■タイトル:天使の過去 時をさかのぼって
■Note:
クライマックスシリーズ第4弾なのですが、ストーリーの内容をいろいろ盛り込んでいます(笑)
16色という少ない色ですべてを盛り込むのは辛く、色がかなり偏るのはご容赦を。
さてさて後ろのシルエットが三匹の妖魔・・・ってこのシリーズでは出てこないのですが、次章の「天の御劔編」で登場する敵キャラですが、こんなところでも伏線張っておくなんて・・・
私って根っからのストーリー好きなんですねぇ(苦笑)
あと時間に関する考察はやはりPrincess of Whiteや黒プリの元になっていたりします。
こんな頃からつらつらと考えていたりするんですねぇ(苦笑)
■投稿時のドキュメント
なるべく当時のまま収録します。
1.それぞれの戦い方
空磨が悪夢との闘いを始めると、ルカもエターナのトラウマを取り除く為に彼女の過去に飛び込もうとしていた。
『今なら出来るかもしれない。ここにいるのは『あたし』、庭の角で膝を抱えていたいつかの日のあたしなのだから。』
ルカは静かに精神を集中し始めた。いつか母が語ってくれた言葉を思い出す。
『耳を澄ましているだけでは何も聞こえませんよ。貴方が語りかければ、貴方が彼らを必要と願えば彼らは必ず語りかえしてくれます。』
今ならわかる。あのころの自分は必死に時の声を聞く事だけに気を奪われていた。違うのだ、語りかけなければ誰も答えはしないのだ。
『時の意志達よ、我は汝等の主にして盟友なりし。我が銘、ルカ・ラル・レスティーの名において過ぎ去りし時の門よ 我が前に開けよ』
それは時の意志達にだけ聞こえる言葉で語られた。
やがて魂に霊子のみを纏ったルカはゆっくりと自らの肉体から離れていった。霊子になった彼女にはエターナという人間の過去へ続く道を時の意志達が指し示しているのが見えた。
『行ってくるからね 空磨……』
ルカは時間の海へと潜っていった。
「どうやらルカは無事過去へと旅立ったようだな。」紫嵐は言った。
「過去なんて本当に変えられるのか?」水城がつぶやく。
「別に変える必要なんかないんじゃないか?」
「え?」
「それより俺達にはやる事がある。ルカの肉体を守る事だ。”悪夢”は仮にも悪魔の端くれだ。まともな闘いになるはずがない。」
「紫嵐、なにがいいたい?」水城は不満気に言う。
「これからみんなで守りに徹する。”悪夢”なら空磨との闘いの片手間で俺達を攻撃するくらいわけない。」
「そのみんなってのが気に入らないな。何でこんな奴等と一緒に……。」
「その台詞はそのカスみたいな力が満タンのときにいってくれ。」
むくれる水城をよそに紫嵐はこの場にいる人間を最大限に利用する方法を考えた。
「水城は物理攻撃を、リズリーは呪法系を防いでください。イレギュラーは俺が掃討する。」
「私も……。」姫も重い体を引きずりながら言った。
「あなたはいいです。二人についていてください。」
「しかし……。」
「これは貴方の闘いでもあるのですよ。エターナを……もう一人の貴方を”虚無”から引き戻す為の……。」
自分のすべき事を諭された姫はただ強くエターナの手を握るのだった。
『あの”混沌”すら退けた気の支配者 天武の継ぎよ。
何故おまえは我々を拒む?
まさかお前達が神と呼ぶもの”G”がそれ程素晴らしいのか?』
悪夢は空磨に尋ねる。
「別にそんなものに興味はない。自分のやりたい事があるなら二本の腕で出来るし、神頼みなんてしたいとも思わない。俺がお前達を嫌いなのはお前達が人の神経を逆撫でることしかしないからさ。」
『なるほど、ならば私を実力で排除するつもりですね。』
「あぁ!!」
それが合図となって二人の戦いは開始された。力試しといわんばかりの
悪夢に対して空磨のほうはかなり全力に近い飛ばし方である。それは数度打ち合っただけで誰の目にも明らかだった。
『まさかこれが貴方の全力ですか?』悪夢は微笑む。
「まさか、俺は後から調子が上がっていくタイプなんだよ。」
『しかし、わたしはそれ程待つ気はないんですよ。』
そう言って悪夢は空磨の相手をする片手間で水城達を狙い撃ちした。
「は、外れた。」響は安堵の声を漏らすがすぐに紫嵐が否定した。
「いや、わざと外したんだ。空磨に動揺を誘う為に。」
「ぐずぐずしてられないな」
「あぁ! 響、戦いの歌(バトルソング)を!」
音の支配者のその本来の力を発揮する戦いの歌は戦意を鼓舞し、疲労感を癒し、集中力を増すという。
『信じよ、己が力を 信じよ、己が友を 信じよ、己が武運を』
「水竜防壁陣!!」
『立ち向かえ、自らの運命に 勝ち取れ、自らの運命を』
「呪法反折鏡!!」
「いでよ、シルファ!そして我等を守護せよ」
『立ち上がれ!自分自身を越えるんだ!!』
紫嵐達は響の戦いの歌で使い果たした力の総てを引きずり出し、悪夢の攻撃からルカとエターナを守ろうとした。
「やっぱり、俺はお前達が嫌いだよ。」
『それじゃ、早く貴方の言う本気とやらを出すのですね。』
「言われなくても!!」
エターナから放たれる”虚無”の闇の気は膨らむ一方だった。
『急げよ、ルカ』そう願いながら空磨は渾身の一撃を悪夢に叩きこんだ。
2.天使の過去 ……時をさかのぼって……
いつからだろう……ふと黙り込むことが多くなったのは……
「年齢の割には早熟な子供だ」ルカはそう思った。
10才のエターナ、まだ闇に汚れる前の彼女……いや、その芽はこのころにはあったかもしれない。
そんなことないよね、
ふと気が付くと周りの人達がどこか冷たい視線を向けるのを感じることがある。
いつも私に微笑みかけているあの人達が……。
「天才の名を冠するに相応しい少女、三十路を越えた人間がようやく手にする経験や知恵をその少女は既に身に付けてしまっている。ある種の人間には妬みや恐れを抱かせるのに足るだけの才能を……。」
私が何かした?何でそんなに私を敵を見るみたいな目で見るの?
にこにこ笑い、私に忠誠をつくすと言いながら……。
「聡い子には辛いかもしれない。周りはほとんど大人だ、しのぎを削り自らの地位と名誉をあげようとなりふりかまわず取り入ろうとする。
純粋であればあるほどその行為は自分をなめ回すような嫌悪感を抱くだろう。」
誰もが私を化け物のように眺めている……気のせいだよね。
『……誰もおまえを愛しはしないよ……』
まただ、また”あの声”が私に語りかける。
そんなこと信じたくないのに……
唯一、あの子と遊ぶ時だけ忘れられた。
いつも宮廷の木下に遊びに来て夢のあるおとぎ話しをしてくれる子、
その子の見せてくれる夢だけが大人達の嫌らしい目つきを忘れさせてくれた……。
「あれは……絵夢の子供のころか?それにしても絵夢とあった後のエターナの差が激しいな。光強ければ闇もまた強くなると言うが……
絵夢と会う時の純粋さの反動が大人に囲まれている時にあらわれている。」
こそこそ……。大人達がささやくのが聞こえる。
貴方達は私は気がついていないと思っているのだろうか?
よく聞こえるよ。貴方達がもう一人の”わたし”の噂をしているのを。
私のかわりに”わたし”を誉めているのが……
「くそ、どこの宮廷も大して変わらないとは思っていたが、光の族は腐っている! 気力がなく、人に頼りっきりで、そのくせすぐに妬み、自分の保身を願う。あいつの母親はなにをしていたんだ!?」
聞こえているのよ。貴方達が私を退けて、もう一人の”わたし”を奉ろうとしているのを。
私が闇に侵されている? 冗談でしょ。
全てもう一人の”わたし”に光の支配者を継がせる為のウソでしょ?
母様、何とかいって。違うと言って私を抱きしめてよ!!
「言えるはずがない。エターナの母親、ルーシアもうすうす気付いてたんだ。
エターナの心の中に闇が巣食っているのが。」
『おまえを誰も愛しはしないよ。母親でさえも……』
またあの声だ! ウソに決まっている。母様が私を愛していない訳はない
信じたいのに、なのになんで母様は私をそんな目で見るの?
……化け物を見るみたいな目で!!
「なんてことだ。猜疑心の塊になっている!まるで誰かに仕組まれているみたいに……。まさか!こんな所まで”悪夢”は干渉しているのか!?」
それだけでは終わらない。やがて周りの者達は女王であるエターナの母親に詰め寄る。
『今のうちに御子を排除しなければ誰も手におえない悪魔になってしまいますよ』と……。それほどまでにエターナの心は闇に侵されていた。
何なの母様、その剣は? ウソでしょ……私を殺すつもりなの?
なんで?
世界の為?
そんなウソなんかつかないで!!
私が邪魔なんでしょ?
本当は私じゃなくて姉さんを光の支配者にしたい為なんでしょ?
本当のことを言ってよ!
私のことなんか愛していないんでしょ!!!!
「く!」思わず、ルカは目を背けてしまった。闇に侵されてしまった娘を剣を振るうことでしか救えなかったルーシア、そして自分の身を守る為に結果として自らの母親の胸を貫かざるを得なかったエターナ……どちらかが自分の弱さを乗り越えてさえいれば起こらなかったかもしれない悲劇にルカは唇を噛んだ。
「……お願い、フィーネを……守ってあげて……。」
掃き出した血の溜りでほとんど声にならないルーシアのようやく絞り出した言葉がそれだった。
ははは、やっぱり母様は私よりもう一人の”わたし”を愛していたんだ。
当たり前か、私の手は血で汚れている。
しかも自分の母親の血にまみれて……。
私は化け物なんだ。
化け物なんだぁぁぁ!!!
悲劇はそれだけでは終わらなかった。
ほぼ時を同じくして光の族の都市は炎に包まれた。
襲ったのはたった三匹の妖魔だった。
数千という戦士達がことごとく惨たらしい死屍をさらし、それに数倍する
名もない人達がなぶられた。
それはまさに地獄絵、狂気とむせぶような血の匂い!
手引きをしたのは光の族の大臣、私利私欲の為だった。
そしてその恐るべき三匹の妖魔を引き連れていたのは……
なんと幼い少女であった。
なんと、醜い人間達だ。
人間とはこんなに醜くなれるものなのか?
光とは何なのだ!
闇とは何なのだ!!
私は許さない! 醜いもの総てを!!
その後唯ひとり生き残った少女は宝剣”魔滅びの剣”と共に姿を消した。
その後、姫が光の支配者として復興に手をつくしたのは後の話である。
もし、唯一救いがあるとすればエターナの憎悪の対象が人間全てに向けられたものではなく、三匹の妖魔に向けられたことであろう。
響という少女を助けたのもそんな自分の過去を重ねたからかもしれない。
だがそれも一人の少女と再会してから変わり始めていった。
彼女が唯一心を開いた”絵夢”という少女と再会してから……
ルカは軽く涙をぬぐった。そして自分の今なすべきことをはっきりと認識してその力を揮おうとした。その時である。
『あなたは何故過去に干渉しようとするのですか?』
振り向いたルカの前に現れたのは時の意志体”過去の管理者ウルド”であった。彼女はこう続けた。
『過去は既に過ぎ去りし時の綴れ折り、それを乱すことはすなわち時の綻びを意味する。我等が盟主よ、何故時の定めを乱そうとするか?』
彼女は圧倒的な威圧感でルカを問い質した。
もし、彼女を説き伏せることが出来なければエターナを助けるどころか彼女の魂は未来永劫時間の海を漂うだけの存在に成り下がる。
今ルカは問われているのだ。本当に時の支配者として相応しいのか?
それはルカという個人の本質をも問われているのだ。
しかしルカは確信を持った瞳で答えた。空磨ならこう言うだろうことを。
「私の力で変えられる過去なんてほんのわずかの時間だし、それ以前に過去なんて変えるつもりもない。
私は母親が伝えられなかった言葉を語る為の時間をわずかでもいいから作ってやりたいだけだ。
それでも多分、エターナは人間に絶望し、闇の支配者になるだろう。
過去は変わらないかもしれない。でも未来は変えられる。
たった一つの愛された記憶さえあれば人はそれを支えに未来を築いていけるのだから!」
そうやって生きて来た姫が、彼女の姉がいるのだから。
そしてエターナにはまだ彼女を待っているリズリーや響がいるのだから。
『我がマスターよ、時の理は常に未来に進む為にあります。貴方がその魂を持ちつづける限り、我等 時の意志は貴方に従うでしょう。』
ルカの右手に力が宿った。それはルカ自身の心の戦いの勝利であった。
「タイムデリート!」
ルカが削った時間はほんのわずか。母ルーシアの胸を貫いたエターナの時間である。その削ったほんの少しの時間はルーシアの急所をほんの少し外すことが出来た。
彼女の死は変わらない。しかし彼女が娘を愛していた証しを残すのに十分な時間を与えることは出来た。
「ごめんなさい、貴方は選ばれなかった訳じゃないの。
あなたも選ばれていたの。
全ては私のわがままのせい。
愛する我が子を、最愛の貴方まで失うことの出来なかった私の弱さなの。
こんなことになるなら貴方をあの時天武様に預けてべきだったのに。
ごめんなさい。
全ては私の心の弱さ、貴方が苦しんでいた時も抱きしめてさえあげられなかった、私の弱さのせい。
愛しているのよ、エターナ。これだけは信じて。
でもね、貴方は憎むかもしれないけど、フィーネを助けてあげて。
あの子は私に捨てられたと思っているかもしれない。天武様はあの子を愛してくれた。でもあの子は、おまえの姉さんはきっと自分は愛されるべきではないと思い込んでいるはずなの。世界の全ての人間がいつか自分を責めるんじゃないかと恐れているの。
だからお願い、フィーネを私が愛せなかった分も守ってあげて欲しいの。
もう一人の”貴方”なのだから……」
それだけ言うとルーシアは崩れ落ちた。それでも過去は変わらない。
エターナは人間に絶望し、三匹の妖魔は光の族を滅ぼし、エターナは闇の支配者になった。
でも確かにエターナの中にルーシアの言葉は残ったはずだ。
今まで気付かなかったかもしれない。わからなかったかもしれない。
「しかし、今なら気付くはずだ。おまえを必要としている者達があんなにも願っているのだから。」
現在の時間に戻りながらルカはそう願わずにはいられなかった。
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