アバン


「信じる」という事は、単純なようでいて難しい。

自分が傷つくのが怖い人
信じていた人に傷つけられた人
自分すら信用できない人

他人を信じられない理由など誰の胸にも存在する。
それがたとえ昔の家族だったとしても

でもあの人は
「信じてますから」
と、迷いもせずにまっすぐな瞳で答えました。
そう、誰のためでもなく自分自身のために。
「私らしく」生きるために。



火星極冠遺跡・イワト


ナデシコCの反応が消失する頃より時は少し遡る。

火星極冠遺跡を占拠していた火星の後継者達はとうとうボソンジャンプの完全なコントロールに成功した。昨日は夜天光を地球の秩父山中に送ることに成功し、そしてつい先程も宇宙軍の秘密工作船に対して積尸気部隊を送り込んだばかりだった。

この事実を受けて草壁春樹はアマテラスでの蜂起以来順延していたプラン甲を発動させる事を決定した。そして満を持して待機していた決死部隊は即日作戦実行の体制に移行した。

遺跡を覆うように設けられたジャンプステージ。
そこには多くの決戦機動兵器「積尸気」と重要拠点制圧の為の海兵隊からなる決死隊が既に待機していた。
その頭上に設けられた特別ステージには彼らの盟主である草壁春樹のプラン甲の決起のための演説を待っていた。

火星の後継者の旗の下の元で草壁がマイクを手にするとさっそく決起の演説を行なった。

『これは明らかに宇宙規模の叛乱である!
 地球連合憲章の見地からすればまさしく平和への脅威であろう!!』

草壁の演説を静かに見守る決死隊の面々。
彼らの頭にある「義」のハチマキ。
それは彼らが何を夢想し、何を代弁しているかを物語っていた。
そこに正義があると信じて・・・

『我々は悪である!いかなる非難も甘んじて受けよう!
 だが、時空転移は新たなる時代、
 新たなる価値観、
 そして新たなる秩序の幕開けである!
 今の腐敗した地球連合の俗物達が手にしてよい技術ではない!!』

火星極冠遺跡の周りにはかつての統合軍の艦隊も見える。
守るべきものを取り替えてでもそこに正義があると信じた者たち。
でもその正義が成すに足るものか自答してみたことはあるのだろうか?
それを成す手段は正義に足るものか自答してみたことはあるのだろか?
そんな感慨すら飲み込むように草壁の演説は最高潮に達していった。

『さぁ!勇者達を導け!!』
草壁の檄によりプラン甲が発動する。

「イメージ!」
「イメージ!」
「イメージ!」

遺伝子改良を行ったナビゲータ志願兵達が次々と目的地のイメージングを行っていった。

「目標、地球連合本部ビル」
「目標、統合軍本部ビル」

遺跡中心部の中央管理室では各ナビゲータからのイメージング情報が次々と送られてきており、それを遺跡へのインターフェイスであるテンカワ・アキトへの夢データに変換して送信していた。

「各ナビゲータのイメージング順調」
「イメージ伝達率50%」
「よし、イメージ伝達促進プログラム入力。
 モードはマルチで」
頃合いを見計らったヤマザキがそう促す。
「マルチモード、入力します」
ぐんぐん上昇する伝達率を示す数値
どのウインドウも98%を越える
『YURIKA』で埋め尽くされていった。

遺跡に融合されたアキトの彫像が無数のナノマシーンのパターンに埋めつくされる。
そして無数に見せられる悪夢・・・



プリンス オブ ダークネス


シャリーン

『遅かりし復讐人、未熟者よ』

シャリーン

『女の前で死ぬか』

シャリーン

『あ奴は捕らえよ。人の手により生み出されし、白き妖精
 地球人は遺伝子細工がほとほと好きと見える。
 汝は我が結社のラボにて栄光ある研究の礎となれ
 そこの負け犬の片割れの様に』

シャリーン

『悔しかろう!
 憎かろう!
 たとえ鎧を纏おうとも心の弱さまでは守れないのだ!!』

『助けて!アキト!!』

どこだ!ユリカ!!

『わたしは・・・』



火星遺跡イワト


彼らはその悲痛な思いすら、自らの利益のためにすり替える。
ジャンプステージはボソンのキラメキの洪水の中に消えていった。



Nadesico Princess of White(Auther's Remix ver.)

Chapter15 「私らしく」と唱う歌



その頃のナデシコクルーを乗せたシャトル


「くううう!!」
「よぉ〜よぉ〜よぉ〜〜」

「なにやってんの、あの二人?」
「昔のアニメの急加速Gゴッコだそうですよ」
「ふぅん。さすがパイロットは余裕だねぇ」

・・・という場面だった。Janction Point



国際高速通信社ビル前


ドゥ!!
唯の通常警戒をしていたエステバリス陸戦フレームは不意の攻撃に中破してしまった。
「積尸気」と海兵隊からなる決死隊が彼らを攻撃していた。

「ええ、そうです!いきなり現れて!!」
そのビルの守備隊は混乱した戦況に錯綜していた。
それはそうだろう。
通常警戒していたところにボソンジャンプしてきた敵が現れていきなり攻撃されては。

各地で、各所で政府の要所、軍事の要所に次々決死隊がボソンジャンプによって送り込まれていた・・・。



火星遺跡イワト・作戦室


「国際高速通信社占拠」
選挙の当確よろしく該当する名前の札に造花を付けていくお姉さん。
もしかして・・・選挙と占拠をひっかけたギャグ?

「「「おお!!」」」
作戦室の面々は次々と寄せられる占拠の報告に緊迫感は抜けていないながらも、はやる気持ちを押さえられないでいた。
「もうすぐですな、閣下!」
「ああ、新たな秩序が今始まる・・・」
シンジョウがやや興奮したような問いに、草壁はやややつれながらも感慨深げに答えた。
それは振り返らずに走り続けた男の呟きだった。



その頃のナデシコC


「質問していいですか?」
『何だい?艦長』
「アカツキさんって結局良い者なんですか?悪者なんですか?」Janction Point



東京都内某所


「ははは!痛いところつくねぇ。」
女性にメークをされながら、アカツキは多少自嘲気味に笑いながらユリカの問いに答えていた。さてはて、本当に堪えているのだろうか?

そこに緊急を示すウインドウが着信した。
「ああ、キャッチが入っちゃった。じゃ祝勝会で!」
逃げるようにアカツキはユリカのウインドウを閉じて、緊急用のウインドウを開いた。

『こちら正門前!』
ドン!!
激しい振動が彼の控え室にも伝わって来た。
「うわぁ、こりゃすごいご訪問だねぇ」
『敵の攻撃凄まじくこれ以上は・・・』
「ああ、ここはもういいから。後は任せていいよ。」
『はい!』
アカツキは報告して来た兵士にのほほんと応対した。まるでこれからうるさい勧誘をあしらおうかとしているかのように

「舞台は整った。さ、行こうか!」
アカツキにとって今回の出来事は所詮その程度のことかもしれない。



地球連合総会議場前


ここでも既に戦いは始まっていた。
だが、まるで誰かの指示のように会議ビル前の守備隊の攻撃が薄くなった。
「敵の守備隊沈黙!」
「よし!これより突入!!」

副長の報告により地球連合総会議場方面部隊の隊長カワグチ少尉は内部制圧を命令した。

次々と決死隊が会議場内に踏み込んでいく。
彼らはあるところにまっすぐ進んでいった。
地球連合総会を行なっている会議場・・・そう、総会出席者である地球連合代表者ら要人を人質として確保する為だ。



地球連合総会・会議場ホール


バタン!!!
激しくドアを蹴破って入って来た決死隊は突入のセオリー通りに前方と左右に銃を構えて中の人間を確認した。しかし、そこに総会出席者はいなかった。
それどころかどこぞのコンサートの会場のようなセットしかなかったのである。

「ダメダメぇ、せっかちさん♪」
そのセットの中央でスポットライトを浴びて黄色い声で決死隊達をたしなめたのは・・・
「え?」
「メグたん〜〜!?」
そう、人気アイドル声優メグミ・レイナードだった。

そしてステージにはさらにスポットライトが当たりだす。それも五つ。
「皆さんこんにちわ!メグミ・レイナードです♪」
「「「「「ホウメイ・ガールズで〜〜す♪」」」」」
「今日は私達のコンサートにようこそ♪」
「たっぷりと楽しんでいってくださいね♪」

『『『『おおおお!!』』』』
メグミとエリの開幕の挨拶にて四隅の壁のマルチスクリーンにコンサート会場の映像が映された。
だが、それはどこか創られた・・・そう、ただこのシチュエーションのためのバックグランドビジュアルの様であった。

その光景にまるで狐につままれたような決死隊達はおずおずと会場の中に入ってくる。
「総会は?地球連合の総会はどうした?」
そんな川口少尉の戸惑いなどおかまいなしにメグミ達のコンサート・・・あるいは程度の低いジョークとも言うが・・・は続いた。

「ギター、プロスさん♪」
「参ったなぁ〜」

テレが入るプロス。服装はいつものままなのはそれがあなたの制服だからですか?

「ベース、ムネタケ・ヨシサダ♪」
「ハッピーー!」

意外にもアロハシャツにサングラスとクールなムネタケ。

「キーボードは飛び入りホウメイさん♪」
「アハハハハ!」

飛び入りのはずなのになぜか服装はミニスカートとバリバリに決めているホウメイ

「ドラム、ミスマル・コウイチロウ、秋山源八郎!!」
「「は!!そりゃそりゃそりゃそりゃ!!」」

諸肌脱いで着流し姿の二人がドラム・・・というよりはどう見ても和太鼓の見事な連打を披露していた。

「そしてスペシャルゲスト!」
「アカツキ・ナガレ!!」

メグミの紹介と共に正面のパネルの上方にスポットライトが集まる。
それと同時にステージ花火が盛大に灯った。
その中をスポットライトを浴びてプレスリーよろしくアカツキがセリダシに乗ってステージに現われた。

ゴーン!!

・・・金タライがアカツキの頭上に落ちた・・・
「金持ちをなめんなよ!」
振り返れば明らかに赤インクの鼻血を垂らすアカツキ。今時ドリフギャグをかます彼の神経って一体・・・

『ハハハハ!』
前後パネルは同じくドリフの笑いおばさん達の映像。
これも当然作り物だ。
「天誅!!」
完全に馬鹿にされたと悟った決死隊はすぐさまアカツキに対して発砲した。だが、それはむなしく弾き飛ばされた。
「ディストーションフィールドだと!」
「だから言ったでしょう?金持ちをなめるなって!」
個人用のディストーションフィールド装備。火星の後継者の北辰ですら持っていたのだ。
古代火星文明テクノロジーの最先端を保持しているネルガルの会長が持っていないわけはないだろう。

「どういうつもりだ貴様!」
たまらず聞きただす川口少尉。
それはそうだろう。ここまでおちょくられれば。
「どういう?
 無理な事はやめろっていう教えさ。」
「何!!」
「総会出席者を人質に取るような組織じゃ、天下は取れんよ。
 汝、死にたもうことなかれ・・・ってね」
言葉とは裏腹にその顔は慈愛のかけらもない狡からい笑顔だった。
別に彼らを殺しても心は痛まないだろう。

バキ!!
まるでアカツキの言葉に怒った様に天井を蹴破って2機の積尸気がホールに着地した。
「ならば貴様が死ね!」
歩兵用の銃火機がダメなら機動兵器のラピットライフルならどうだ!ということだろう。
静かに歩み寄る2機の積尸気
普通なら絶体絶命な場面だ。

だがメグミやホウメイガールズ、コウイチロウや秋山らは決して目を背けなかった。
火星の後継者らの正義にギャグで笑い飛ばしてしまえ!!
それが彼らの「私らしく」だったのだ。

「奸賊アカツキ・ナガレ、成敗!!」
積尸気の銃口がアカツキをポイントした。だが彼は少しもひるまなかった。
彼は知っていたのだ。
ここまではただ「それ」を舞台に上げるための演出だったのだ。
「それ」が現れて奴らを完膚無きまでに叩きのめすというシナリオの為の・・・。

ブワッ

「それ」は突如ボソンのキラメキをもって奴らの前に現れた。
次世代型エステバリス「アルストロメリア」が!

「何!!」
それは一瞬のことだった。
ガシ!!
右腕から飛び出したシーザースクローがあっという間に積尸気のコックピットハッチを操縦桿ごと剥ぎ取ったのだ。積尸気は為すすべもなく崩れ落ちた。

「ボソンジャンプ!新型か!」
『外はあらかた鎮圧した。大人しく投降したまえ』
「そ、その声は・・・」
川口少尉はアルストロメリアから聞こえてきた声に聞き覚えがあった。
「久しぶりだなぁ。川口少尉」
「月臣中佐!?」
月臣元一朗、川口少尉のかつての上司であった男だ。

「なぜ、中佐がネルガルなどに?」
「白鳥九十九の弔いだよ・・・」
こうして月臣はほんの少し昔の話を始めた・・・



ネルガル・月ドック


ネルガル月ドックではユーチャリスの発進準備が完了していた。
ルリとラピスはユーチャリスに乗り込もうとしていたところをエリナに呼び止められていた。
「ミスマル・ユリカがナデシコCと合流したそうよ」
「そうですか・・・」
エリナの報告にルリは然したる感慨も持たず返答した。
が、思い返したようにエリナに問いかけた。
「いい加減認めたらどうです?
 ユリカさんはテンカワ夫人ですよ。
 まぁ、アキトさんの世話をしてらっしゃる間にどういうご関係になったのか知りませんけど。」
「あ、ああああのねぇ!」
図星なのか単に免疫がないのか思いっきりどもるエリナだった。
「あ、わたし少女ですのから詳しいことはわかりませんのであしからず。」
「くぅぅ!!」
ひとしきりフクれて、エリナは趣旨返しなのか意地悪な質問を返した。

「やっぱり行くの?」
「ええ。」
「わざわざミスマル・ユリカにオモイカネへのアクセスツールまで渡しておいて?」
「保険、ですよ。
 あの艦には私達の実戦データが盛り込まれています。活用してもらわなくては困ります。」
「アクセスツールを使ってくれなければどうするの?
 復讐・・・できないわよ」
「なら、そこまでですよ。ユリカさんに任せます。
 信頼してくれるなら、私の出る幕くらいは残されてるでしょうし」
「そんな手間の込んだことをするくらいなら最初から頭下げてナデシコCに乗ればよかったのに。
 その方がよっぽど話は早かったでしょ?」
「・・・」
そこだけ押し黙るルリ。
その態度にもうちょっとだけ本音を出すエリナ。
「復讐・・・そんな俗悪な感情に囚われるなんて、昔のあなたには一番相応しくない言葉ね」
「昔は昔、今は今ですよ。それに・・・」
「それに?」
少しだけ間をおいてルリはようやく重い口を開く。

「エリナさんが言ったとおりですよ。
 私がやりたいのは復讐です。
 でもナデシコCは復讐の御旗を掲げるわけにはいきません。
 あの艦は、テンカワ・ユリカはちゃんと地球連合憲章の名の下にて草壁を逮捕し、法の裁きにかけなければいけません。」
エリナもルリの言わんとしているところは了解した。
結局、なんだかんだといってルリはユリカの立場を気遣ってるのだ。

「まったく、意地っ張りなんだから」
エリナは苦笑してつぶやく。負けじとルリも。
「エリナさんこそ、アキトさんが助かったら告白するんでしょうね?」
「な!!」
「ほっとくと奥さんのところに戻っちゃいますよ、あの人。
 ユリカさんぐらいに押しが強くないと。」
「あんたこそどうするの。しないの?告白。」
「エリナさんがしたら考えます」
「「フフフ・・・」」
フラれたもの同士の共感がそこにはあった。

「コラ!白百合・・・もといホシノ・ルリ!待ちなさい!!」
「何ですか?サリナさん」
脱兎のごとく駆け寄ってきたのはエステバリス設計のサリナ・キンジョウ・ウォンだ。
「出撃するのはかまわないけど、あたしのホワイトサレナを壊したら承知しないわよ!」
「いきなり何言い出すの、サリナ?」
「傷を付けてもだめよ!せっかくワックスがけしたんだから!」
「んな無茶な・・・」
サリナの言動にあきれようとしていたエリナだが、その口調がだんだん変わってきているのに気がついた。

「いい?あなたが直々に返しに来なさい!
 ラピスに任せてトンズラかまそうったってそうは問屋がおろさないんだからぁ・・・
 直接返却にこない限り・・・受け取ってやらないんだからぁ・・・」
既にぐしょぐしょに涙目のサリナ。
彼女も気づいているのだ。ルリがもうここには戻ってこないことを。

「善処します」
サリナの気持ちがわかったから、ルリはそれだけを答えた。
肯定でも否定でもないその言葉を。
約束などできないけれど、彼女の気持ちがわかったからその言葉を。

「ラピス、彼女のサポートをお願いね」
エリナはラピスの頭を撫でてそう言った。
「大丈夫。
 私はルリの目、ルリの手、ルリの剣、ルリの盾・・・」
ラピスは心を込めてそう言った。



再びネルガル月ドック


サリナとエリナは漆黒の闇に飛び立つユーチャリスを見送った。
「行っちゃったねぇ」
「そうね」
「「・・・」」
「帰ってくるかなぁ?」
「さあね」
「「・・・」」
「帰ってくるといいな」
「そうね」
姉妹の虚空の先を見つめていつまでも同じ言葉をつぶやいた。
それが現実になればと願いながら。
たとえそれが叶わぬ願いだと知っていても。
願わずにはおれなかった・・・・・・



火星遺跡イワト・作戦室


「当確全て取り消しだと!!」
『白鳥九十九が泣いてるぞ!』
「月臣!」
混乱の最中、事態は彼らの予想のつかない方向へ推移していた。

「ボソン反応!戦艦クラスです!!」
通信士の混乱した叫び声が聞こえた。
火星極冠遺跡直上にボース粒子のキラメキが現れた。それは徐々に戦艦の形を成している。
そう、機動戦艦ナデシコCだった・・・



なぜなにナデシコ最終回


さっそくですが、今回が最終回です。
では、今までありがとう、さようなら!

イネス「ちょっと待てぃ!勝手にしめるな!
 私のなぜなにナデシコの時間は!!」

これからラストまでそんな暇あるわけないじゃない。
じゃ、さようなら

イネス「こらーーー!」

ブチ

See you next chapter...



ポストスプリクト


ってなわけで残すはあと2話+1となりました。
ユリカが、アキトがそしてルリが(おまけにラピスが)どうなるか最後まで見守って下さい。

では!

Special Thanks!!
・みゅとす様
・SOUYA 様