ゲルショッカー崩壊時はいったい何がどうなったのか判らなかった。
当時、佐竹は小さな作戦の為に仙台に出張していた。
仙台で人間として暮らせ、しばらくした後に指示を出す・・・
との事だったがいっこうに指示は無い。
1週間、2週間・・・時はいたずらに過ぎていった。
いったい、いつまで俺は待てばいいんだ?
佐竹の心に焦りが生れ始めた。
そして焦りがピークに達した3週間目のある日に
佐竹は意外な形で指示が来なかった理由を知ることになる。
当時、佐竹は喫茶店のウェイターとして働いていたのだが、
その喫茶店にライダー少年隊が数名現れたのだ。
まさか、俺の潜伏がばれたのか?
佐竹は一瞬、緊張したが、彼らにウェイター佐竹の
正体に気づいている気配はなかった。
ばれてない・・・ならば奴等を捕まえれば・・・
5年ぶりのチャンスだった。
心臓の音が奴等に聞こえるんじゃないかと思うほど
胸の高ぶりを覚えた。
しかし佐竹ははやる心を押えて、
少年隊の会話に耳を澄ませた。
「日本もようやく平和になったね。」
「うん、ゲルショッカーが滅びてもう3週間だもん。」
「ライダーが首領を倒して・・・あっけないものだよね。」
「そうそう・・・」
店内にガラスの割れる音が響いた。
佐竹が運んでいたコップを落としたのだ。
ライダー少年隊の会話はあまりにもショッキングだった。
佐竹が仙台に出張した翌日にゲルショッカーは滅んだのだ・・・
その後、佐竹は一般人として仙台に住み着いた。
死ぬことも考えたが、死ぬなら大きな花火を打ち上げてから、
との考えが佐竹を踏みとどまらせていた。
しかし、一般人と化した佐竹に大きな花火を打ち上げるための
実行力も財力も無かった。
あがいてもあがいても状況は一向に良くならなかった。
失意のどん底に陥ったとき、佐竹は彩子と出会った。
今から2年前だ。
当時、18歳の彩子は親の借金のかたに、
やくざに売られたがあわやという所で逃げ出した。
もちろん、やくざは彩子を探し、見つけ、そして追いつめた。
その現場に偶然、佐竹は出くわした。
「何だ、見せもんじゃねえぞ!!」
やくざの恫喝に佐竹はかっとなった。
何故、誇り高きショッカーの戦闘員が
やくざごときに恫喝されねばならないのか?
気がつけば殺していた。
幾ら相手はやくざといえど、普通の人間だ。
戦闘員として改造手術を受けている佐竹の敵ではない。
やくざを殺し、乗りかけた船だと思い、
佐竹はついでに彩子を買った組を潰した。
結果的に佐竹は彩子を救い出した形となり、
二人は程なく寝食を伴にするようになった。
彩子には自分がショッカーの戦闘員であることを
告げていない。
俺は誇り高きショッカーの戦闘員だ。
それがこのまま人として生きて良いのか?
佐竹は戦闘員としての使命をまっとうしたい自分と
一般人として彩子と共に生きていきたい自分との
間で揺れた。
しかし、二人の間に子供が出来たことで佐竹は
人としていきる決意を固めた。
佐竹は仙台でおでんの屋台を引いた。
おでんは佐竹がショッカーの戦闘員時代、
皆に振る舞うために良く作っていたので得意だった。
その味が評判となり、ある居酒屋の厨房をまかされるようになった。
夫婦仲も順風満帆、息子直道も生れ、
佐竹は人として充実した日々を過ごしていた。
東京ではデストロンが台頭し始めていたが、
佐竹の耳には届かなかった。
そんな佐竹の前に黒コートの男が現れたのは半年前だ。
店を閉めてごみを捨てに裏に回った佐竹に黒コートの男が声をかけた。
「ショッカー戦闘員、No.2914・・・佐竹義雄さんですね・・・」
聞き覚えのある声だった。
「あんたは・・・」
佐竹の前に現れた黒コートの男は
ショッカー時代の同僚だった。
黒コートの男は佐竹を迎えに来たと言った。
ゲルショッカーが壊滅した時、佐竹の他にも
けして多い人数ではないが、逃げ延びた戦闘員がいるという。
そのほとんどはデストロンに移籍したが、
残る者はショッカーを再結成していた。
そして、ベテラン戦闘員である佐竹に一員として復帰して
欲しいと言うのだ。
佐竹が己の力の無さに絶望していた頃、
他では着々と事態は進行していたのだ!!
佐竹の心は大きく揺れた。
しかし、今の佐竹に彩子と直道を捨てることは出来なかった。
佐竹は復帰を断った。
彩子と直道を危険にさらすことになるかも知れないが、
その時は命を張って護ろうと考えていた。
それほどまでに今の生活が大事だった。
かつての同僚だった黒コートの男は
「お前の気持ちは分かった、今のお前の生活を壊してまで
復帰させる気は無いさ・・・まぁ、気が変わったら連絡してくれ。」
と言って去っていった。
それから数日間、佐竹は神経を尖らせたが、
佐竹と家族の周りに近づく怪しい影はなかった。
人としての幸せを選んだ佐竹だったが、
かつて捨てたはずの思いが蘇ってきた。
ショッカー戦闘員としてもう一度・・・
佐竹は苦悩した。
佐竹はその苦悩を家族の前で出さない様に注意していた。
彩子には自分がショッカーの戦闘員であるということを
知らせていないからだ。
黒コートの男が現れてから、5ヶ月が過ぎた。
表面上、佐竹には悩みが無い様に見えるが、
心の中ではショッカー復帰への思いが消えることはなかった。
ある日、夕食を食べ終わった後、彩子が言った。
「・・・いいのよ?」
「えっ?」
「復帰してもいいのよ?」
「な、何を言ってるんだ、彩子。」
「私、知ってるのよ?あなたがショッカーの戦闘員だった事・・・」
ショックだった。
「・・・何時から気づいていたんだい?」
「あなたと暮らし始めてからすぐ・・・
押し入れの奥に服とショッカーベルトがあったもの。」
・・・そうか、じゃ何故俺と?と聞こうとして佐竹はやめた。
聞いたところで何の意味がある?
「私・・・あの日、直道と二人であなたを迎えに言ったの。
そしたら話し・・・聞こえちゃった・・・」
彩子の目から涙が落ちる。
佐竹は黙って聞いた。
「私、うれしかったの・・・あなたが復帰を断ってくれて・・・
でもね・・・でもね、あなたが苦しんでるの、わかったの!!
・・・借金のかたに売られてもう駄目って思ったとき、
あなたに救ってもらって・・・すごいうれしかった。
私、今まですごい幸せだった!!
だから・・・いいの!!
私、待ってるから!!」
「・・・すまん!!」
佐竹は泣いた。
彩子と二人で泣いた。
そして佐竹は黒スーツの男に連絡を取り、
ショッカーに復帰する旨を伝えた。
家を出る日に佐竹は彩子に言った。
「必ず戻るからな・・・」
「・・・うん」
二人はもう泣かなかった。
約束は守られるものと信じて疑わなかった。
そして佐竹はショッカー日本支部仙台派出所所長に就任した。
就任の手始めに、この仙台を焦土に化す計画を進めていた。
準備はちゃくちゃくと進行していた。
手を休めた佐竹はコーヒーを煎れた。
「あ、所長〜コーヒーくらい、言ってくだされば私が煎れますよ〜」
部下の若葉英二(23)である。
ゲルショッカー時代に佐竹が何かと世話をしていた男だ。
若葉はゲルショッカー崩壊後も着々とショッカー再結成に
動いていた。
言わば新ショッカーでは佐竹より古株だが、
いきなり上司として復帰した佐竹を若葉は暖かく迎えた。
若葉のおかげで佐竹はスムーズに仕事を始めることが出来た。
「何、コーヒーくらい、自分で煎れるさ。」
佐竹は笑いながら、青葉に答える。
「そうですか?・・・それにしても、もうすぐですね、仙台焦土化作戦。」
「ああ、来月には実行に移せそうだ。」
「作戦が成功したらどうです?一度、奥さんに会いにいったら?」
「そうだな・・・これが終わったら俺の怪人改造計画が承認される。
改造される前に一度・・・」
いきなり佐竹と若葉の視界が白くなった。
と、同時に二人はちりと化した。
ライダーマンの東京爆破ミサイルが仙台を直撃したのだ。
「何?」
仙台郊外に住む彩子を大きな地震が襲った。
いや、地震と言うよりは衝撃波だった。
そしてしばらくしてから大きな爆発音が響いてきた。
衝撃波で割れた窓に目をむけると遠くに黒煙が上がっていた。
仙台の方向だ。
彩子は理解した。
佐竹がショッカーとして仙台を爆破したのだ、と。
ショックで目を覚まし泣いている直道を抱き上げた。
直道にも黒煙が見えるようにしながらあやした。
「ほ〜ら、直道ちゃん、パパががんばってるんでちゅよ〜
愚民どもに怒りの鉄槌をおろしたんでちゅね〜
すごい、すご〜い!!」
直道は意味が判ったかの様にキャッキャとはしゃぎ始めた。
「パパが帰ってくる日も遠くないかも知れないでちゅよ〜」
彩子はこの爆発がライダーマンが引き起こしたものであることを
知らなかった。
そして、佐竹がこの爆発でちりと化したことも。