたから見てるとたいがい怪しいあんちゃんですな。そうそう,イラストも面白いぞ。いろんな人が書いてるけど,内田春菊のさりげない (!?) エッチと西原理恵子の無茶苦茶さが好き。
 この人,以前は「たいがい変な名前のオッサンがおるなぁ」ぐらいの認識しかしてなかったのですが,ヘンなのは名前だけではありませんでした。頭の中身もたいがいヘンでいらっしゃる。そういや,最近やってるラジオ CM(クボタかどっか)を聞いてると,声もたいがいヘンやわな。天下の灘中にもこんなんがおったんかと思うとなんかうれしくなります。

('96/11/04)


入江泰吉の大和路[3] 歴史の舞台

入江泰吉 著(小学館)

 全5巻のシリーズの第3巻『歴史の舞台』。大和路は,ただ歩いても素晴らしいところ。しかし,大和は古代からの歴史の舞台です。それを意識することで初めて見えてくる景色もあります。二上山に沈む夕日に大津皇子の悲劇を思い,三輪山に重く垂れた雲に古代人の神への畏れを思う。感じ方は人それぞれなれど,歴史の重みを思うとき,平凡な風景も全く違ったものに感じられるはず。
 この写真集を見ながら,あらためて思い知らされました。私が大和路を歩くとき,入江さんの写真によって初めて見えてきた風景がどれほどあることか。私がこの目で見たと信じていることは,結局のところ入江さんの作品の後を追いかけているだけなのかもしれません。

('96/11/04)


ベルサイユのばら

池田理代子 著(集英社文庫)

 数年前から,手塚治虫さんの作品を皮切りに,名作漫画の文庫化が進んでいます。「新たな読者層を開拓するため」というのが目的だということですが,このねらいは,いわゆる「少女漫画」に分類される作品については十分すぎるほど達成されているのではないでしょうか。噂に聞く『ベルサイユのばら』や『ガラスの仮面』や『動物のお医者さん』は,男だって読んでみたいんです。だからといって,さすがにコミックスを買うわけにはいきません。ところが,文庫本ならさほど抵抗感が無く買えてしまいます。いい時代になったもんです。
 で,肝心の中身のほうですが・・・文庫で5巻,一気に読んで思ったこと。いやぁ,アンドレってええ男やねぇ。「千のちかいがいるか/万のちかいがほしいか/おれのことばはただひとつだ」(4巻より)・・・くぅぅっ,泣かせるやないの!これで,ほんまにアンドレはオスカルのために死んでしまうから美しいんですよね,この物語は。平和に2人が結ばれていたら,どう考えても絵にならない。アンドレが倒れ,続いてオスカルも撃たれるところなんて,作者も泣きながら描いてたんじゃないかな。
 『ガラかめ』も文庫で読んで,少女漫画もおもろいもんはおもろいということがよくわかった。次は『オルフェウスの窓』に挑戦じゃ。ところで,男がマーガレットや花とゆめを買ってるのはあからさまに怪しいけど,女の子がジャンプやスピリッツを買うのって同じ女性の目から見たらどうなんでしょ?

('96/11/04)


重耳

宮城谷昌光 著(講談社文庫)

 中国に取材した魅力的な作品群を次々に発表している宮城谷さんですが,一般に広く人気を得たのはこの『重耳』あたりからではなかったかと思います。今や押しも押されもせぬ人気作家です。司馬遼太郎亡き後,歴史小説ではぴか一ではないでしょうか。
 重耳とは,春秋五覇の一,晋の文公です。『三国志』で,荊州の劉表の息子・劉(王奇)に相談を持ちかけられた諸葛亮が持ち出したたとえ話に登場した人物,と言えばおわかりになる方もいらっしゃるでしょう。父の愛妾・驪姫のために国を捨てての放浪を余儀なくされ,19年間の遍歴の末,見事故国に復帰して覇者となったのでした。その亡命生活の間,部下に深く信頼されていたのはもちろん,斉の桓公など諸国の英雄にも厚く遇されました。また,晋の国民も,度重なる暴政のためもあるのでしょうが,常に重耳の帰国を待ち望んでいました。彼を支えたのは,彼に備わったその人望だったのでしょう。
 人望とは何か,君主の器とは何か。これは司馬遼太郎の『項羽と劉邦』のテーマでもありました。

('96/11/04)


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