山行報告(1999年 6月、比良山系・口ノ深谷)
連瀑帯を越えていく



 本格的な梅雨空となり、梅雨前線が日本列島上に長々と横たわる。
 雨は一週間にわたって降り続いている。
 「今週末の沢登り、無理かなあ…」僕は梅雨空を恨めしげに見上げる。
 そんなことを考えはじめると、会社の仕事なんて気もそぞろ(笑)
 Internetの気象情報ばかりのぞいてはため息をつく毎日。
 そんな木曜日の夜、KYOから電話が入る。
 「NGさん、今度の週末、どないします?」
 NGとは山仲間での僕の呼び方。「No Good!」なことばかりしてきたから。
 「もちろん、行くぞッ!」
 よかった、さすがにKYOだ。この雨のなか、行くつもりでいる。
 前週末、KYOの都合で行けなかったので、僕は山という麻薬が切れかけ(笑)
 そろそろ禁断症状が現れてきている。毎週末でも行きたいぐらいだ。
 「ほな、口ノ深谷にしましょか?」
 「いいよ、あそこはザイル必携だな。おまけに増水してるはずだしな」
 「ほな、ザイルの準備をしますわ。天気が天気やし、金曜日の夜に打ち合わせましょ」
 土曜日の天気予報は雨。降水確率60%との予想。

 金曜日の夜、KYOも僕も酒漬けとなって午前様。僕など朝帰りに近い。
 打ち合わせなどできるわけがない。
 土曜日の朝、頭痛を抱えながら起きると、明るい曇り空。
 4時間しか寝てないけど、もう行くしかない。
 さっそくKYOに電話。
 「おい、雨が上がったぞ? 行くよな? な? 行くぞ?」
 「へいへい、ほな、行きましょか」
 ふたりとも二日酔いの頭痛と吐き気を抱えながら、それでも一路、北をめざす。
 こうして僕たちは増水の口ノ深谷に突入した…。

      *     *     *     *     *     *

 国道367号を北へむかい、葛川坊村からひどく荒れた林道を強引に車で上る。
 口ノ深谷出合で車をデポ、入渓の準備をする。
 今回はザイル携行。
 「こんなの使うの、何年ぶりだろ」
 そんなことを言い合いながら、
 ハーネス(安全索具、これにザイルを結びつける)を腰につける。
 エイト環、カラビナ、シュリンゲ各種を持つ。
 カラビナやエイト環がぶつかりあう金属音が懐かしい。
 足ごしらえは、地下足袋とわらじが基本。
 いよいよ入渓だ。

 水量はやはり多い。
 雨が降り出したら鉄砲水に備えてすぐにも脱出しなければいけない。
 しかし、今のところ天気は曇りで安定しているようだ。
 時折、薄日が射すのが嬉しい。
 連続する小滝を快適に登っていく
 今日は水温が低く、濡れた身体からはどんどん体温が奪われてしまう。
 シャワークライミングも淵を泳ぐことも沢登りの魅力だが、今日は身体を濡らすまい。
 増水した釜(滝壺)は深く、その脇を微妙なバランスでへつる
 いつものように、いくつかの大滝以外は原則として直登だ。
 ただ、今日は水量が多いため、シャワークライミングは難しい。
 一度、二度、とトライするが、激しい水流の水圧にたたき落とされてしまうのだ。
 途中で一度、ザイルを使って少しいやな岩壁を突破する。
 それでも快適な登高を続け、僕たちは核心部に入っていく。
 いよいよV字状スラブの通過だ。
 水量が少なければ左岸をトラバースできるはずだが、今日は難しい。
 じっくりとルートを見極め、KYOはおもむろに突入する。
 クライミング技術は僕より上、困難な部分はKYO任せだ。
 ウルトラC的な登攀技術で何とか難関突破だ
 (突破の詳細は連続写真でどうぞ!)
 ここを通過すると、谷の奥からすさまじい轟音が響いてくる。
 不安を抱きながら進んでいくと、圧倒的なスケールで15mの大滝が出現する。
 出たッ、大滝だッ!
 ん〜、こいつは…。
 左側のルンゼ(岩溝)をつめて、右上するバンド(岩棚)を登るしかない。
 落ち口には3mの斜瀑。見下ろせば15mの高度感。滑りやすくいやなところだ。
 落ちれば、怪我ではすまない。
 迷わずにザイルを出す。
 まずはKYOがトップで難関を越える。
 僕はKYOの転落に備えてザイルで確保する。
 たがいにザイルで確保しあって、無事通過。
 ここから上流は穏やかな源流帯だ。
 先ほどまでの連瀑帯が嘘のように、静かな渓流が流れている。
 時計を見ると午後4時過ぎ、緊張する滝登りに夢中になって、昼食も取っていない。
 どこか穏やかな水辺で、遅めの昼食を取ろう。
 空を見上げると雲行きが怪しくなってきた。
 雨の匂いがする。
 今日だけの梅雨の中休みを感謝しながら、僕たちは源流帯をゆっくりと歩き続けた。