私は、今ごろになって、自分が育った時代がどんな時代だったかを考えることがある。戦争ですべてを失った日本が、なりふりかまわず必死に働いて、ひたすら経済面での繁栄を目指していた時期、と言っていいだろう。
この時期を私は子どもとして過したわけだが、辛い中にも一種の熱気があったように思い出される。その熱気を象徴的に示していたのが家庭電化製品の普及である。日本中が電化ブームのさなかにあったと言っていいだろう。掃除機、洗濯機、冷蔵庫、トースター、ミキサーなどが次々に発売され、多くの日本人は、今度これを買ったから次はあれだ、と思いながら、電化製品を買うためにえいえいとして仕事に励んだと言っても過言ではないだろう。
私の家の近所の親しくしている家でトースターを買ったとき、一度ぜひトースターで焼いたパンを食べにいらっしゃいと言われて、五人家族全員でその家にパンをごちそうになりに行った。さすがにトースターで焼いたパンは違う、とか言いながらパンだけをむしゃむしゃ食べた記億がある。それから数日後には、わが家でもトースターを買った。
その一連の電化製品ブームの最後に来たのがテレビである。でも、テレビは極めて高価だったから、普及には時間がかかった。テレビの買えない一般的な日本人は、街頭テレビを見たり、テレビのある飲食店で長居したり、テレビのある家に遠慮がちに訪ねて行ったりしながら、いつかはわが家でもテレビを買うぞ、と切ない思いで闘志をかき立てていたのである。
そういう状況は、でも、今の若い人が考えるほど不幸なものではなかったと言える。日本は貧乏国だ、と口癖のように言いながら、それでもすぐ目の前にささやかな目標を持って仕事に励んでいたわけで、その精神は、何だか今よりもずっと躍動感にあふれていたように思う。