俗説によれば、蝉は七年間も地中で生活するのに、地上に出たら七日間しか生きられないことになっている。そこに蝉の哀れさを感じる人が多いようだ。しかし、それは少し違うんじゃないか、と私は思う。それはあまりにも人間的な考え方であって、虫には虫の考え方があるだろうと思うのである。
まず、七年間も地中にいるのなら、蝉の生涯の実体はむしろ地中にあると考えるべきだろう。昆虫でありながら七年もの寿命を持っていることは、他の昆虫から見れば羨ましいに違いない。
そして、地中よりも地上の生活の方が楽しいと断言できるだろうか? 地中よりも地上の方がはるかに危険に満ちていると言えるだろう。蝉はただ子孫を残すという使命を果たすためにのみ地上に出てくるのであって、その七日間は必死なものであるに違いない。
もし地上での生活の方が楽しいとすれば、七年もの長寿を保ったあとで七日間も楽しい生活ができるとは、なんと幸せなことだろうか。人間でいえば、定年後に極楽のような生活が保障されているようなものだ(ああ、羨ましい!)。
私が言いたいのは、自分の価値観で他を判断してはいけないということである。蝉が自然から与えられた生命と使命をまっとうして死んでゆくとすれば、それはまことに幸福なことと言わねばならないだろう。