「入院七日目 3月1日 病室深夜」

 眠れない。もちろん痛みで。

仕方がないのだが、ここで唸っていてもつまらない・・・たばこでも吸いにいくか。

というわけで、1時過ぎに夜の病院を徘徊することに。

でも綺麗な病院なので怖いという感覚はなかった。

しっかしICUでたその日にタバコを吸いにいくことになろうとは・・・。

髪を掴み、無理矢理に身体を起こす。痛いが暇には勝てぬ。

 私の部屋は三階にあるのだが、一階の喫煙所までエレベーターで

いかなければならない。気合いだ。

ここで気が付いた。目が変だ。ちょっと先が見えない。

遠近感が左右ずれている。水の中の様だ・・・・。

ここまで身体が弱っているので不安にもならない、むしろ自然だった。

 

 

「喫煙所」

 喫煙所には何人かいた。

ふらふらしている私に声をかけてくれる人がいた。

今後、病院を抜け出したりしてタバコを買いにいく仲になろうとは・・・・。

最初の1本に火をつける。

一吸いで目が回る・・・ブラックアウトする。禁煙も2〜3日しかしていないのに・・・・。

手術後はこんなもんだろうか・・・。

立て続けに何本か吸う。なんか慣れてきた。

 同じ入院患者同士なんて話をするなんて基本的にない。

でも同じタバコ吸いだと、なぜだか会話が生まれる。

数人と仲良くなった。このメンバーとは退院まで仲良くすることになる。

 さて、吸い終わったから病室に帰るか・・・。

・・・・・ふらふらしながら帰ると婦長に見つかり怒られる。

どうやら私は、しばらく出歩いていけない患者だったらしい。

でも歩けるのも凄いと誉められた。

 

「病室」

 四部屋の一番角にあるベッドに座る。

読んでいる人にはしつこく悪いが、「痛い」。

その部屋の3人はイビキの大合唱。

痛み止めも睡眠薬も効かない。

徹夜2日目になりそうだ・・・。でもICUよりは長い夜ではない。

ベッドを立てて本を読んだりできるからだ。

うーん、快適。

 

「朝の病室 3月1日」

 やはり眠れなかった・・・。

でも、気持ち痛みが減っている。

寝ていなくても回復するもんだなあ。点滴の栄養剤の為かな?

でもまだ「いっそ殺せ」くらいの痛みだ。

朝の回診で先生に異常な回復力と誉められた。少し首が動くようになっているのも伝えたのだが

それも異常だそうだ。まあ、回復しているから異常でもなんでもいいや。

個人的リハビリ(病棟徘徊)が効いたのかもしれん・・・・。

 この日の食事からだ、それまで気にならなかった病院食のプラスティックの匂いが気になり初めて

食えなくなった。まったく食えない。匂いが気になる。

そして昼も食えなかった。売店に弁当を買いに行って食べてみたら食べられた。

この日から病院食の配給を停止してもらうようにした。

 昼間も特にやることもない。栄養剤の点滴が終わってその後の小さなステロイドの点滴も終わった。

このステロイドのせいでたまに吐き気を覚えたりしたが、これでそれともお別れかな・・・?

もう点滴をすることがなくなったので針を抜いて貰う。

よく見るとその針は白く透けている。看護婦さんに見せて貰ったのだが、

指で触ると柔らかいビニールの針。なるほど、点滴していて腕を動かしても痛くないはずだ。

二重針になっていたわけなのだな。

 もー暇。なんどかタバコを吸いに行き前夜に会った人たちに会って話をする。

楽しい。入院生活初めて楽しい。皆病に苦しむ身なれど、その弱気などみせはしない。

ただなんの事はない話をするだけ。手術前にはタバコは辞めろだとか、タバコはやめらんねぇだとか。

そんな話でも楽しい。時には、本音をはなしたり・・・・でも決して弱気ではない。

そしてお互いを知って、お互いに病を乗り越えていく。こういう付き合いもいいもんだ。

この人達とまた会うならば、町中で偶然逢いたいもんだ。

 

「入院8日目 2日」

 痛みはまだ強く徹夜3日目。

この日も特になにもなし、検査もないし治療もない。

なにげなく過ごす。腹が減ったらなにか買いに行って

たまにタバコを吸いにいって話をする。

喉が渇けば水を飲んだりココアを飲んだり。

病院のココアはおいしかった。

本当に暇だ。気が付けば夜。

ん?頭のガーゼが剥がれてきている、交換してもらおう。

あ、そうだ、用意しておいたデジカメで後頭部の写真でも撮って貰おう。

んでもって、看護婦さんに写真を撮って貰おうとおどおどしながら話をすると快く引き受けてくれた。

屋写真をみてびっくり、ホチキスのようなものが33本にさらに何本かの糸が見える。

恐ろしい・・・まるでフランケンシュタインそのもの。傷口は派手に盛り上がり、ホチキスが

怪しく光り輝いている。これって、綺麗に治るのだろうか・・・・。

看護婦さん「あー、傷口きれいねー」

う、そうだぁ!!だ、だまされないぞ!!と、言いたくなる位派手だった。

 

 

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