メディアの世界では、最近はなるべく敬語を使わないようにしているようだ。やたらに敬語を使うと「差別」が混入してくる恐れがあるということなのだろう。それに敬語によって文章がごたごたしてくるということもある。それは理解できる。
しかし、新聞などで、例えば「天皇陛下は昨日…」で始まる文章で、きちっと敬語を使っていないのを見ると、奇異の感に打たれる。私は天皇崇拝者ではないが、それでも「陛下」と言っておきながら敬語を使わないのは日本語のあり方に背くのではないかという気がする。
しかしもっと気になるのは、テレビなどで、不特定(多数)の人間に敬語を使うことが一般的になっていることである。例えば、行楽地の賑わいを伝えるときに、昔であれば「大勢の人がどっと出ています」と言ったところを、今では「大勢の方々がどっと出ていらっしゃいます」と言うことが多い。「ここは路上禁酒区域なのに、あそこにいらっしゃる方は缶ビールを飲んでおられるようです」なんて言うんだな。それがとても気持悪い。
こういう無意味な丁寧さは、言葉の背後にある精神の躍動感を失わせているような気がする。どういう場合に敬語を使うのか、あるいは使わないのか、もう少し方針をはっきりさせたらどうか。