「ICU 午前5時」

 看護婦さんが先生の許可を貰ってラジオを聞かせてくれた。

結構でかいラジカセだったので驚いたが今の自分には微かな変化も歓迎だ。

看護婦さん「どこ聞く?」

んなこと言われても、ラジオなんて地味な物なんぞ普段聞かないからわからない。

看護婦さん「じゃあ、FMにする?」

AMなんぞ聞いて楽しい訳がない。そういうことでFM。

周波数はお任せしたのだが、なんとまあ、今流行の内容だった。

はっきり言ってつまらなかった。でも今更、「もっとローカルなのにしてください」とか

「怪しげなのにしてください。ノイズに時たま何語かわからないのが混じるような・・・」なんて言えない。

そのつまらないラジオを聞きながら朝が来た。

ラジオ「今日は、早朝から公開録音にたくさんの人たちが集まって・・・」

はぁ・・・誰だかしらんが、俺もそこに参加した気分だ・・・俺はベットで絶対安静なのに。

愚痴を言っても9時まで出られない。またラジオに耳を傾ける。

つまらなくても、ラジオの音が今の自分にとっては一番の変化なのだから・・・。

 

 

「ICU 午前7時」

 腸が麻酔から覚めたらしい。朝食を取らせるか先生方が検討していた。

前日の夜から何も食っていない。腹が減っていた。

ICUで食事か・・・ICUにいる意味なさそうだなあ・・・。

 

「ICU 午前8時」

 朝食が出た。食ってみたが、一口食べた瞬間身体が受け付けない。

やっぱり無理だったか・・・。ICUで飯を食った人間はいないって言われてたので、

ICU始まって以来食事をとった人はいないと言われたが、みなさん無理な理由が身にしみた。

一口でも食べられたあたりが優秀と言われたが・・・・。

もったいなかったな・・・お百姓さん、海女さん、どっかのおっさん・・・申し訳ない・・。

 臓器はすべて目を覚ましたらしい。いよいよICUを出られるようになった。

麻酔は脂肪に貯まるらしいので、脂肪が少ないのがよかった。

マスクと足の点滴と尿道のチューブをはずされた。

尿道のチューブを抜かれるときかなり痛いと聞いていたがそれほどの痛みではなく安心。

 担当医でもあり手刀医でもある先生が様子を見に来てくれた。

後頭部全域に貼られているテーピングみたいのを二人がかりで剥がしたのだが、

なんだか我先に剥がそうとしている様な速度で剥がされかなり痛かった。つーか耳の裏の皮膚も剥がれた。

ミュー「あの・・・首がかなり痛く、まったく動かないのですが・・・」

先生「あ、君の首の筋肉と筋は異常な発達をしていて器具がはいらなかったので

   切断したよ。強烈な肉離れと筋切断の痛みがあるから痛いだろうし動かないよ。」

ミュー「そうなんですか・・・今後問題は起きないんですか?」

先生「問題ないよ。異常な事をしなければだけどね。」

そのとき異常力を掛けたりする自分に弱点ができた事を知った・・・。

 

 首がほとんど動かないけれど、車イスでも構わないと伝え病室に帰る。婦長さん自らお出迎えしてくれた。

しかしなんの事はない、ただの人手不足。帰り際にICUの血まみれの枕と別れるのが惜しく、なんだか変な気分だ。

 

「入院六日目 29日 病室」

 病室に戻ってきた。なんだかほっとする。

仲間にもらった「ドラえもん&キティーちゃん電報」が一番最初に目に入った。

まずこの手術という最大の難関は突破できたのだ。あとは回復すればいいだけだ。

それにしても痛い。寝かされているが傷口が後頭部の中心に縦に入っている。

枕が当たって痛い。その痛みを和らげようと身体を1ミリでも動かすと首に激痛。

「ぐおっ!」つい声を出してしまう。

前髪を鷲掴みにして頭の位置を直す。筋まで切られているんだから仕方がないが、痛い。

ランボーのように痛みに耐える訓練なんぞしてはいないが、痛みには強いほうだ。

でも痛い。こんなに痛いとは・・・。

なんども身体を動かすたびに激痛。こんなんじゃ眠れるはずはない。

 

「トイレ」

トイレに行くときはナースコールをしろと言われていたが、トイレくらい一人で入りたい。

自動で起きあがる電動パラマウントベッドなので途中まではどうにか起きあがれる。

掴まれてローラーのついた点滴のつるせる物(名前わかんない)に捕まって

ふらふらしながらトイレに行く。うーん、身体弱っているなあ・・・。

用を済ませ手を洗おうとするとが頭が動かせないので前屈みになれない。

しかたがないので、空気イスをして手を洗う。うーん、先が思いやられる。

 

「NEXT」