アバン


かつて「守るべき正義は厳然として存在する」なんてセリフを口にして
自分を追い詰めまくったあげぐ、自爆しちゃった提督さんがいましたが、
所詮は正義なんて現実との接点を見つけて妥協することなのかもしれません。

それが嫌で彼らは「新たなる秩序」なるものにしがみついているんでしょうが・・・

でも、それってただの言い訳をしているだけに過ぎないと思うんですけど・・・
どう思われます?皆さん



連合宇宙軍官舎


北辰がボソンジャンプした時より時間は数時間ほど遡る。

「ハーリー君いいからいいから!」
「ダメです!これでも僕は男性ですよ!」
「何言ってるの、あそこの毛も生え揃ってない子供が。」
「な、何言ってるんですか!!!」
ちなみにユリカがハーリーを銭湯に誘っているのであって、ラブホテルに連れ込んでるわけじゃないのであしからず。



同・銭湯


かこーん

官舎内に浴槽があるのは良いとして、なぜ80年代の銭湯なのだろう?
「フンフンフン」
シャンプーを泡立ててハーリーの髪の毛をルンルンで洗うユリカ。
ハーリーは恥ずかしさのあまり縮こまりながらユリカにいい様にされてされていた。
恥ずかしさに堪えかねたのか、ハーリーはふと思っていた疑問を口にした。

「ねぇ、艦長。ルリさんってどんな人だったんですか?」
「え?」
「ミナトさんに聞いたんですけど、僕と同じ境遇だったそうですねぇ。一緒に暮らしてらっしゃったそうですけど、お亡くなりになったって・・・」

ユリカの脳裏にフラッシュバックする。
アマテラスで白い機動兵器に身を包んだルリ。
併走する電車に白いマントに身を包んで乗っていたホシノ・ルリ。
そこに昔の、三人で暮らしていた頃の微笑んでいたホシノ・ルリの姿が重なるようで重ならない。

ホシノ・ルリ・・・地球にきている

「もしかして艦長が僕に優しくしてくれるのって・・・」
ハーリーが不安そうに尋ねたが、ユリカは笑顔で即座に否定した。
「違うよ、ルリちゃんは確かに大事な家族だったけど、ハーリー君はその代わりってわけじゃないよ」
「でも・・・」
「サブロウタさん、ハーリー君。今の私の大事な仲間。
 代わりでも思い出と重ね合わせてるわけでもないよ。
 それに私にはハーリー君を一人前の艦長さんにする責任もあるし」
ユリカは微笑んで答えた。
「えー。僕そんなに頼りないですか〜!」
「うん!」
「とほほ・・・」
即答するユリカに結構傷ついたハーリー

「ま、でも私もあんまり良い艦長じゃないから偉そうにも言えないけど」
「そんな、艦長は立派です。僕も艦長みたいになりたいです」
「大丈夫、ハーリー君なら。そのうちなれるよ」
「でも僕は今すぐ艦長の役に立ちたいんです」
「焦っちゃダメダメ!
 昔の偉い人の言葉にあるでしょ?
 『天才とは1%のヒラメキと99%の努力である』って」
「それって『天才』じゃなく『発明』の間違いじゃ・・・」
「同じ同じ、艦隊指揮は豊富な経験に裏打ちされた素早く的確な判断が重要なの。ハーリー君は今その経験を貯えている最中なの。だからじっくりやらなきゃ」
そう言ってハーリーの髪のシャンプーをお湯で濯いでやった。

だから、彼女の呟きは彼に聞こえなかったかもしれない。
『私が教えてあげられるのはここまでかもしれないけど・・・』



BAR花目子


「明日は宇宙の星となる〜〜」
イズミママ送別会、観客も帰ってしまった会場でイズミの独演会はまだ続いていた。
・・・中継を待っててくれなくても良かったのに・・・



Nadesico Princess of White(Auther's Remix ver.)

Chapter10 『決戦前夜』の過ごし方



ゲームセンター・タコ


『フルーツバスケット!!』
「だぁぁぁぁ!!」
リョーコの叫び声と同時にGAME OVERの文字が画面に刻まれた。
リョーコとヒカルは『ラブラブ熱血大作戦』という名前だけ聞くと何のゲームかわからない格闘ゲームをやっていた。
「やりぃ!」
「もう一回、もう一回!」
「はいはい。何度でも。
 力押しばかりのごりごりリョーコなんて、楽勝だもんね」
「うるさい、行くぞコンチクショウ!」
「はいはい」

賑やかし達の後ろでゴートとプロスが彼女たちの『訓練』なるものを鑑賞していた。
「いいのですか?これで」
「ええ、如何なヒカルさんでも2年のブランクは長い。
 短期間で効果的且つ実戦的な体感シミュレーションとしてこのゲームはまさに最適!」
プロスは自慢げに説明する。

って本当か?ただゲームを楽しんでいるとしか思えないのだが・・・

「現役軍人の力を見せてやるからな!!」
「はいはい」
「おらおらおらおらおらおら!!!」
『ライチェルリング』
「あ!!」
「単純な連打は防御されると相手の熱血ゲージを貯めさせてあげるだけだよん」
ナチュラルリングに絡め取られたゲキガンガーが身動きを取れないうちにバトンを回して必殺技の体制に入るライチ。
『ライチライチェルピカピカアタック!』
「あぁぁぁぁ!!」
「はいはい、後がないよ〜」
大幅にダメージを減らしたリョーコは呆然とし、ヒカルは大喜び。
「くっそぉ!!」
「はぁ、また力押しですか〜〜」
ますますムキになるリョーコに、してやったりのヒカル。どちらかと言えばヒカルは攻めさせてそれをいなすのが得意なタイプだろう。
『ライチライチェル流星キック!!』
「がはぁぁぁ!」
最後にアッパーが入る6Hitコンボであった。

その様子を後ろで見ていたゴートはしきりに感心していた。
「しかし、ヒカル君はすごいですね。」
「いやいや、あれでも昔の6割。
 あの化け物達と対等に戦ってもらわないと・・・」
さすがにスカウトとしてのプロスの採点は厳しい。
「ところで奴らの動向は掴めましたか?」
プロスの顔が『スカウト』から『スペクター』に変わる。
「いえ、ただ奴らが地球に来ている事だけは確かです。目的は・・・」
「妖精・・・ですか」
プロスは難しい顔をしてゴートの報告に感想をもらした。

ポロン〜〜

ウクレレの音、ということは・・・
「おお、これで揃い踏みですかな!」
そのプロスの言葉に全員入り口を見やる。そこには案の定、一人の人物がいた。
「ブランク・・・永井です。」
あいかわらず、寒いギャグを飛ばすマキ・イズミがそこにいた。

「ギャグはいいから一人でそんな所突っ立ってないで入ってこいよ」
さすがに付き合いが長いのか、凍りついた中から一番復帰の早かったリョーコがイズミに呼びかけた。
「あ、一人じゃないよ」
「へ?」
「ち〜っす!!」
「ああ!ロン毛二号!!」
「そりゃないっすよ、中尉・・・」
その場に現れたのはロン・・・いや、タカスギ・サブロウタ大尉その人だった。

「てめぇ、よくもノコノコ!!」
リョーコはサブロウタに恨みを持っていた。例のアマテラスの件もあるが、その後何度もナンパされていたからだ。
「いやいや、俺は呼ばれて・・・」
「誰に!!」
「私ですよ」
声をかけたのはプロスペクター。懐からあるディスクを取り出して見せた。
「これを皆さんに見てもらいたくてお呼びしたんですよ」
「「「「は!?」」」」
プロスの声は不敵に笑っていた。



なぜなにナデシコ・夜天光編


こんにちは、白百合です。
本日は夜桜中継です。え?ここはどこかって?
正解はCMの後で・・・冗談です。答えは後程。

さて、アキトさんや私がさんざん苦しめられた夜天光についてご説明しましょう。
夜天光の系譜を遡るとジンタイプにまで行き着きます。
なぜ?とお思いでしょうが、木連時代の彼らには機動兵器の小型化を行うだけの技術力がありませんでした。大戦の中期には絶大な威力を誇っていたジンタイプですが、結局はエステバリスの機動性に追いつけず陳腐化していきました。
彼らもサイズのコンパクト化の必要性を痛感したようです。

そこで欲したのが地球の技術。
クリムゾングループと手を組むことで彼らは互いの弱点を補いあいました。
火星の後継者達は小型人型機動兵器のノウハウを、クリムゾングループはバッタ用の小型エンジンを得ることが出来ました。
こうして開発されたのがステルンクーゲルと夜天光です。

さて、夜天光はジンタイプをダウンサイジングしたものですが、その為に犠牲になったものがあります。そうエンジンです。
ジンタイプで相転移エンジンを搭載していましたのでジャンプし放題だったのですが、小型化のために使用したバッタのエンジンではいくら改良しようとジンタイプの様にはいきませんでした。
エステバリスが機動性のためにエンジンをオミットしたぐらいです。ましてや彼らの目標がジャンプできる機動兵器であることを考慮するとそれでもエネルギー総量は足りないくらいです。

そこで妥協案として、推進手段として従来の重力慣性航行からガスバーニア推進方式へと切り替えました。この方式は瞬発的な機動性を得られエネルギー消費が必要ない分、搭載できる推進剤が有限のため航続距離が大幅に短くなってしまうという欠点を孕んでいました。
しかしそこは発想の転換で、元々ジャンプによる奇襲戦専用機なら航続距離など考慮しなくてもよかったのです。
こうしてボソンジャンプでの奇襲による接近戦のみを徹底的に追及していった夜天光はその操縦者の使う技と相まって一時期は無敵とまでいわれました。

なお、北辰達の使う技の詳しい説明は元木連の方が説明されますのでそちらで。
では、また。



再びゲームセンター・タコ


一同は固唾をのんでプロスの持ってきたディスクを観賞していた。
一人リョーコだけが苦々しくそれを見つめていた。
無理もない。それは彼女の屈辱の記録なのだから。
「は・・・すごいねぇ」
「リョーコが子供扱い」
プロスの持ってきたLDに記録されていた映像、それはアマテラス戦の時にリョーコのエステバリスのオペレーションレコーダーが記録した映像だからだ。
つまり夜天光との戦闘の記録であった。

「こりゃ、傀儡舞じゃないか」
硬直から解けて第一声を上げたのは意外にサブロウタだった。
「おい、知ってるのか!ロン毛二号!」
「せめてサブって呼んでもらえます?」
「んなぁ事はどうでもいいんだ!教えろ、あれは何だ!」
「木連式柔術偽伝『傀儡舞』、あまりにも暗殺目的に多用されたために皆伝からも抹消された技ですよ。今時こんなもの使えるやつなんてそれこそ・・・」

暗殺者しかいないだろう、と皆が心の中で言葉を継いだ。

「舞自身はよく見ればわかるように、相手が照準を合わせた瞬間、体の軸を相手に向けて有効面積を狭めつつ、その勢いのまま回転運動を利用して照準を定めさせないようにし、その隙に敵の視野外に逃れる。そして回転力を利用して相手に裏拳なり回し蹴りなりを入れる技なんです。
 射撃で落とすのは難しくとも冷静に対処しさえすればさほど怖いことはないんっすよ。
 ま、それは一対一の場合の話で・・・」
そういってサブロウタはディスクの頭出しをする。
ちょうどリョーコが三機の六連にやられるところだ。
何もそんなシーンを、と舌打ちするリョーコをよそにサブロウタはそこをスローモーションにした。

「こいつの怖いところは完璧な連係による一対多の波状攻撃にあるんですよ。」
といってサブロウタはその地点を指差す。
ちょうど一番最初の六連がリョーコ機にアタックをかける所だ。
「ここで中尉は一機目の舞になまじ反応できてしまっているが為に、その注意のそれた死角から二機目の舞に入られています。さらに慌ててそいつに注意がいったところに別の奴が次に出来た死角から攻撃をし・・・と繰り返され翻弄されてしまうんですよ」
スロー映像にはサブロウタの指摘通りに翻弄されているリョーコのエステバリスの姿が映っていた。
「エステでこんな動きは出来はしません。敵の機動兵器の性能でしょう。
 この舞を指揮している赤い奴を倒せればいいんですが、こうも完璧に統制されていると舞を崩すのは難しそうですね」
サブロウタは忌々しそうに感想を述べた。

「やっかいだな、これは」
「まぁ、そのためにタカスギ大尉をお呼びしたわけですし」
「ねぇ、どうする?これ」
「くぐつ舞ならぬてんてこ舞い・・・」
ゴートにプロス、ヒカルにイズミが口々に感想を漏らす。

「ま、とりあえずは舞のタイミングを教えましょう。後は連携されないように各個撃破できるようなフォーメーションを考えましょう」
少ない日数でどこまで出来るかわからないが・・・とサブロウタは心の中だけでつぶやいた。

「こら、んなとこ触るな!」
「不可抗力、不可抗力!」
「いいじゃないのよ。大きくなるよ、胸。」
「おお、むね、リョーコー、なんちって」
こうしてそのゲームセンターから一晩中、罵声と歓声と寒いギャグと軟派な声が響いたそうな。



元テンカワ・アキト宅前


ルリとラピスは今は誰も住んでいないテンカワ・アキトのアパートの前に立っていた。
まるでそこだけ時間が止まったような感のある場所
それは単に古びたオンボロアパートであるというだけの事ではないようだ。
そこに佇む者が時の流れを進める事を拒絶しているかのようであった。

「白百合」
「師範ですか・・・」
ルリが振り返ると後ろには月臣元一朗が立っていた。
彼女はそれだけ確認するとすぐに視線を元に戻した。その先にあるのはアキトのアパート。
ルリとアキトとユリカがかつて共に暮らした場所。
彼女は視線をアパートに向けたまま、月臣に尋ねた。
「噂、ばらまいておいてくれましたか?」
「ああ、でもなぜわざわざミスマルの娘と同じ時間を?」
「・・・」
「まぁ、こちらとしては北辰を捕縛する良い機会だが・・・」
「なら、それでいいじゃないですか」
月臣の疑問にも有無を言わせぬルリの返答。
それっきり無言の二人。

やっと重い口を開いたのはやはり月臣の方からだった。
「済まなかったな、邪魔をして」
「いえ、報告ありがとうございました」

月臣はそれ以上何も言わずに、来たときと同じようにまた闇に消えていった。
彼は知っていたのだ。
過去との決別・・・それが時には過去の思い出に浸ることでしかできないことを

「姉さん・・・」
「ごめん、後10分ほど待って、10分でいいの。目に焼き付けておきたいから」
「わかった」
二人の少女はただその場で立ちすくむだけであった・・・



地球連合宇宙軍官舎・テンカワ・ユリカの自室


ユリカとハーリーは二人仲良く腰に手を当てて、湯上がりのフルーツ牛乳を一気飲みしていた。
「ぷはぁ!やっぱりお風呂の後はこれよね!」
「はい!」
「さて・・・」
と、ここまでスチャラカ調だったユリカが急に表情を引き締めてハーリーに向かい合った。

「マキビ・ハーリー少尉、あなたに特別任務を与えます」
「はい!」
「明朝8時、長距離ボソンジャンプにてネルガル月工場へ直行、ナデシコCの最終調整を行って下さい。」
「月ですか?チューリップは使えませんよ?」
「シャトルでの移動は敵に狙われる可能性があります。A級ジャンパーによるジャンプが一番安全です。」
「ジャンパー・・・艦長がナビゲートして下さるんですよね?」
ユリカと一緒に月にいけることを期待していたハーリー、だがユリカの言い淀んだ声がそれを否定した。

「私じゃありません。他の方がして下さるそうです」
「そんなぁ!どうしてです?」
先程シャトルが危ないと言ったのはユリカである。ハーリーが慌てるのも無理はない。
「イネスさんのお墓参りもありますし、他のクルーの方をナデシコCまで安全にエスコートする義務もあります。
 最悪でも貴方さえナデシコCに合流できれば作戦は続行できます。
 私に何かあったら作戦実行は貴方に任せます。」
「そんな不吉な事言わないで下さい!!一緒に行きましょうよ!!」
「しっかりしなきゃダメですよ。貴方が今回の作戦の要なんですから。それに・・・」
「それに、なんです?」
ユリカの寂しげな口調を察したハーリーだがどうしても理由が聞きたかった。

「今の私は正確なナビゲートをする自信がありません。
 あの人のそばに跳んでしまうかもしれません」
「あ・・・」
今のユリカではアキトのところに行きたい気持ちが先走ってジャンプポイントを狂わしかねない。

「・・・わかりました。その代わり、絶対月で再会するって約束して下さいね。」
といってハーリーは小指を差し出した。ユリカも同じように指を出して指切りをする。
「「指きりげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます。指切った!」」

寄り添うように同じベットで眠る二人
「・・・白いお姫様・・・あなたは一体・・・」
天井を見つめながらユリカはかつての娘のことに思いを馳せた。

こうして決戦前日の夜はふけていく・・・

See you next chapter...



ポストスプリクト


と言うわけで今回はあってもおかしくないエピソードがいろいろ入っております。
が、それだけで1話出来てしまいそうなネタばかりなので蛋白にまとめていますが
まとめすぎて面白みがないかも・・・

次回はあのお墓のシーン!!
ルリとユリカの対決(?)のシーンをご期待下さい。

では

Special Thanks!!
・みゅとす様
・SOUYA 様
・AKF-11 様