蔭洲升を覆う影

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フリーライターの平田択喜司は、とある旅行雑誌社に採用される。

編集長の言葉から昔のカメラマン藤宮伊衛門のことを知る。

資料室で藤宮伊衛門の写真集を見つけ、その中に蔭洲升の名を見つける。

自宅に戻った択喜司は、入院中の母に電話をかけるが、母はすでに床に就いており、会社が決まったことを伝言する。

翌日、蔭洲升に関する資料を探していると、蔭洲升の浜に不気味な死体が打ち上げられたという切抜きを見つける。

取材先をここに決め、下調べに出かける択喜司。

赤牟の駅から蔭洲升行きのバスに乗ろうとするが、なぜかバスに逃げられてしまう。

走り去るバスの中からえも言われぬ表情を投げかける女性が一人。

途方に暮れる択喜司に話しかける老人。蔭洲升は死んだ町だと告げられる。

そこへ通りかかった宅配便をやっている娘、秦野珠美の車にのせてもらい、蔭洲升へやってくる。珠美もまた、蔭洲升へ行く者はいないという。

一軒の食堂に入った択喜司、不気味に目を見開いた主人にぞっとするが、煮つけ定食を頼む。

主人の包丁の音がひびき、後ろの席では男たちの咀嚼が続く。

出された魚に箸を付けるが、その魚の口がぱくりとうごめいた。

択喜司はあわてて代金を置き、逃げるようにとびだす。

ようやく民宿を探し当てるが、すでに営業はしてないという。

なんとか離れに泊めてもらう択喜司。

母の入院する病院に電話を入れるが、すでに床に就いていた。

翌日、港を撮影している択喜司のファインダーに、バスに見かけた女性が飛び込んでくる。

しかし、その女性は択喜司のかたわらを歩み去ってしまった。

郷土館を見つけ興味を持った択喜司は足を踏み入れる。

壁に数多くかけられた藤宮伊衛門の写真。

そこの館長から、択喜司が見かけた女性の名前を知る。佳代。

再び港で佳代にあった択喜司は、誘われるようにしてあとに付き従い、彼女の家にやってくる。

そこで佳代は不思議なことを言う。択喜司が来ることがわかっていたと。

そして、自分はここで生まれたのではなく、ずいぶん前にここに連れてこられたという。

宿に戻った択喜司は、撮影したフィルムが全てなくなっていることに気づいた。

交番に駆け込むが、自分が誰であるかを証明できないといわれて取りあってもらえない。

しかたなく夜の砂浜にやってきた択喜司は、岩場の祠から太鼓の音と不思議な歌声がするのを聞く。

郷土館でそのことを訊ねると、それはだごん様だという。一種の原始宗教であった。

そんなはずはないのにかつて来たことがあるような気がしてならないという択喜司に、館長は人間は物語を作らなければ生きてはいけないという。

再び港にやってきた択喜司は、珠美と再会する。友達はみんな出ていってしまったが、赤牟を離れるのは自分がここで生まれたことを否定するようだという珠美に、それは君の物語であり、どこで生まれてどこで死のうがいいじゃないかという択喜司。そんな択喜司に、誰かが自分を連れ出してくれるのを待っているのかもしれないと投げかけるが、択喜司は背を向けて行ってしまう。

その晩、佳代のもとへやってきた択喜司だが、不気味な気配に驚きすぐに出てきてしまう。その帰り道、見知らぬ老人に呼びかけられた択喜司は、不気味に感じて殴り倒してしまう。倒れた老人に何度も蹴りを入れる択喜司、しかし、それを遠くから見てしまった珠美がいたことを知らなかった。

旅館に戻ってきた択喜司は、子供のころ女性に手を引かれて砂浜を歩いたこと思いだす。しかし、それが誰なのかはどうしても思い出せなかった。

離れは不気味な気配に包まれ、部屋を出てみると不気味な顔付きの人々がうごめいていた。あわてて離れを飛び出し、公衆電話で珠美を呼びだそうとするが、老人の一件を持ち出され断られてしまう。

不気味な人々の徘徊する中を郷土館へやってきた択喜司だが、そこには自分の撮影した写真が貼られていた。さらに、館長から驚くべきことを知らされる。択喜司は藤宮伊衛門の息子なのだと。東京で生まれ育ったという択喜司の記憶は幻想に過ぎず、本当は蔭洲升で生まれ育ったのだと。そして、択喜司は知る。自分の母親は佳代なのだと。東京の病院には平田という患者も入院しているはずの病室も存在していなかった。

殴り殺したはずの父親が不気味な姿で甦り、択喜司の名を呼ぶ。

蔭洲升への道を車を走らせていた珠美は、人とも怪物ともつかない集団に襲われ、真っ赤な玉の指輪をはめられた。それは佳代がしているものと同じであった。

夜の砂浜を歩く択喜司の前に佳代が現われ、再びこういった。あなたが戻ってくるのがわかっていたと。

おもむろにネクロノミコンの表紙を閉じる館長。子供のころの択喜司の写真が血に染まっていた。

東京の雑誌社に戻ってきた択喜司は、今の仕事をやめて田舎に帰ることにするという。蔭洲升の記事とフィルムをわたし、会社を離れた。そして珠美の待つ車に乗りこみ、蔭洲升へ帰ることに。

フィルムを現像した編集長がそこ見たものは、異形となりかけた択喜司の姿であった。

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