アバン


かぐや姫じゃないんだから
いきなり「お前はピースランドのお姫様だ!」なんてお迎えにこられても、
じゃ帰りますって言えるわけもなく

とりあえずはバカばっかのナデシコに戻ったのはいいのだけれど・・・
こっちはこっちで別の問題が発生していたみたいです。

え?ライバル登場ってやつですか?



状況説明


さてさて、ルリがピースランドのお姫様だと発覚してから里帰りしている間、ナデシコではちょっとした論争が巻き起こっていた。

「オペレータ不在」

全てをオモイカネにより運営していたナデシコにおいて、これがどのような問題を引き起こすか十分に検討されてこなかったのだが、これが一気に浮上してきたのだ。
そう、「ナデシコの運営がままならない」のである。

「制服のクリーニングまだ?」
「トマトの入荷まだかい?伝票切ってるはずだけど?」
「ドックの延滞料金って誰も払ってないんですか?」
「自販機のコーラ切れてるぞ!」
「と、トイレの紙・・・」

そのありとあらゆるクルーの不平不満がルリの代役をしていたブリッジクルーを辟易させていた。

「これじゃ身が保たん・・・」
さすがのゴートも愚痴をこぼす。ムネタケの愚痴聞き役のジュンやプロスまで忙しくかけずり回ってるのでムネタケのイライラは頂点に達している。
「ルリちゃんって偉大だったんだねぇ」
冷たいタオルで頭を冷やしながらユリカが独り言をつぶやいた。
「偉大はいいけど、そろそろ真剣に考えないといけないよ」
ジュンは真面目にユリカに問うた。
「何を?」
「ルリちゃんが帰ってこない場合の対策だよ」
「へ?ルリちゃんが帰ってこないってなんで?」
誰もが当たり前すぎるのに考えなかった可能性。
ルリが帰ってこない、という可能性を・・・

「ルリさんは一応ホシノ夫妻からネルガルが親権を買い取ってまして、その上で契約社員という待遇なのですが・・・」
プロスが答える。
「でもピースランド国王が血縁上の両親だったわけでしょ?
 あちらが親権を主張すれば・・・」
ジュンの答えに詰まるプロス。
「でも・・・」
「親権はともかく、あの子が実の両親と過ごしたいって言い出しても、私たちはナデシコに引き留めるわけ?」
ミナトの一言が全ての意見を封じた。
どんなに優秀だろうとルリは12歳。その本人の意志を無視してまで両親と引き離せるくらい「大人の事情」に忠実なら、ナデシコは鼻つまみの独立愚連隊のままでいるはずもなかった。

「そうねぇ、帰って来る来ないはともかく、予備のオペレーターは必要のようね」
エリナはため息混じりにつぶやいた。
「心当たりあるんですか?」
ユリカは訪ねる。
「いるにはいるけど・・・どっちも7歳だから・・・」
それはそれで問題があるのだが背に腹はかえられなかった・・・



オペレーター見学会


「というわけでオペレータ候補生のお二人です。しばらくナデシコの見学をしてもらいますので皆さんよろしく」
エリナの紹介でおずおずと自己紹介を始める二人の少年少女。
「マキビ・ハリです。よろしくお願いしまーす」
「ラピス・ラズリ・・・」
「「「「おおおおお!!」」」」
物見遊山に集まったクルー達から歓声が上がった。
愛想の良い男の子と無口な女の子、どちらもかわいいお人形さんのようなお子さま達だ。
おまけにあっと言う間にオモイカネを操作して積もり積もっていた難題を片づけていってみんなの二人に対する信頼度は上がっていった。
クルー達は彼らにメロメロになった。
「「「「「ラピスちゃん!!」」」」」
「「「「「ハーリー君かわいい!!」」」」」

だが、ハーリーはともかく、ラピスはそんな彼らの黄色い声援など歯牙にもかけずあたりの男子クルーを見回した。

『カゲ薄そうな男は私も目立たなくなるからダメ』
『軽薄・ロン毛・鼻デカ・キザ男・・・好みじゃない』
『でかい・・・キス出来ないからダメ。既に虫が付いてるし』
『眼鏡にちょび髭・・・ナイスグレーになったら考えましょう』
『30越えて眼鏡でマッドで妻子持ちは論外』
『キノコにオカマは大嫌い!!』
さっそくラピスの心の中で男子クルーの品評会が始まっていた。
ちなみに上からジュン、アカツキ、ゴート、プロス、ウリバタケ、ムネタケの順である。
7歳にして十分おませさんであった。



そしてナイト様あるいは生け贄登場!


「あれ?みんな何やってんの?」
と、ちょうどそこにピースランドからアキトとルリが戻ってきた。
「お帰り、アキトにルリちゃん!
 ちょうどオペレータ候補生の二人の紹介をしてたの」
ユリカは喜んでアキトの疑問に答えた。
「オペレーターの?」
「紹介・・・ですか?」
久々に聞こえたアキトとルリの声に一同視線を向ける。
当然ラピスも・・・

ラピス鑑定アイ作動!!

サーチ開始

■身長・体重・体型とも私の好みぴったり
■顔、どこが頼り気のない、それでいて精悍さが同居したマスクが母性本能をくすぐる
■声、少年っぽさをわずかに残した男らしい声
■技能、IFS所持、パイロットなのでヒロインがピンチの時には颯爽と助けに来てくれる。
■おまけにコックなので結婚しても家事は仲良く半分こしてくれそう。
■そして性格、私より容姿が幾分劣る小娘(筆者注:ルリの事)を隣に従えても優しげな笑みを欠かさず、手を握って上手にエスコートしてくれる。

結果検討中・・・・・

鑑定結果:私にぴったりの王子様

結論が出た後の彼女の行動は早かった。

むぎゅう!!
「「「「「あああああ!!!」」」」」
いきなりアキトにしがみつくラピス。
しかし次に出る言葉がさらに一同を驚愕させた。

「私はアキトの目
 アキトの耳
 アキトの声
 アキトの手
 アキトの足
 アキトの
 アキトの
 アキトの・・・」
既にトリップモードのラピスに硬直するアキト。
ルリなどはアキトの側という絶好のポジションを押し退けられたあげくそのような発言をされて青筋が3、4本浮き出していた。

「なんですか、あなたは!私のアキトさんに馴れ馴れしい!」
「「「「「おおおおおお!」」」」」
「あの〜ルリちゃん・・・『私のアキトさん』って?」
ルリの爆弾発言にユリカは思わず聞き返すがもちろん本人は気づいていない。

「『バカばっか』だけで世の中渡って行こうなんてもう時代遅れ。
 これからは癒し系、尽くすタイプが好まれるの」
「「「「「おおおおお!」」」」」
「ル、ルリちゃんに面と向かってあんな啖呵を吐ける恐いモノ知らずは初めて見たわ・・・」
かの策謀女王メグミ・レイナードにここまで言わしめたのはラピスが初めてだった。

「チンクシャのガキが何言ってるんだか」
「自分だって胸ないくせに!」
「私はまだ発育途上なんです!!」
「12にもなってその大きさなら先がしれてるわ」
!!!!
一番気にしているプロポーションを指摘されて激怒するルリ。なかなか見れるモノじゃない。

「なんか・・・こういう光景どこかで見たことない?」
「ああ、よーくねぇ」
ヒカルとイズミはそれとなく該当者を見やる。ユリカとメグミが怪訝な顔をしていた。

「どちらが正オペレータに相応しいか勝負よ!」
「望むところだわ!」
何でそうなるの?という周囲の疑問はおいておこう。
最後の最後で『アキトに相応しいのは私よ!!』と口走るのを我慢できただけ賢明であった。さすがの彼女たちでもユリカ、メグミ、リョーコ、イネス、エリナその他非常識シスターズ全員を敵に回すのは得策ではなかった。

「あの・・・ぼくもやるんですか?」
「ハーリー君がんばれ!
 甘えた分だけ男になれよ」
とミナトが言ったとか言わなかったとか。



ナデシコ外伝
明日のオペレーターは君だ!



正オペレータの座争奪5番勝負開幕!


「やって参りました!正オペレータをかけた激しい争いを繰り広げる美少女(少年含む)の祭典!!
 実況は私ウリバタケ・セイヤと解説はロン毛1号のアカツキ・ナガレでお送りします!」
「って1号ってどういう意味かなぁ?」
(筆者注:ちなみに2号はまだ髪の毛は短いです)
「対決の方法はナデシコクルー5人にテーマを出題をしてもらいそれを競っていただきます。多くポイントを奪取した方が正オペレータとなります!」
ウリバタケの勝手な進行により粛々とイベントは進んでいった。



第一ラウンド:出題者ミスマル・ユリカ


「私のテーマはズバリ笑顔対決です!」
「「「「「笑顔対決?」」」」」
ユリカのテーマは一同を驚かせた。
「ブリッジクルーの基本は笑顔です。艦の皆さんが気持ちよくお仕事の出来るようにすること、それはひいては艦全体の士気に影響します」
「な、なぜ私を見る!!」
一同の視線がゴートに集まる。自覚はあるのだろう。

「おおっと!ユリカ嬢いきなり難題を提示してきました!」
「これはバカばっかのルリ選手には厳しいテーマですね」
「そうですねぇ、アカツキさん。ちなみにラピス選手も笑顔は苦手そうですが?」

さてテーマを実施すべく雁首を並べる二人の少女(+少年)

「まずはルリ選手ですが・・・これは笑顔というよりは嘲りに近い顔になっておりますねぇ、アカツキさん?」
「まぁ最近バカばっかを連発していましたから仕方ないでしょう、ウリバタケさん」
『ほっといて下さい』とルリは心の中で毒づいた・・・

「続きましてラピス選手ですが・・・こちらはスタート直後と表情が変わっておりませんが・・・」
ウリバタケの問いにアカツキはしたり顔で答えた。
「つまりあれですねぇ、彼女の場合ほとんど顔の筋肉を動かしたことがないと」
「なるほど!確かに劇ナデではほとんど同じ表情でしたから」
『う、うごかない・・・』鉄仮面ラピスの盲点がこんなところに!!

「さてミスマル・ユリカさん、判定をどうぞ!!」
ウリバタケが促すとユリカは指を口に当てて思いついたように結論を下した。
「勝者は〜」
「勝者は?」
皆がユリカの言葉を待った。
「マキビ・ハリ君です!!」
「「「「「はい?」」」」」
彼女の意外な答えに一同が驚きの声を隠せなかった。

そう、確かにハーリーも参加していた。彼は無論満面の笑みであった。



第2ラウンド:出題者メグミ・レイナード


「というわけでメグミ・レイナード歌いま〜〜す」
「あのぉ〜〜歌・・・じゃなくてテーマをお願いします」
「もう、いいところだったのに・・・」
ウリバタケに話の腰を折られて不満そうなメグミだがなにやらいい考えが浮かんだようだった。
「じゃ、テーマそのままでいいで〜す♪」
「・・・・って何がですか?」
メグミの言葉にウリバタケが思わず聞き直した。
「だから歌ですよ」
「歌・・・ですか?なぜ?」
「今時のヒロインは主題歌を歌うようになってますから」
まぁ、確かに声優と歌手の違いをわかっててヒロインに主題歌歌わせるアニメが多くなってますからねぇ。どうなんでしょう?

「は〜い、ユリカ歌ってるよ♪♪」
とヒロインを主張したいのか、舞台袖で勝手に『私らしく』を歌っているユリカをよそに各自の持ち歌披露に入った。

「まずはラピス・ラズリ選手、歌うは『ROSE BUD 』です」
「おお、これは期待の新曲!うまく歌えるでしょうか、ラピス選手!」

♪紫にけむる都市はSmorky day's
♪いい事なんてめったにないよ...

「おお、さすが闇の王子様を陰で支える少女の悲哀が滲み出ておりますねぇ。アカツキさん!」
「そうですねぇ、ウリバタケさん!」

「続きまして・・・マキビ・ハリ選手、歌うは『熱血ロボゲキガンガー』」
「・・・多分結果は見えているでしょうが・・・」
「だって・・・」
ルリとラピスに他の曲を歌わせて貰えなかったハーリー。
歌詞を聞く必要もなく結果は望むべくもなかった。

「最後は本命ホシノ・ルリ選手、歌うは『You get to burning 』です!」
「おおっと!『あなたの一番になりたい』は一番星コンテストまで温存しに来ましたか!
 しかしこの曲はパンチの効いたビートが命!
 ルリ選手の声質に合いますかねぇ、ウリバタケさん」
「そうですねぇアカツキさん!」

♪悔しさをこらえて蹴り上げた石ころ
♪跳ね返ればダイヤモンドにもなる......

「おおっと!!そう来ましたか!!」
「ええ、あの曲をバラード調に歌いあげましたルリ選手!!
 これはポイントが高いでしょう!!」
(筆者注:CD『電子の妖精・ホシノルリ』収録バージョンです)

考え込むメグミ。
「審査、難航しておりますねぇ・・・っと結果が出たようです!」
「勝者、ホシノ・ルリ選手」
「ブイです・・・」
わざとらしくピースサインをするルリ。

だが、確かに採点は拮抗していて甲乙はつけがたかったはずだ。
だが意外にも採点の決め手となったのはルリ秘蔵『テンカワ・アキト寝顔ピンナップ集』にてメグミを買収していたからに他ならない。
今までの全てのクルーを観察できるオペレータという地位を利用した合せ技一本である。
(無論みんなには内緒である)



第3ラウンド:出題者エリナ・キンジョウ・ウォン


「さてルリ選手、ハーリー選手ともに1ポイントずつゲット。出遅れているラピス選手の健闘が望まれます。」
「出題・・・いいかしら?」
「ええ、エリナさんどうぞ」
「ずばりオモイカネのオペレーション勝負!」
「え〜〜ありきたりだなぁ」
ウリバタケの反応に少しムッとするエリナだがどれで動じるような彼女ではなかった。
「あのねぇ、これはオペレータを決める勝負でしょ?歌や笑顔なんて二の次でいいの!」
「性格に問題があっても?」
「・・・・・・」
ヒカルのつっこみに絶句するエリナ。
でもヒカル君、今更手遅れでしょう・・・。

「ルールはオモイカネを三人同時に操作してもらい、データ処理をこなしてもらいます。
 何個のデータを処理できたかを競ってもらいます」
「それって不公平じゃない?オモイカネはルリちゃんにヒイキだし」
メグミが密かにつっこむ。が、そこに説明おばさん登場!!
「説明しましょう!
 三人へ各コンソールへのCPUパフォーマンスの割り振りは均等になるようにしてます。
 それにもしオモイカネが特定の個人へエコヒイキした場合にはその時点でこのラウンドは負けとなります。ちなみにルリちゃん、バレないようにしようと思っても無理ですからね。艦長のアクセス権限でログの監視をしてますから」
ルリはちょっと舌打ちをした。

「では開始して下さい!!」
ウリバタケの号令一発、三人はさっそく処理にかかった。
「三者、好調な滑り出し!快調なペースでデータを処理しております。
 しかし、なんといってもオモイカネはルリ選手の遊び場、今日触ったばかりのラピス選手やハーリー選手には厳しいのではないでしょうか、アカツキさん?」
「いえ、そうでもないようですよ、ウリバタケさん!」
「おおっと、処理数を表示するグラフがわずかではありますがラピス選手がルリ選手を引き離しております!!」

『おかしいですねぇ、私のアクセスはオモイカネの最短ルートを通っているはず。
 どんなに効率が良くても私より早く処理する事なんて出来ないはず・・・』
ルリは自分のホームゲームにてラピスに差をつけられているのに少なからず驚いていた。そしてラピスの不可解なリードの原因を探り始めた。

「あの・・・ラピス選手、反則じゃないんですか?」
原因のわかったルリは審判エリナにその行為を申告した。
「なにが?」
「ハーリー君のグラフを見て下さい。」
「え?」
そう、ちょうどラピスがルリにリードしている分だけハーリーの処理数が抜け落ちているのだ。

「おおっと!言われてみればその通りです!
 ではオモイカネレポーターのイネスさんお願いします!」
「はいはい!今から解説するわ。
 どうもラピス選手はハーリー選手のタスクに自分のプロセスを割り込ませている様ね」
「あの・・・よくわかりません・・・」
ユリカが涙目で尋ねた。
「艦長・・・分かり易く言えばラピス選手はハーリー選手の処理時間をハッキングにて自分のものにしてるって事」
「それって反則じゃないですか?」
「ハッキングも立派なオペレータの才能、活用して何が悪い?
 それにオモイカネがヒイキしていなければOKなんでしょ?」
「と、ラピス選手の主張ですが、ここは出題者のエリナさんに正否を聞いてみましょう」
「まぁ・・・ハッキングも一種の戦闘手段となりえるからあながち間違いとは言えないわね・・・」
「ということでOKが出ました!!」

さて、ここからが大変だった。
「おおっと、ハーリー選手の処理速度がみるみるうちに低下しております!
 ラピス選手とルリ選手がハーリー選手のCPUパフォーマンスをハッキングしております!!
 だが、最初の分だけラピス選手が有利です!!」
「なんで僕だけ〜〜〜」
理由は単純、ラピスとルリは互いに自分のプロセスにプロテクトを張っており、突破するのが非常に困難だったからだ。ハーリーだけ防壁を用意していなかった甘さが命取りとなった。

カン!カン!カン!

「タイムアップです!
 結果は・・・僅差ながらやはり序盤で優位に立ったラピス選手の勝利です!!」
「電子の妖精はルリだけではなくてよ」
ラピスの捨て台詞にいたくご立腹のルリ選手であった・・・



第4ラウンド:出題者テンカワ・アキト


「さて、全員1ポイントずつ分け合って盛り上がって来ましたこの戦い!
 次の出題者は歩くフェロモン!テンカワ・アキト氏です!!」
「ええ!?オレっすか?
 いや、な、何も考えてなかったんですけど・・・」
影で司会進行しているジュンとヒカルから巻きが入った。何でもいいから出題しろと瞳が語っていた。

「そうだな・・・」
ルリとラピスが固唾を呑んで見守る。
「一緒に料理手伝ってくれる子だと嬉しいなぁ」
あああ、そんな地雷を踏むような発言!
いいのかアキト。今の発言で殺人シェフを5名ほどヤル気にしてしまったぞ!
(艦長とか通信士とかパイロットとか副操舵士とか説明おばさんとか・・・)

「「「料理・・・やったことないよ・・・」」」
無論、選手達は凍りついていた。

「というわけで料理勝負です!
 食材、調理器材はナデシコの中のモノをなんでも使用して結構!
 ただし、アキト氏に美味いと言わせた人が勝者です!」
「さて料理の技量の乏しい3人が如何な料理を見せてくれるか楽しみですねぇ、ウリバタケさん!」

・・・調理終了、試食タイム・・・

「まずはルリ選手の作品ですが・・・
 これはなんです?」
「チ・・・ーガーです」
「はい?」
チーズバーガーです!
「ああ、自販機の!」
「・・・」
俯いて恥ずかしげに自販機で買ってきたチーズバーガーを差し出すルリ。
確かに何を使って調理してもいいとは言ったが・・・。

「ふ、自ら調理しないものを出すとは、落ちたわねホシノ・ルリ!」
「そう嘲笑するラピス選手の料理ですが・・・アカツキさん、あれ何に見えます?」
「何って・・・カップラーメンに見えますねぇ、ウリバタケさん・・・」
「何よ、ちゃんとお湯注いだわよ!」
「まぁ、それも調理したうちに入りますが・・・」
調理はしてるが、料理はしてないぞ?

「最後はハーリー選手です。まぁ誰も期待はしていないでしょうが」
「ああ、ひどい!!」
「でもおいしそうですよ?」
みんなが冷遇するなか、アキトはハーリーの料理を一つまみして口に放り込んだ。
「へぇ、ツナサラダねぇ。結構ドレッシングが合ってるじゃないか」
「ええ、缶詰とレタスをちぎって混ぜるだけなんですけど、
 両親が研究で留守がちなのでたまに自分で作るんです!
 んで具とドレッシングだけはいろいろ試して研究してるんです!」
ほめられて嬉しいのかハーリーは喜んで話した。

「ってことはアキトさん?」
「まぁ、『料理』は味じゃなくて誰かに食べてもらいたいって気持ちですから」
「というわけで勝者マキビ・ハリー選手です!!!」
少女二人がっくり肩を落とすのであった・・・。



第5ラウンド:出題者スバル・リョーコ


「さて周囲の予想を裏切りダークホースのマキビ・ハリ選手が2ポイントと一躍トップに躍り出ました!さてこのまま逃げ切れるのでしょうか!!」
「まだまだわかりませんよ?この最終ラウンドはなんと特別に3ポイントゲット出来ますから」
「それって今までの勝負・・・意味ないんじゃないですか?」
アカツキの言葉に思わずツッコミをいれるルリ。
「・・・・」
「では最後の出題者スバル・リョーコさんに登場してもらいましょう!」
「あ、ごまかしましたね」
ルリの抗議を無視して議事進行を進めるウリバタケ。
「・・・たぶん出題は想像できますが、リョーコさんお題をどうぞ!」
「おう!オレの問題はもちろんエステバリスでのバトルロイヤルだ!」
「「「オペレータがエステバリスで戦闘!?」」」
全員が驚いたのは言うまでもなかった・・・。

「あんだよ、文句あるのか?」
「そうじゃないですけど、オペレータがエステで戦闘するような状況って」
「敗戦の末期症状です」
珍しくルリとラピスの意見が合った。
「ほう・・・じゃいいんだな?
 アキトに背中を預けて戦う栄誉をオレが独占していて」
「「う・・・」」
リョーコの甘言に思わず心を動かされるルリとラピス。今の二人にとってその光景は非常に魅力的なモノに思えた。
「それじゃ、三人ともフレームを選んで下さい。戦闘ステージはフレーム選択後に発表します。戦闘ステージとフレームの相性を十分考慮して選択して下さいね!」

・・・フレーム選択終了・・・

「ではまずラピス選手のフレーム、イヌラピエステ=陸戦フレームカスタムです」
「おや、あえて陸戦できますか、ラピス選手!
 宇宙や空中のステージでは圧倒的な不利になりますが。
 接近戦、持久戦にあえて持ち込むつもりなのでしょうか!?」
「・・・そうなの?」
やはりよくわかっていなかったラピスであった。

「続きましてルリ選手はネコルリエステ=0G戦フレームカスタムです」
「いやぁ、無難な選択ですねぇ。0G戦フレームなら地上でも宇宙でも使用できます。
 オールマイティーで面白味に欠けますが堅実なルリ選手にふさわしいでしょう」
「あのぉ、0Gじゃありませんよ。よく見て下さい」
ルリのツッコミによく目をこらすアカツキ。どこか見覚えがあった。
「ああ!あれは僕の!!」
「そうです。エステバリス・アカツキスペシャルです。ブイ」
「僕のエステに勝手に猫耳なんか生やして!」
「アカツキスペシャルは空中戦闘も可能ですから」
「さすがルリ選手!ナデシコの全てを把握しております!」
「僕のエステ・・・」

「さて最後は現在ポイントトップのハーリー選手ですが・・・
 なんとハリモグエステ=砲戦フレームカスタムです!!
 勝負を捨てましたか、ハーリー選手!!」
「いや、彼は結構考えてるかもしれませんよ、ウリバタケさん!
 所詮馴れないエステバリス、どうせ弾をかわせないのなら、被弾覚悟で装甲の厚い砲戦エステを使い、強力な火力で一発逆転をねらう・・・そんな作戦かもしれませんよ!!」
「いえ・・・打算なんかないです」
泣きながら答えるハーリー。単にルリとラピスに他のフレームを選ばせてもらえなかっただけだった。

「さて戦闘ステージですが・・・決まりました
 火星極冠です!!」



第5ラウンド戦闘開始!!


「ファイト!」
号令一発、三人のエステバリスは戦いの火蓋を切って落とした。

「「そういえば、ハーリー君、バトルロイヤルの定石って知ってる?」」
「はい?」
珍しくルリとラピスがそろってハーリーに質問をした。その瞬間ハーリーは悪寒を感じた。

「「それは一番強い選手をみんなで真っ先に叩きつぶすこと!!」」
「ひょえええええ!!!」
ハリモグエステに対して他の2機からの集中砲火の雨が降った。
いかな砲戦フレームとて耐えきれるわけもなかった・・・。

「ハーリー選手リタイヤです」
開始20秒、あっけない最後であった。

「さてこれで差しの勝負よ、ホシノ・ルリ!
 アキトの添い寝は私のモノよ!」
「・・・もしもし?」
「アキトさんは私専属のコックになってもらいます。
 二人を死が分かつまで!」
「・・・だから何のことかなぁ?」
みんなの侮蔑の表情を肌で感じながらアキトはいわれのない疑惑を払拭するのに必死だった・・・。

「さて、戦闘は地上での銃撃戦になっております。
 ここは陸戦フレームがベースのイヌラピエステが有利です!」
「でもルリ選手もアカツキスペシャルの力をうまく引き出して遜色のない戦いをしておりますよ。」
事実、二人はそれが初めての戦闘と思えないほどの戦闘を繰り広げていた。

「なんか最初の頃のアキト君より全然うまいねぇ、あの二人」
「ははは・・・」
ヒカルのツッコミに苦笑するアキト。
「でも、ほんと、あの二人すごいよね、シミュレータでも結構難しいのに」
「え?アキト君、そうじゃないみたいだよ?」
「へ?」
ヒカルの指さす方を振り向いてみるアキト。その先には担架で運ばれるハーリーの姿があった。一瞬で血の気の引くアキト。

「おい!リョーコちゃん!!」
「なんだよテンカワ」
「あの二人が乗ってるのって実機なのか!」
「あたぼうよぉ!タイマンするからにゃ真剣勝負!」
「バカ!何考えてるんだよ」
「まぁまぁアキト君・・・」
「テンカワ、興奮するな・・・」
「大丈夫さぁ・・・弾だってペイント弾だし・・・」
アキトを落ち着かせようとなだめるヒカルとジュンを押し退けてリョーコに詰め寄るアキト。
「ふざけるな!子供の喧嘩じゃないんだ!
 殴れば人を殺せる、そういうモノに乗ってるんだぞ?自覚あるのか!
 とにかく止めさせてくる!!」

そう言って脱兎のごとくエステの格納庫に向かうアキト。
そうやって所構わず熱血をやってるから歩くフェロモンなんて呼ばれるのだ。
既にリョーコが乙女チックな瞳にチェンジしてるし・・・。

さてさて、乙女達の白熱のバトルは終局を迎えようとしていた。
イヌラピエステはその機動性を活かしてネコルリエステを峡谷に追い詰めていた。
「さぁ、お終いよホシノ・ルリ!
 関連しなさい」

律義にビシッと相手を指差すイヌラピエステ。
だが、奸智に関してはルリのほうが数倍上だった。
「お終いなんですか?」
「そうよ!もう後ろには下がれないでしょ!」
「そういえばそうですね・・・」
「そうよ!観念なさい!!」
「あ、でも上には上がれますよ?」
「え?」

そう、そのまま宙に浮くネコルリエステ。
だから、ベースのアカツキスペシャルは空中を飛べるんでだってば。
そしてひょいとイヌラピエステの背後にまわって空中からラッピットライフルを少し掃射・・・あっという間に今度はイヌラピエステが渓谷を背に追い詰められた。
先程の説明の内容をすっぽり忘れていたラピスが悪いのか、それともそれを悟られないように立ち回ったルリが一枚上手なのか・・・。

「さて絶体絶命のラピス選手!!
 何か抵抗の手段はあるのでしょうか!!」
「ありませんよ。高低差ボーナスがつくので貴方の命中率は落ちますが、私の命中率は上がってますので」
ルリ君、そりゃFFTでしょう?

「くううう!」
「それではトドメです」
最後の砲撃でルリはイヌラピエステを渓谷に突き落とした。
だが、ラピスは諦めていなかった。
「ピンチのときの必殺技!ゲキガンパンチ!!
そう叫ぶとラピスは両腕のワイヤーフィストをネコルリエステに向かって射出した。

ガシ!!

フィストの両手はネコルリエステの肩をしっかり掴んで離さなかった。

「おお!ラピス選手!いつの間にゲキガンガーを!!」
「休憩時間にアキトの好きなものリサーチした。
 パートナーとして当然の務め」
「さすが、ラピス選手!研究熱心です
 ちなみにアカツキさん?
 アカツキスペシャルの重力制御ってどのぐらいのパワーがありましたっけ?」
「いやぁ、自重を支えるぐらいが精一杯じゃなかったでしたっけ?ウリバタケさん」
「じゃ・・・当然・・・」
「ええ、下へまいります!」

ヒュ〜〜〜
「「ひょええええ〜〜〜〜」」
ネコルリエステは二機分の重さに耐えられる峡谷の底へまっ逆さまだった。



第5ラウンド決着・大岡裁き


「全く!危ないことしちゃだめじゃないか!」
奈落の底に真っ逆さま・・・のはずの二人だったのだが、お約束というか・・・王子様登場にて事なきを得た。
王子様といっても乗っているのは空戦フレームのエステに乗ったアキトであるが。
「「済みません・・・」」
「今度危ないことをしたらお尻ペンペンだからね」
「わたし少女です。子供じゃありません!」
「痛いのイヤ・・・」
「ははは」
空戦フレームの両手にしがみつきながら、ルリとラピスはともに私の王子様はこの人よ!と認識を新たにするのであった。

そんなこんなでアキトのお叱りを受けた二人が戻って来て、後は審査員のリョーコの結果を聞くだけとなった。一同の視線はリョーコに集まった。
「さて、なんかとんでもないことになってしまいましたが、第5ラウンドの勝者は果たしてどちらでしょうか!!」
「最後にリードしていたのはルリ選手ですが・・・」
アカツキの無責任な解説が付け加わるがリョーコの意思は既に固まっていた。
「ではリョーコさん、判定をどうぞ!!」
「勝者は・・・」
「「勝者は?」」
「テンカワ・アキトだぁぁぁ!」
「は?」
ラブモード全開のリョーコを止める術は誰にもなかった・・・。

「ちょっとオレがオペレータっすか?冗談じゃない!!」
「でも3ポイントゲットでダントツトップ!」
ユリカは意味も分からずはしゃぐ。
確かに、ルリ1ポイント、ラピス1ポイント、ハーリー2ポイント、アキト3ポイントである。
このままだとトップはアキトだ。
そしてナデシコクルーなら本気でアキトをオペレータにしかねない。
必死に抗弁するアキト。
「リョーコちゃん、採点やり直してよ」
「やだ!オレはエステ勝負の審査をしただけだ。第一乱入したのはお前だろ、テンカワ?」
「そりゃそうだけど・・・オレにオペレータの才能なんてないぞ?」
堂々巡りの議論にプロスが妥協案を差し出した。
「ではテンカワさん、こういうのはどうでしょう?
 テンカワさんの得た3ポイントをルリさんとラピスさんに分配する、というのは?」
「へ?」
「つまりテンカワさんがお二人の点数を評価なさるのですよ」
「ちょっと待って!それじゃ・・・」

持ってるポイントは3ポイント
そしてルリとラピスはとも1ポイントずつ
どう配分しようとどちらかに引導を渡すことになる。

『テンカワさん、私の方ですよね?』
『私はアキトの目、私はアキトの手・・・』
既に私を選んでオーラを強烈に放出している二人。
この縋るような、保護欲をくすぐるような、それでいて脅迫にも近い表情に、元来優柔不断なアキトがどちらかを選べるはずもなかった。

「テンカワさん、私ですよね?」
「アキト、私でしょ?」
「さぁ、テンカワ・アキトさん、結果をどうぞ!」
「「「さぁ、結果を!!」」」
進退窮まったアキトの出した結論とは!!

「なんか、どっかで見たような光景よね?」
「ええ、見た見た」
ヒカルとイズミは再び該当者を見やる。ユリカとメグミが再び怪訝な顔をしていた。

「結果は・・・三方一両損!
「「「「「「「「はい?」」」」」」」」
アキトの言葉に全員がうなずき返した。

「ここに3ポイントあります。
 これを仮にルリちゃんに入れればラピスちゃんは3ポイントの損
 同じくラピスちゃんに入れればルリちゃんは3ポイントの損
 そこでだ。オレが1ポイント自腹切って・・・」
「ちなみにアキト、1ポイントにつき残業50時間だからね」
司会進行のウリバタケのキツいツッコミにもめげず話を続けるアキト。
「・・・その1ポイントを足して4ポイントとする。
 これを二人に2ポイントずつ分けるとだねぇ
 ルリちゃんは本来3ポイント入るはずが2ポイントになり1ポイント損する
 同じくラピスちゃんも1ポイント損をする
 そしてオレも1ポイント損をする
 これが三方一両損だ
「おお!これはかの有名な大岡裁き!!
 こんな所で見られようとは!!!」
「テンカワさん、すばらしいです!」
「さすが私のアキト!」

なぜかアキトの提案に納得する周囲。
だが、『おいおい、勝手に得点ポイントを増やしていいのか?』というごく冷静なツッコミをゴートは辛うじて声に出すのを押えることができた・・・。



それで最終結果は?


「さて3ポイントを取ったルリ選手とラピス選手の同点一位ですが・・・どうします、アカツキさん?」
「・・・こういう時はお約束のあれでしょう、ウリバタケさん」

ジャンケンポン!!

「というわけで同率一位の選手の頂上対決はジャンケンの上、ルリ選手の勝利となりました!!」
「ブイです・・・」
「口惜しい!!」
こら、そこの人、『ジャンケンでいいなら今までのイベントって無駄じゃないの?』などとつっこまないで下さい。
「そうですよ。これは高度に情報分析した結果の必然的な勝利ですから・・・」
「うそでしょ、ルリルリ」
「本当ですよミナトさん。競技開始時からラピスさんの行動心理や性格をオモイカネに調べさせていました。そのデータをジャンケン心理学に基づいて分析した結果の勝利です」
「・・・本当に?」
「フフフ、ミナトさん。本当かどうかより、『それすらも戦術』なんですよ」
ジャンケン心理学なるものが存在するかは別にして、案外ジャンケンなんて精神的な駆け引きで勝負を決めるものである。だから『深読みしすぎてはダメ』とも言えます。



そして結局は元どおり


「覚えてらっしゃい!!
 今度来るときは貴方を正オペレータの座から引きずり下ろしてくれるから!!」

とまぁ、どこぞの悪役のようなセリフを残してラピスは負傷したハーリーとともに研究所に帰っていった。

さて、結局元の鞘に戻ったナデシコであるが、二つのことがルリの手によって行われていた。

一つめ:今回のバカ騒ぎの記録抹消
二つめ:予備のオペレータを入れようとした馬鹿なクルー達への密かな復讐

被害にあったクルー達は改めてルリの偉大さを知るとともに、誰もルリを怒らせまいと心に誓うのだった・・・



後日談


ホシノ・ルリ非公式ファンクラブのHPにてラピスらしき人物の写真の投稿があった。
それを見た北辰(仮名)さんは大層彼女を気に入った様子。
その後、事あるごとにラピスをつけ回し、ストーカーにまで成り果てた。
誘拐されるのも時間の問題だろうともっぱらの噂である。

なお、その写真を投稿したのがルリという風聞があるが、真相は闇の中である。

おわり!



ポストスプリクト


本作品はBZ−Rさんの所のイベントに投稿したものを修正、再編集したものです。
後の”プリンセス オブ ダークネス”や”「学園もの」で行こう”の原点・・・ギャグのね・・・になるような作品でした。その当時出たCDに影響を受けて一気に書き上げた覚えがあります。
結構気に入っているので今回Remixしてみました。
なお、参考文献は次のとおりです。
・CD「機動戦艦ナデシコ お洒落倶楽部」
・CD「機動戦艦ナデシコ 続お洒落倶楽部」
・CD「電子の妖精ホシノルリ」

以上

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