恋の季節

 私はテレビの自然番組をよく見る。目と頭を休めるにはすこぶるよろしい。森や平原や海や川などで生きる生き物を一年を通して追ったものが多い。カメラマンは一年中そこにいるのかしら、自分にはとてもできないことだ、などと思いながら見ている。
 動物たちは目が覚めている限り一日中食べ物を探しているようだ。あれが「生きる」ということなのだろう。人間も進化の過程ではそうだったはずだ。いや、今でも食べるために働いているようなものだから、同じことかもしれない。
 動物たちが食べること以外に夢中になるのは、子孫を残す行為だ。この時ばかりは食べ物のことを忘れて、相手を見つけることに全力を挙げている。
 それはいいのだが、いつも私が快からず思うのは、この段階にくると決って「ここで動物たちは恋の季節を迎えます」という語りが入ることだ。なぜ、「ここで動物たちは繁殖期に入ります」と言わないのか。
 私のような年配者から見ると、「恋」と「繁殖」は全く別のものだ。この二つを一緒にしてほしくないと思う。
 私がまだ若かったころ、若い女性が、「せっかく好きな人ができても、次の段階を求められるとそこでお付き合いをあきらめざるをえないので、それがとても残念です」と言っているのを小耳にはさんだことがある。「次の段階」に入れば、それは恋ではなかったのである。
 テレビを見ていて、動物の雄が猛然たる勢いで雌を追いかけているのを見ると、「キミは今、恋をしているのかね」と質問したくなる。

次:燃える胸

目次へ戻る