闇のビデオライブラリ

 

ビデオタイトル

THE TIME MACHINE

ジャンル

SF・アドベンチャー

原題

THE TIME MACHINE

制作国

アメリカ

邦題

タイムマシン

出演

ガイ・ピアース
サマンサ・ムンバ
オーランド・ジョーンズ
マーク・アディ
ジェレミー・アイアンズ

制作年

2002年

制作社

ドリーム・ワークス

監督

サイモン・ウェルズ
ゴア・ヴァービンスキー

制作・総指揮

ローリー・マクドナルド他

原作・原案

H.G.ウェルズ

脚本

ジョン・ローガン

備考

カラー/96分

DVD情報

DREAM WORKS HOME ENTERTAINMENT/メイキング、未公開シーン、予告編など収録

 1899年のニューヨーク。真冬の公園で、若き科学者アレクサンダーは恋人のエマにムーンストーンの指輪を渡しプロポーズするが、そこに居合わせた強盗に襲われ、指輪を奪われることを拒んだエマはそのために命を落としてしまう。時間航行の研究をしていたアレクサンダーは過去に戻ってエマを救うべく、4年の歳月を費やしてタイムマシンを完成させた。そして4年前の冬の日に戻り、再びエマに出会えた喜びもそこそこに彼女を家に送り返そうとするのだが、暴走してきた馬車の前にエマは命を落としてしまう。千回戻れば千通りの死に方をするのか、過去を変えられないことを悟ったアレクサンダーは、解決策を求めて未来へとタイムトラベルする。2030年のニューヨークではタイムトラベルがSFでしかないことを知り、さらに先の時代へすすもうとするが、乱開発によって崩壊した月の影響により7年後でマシンはストップ。軍の巡回に捕まりかけたアレクサンダーは制止を振り切って再びタイムマシンに乗り込むが、気を失った彼が行きついたのは西暦80万年。そこは平和に暮す種族イーロイと、地下に棲むおぞましい種族モーローックの世界だった・・・。

 言わずと知れたH・G・ウェルズの名作「タイムマシン」に、悲恋とロマンスを脚色した作品なんですが、これがどうにもバランスの悪い出来栄えになってしまいました。何よりも冒頭、タイムマシン完成までが急ぎすぎで、アレクサンダーたちの人物像や背景の説明不足もはなはだしく、まるで途中から観はじめたような気分。起承転結の「起」の部分がていねいに描かれなかったために今ひとつ乗り切れないまま、良すぎるほどのテンポで突き進みます。近未来ニューヨークは案内役のオーランド・ジョーンズがユニークなんですが、これもその魅力が引き出される前にカットされてしまいました。一曲ぐらい披露させてあげればよかったのに。そしてイーロイ族の村はユニークでよかったのに、どういうわけか一気にテンションが落ちるモーロックの長とのカットでは睡魔に襲われてしまいました。おかげでラストではさらに乗り切れず、ああそうですか原作とはちょっと違うオチを付けましたねといった浅さで終っちゃいます。近作としては1時間半という短い時間のなか、どうも全体的にVFXとアクションを早くたくさん見せたかったんじゃないかと思われるんですが、話の根幹を端折っちゃいかんでしょう。というよりも、ジョージ・パル版では抑えていた重要なポイントを見失っちゃってるんだが。

 そのVFXも、言ってしまえば1960年のジョージ・パル版をCGIに置き換えただけ。リアルという点ではとうていかないませんが、タイムトラベルそのものが目的だったパル版の方が、時代の流れを感じさせてインパクトがありました。売りの一つらしい地球から宇宙へと変わる視点もさほど珍しいものでもなく、まったく同じことをカレル・ゼーマンが「ほら男爵の冒険(1961)」でやってますね。CGIといえばモーロック族が変な着ぐるみから格段の進歩をとげたものの、残念ながら近作のどこかで観たような範囲から抜け出していません。そのわりにジェレミー・アイアンズ演じるモーロックの長がヘビメタしているのもなんだかなぁ。ずっとリアル指向だったのに、こいつの最期なんてギャグでしかなかったぞ。実はこれも同じようなカットがパル版にあるんですね。ただし、タイムマシンの造型と美しさは、これがビクトリア調といえるかどうかは定かではありませんが、さすがに新作の方が勝っています。真鍮とスチールに彩られたクラシカル・メカニカルなタイムマシンは、これぞSF&SFXといった趣き。このタイムマシンと断崖に張りつくように作られたイーロイ族の村の背景画は一見の価値あり。この背景画、CGじゃなくて手書きのマットペインティングっぽい雰囲気だったけど、どうなんだろう。

 さて、タイムパラドックスにはあんまりツッコミを入れるつもりはありませんが、せっかくだからかねてよりの疑問が一つ。パル版でも描かれた有名なシーン、タイムマシンの中から変わり行く世界を眺めるのはいいとして、では外の世界から見たタイムマシンはどういう状況なのか。パル版では100年後の世界へ旅立ったミニチュアが消えてしまいますが、マシンと外の世界の時間の流れが変わるだけなら、外の世界から見ればマシンはずっとそこにあり続けるだけです。ほら、80万年もほとんど変わらず転がっているタイムマシンと、80万年もそれに手を出さない世界、一度過去に旅をすると無限ループに陥ってしまうんじゃないかなんてことよりも、モーロックの長が解き明かすアレクサンダーがエマを助けられない理由よりも、ずっと不思議でしょ?(実は原作でこのことに少しふれられているんですが、時間的な移動を知覚できるかどうかにかかっています。)

 実はパル版もそんなに面白いとは思えなかったんですが、新作も似たりよったり。VFXの迫力は認めますが、やっぱりジョージ・パルは偉大だったなと。2作を比べても、、ウィーナが一番チャーミングだったしね。エマも素敵だけど、出番が少なすぎでした。ただし、後半エマに代わるヒロインのマーラはどうかと思うぞ。イーロイもモーロックも蛮族になったのは大目に見てやるけど、これはヒロイン顔じゃなかろう。

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