ホラー映画史Vol.7
「AIPとコーマン将軍」

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※内容は全て「映画の中のエドガー・アラン・ポー」と同じです。ご容赦を。

アッシャー家の惨劇

1960年 脚本/リチャード・マシスン

 アッシャー家の呪われた血筋を断ち切るため、当主ロデリックは妹マデリンの結婚に反対していたが、その矢先に彼女は病死してしまう。しかし、心臓発作の持病のあったマデリンはまだ生きており、息を吹き返し発狂した彼女は棺から抜けだした。

 ロジャー・コーマンが最もお気に入りの小説を映画化した、AIPポーシリーズ第一弾がこれ。高いギャラを出してキャスティングした・・・というのは抜きにしても、ヴィンセント・プライスの存在感と雰囲気に圧倒されます。プライスはロデリックを演じるにあたり、日の光に当たったことがなく色の抜けてしまったイメージを出すために、頭髪を白く脱色し、メイクも白っぽいものにしました。これが赤と金を基調にした背景にマッチしています。もちろん、この雰囲気が活かされるのはダニエル・ハラーによる、ゴシック調の見事なセットならではのもの。コーマンいわく、この作品の主役はダンの作り上げた屋敷であり、「この屋敷は生きている」という、プライスのセリフがそれを物語っています。

 また、オープニングでアッシャー家へとつづく荒廃した森のシーン、出勤途中にカーラジオで森林火災を聞きつけたコーマンが現場へ駆けつけ、消火活動の終わった翌日にその場所で撮影されました。さらに、ラストのアッシャー家の炎上シーン、これも偶然、農家が納屋の解体をすることを聞きつけ、壊すんなら燃やさせてくれということで話がついたのだそうです。こちらのカットはさらに別の作品に使いまわしされています。低予算とは直接関係ありませんが、こんな裏話もあるということで。このあたりは、ロジャー・コーマン自伝に詳しく書かれています。

忍者と悪女

1963年 脚本/リチャード・マシスン

 妖術師スカラバスによって鴉にされた友人から、スカラバスのもとに死んだはずの奥さんが捕われていると知った魔術師クレイヴン、魔法合戦の結果やいかに。

 どこが「鴉」なんだ?といった、原作なんぞどこ吹く風のコメディー。しかも、ヴィンセント・プライス、ピーター・ローレ、ボリス・カーロフが共演しているという豪華さ。作品も作品なら邦題もぶっとびだけど、これに限っては当たらずとも遠からず。妖術師に捕われた奥さんだけど、なんとまあ実はその妖術師とできていたのでした。鴉の羽根を羽ばたかせるローレは笑えるし、若かりしジャック・ニコルソンはキレてるし、プライスとカーロフの魔術合戦には開いた口がふさがらないぞ。ところで、シナリオに忠実なカーロフ、アドリブ派のローレとは折り合いが悪く、プライスが間を取り持っていたということです。

 内容はさておき、使いまわしと増改築を重ねた美術セット、これまでで最もすばらしい仕上がりになっています。おまけにこの作品の撮影後、ボリス・カーロフとの契約も数日残っていたため、コーマンとハラーはセットを解体する前に急きょ中途半端ながら脚本をあげ、現場にいたスタッフ総動員でもう1作の半分の撮影をしておきました。そしてもう半分のロケにはフランシス・コッポラが携わったのが、同年のジャック・ニコルソン主演「古城の亡霊」です。

赤死病の仮面

1964年 脚本/チャールズ・ボーモント

 城下に赴いたプロスペロ公は、美しい娘フランチェスカを見初め、城に連れ帰り淑女にしたてあげようとする。しかし、その狂気と凶行の末に赤い死神に魂を奪われるのだった。そしてその赤い死神の正体とは?

 シックにまとめられたダニエル・ハラーのセットに、ヴィンセント・プライスの怪演が映える、舞台劇の趣のある傑作。狂乱の宴に残酷な仕打ち、さらには赤死病の脅威と救いようのない暗鬱なストーリーだけど、ただの暴君ではなく奥底に救いを求めんとするプロスペロの、どこか不思議な優しさを演じるプライスの秀逸さ、物語の中央に毅然とした女性を据えることによってぎりぎりのラインで正気を保っていますね。脇を固めるキャストたちのドラマも見事に描かれています。そんなこんなで、色とりどりの死神が集うラストは一見冗談のようだけど笑えないんですねぇ。その死神の集うなかで生の道を与えられる子供に、一筋の光明が見て取れます。

 女優といえばさすがはコーマン、この作品でも老若貴賎を問わず綺麗どころで固められています。特にフランチェスカを演じるジェーン・アッシャーは一押しにかわいいぞ。

恐怖の振り子

1961年 脚本/リチャード・マシスン

 姉の死を確認しに来た青年は、狂った城主に捕らえられ異端審問部屋の拷問にかけられてしまうが・・・。

 これはスクリーミングクイーン、バーバラ・スティール出演の一作。もっとも、出番は少ないんですがラストの目で叫んでいる彼女に拍手です。ギロチン振り子も怖いけど、このラストがいちばん怖い。彼女に限らず、ロジャー・コーマン作品にはかわいく魅力的な女優が多いですね。

 そしてやっぱりこの作品でもプライスの怪演が見どころ。気丈な紳士と、その裏に隠された脆い狂人を見事に演じています。一つの作品で見せる多面性もプライスの魅力ですね。

 原作の異端審問と拷問部屋というプロットと、ダークな雰囲気ははそのままに、独り芝居の閉所恐怖譚とは打って変わってよりエンターテインメントに仕上がっています。ことに「振り子」の迫力は満点で、わたしとしては原作を超えた逸品ではないかと思います。もっとも、原作を忠実に映像化したらコアなファン向けの短編が限界じゃないかな。ネズミに助けられる振り子のシーン、見てみたいものではあります。

黒猫の棲む館 1964年

時間の都合で上映されませんでした。

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