著者 | 書名 | 出版社 |
入江泰吉 | 花のある風景 | 小学館 |
司馬遼太郎 | 「明治」という国家 | 日本放送出版協会 |
司馬遼太郎 | 坂の上の雲 | 文春文庫 |
谷沢永一 | 人間通 | 新潮選書 |
黒田日出男 | 謎解き 洛中洛外図 | 岩波新書 |
網野善彦 | 日本の歴史をよみなおす 続・日本の歴史をよみなおす |
ちくまプリマーブックス |
と学会 | トンデモ本の逆襲 | 洋泉社 |
パウル・クレー/谷川俊太郎 | クレーの絵本 | 講談社アートルピナス |
入江さんのすばらしい写真を,比較的安価な写真集で見ることができるようになりました。全5巻のシリーズの第1回配本は,「花のある風景」。一生を大和路の撮影にささげた入江さんの作品は,人目を引くような派手さはないけれども,思わず引き込まれそうになる懐かしさに満ちています。
奈良市の新薬師寺(十二神将の仏像で有名ですね)の近くに,奈良市写真美術館という,入江さんの作品を展示している写真館があります。オリジナルプリントで見る作品のすばらしさはまた格別のもので,時の経つのを忘れてしまいます。奈良に行く機会があれば,ぜひお立ち寄りになることをおすすめします。
('96/07/01)
司馬さんの,幕末から明治にかけての時代を描いた作品を読んでいると,明治という時代がうらやましくなることがあります。むろん,明治時代を手放しで賛美するつもりはありません。官権は重く民権は軽く,しかも急激な近代化のために重税を課せられた時代。が,明治の世には,まだ節度の美しさを持った日本人がたくさん生きていたでしょう。気概ある青年にとっては,国家の建設を担うは我なり,という自負を持ち得た時代でもあったでしょう。
中村草田男は,「降る雪や明治は遠くなりにけり」と,明治という時代を憧憬の想いを込めて振り返りました。昭和から平成の世に生きる私たちは,数十年後,今のこの時代を草田男のように懐かしく振り返ることができるでしょうか。
('96/07/01)
司馬さんの遺した数多くの作品の中で,たった1作を選べと言われれば,迷わずこの作品の名を挙げます。否応なく,日本という国と,日本人という集団について,考えずにはいられない本です。
舞台は,日清戦争から日露戦争にかけて,列強に必死に追いつこうとしている時期の明治日本で,小説としての構成上は,主人公を3人設置しています。近代俳句の始祖・正岡子規,陸軍の騎兵中将・秋山好古,海軍の参謀・秋山真之。日露戦争において,秋山兄弟の兄・好古は弱小日本騎兵を率いてロシアのコサック騎兵と五分に戦い,弟・真之は日本海海戦の連合艦隊の参謀として,バルチック艦隊撃滅の立役者となった人物です。しかし,この小説の真の主人公は,日本という国と,日本人そのものではないかと思います。
明治の日本人は,国家の指導者は,偉大でした。ロシアの強大さを前に,彼我の力の差を冷静に見つめ,勝てないまでも負けずに済む道を探り,五分五分以上の引き分けに持ち込むことに成功した。彼らの無私の心と,状況判断の見事さは,なんとすばらしかったことか。
('96/07/01)
人間通を身近に見出せることは幸福の最たるものである,と著者は言います。人間は誰でも世の中から認められたい。だから,人間皆が,お互いの長所を認め合うような気配りをすれば,ずいぶん世の中は暮らしやすくなるに違いありません。
人生の先輩が,自らの得た知恵をこんこんと説き聞かせてくれるような本です。私ももっと,人間としての知恵を学ばなければ。
('96/07/01)
初期洛中洛外図屏風の中から,上杉本を題材にとり,制作者・制作年代の謎に迫ります。著者は,「制作依頼者」という新たな視点を得て史料を見直し,納得のいく結論を導き出しています。この本の読みどころは,その謎解きの過程そのものの面白さでしょう。歴史学の方法を垣間見,その楽しさを味わうことができました。
('96/05/23)
網野先生いわく,「日本という国は,決して自給自足型の農業社会などではなかった」「百姓イコール農民,という思い込みは間違っている」などなど。
私たちが中学・高校と学んできた日本の歴史は,しょせんはある一方的な価値観と偏見によって整理されたものであったのかと,今さらながらあきれる思いでした。
史観というのは,過去の歴史をどう捉えるかという価値観にとどまらず,現在の社会を考え,さらに未来の社会を構想する土台にもなります。ですから,史観とはある意味社会で生きていく上でもっとも大切なものであり,もっとも厄介なものでもあります。戦時中の皇国史観教育の「効果」を見れば,歴史教育の恐ろしさというものは明らかでしょう。
私はこの本で多くの新たな視点を得ることができました。しかし,それらをそのまま鵜呑みにしてしまうのは,網野先生がこの本を書かれた意図に反することだと思います。自分の史観は,歴史を学び,人生を学ぶ中で,自分で作り上げていくものであるべきです。
司馬遼太郎
さんは,この作業を助けてくれる作品を数多く遺してくださいました。
御冥福をお祈りします。
('96/05/23)
前作「トンデモ本の世界」では,植物と話をしてしまうおじさんに,思いっ切り爆笑させてもらいました。「逆襲」は,前作に比べるとパワーダウンしたような感じがするけど,論文書いてて疲れた頭には,こういう馬鹿馬鹿しい笑いを誘う本はありがたいです。今回いちばん面白かったのは,「魔王サタンと漫才する女」かなぁ。「と学会批判」の中の,わけのわからん手紙もなかなか良かったが。
そうそう,物理学科の菊地先生は,と学会のメンバーなんだそうな。
菊地先生のホームページを見てると,「なるほど,と学会」って感じで納得してしまうものがあります。(ちなみに,菊地先生の奥さんのホームページは,もっとすごいです。どうすごいかは,ご自分で確かめてください。30分ぐらいは,唖然・絶句・呆然とできるでしょう。)
('96/05/23)
最近少し遠ざかっていますが,私は合唱を趣味にしています。古今東西,「名曲」と呼ばれる曲はたくさんありますが,中でも私は,谷川さんが詩を書き,三善晃さんが曲を付けたものに惚れ込んでいます。「地球へのバラード」,「五つの願い」,「ぼく」,「あなた」,そして,私が初演に参加できた,「愛の歌」。
これらの名曲群の中に,「クレーの絵本」「クレーの絵本 第2集」という合唱組曲があります。クレーとは,いうまでもなく,スイス生まれのドイツの画家 パウル・クレーのこと。クレーの絵に谷川さんが詩を書き,三善さんが曲を付けたという,画家・詩人・音楽家のこれ以上ない幸福な出合いの結晶です。
この稿は,本の紹介ではなく,曲の紹介になってしまいました。
どんなよろこびのふかいうみにも('96/05/23)
ひとつぶのなみだが
とけていないということはない
(黄金の魚 より)