インタビュー

 テレビを見ていると、レポーターがインタビューすることがよくある。相手はスポーツ選手だったり政治家だったり一般人だったりする。しばしば感じるのは、質問のし方がまるでなっていないということである。もう少し質問事項を検討し整理したうえで質問したらどうか、と思うことが多い。事故などで子どもを失った人に「いまどんな気持ですか?」と質問することの愚劣さについてはときどき指摘される。阪神大震災のあとでも、この種の質問をずいぶん聞かされた。しかし、状況によらず、インタビューは未熟かつ幼稚である場合が多い。それは日本のメディア関係者に、インタビューについて真剣に考える習慣がないからなのだろう。愚劣な質問をして、もし相手が怒りだすようなことがあれば、それもインタビューアーの手柄ということになるのだろう。
 例えば野球選手に質問しているのを聞くと、「今日の試合に点数をつけるとすると何点ぐらいになりますか?」などとまるで低能としか思えないような質問をしたかと思うと、突然、「あなたにとって野球とは何ですか?」などと禅問答みたいなことを聞いたりしている。これを外人選手に通訳を介して質問すると、彼らは何を聞かれているのか理解できないのである。そこで困った顔で通訳に聞き返していると、インタビューアーはなにやら得意気な様子をしている。
 いつだったか、ある高名なチェロ奏者がインタビューを受けるのを見たことがある。話題は音楽に始まってすぐに彼が所有する銘器ストラディヴァリウスに転じ、インタビューアーがその楽器の値段を尋ねた。チェロ奏者が、仕方なさそうに、まあこれくらいでしょう、と非常に高価な金額を言うと、インタビューアーは「もしお宅が火事になってその楽器と奥さんが炎に巻かれたら、あなたはどちらを先に助けますか」と尋ねた。
 それはもしかしたら冗談のつもりだったかもしれない。しかし、冗談にしても、なんと下等な冗談だろう。
 チェロ奏者は憤然として、「女房に決まってるじゃないですか」と答えた。
 この質問がいかに彼を侮辱し、人間性一般を冒涜したものであるか、このインタビューアーは気づいただろうか。

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