ヘルハザード/禁断の黙示録

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「人 もし死なば また生きんや」ヨブ記14:14

首が引きちぎられた死体が惨劇を物語る病院の一室、チャールズ・ウォードは窓から逃走したらしい。

マーチ探偵事務所。チャールズ・ウォードの事件の詳細をレコーダーに独白する探偵。

プロヴィデンス、アメリカ一小さな州の州都、潮の香りと同時に魔女狩り時代の歴史も漂う街。三週間前のこの街で事件は始まった。

友人の紹介で探偵ジャック・マーチを訪ねたクレア・ウォード。夫チャールズ・ウォードが違法なもの、人の遺体を所持しているらしいので、身辺調査を依頼する。クレアの話によると、研究に没頭するチャールズの実験室から、悪臭が漂い、時折叫び声までが聞こえる。クレアが抗議すると、チャールズは謎の人物アッシュ博士と共に、別の場所に研究用の家を見つけて移ってしまう。しかし、ほどなくして新しい研究所の近隣に住むフェナー氏から、警察に苦情が入る。昼夜を問わず作業するチャールズ、深夜にもかかわらず出入りするトラックに迷惑しているという。

ひとまず様子を見てきてから正式に依頼を受けるというジャック。

助手のロニーに、ポータクストのチャールズの仕事場で何が起こったのかを警察にと居合わせるよう指示を出し、現場へ向かうジャック。

途中で立ち寄ったガソリンスタンドで、ここ数週間で異常に野犬が増えたことを聞く。しかし、ウォードの家を訊ねると、スタンドの主人は唾棄し、死臭のする方向へ進めとだけ言い放った。

車を走らせるジャック。スタンドから南東に二キロ半ほど走り、墓地を過ぎたあたりから悪臭が漂ってくる。そして、住所表示も案内板もない場所にウォードの研究所はあった。

消防署員を装うジャックを迎え出たのは異様な風体のアジア人であった。悪臭について訊ねるジャックに、チャールズは研究で出た動物の死体であり、早々に焼却処分するという。細長い箱が持ちこまれたことを追求するが、関係のないことだと一蹴されてしまう。いったん引き下がったジャックのもとに、ロニーから連絡が入った。ロニーの調査によると、チャールズのもとに運ばれたものは、古い魔術師や神秘学者の遺骨であるらしい。

クレアに報告し、これまでの状況を詳しく聞くジャック。クレアの話はこうだ。

チャールズに変化があったのは、ジョセフ・カーウィンの遺品が詰まったトランクが届けられた半年前からだ。ポータクストにその人物の家があると聞いてやってきたウォード夫妻は、暖炉の上に、壁紙に隠された一枚の肖像画を見つける。持ち帰り修復してみると、そこに描かれたジョセフ・カーウィンはチャールズ・ウォードとそっくりの相貌であった。その直後、カーウィンの残した書籍から驚くべき研究資料を見つけたチャールズは、実験室を作りその研究に没頭するようになる。

クレアの家を訪れて、カーウィンの肖像画を目にするジャック。なれそめを語るクレア。ジャックはチャールズの元の研究室に案内してもらう。そこにはいくつも使い捨てられた輸血用血液のパックがあり、壁には「わが子を食らうクロノス」が貼られていた。

その帰り、フェナーから連絡があったというので電話をかけてみると普通になっている。不審に思い家にやってくると、そこには警察がやってきていた。案内された部屋は真っ赤に染まり、フェナーはほとんど骨だけになってしまっていた。

事務所に戻りソファで眠り込んでしまったジャックが気味の悪い夢で目を覚ますと、すでに朝であった。

助手が出社してまもなく、クレアがやってくる。昨夜、クレアのもとにチャールズから電話が入っていた。それを録音したテープを再生する。自分の研究はとんでもない過ちであった。クレアも危険な目にあうかもしれない。アッシュ博士には近づくな。という内容だった。

今度はクレアを伴ってチャールズの研究所にやってくるジャック。チャールズは川の毒気で肺をやられて声が枯れ、血色も悪くなっていた。しかも、電話とは打って変わってまだ研究を続けるという。しかたなくその場を離れたクレアは、チャールズは元のチャールズではないともらす。ジャックは、霊媒によって別の人格がそなわることがあるらしいが、チャールズはそう思いこんでいるだけではないのかと慰める。

チャールズの身辺調査を続け、チャールズのもとに運び込まれる畜肉が尋常な量ではないこと、研究所にいる東洋人が元麻薬の売人レイモンド・チャンであること、小切手サインがおかしいがチャールズは神経症だといっていることなどを突き止める。そして、チャールズの研究所にある謎の地下道も。しかし、アッシュ博士については何もわからなかった。

チャールズの研究所に踏み込む警察とジャック。しかし、チャールズはクレアを盾に取って抵抗する。説得するジャックにメスをふるった隙に、チャールズは取り押さえられ、病院に送られる。

病院で、ライマン博士とチャールズのやりとり。病院の食事に手をつけないことに、チャールズは血のしたたる生肉を要求する。それを摂らなければ餓えで自己管理能力が低下し、忌まわしいことになるだろうと宣言する。自律神経とホルモンバランスに要因していると診断されるが、血と生肉への渇望は説明できない。

再び、チャールズの元の実験室でトランクを調べるジャックとクレアは、内張りに隠された一冊の日記を発見する。

ジョセフ・カーウィンは独立戦争前にポータックスへやってきて、海運事業を始めた。墓地を歩き回り魔術を使うと評判が悪かったという。この日記はチャールズの五代前の祖先エズラ・ウォードのものであり、その内容は驚くべきものであった。

カーウィンに奪われた恋人イライザに会いに来たエズラは、カーウィンは噂通り魔術を使うと打ち明けられる。研究中に傷をおったカーウィンが「死者は生者よりも多くの血液を必要としている」というものだった。エズラたちがカーウィンの家の周囲を調査していると、ある大雨の日、増水した川を流れてきた不気味なものを発見する。それは人間とも、怪物とも、悪魔とも呼べないものであったが、確かに生きていた。そしてカーウィンの地所から流れてきたものであったのだ。すぐさまカーウィン邱を襲撃することが決定し、実行に移される。しかしその時すでに、イライザの胎内にはカーウィンの子供が宿されていた。

チャールズの本当の祖先は、ジョセフ・カーウィンであった。

そしてポータクストの街では、人々が野獣に襲われたと思われる凄惨な事件が頻発する。警察へ事情を説明にというクレアだが、チャールズが怪物を作ったなどと説明すれば一生マスコミに追われることになると、ジャックが思いとどませる。

ジャックとローニー、そしてクレアは、ポータクストのチャールズの研究所へ、その地下へと向かう。爆薬で破壊するために。

隠されていた地下への扉を明けると、中からは異様なにおいが、実験室と同じ悪臭が吹き上げてきた。意を決して中に入るジャック、クレア、ローニーも後に続く。

地下道は昨日今日作られたようなものではなく、二〇〇年という年月を経た不気味なものであった。その奥の一室で彼らが見つけたのは、古い書物に混ざって、ジョセフ・カーウィンの日誌であった。それにはカーウィンの研究、使者再生の方法について書かれていた。大量の血肉、完全な遺骨、もしも一部でもかければ恐るべき異形の者となって再生してしまう。これは不完全な塩が原因である。そして、復活したものは施術者を吸収してしまう恐れがあることに注意せよ。チャールズの研究はカーウィンの研究、すなわち死者再生なのであった。

その部屋の奥に残されたチャールズの研究成果、血肉と遺灰と薬品を試してみるジャック。すると、気色の悪い肉塊が再生され、不気味にうごめくのであった。

別の場所を調べにいくジャックたち。ホールらしき所で見つけたものは、床に穿たれた穴から立ち上る不気味な霧、そしてその中には再生に失敗した怪物がうごめいていた。しかし穴の中だけではなく同じ床の上にいた失敗作を見つけたローニーはランプを落としてしまい、足を踏み外して穴に落ちてしまう。怪物を撃退して逃げ出したジャックとクレアは、途中で見つけたチャールズのカバンを拾い、爆薬を仕掛けて外へ出る。土砂降りの雨のなか、爆破されたチャールズの研究所は炎をあげて燃え墜ちた。

事務所へ戻ってきたジャックがチャールズのカバンを開くと、その中にはまだ血の着いた人骨が入っていた。ジャックは確信する。この人骨こそがチャールズであり、いまチャールズの姿をしているものこそ、再生されたジョセフ・カーウィンなのだと。

チャールズの病室を訪れ、真相を問いただすジャック。しらを切るチャールズだが、これが本物のチャールズだと遺骨をばらまき、研究所を爆破したことを告げると、恐るべき真実を話だす。チャールズの手によって甦ったカーウィンは、アッシュ博士となった。しかし甦った死者は生者以上に血肉を必要とし、カーウィンの人肉嗜好に堪えられなくなったチャールズはカーウィンと対立し、殺害されてしまう。そしてカーウィンの目的は死を克服することだけではなく、宇宙の悪魔と結託して前宇宙を支配、それも生者だけではなく死者をも掌握しようというものであった。

拘束衣に縛られていたカーウィンだが、真相を話しおえるとその拘束衣を引きちぎってしまう。ジャックに襲いかかるカーウィン。物音を聞きつけた看守が入ってくるが、カーウィンに投げ飛ばされ、首を引きちぎられてしまった。再びカーウィンに襲われて肩に食らいつかれたジャックだが、研究所から持ち出した再生薬をチャールズの骨に投げかける。異形となって再生したチャールズはカーウィンに襲いかかり、その血肉を吸収し、まばゆい光を放ってカーウィンもろとも消え去ってしまう。

怪我をおいつつも生き残ったジャックは、ことの真相を隠すためにチャールズが逃げだしたように工作し、病院を出る。そして真実をテープに吹き込むのであった。

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