かなり前に卒業生から聞いた話。
彼女は四国のある土建会社の社長の娘だった。三人姉妹の末っ子だったが、事情があって彼女が婿養子を迎えて会社を継ぐことになっていた。
大学を卒業して間もない頃のある日、彼女が車を運転して自宅のわきの小道を通り抜けようとしていたところ、向うから別の車が来て、立ち往生してしまった。状況からすれば当然向うがバックして道を譲るべきだったので、それを待っていたところ、向うの車を運転していた男が、バックしないばかりか、運転席から首を突き出して、彼女を罵り始めた。こちらが若い女性と見て、無理を通そうとしたのだろう。彼女も負けじとばかり、車から首を出して言い返したものだから、向うはますます猛り狂って、聞くに耐えないようなひどい言葉をぶつけてきた。
その騒ぎを、彼女の家(それは会社の事務所を兼ねていた)にいた社員が聞きつけて、ぞろぞろと出てきた。社員といっても、土建会社だから、鳶職(とびしょく)の若い衆で、筋骨たくましい、血気盛んな連中である。
彼らは彼女から事情を聞くと、向うの車を隙間なくぐるりと取り囲んで、車を揺さぶり始め、そればかりか、えいやっと力を合せて、車を持ち上げてしまった。運転席の男は真っ青になって震え、許しを請うたという。
女性を馬鹿にするとひどい目に会うことがある、という教訓がこの話には含まれているようである。