アバン


 星の数ほど可能性があり、星の数ほど結果がある。
たとえ、それが歴史に然したる影響を与えなくとも、人にとっての真実は結果の数だけ存在する。
だからこれも一つの可能性・・・



秩父山中のとある墓地


 セミの声もうるさい初夏の日差しの中、飛行機雲が存在感を示すほど空は晴れ渡っていた。
そんな墓地の片隅に、まだ真新しい墓石に遺影が二つ、そしてそこを訪れた女性があった。
墓の前で焼香をすませた女性が名残惜しそうに静かに立ち上がった。

「じゃ、行くね。アキト」
 その顔を見られるのがつらいから、彼女は3回忌に一人で来たのだ。他の者も彼女に気を利かせて時間をずらしている。その気づかいが嬉しくもあり、申し訳がなかった。

「ルリちゃんと仲良くやっている?アキト」
切なげに呻く女性、テンカワ・ユリカであった。ユリカのその問いに答える様に、テンカワ・アキトとホシノ・ルリの遺影はただ微笑むのみであった・・・



ターミナルコロニー「シラヒメ」宙域


 それは突如現れた。
ボース粒子の増大を伝えるオペレータの声にあわてて反応するシラヒメの防衛戦だが、それよりも速く白き翼を持つ者は彼らを強襲した。

「第1、第2防衛ライン、突破されました!」
「レッドラインへの応援急げ!」
「間に合いません!」
「敵機動兵器来ます!」
シラヒメの護衛艦隊はパニック寸前だった。


ターミナルコロニー「シラヒメ」秘密区画


 シラヒメの極秘ブロック、そこにも騒ぎは伝わっていた。だから彼らが来たのだ。人の道を外れたる外道達が。
「我々がいなければ研究が・・・」
「男一人落とせぬ戯けが、証拠隠滅だ」
彼らは何のためらいもなく研究者たちを射殺した。それらがただ別の用事のついでのような気軽さで。
ただそれらは唯の装飾、その地を白き翼を持つ者を迎えるための炎の舞台として演出する為の、あるいはかの者の努力をあざ笑うための為に・・・

「遅かりし復讐人、未熟者め」
白き翼を持つ機動兵器も舞台に現れたが、一瞬遅かった。その者が求めたるモノは既にこの場にはない。
「滅!!」
その言葉とともにコロニー中心部が爆発し、連鎖的にすべてのブロックが炎上した。


戦艦アマリリス・ブリッジ


付近を哨戒航行をしていた連合宇宙軍所属戦艦アマリリスの艦橋にはシラヒメからの錯綜した情報の渦で混乱していた。
「シラヒメ、シラヒメ応答願います!」
「電波障害の為、繋がりません!」
「周囲への警戒を続けつつ、負傷者の救助を最優先で当たれ!」
アマリリス艦長アオイ・ジュン中佐の指示が飛ぶが、浮き足立つクルーを押さえるのに手一杯だった。

「左舷、ボース粒子増大!」
「あれは・・・何だ!?」
オペレータの一人が慌てるように叫ぶ。ジュンもそちらに注視したがその結果を見て驚きを隠せなかった。
スクリーンに投影された「それ」はまるで白い翼を広げた天使のようであった。



Nadesico Princess of White(Auther's Remix ver.)

Chapter1 ナデシコB



統合政府査問会室


シラヒメを含めたヒサゴプランの拠点襲撃事件の調査委員会の公聴会にアオイ・ジュンは呼ばれた。シラヒメの襲撃の際の報告が表向きの用件だが、何のことはない幽霊ロボットの噂を流布したとして吊し上げる為だった。
「誤認だというのですか!」
「そうだ」
「付近のセンサーの乱れ著しいとあるが」
ジュンはまるで問いあわない調査委員達に声をあげた。
「間違いありません。あれはボソンジャンプです。」
「第一、全高8メートルのジャンプするロボットなど今の技術では作れないのだ」
自分に都合の悪いことは事実ではない、彼らは暗にそういっていた。


連合宇宙軍幕僚室


ドス!!

気持ちのいい音がして壁にヒビが入る。決して安普請ではないはずだが。
「はなっからあいつらやる気がないんだ!」
「いかんよ、モノに当たっちゃ」
壁に怒りをぶつけるジュンをなだめるムネタケ参謀、発言の内容を問題にしていないところが彼らしい。

「かくて政府と統合軍の合同捜査とあいなり、宇宙軍は蚊帳の外」
「参謀!」
「黙って見ている手はないからね、早速いってもらったよ、ナデシコに」
「ユリカに?」
悪戯っ子のように笑むムネタケにジュンは一抹の不安を隠し切れなかった。



連合宇宙軍所属試験戦艦ナデシコB・ブリッジ


「みなさん!わたしがナデシコBの艦長テンカワ・ユリカです。
 ブイ!!」

「艦長、誰にブイサインを送っているんですか?」
「読者の皆さん」
ユリカのあまりの言葉にハーリーは言葉を失うしかなかった・・・


なぜなにナデシコ・ナデシコB編


 皆さん、こんにちは、お姉さん役の白百合(ペンネーム)です。
あの説明おばさんではありません。これでも少女ですから。

 さて、このナデシコBですが、これが結構曰く付きの船であったりします。

 木連との戦争が終わって早3年、地球側の非主流と木連が作った統合軍ですが、結果的にはこちらが主流なってしまい連合宇宙軍は一定期間をおいて統合軍に吸収の予定となっております。
そんでもって統合軍も過去のいきさつからネルガル製の戦艦やらの採用を嫌い、ネルガル重工は一気に斜陽の一途をたどる道へ。

 そこでネルガルが打ち出したのがワンマンオペレーション構想、まぁ下手に数そろえるより優秀なコンピュータとオペレータと戦艦で十分というのがその意味です。
技術力のネルガル、という自負もあったのでしょうが、実際は規模縮小中の連合宇宙軍にしか相手にしてもらえなかったという揶揄があるのですが、どれが本当やら。

 ともかく、その構想を元に建造されたのが次世代ナデシコ級戦艦ナデシコBです。初代ナデシコを現在の技術でブラッシュアップしつつオモイカネ級コンピュータによる全制御システムを搭載した最新艦です。
あえて初代ナデシコの姿と名前を付けるところにネルガルのあざとさを感じますね。

 惜しむらくは、前任の天才美少女オペレータのホシノ・ルリを不慮の事故で失ったために後任に新人のマキビ・ハリ中尉を充てざるを得なかったことにあります。彼女が存命ならそのまま艦長に推挙しても問題なく、ワンマンオペレーション構想も完璧なモノになったでしょうが・・・

 そんなわけで彼を一人前の艦長に教育すべく艦長と副長として配属されたのがテンカワ・ユリカ大佐とタカスギ・サブロウタ大尉です。
ともにミスマル総司令と秋山少将の推薦という話ですが・・・
なんか人選を誤ってません?

 ともかく、艦隊指揮の天才テンカワ・ユリカと元木連優人部隊ナンバー3のタカスギ大尉、をあのナデシコの名を与えたところに、ネルガルと連合宇宙軍の熱意が感じられます。

 もっとも武装はグラビディブラスト1門のみ、機動兵器はスーパーエステバリス・タカスギ機のみなので戦力としては程々です。まぁ、この平和なご時世に斜陽の連合宇宙軍のしかも試験戦艦が重装備をしてどうするということもあるのですが。

 ちなみにブリッジでのシートの順番ですが、中央はマキビ少尉、向かって右がテンカワ大佐、左がタカスギ大尉です。本来艦長席は中央なのですがナデシコBのシステム上、そこがオペレータシートになってしまうので仕方のないところではありますが。

 それでは、今回はここまで

 え?私は誰かって?
それはそのうちに・・・


再びナデシコB


「あっ、そうですか・・・」
「もう、ハーリー君もノリが悪いわねぇ」
ユリカは頬を膨らませて怒ったが、そう言われてもハーリーは困ってしまう。

ナデシコBのオペレータ、マキビ・ハリは憂鬱だった。

『サブちゃん!』
『最近ご無沙汰じゃない』
『たまには店に顔を出してね』
『ツケ払えよ!』
『こら、サブ!どうして連絡くれないの!他の女とイチャイチャしてたら許さないんだから!』

「以上、留守番電話サービスでした。」

 艦長はいきなり在らぬ方向にブイサインして自己紹介をし、副長のタカスギ大尉は女性ばかりの留守録を見てニヤついている。これが前任者なら「バカばっか」と冷淡につぶやくのだろうが、彼の場合は11歳という年相応の反応をするのみである。

「もてるんですね、サブロウタさん」
「みてたの?」
「見たくなくても見えるでしょう」
すっとぼける様にいうサブロウタにあきれるハーリー。

 ハーリーには信じられなかった。この人がかつての木連屈指のパイロットとは。
実際、ナデシコBでも戦闘らしきモノは幾つかあった。だが、機動兵器を出すほどのこともなかった。確かに見かけによらず世話好きの頼れる人なのだが、そのちゃらちゃらした外見とへらへらした表情から想像できなかった。

「木連の軍人さんはもっとまじめで勇ましい人だとばかりだと思ってましたが」
「そりゃどうも」
「タカスギ大尉!!」
そのうちハーリーにもわかるかもしれない。へらへら笑ってすませられるうちに事態を素早く収束させるのがどれほど大変なことか。

「いいなぁ、サブロウタさん。ユリカもハーリー君と仲良くしたいのに・・・」
指をくわえて二人のやりとりを見ているところがユリカらしい。

 ちなみに、ハーリーはユリカに対してはほとんどつっこまない。
年上の女性に憧れる・・・というよりもつっこむと十倍にしてかわいがられる(もてあそばれるともいう)のが苦手なのだ。思春期の、女性そのものに興味を抱くにはまだちょっと若かった。

「前方にターミナルコロニータキリを確認」
女性オペレータからの報告が入る。

「ハーリー君はタキリの管制にコネクト、サブロウタさんは艦内のジャンプ体制指揮とナビゲーションをよろしく」
ユリカの指揮はそれだけだった。後は彼らにお任せである。

 ナデシコBでのユリカは必要最小限以外のことはほとんど指揮をしていない。元々ハーリーの教育目的とはいえ、旧ナデシコクルーから見れば拍子抜けするだろう。
それを夫の死から立ち直っていないと見るか、所詮は試験戦艦を動かす為に大佐の階級が必要なだけだからと割り切っているのか、人の見方はそれぞれである。

「センターへコネクト、アカウントセッション開始、アカウント送信、所属:連合宇宙軍、艦名:ナデシコB、キャプテン:テンカワ・ミスマル・ユリカ」
「ディストーションフィールド出力上昇。総員、所定の耐ショックシートへ」
「アカウント認証セッション完了、続いてルート選定セッション開始、目的地はアマテラス」
『着席完了!』
「総員、耐ショック準備完了、各ブロック閉鎖」
「リザルトはアサート、ゲートイン時刻とルート来ました。ゲートインは即時OKです」
「光学障壁展開、ディストーションフィールド出力順調!」
『ブロック閉鎖まだ!あ、終わった』
ハーリーとサブロウタがテキパキとジャンプの指示を出す。各部署からオモイカネを通じて結果が帰ってくる。

「ルート確認します。タキリ、サヨリ、タギツを通ってアマテラスへ。艦長、アサートしますか?」
「やっちゃってください」
ハーリーはユリカに確認を求めた。ゲート使用の最終承認だけは艦長の許可が必要だ。それだけヒサゴプランが一部の階層にしか使用できないことを意味している。

「ルート選定セッション完了、跳躍セッション開始、ゲート開きます」
「ディストーションフィールド出力最大」
「センターより跳躍オールグリーン。タカスギ大尉、ルート送ります、ナビゲーションよろしく!」
「ルート了解、その他まとめてオールOK!」
『よくできました』
オモイカネのお許しが出たところでナデシコBはゲートに進入する。

「フェルミオン=ボソン変換順調」
「艦内異常なし、イメージング順調」
「レベル上昇6,7,8,9」
「ジャンプ」
ナデシコBはボソンのキラメキに包まれていった。サブロウタがジャンプをイメージした瞬間、ナデシコBは跳躍した。



ターミナルコロニー「アマテラス」


 ナデシコBは遙か遠く、ターミナルコロニー「アマテラス」のゲートにその雄志を現した。

「はい、到着!」
「跳躍完了、跳躍セッション終了通知、全セッション終了しました」
「サブロウタさん、お疲れさま」
「なんの」
何回やってもポゾンジャンプの瞬間は緊張する。生体ジャンプのできるユリカでさえそうなのだから、他の者はいうまでもない。

『ようこそアマテラスへ』
アマテラスの管制よりお決まりのCGによるウェルカムメッセージが届く。
「あ、マユミお姉さんになっている♪」
ユリカは密かに喜んだ。ユリカが前に来たときはヒサゴンだった。

「ハーリー君、ちゃっちゃと車庫入れの手続きお願い」
「はい、こちらは連合宇宙軍第4艦隊所属、試験戦艦ナデシコB、アマテラスへの誘導お願いします。」
『了解』
「さって、これからが大変だ」
「サブロウタさん!!」
スチャラカ調のサブロウタにまたも腹をたてるハーリー、それを物欲しそうに見るユリカ。
さてはて、こんなメンバーが反ナデシコの巣窟のようなヒサゴプランの中枢に乗り込んで本当に大丈夫なのだろうか?

「あ、お姉さん、車庫入れお任せします」
「サブロウタさん!あなたは女性ならCGにまで手を出すつもりですか!!」
「まぁまぁ」

大丈夫・・・だよね?

See you next chapter...



ポストスプリクト


 さて、このお話、劇場版のストーリーにてアキトとユリカとルリの立場がそれぞれずれていたら?という発想の元に生まれました。
彼らの立場が変わること以外からの劇場版からの大きな違いはありません。
違わないところはかっ飛ばすかもしれませんがご了承を。
従ってどちらかというと立場が変わることによるシチュエーションを楽しんでいただけると幸いです。

最後に残りの二名の役割は・・・次のチャプターをお楽しみに
では。